「弁護人」という言葉をご存知でしょうか?
俳優のソン・ガンホさん主演で話題となった映画「弁護人」により、この言葉を知った方も多いかもしれません。
ただ、「弁護士と弁護人は何が違うのか」はあまり知らない、という方も少なくありません。
今回は、
- 弁護士と弁護人の違い
- 安心して刑事事件の対応を依頼できる弁護人の選び方
についてご案内します。
刑事事件と民事事件の違いについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、弁護人と弁護士の違い
まずは「弁護士」と「弁護人」の違いをご説明します。
弁護士法
第三条
弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
引用:弁護士法第3条1項
(1)弁護人
弁護人とは、刑事事件において被疑者や被告人の弁護(防御活動)をする人のことです。
つまり弁護人は刑事事件でしか登場しません。
民事事件の代理人や破産申立などの代理人となった弁護士のことは「弁護人」とは呼びません。
起訴前に被疑者を守ったり、刑事事件で被告人を弁護したりする人が「弁護人」であり、「刑事弁護人」と呼ばれることもあります。
(2)弁護士
弁護士は、弁護士資格を持ち、当事者や関係者の依頼を受けて訴訟事件や示談交渉などの法律事務を行う人です。
刑事事件での弁護活動だけでなく、民事事件を解決するために奔走したりと、多分野で活動する弁護士も多いです。
(3)弁護人と弁護士の使い分け例
弁護人と弁護士は、どのように使い分けると良いのでしょうか?
まず、刑事事件以外の場合には必ず「弁護士」です。
民事や破産申立、家事事件などで「弁護人」と呼ぶことはありません。
これに対し刑事事件では「弁護人」と呼ぶのが一般的です。
少なくとも裁判官や検察官は「弁護人」と呼びます。
つまり、刑事事件に携わるとき、弁護士は「弁護人」と呼ばれると理解しておくと良いでしょう。
2、弁護人には種類がある|それぞれの特徴
刑事事件の弁護人にはいくつかの種類があるので、以下でご説明します。
(1)私選弁護人
私選弁護人は、被疑者・被告人やその家族などが、契約を締結する弁護人です。
自分で気に入った弁護士を探して依頼しますし、依頼のタイミングも自由です。
ただし、費用は依頼者の自己負担です。
(2)国選弁護人
国選弁護人は、被告人に経済力がない場合に国がつけてくれる刑事弁護人です。
国選弁護人の活動はこれまでは刑事裁判が開始して被告人の立場になった後が中心でしたが、法改正によって被疑者段階(勾留後)でも国選弁護人をつけることができるようになりました。
国選弁護人に依頼する費用は国が負担します。
(3)当番弁護人(当番弁護士)
当番弁護とは、逮捕された被疑者や被告人が一度だけ弁護士を無料で呼べる制度です。
取調べを受ける上でのアドバイスを聞いたり、今後の見通しを伝えてもらうなど、被疑者・被告人にとって非常に重要な制度です。
ただし、当番弁護制度を利用して弁護人を呼べるのは1回だけなので、弁護人としての継続的な対応を依頼することはできません。
当番弁護士に自分の弁護人になってもらうためには、引き続き私選弁護人・国選弁護人になってもらう必要があります。
3、それぞれの弁護人が持つメリットデメリット
以下では、各種の弁護人のメリットとデメリットをご紹介します。
(1)私選弁護人
①メリット
私選弁護人のメリットは、依頼者が自分で気に入った人を選べることです。
刑事事件に強い弁護士を探すことも可能ですし、年齢や経験年数、性別、フィーリングなどで自分に合う弁護人を探すことができます。
②デメリット
デメリットは、国選弁護人と違って費用がかかることです。
弁護士費用は弁護人によってそれぞれですが、支払い方法の相談ができる事務所も多くなっているので、心配なときは相談しましょう。
(2)国選弁護人
①メリット
国選弁護人のメリットは、費用がかからないことです。
②デメリット
デメリットは、自分で弁護人を選べないことです。
もしかしたら、自分と似たような罪を犯した(疑いのある)人の弁護は経験していない弁護士かもしれません。
また、資力要件もあるため、そもそも該当しなければ依頼できません。
(3)当番弁護人(当番弁護士)
①メリット
当番弁護士のメリットも、無料で利用できることです。
②デメリット
デメリットは、一回しか来てもらえないことです。
刑事弁護では、弁護活動を続けてもらうことが重要であるため、当番弁護士を呼んだだけで解決できるというものではありません。
当番弁護制度の利用後もサポートしてもらうため、結局は国選ないし私選で弁護人に依頼することが必要になります。
4、国選弁護人が選任されるためには条件がある
「無料で利用できるなら国選弁護人をつけたい」と考える方もおられるかも知れませんが、国選弁護人を利用するためには条件があります。
国選弁護人の制度は、経済的に困窮している被告人にも刑事弁護を受けさせることですから、経済的に余裕のある人は利用を認められません。
具体的な基準としては、現金や預貯金の資産を合計して50万円未満でないと、基本的に国選弁護人をつけてもらえないのです。
ただし、私選弁護人をつけようとして弁護士会に選任申出をしたけれど、接見に来た弁護士が私選での弁護を受任してくれなかった場合(当番弁護士が私選受任してくれなかったとき)には、国選弁護人の利用が認められます。
弁護人 類別比較表
選任要件 | 選任時期 | 選任者 | 裁判まで頼めるか | 費用負担 | |
当番弁護人 | なし | 逮捕直後から 勾留中 | 弁護士会 | × 1回のみ | 弁護士会 本人負担なし |
国選弁護人 | 資力50万円以下 重大事件の場合は資力要件なし | 起訴後 又は起訴前でも勾留された後 | 裁判所 当番弁護士に頼む場合はそのまま依頼可能 | ○ | 国 本人負担なし。例外的に本人負担が相当とされるケースあり |
私選弁護人 | なし | いつでも | 本人 | ○ | 本人 |
5、自分で弁護士を探し依頼した場合にかかる費用相場
自分で私選弁護人を探して依頼する場合、どのくらい費用がかかるのか、具体的な相場を確認しておきましょう。
(1)法律相談料
まず、弁護士に相談をしたときに、1時間で1万円程度の法律相談料がかかります。
もっとも、最近では無料で初期相談を行える法律事務所も増えています。
(2)依頼前の接見費用
弁護士に依頼する前にひとまず接見に行ってもらう場合、接見手数料として5万円〜10万円程度の弁護士費用がかかることが多いです。
(3)着手金
弁護士に弁護活動を依頼した時点で必要となる費用が着手金です。
相場は30万円ほどですが、否認事件など負担の大きい事件では高額になることが多いです。
(4)報酬金
報酬金は事件が解決されたときに発生する費用です。
相場は30万円ほどですが、否認事件において無罪を獲得できた場合などには高額になります。
(5)依頼後の接見費用
弁護士が刑事弁護の依頼を受けた後、接見するたびに発生する費用です。
金額の相場は1回の接見について3〜5万円程度です。
6、安心して任せられる弁護人の特徴
刑事事件は、結果次第で被疑者・被告人の一生を大きく左右することも少なくありません。
弁護人を依頼するならば、安心して任せられる優秀な弁護士を選ぶべきです。
以下で、弁護人として選任すべき弁護士がどのような人か、その特徴を紹介します。
(1)刑事事件の弁護経験が豊富
まずは刑事事件の経験が豊富であることが大切です。
特に、逮捕されている事件と同種の事件に強い弁護士を探しましょう。
たとえば窃盗事件なら窃盗や詐欺などの財産犯、痴漢ならわいせつ犯、暴行や傷害ならそういった粗暴犯の解決実績の高い弁護士を選ぶことが非常に重要です 。
(2)親身になってくれる
弁護士が親身な姿勢を持っていることも非常に重要です。
刑事事件では、弁護人が頻繁に接見に行って、捜査機関側の方針に応じて適宜アドバイスを行ったり、被疑者・被告人が精神的に弱ってしまったときに励まして粘り強く闘っていけるようサポートすることが重要です。
そのため、しっかり人の話を聞いて、親切・熱心に弁護活動を行ってくれそうな弁護士を選びましょう。
(3)解決への道筋をしっかり立ててくれる
そのケースにおいて、具体的にどのようにして解決に導いていくのか、そもそも目指すゴールをどこに設定するのかなど、解決に至るまでの道筋をしっかり立ててくれる弁護士を選びましょう。
(4)フットワークが軽い
刑事弁護では、特に弁護士のフットワークの軽さが重要です。
必要に応じてすぐに接見に来てくれること、打ち合わせをしてくれること、現場検証や被疑者側の立証のための実験などをスピーディに行ってくれることなど、迅速な対応がきわめて重要です。
その意味では、若くて体力のある弁護士に任せた方が良いケースもあります。
7、逮捕されたらすぐに弁護士へ相談・依頼しよう
被疑者として逮捕されて勾留決定されてしまったら、逮捕後起訴されるまでには最大23日の日数しかありません。
その間に適切に弁護活動を進め「不起訴処分」を獲得しなければ、起訴されて刑事裁判で裁かれます。
裁判になったら99.9%以上の高い確率で有罪判決を受け、一生消えない前科がついてしまいます。
そのような結果を避けるには、逮捕直後から優秀な弁護人を選任して、熱心に弁護活動を行ってもらい、なるべく「不起訴」で終わらせてもらうことが重要です。
特に被害者がいる犯罪においては、被害者との示談を成立させることで不起訴処分を獲得できる可能性が高くなるので、弁護人に依頼して積極的に示談交渉を行いましょう。
被疑者が自分で示談を進めるのは一般に困難なケースが多いですが、弁護士であれば被害者に話を聞いてもらえるかもしれません。
身柄拘束期間が長くなればなるほど、本人が受ける不利益は大きくなり、職場からの解雇などのリスクも高まります。
スムーズな社会復帰を目指すため、1日でも早く弁護士に相談して、早期の身柄解放を目指すことを強くお勧めします。
まとめ
弁護士には、私選弁護人と国選弁護人がありますが、被疑者が受ける不利益を小さくするためには、逮捕直後の段階で私選弁護人を選任すべきです。
もしも逮捕されてしまった場合には、各種のリスクを最小減に抑えるため、早急に刑事弁護に強い弁護士に相談しましょう。