借金問題を解決する際に、真に重要なのは「原因」と向き合うことです。むしろ、借金の原因を避けてしまうことで、借金問題の解決が遅れてしまうこともあります。
そこで今回は、
- 借金の原因別に考える|対策の注意点
- 借金の原因が債務整理に与える影響について
などについて詳しく解説いたします。
借金が返せない場合は以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、借金するきっかけとなる主な原因
借金で苦しんだことがない人の多くは、「借金苦の人=浪費やギャンブルでだらしのない人」というイメージをもっているのかもしれません。
本当にそうでしょうか?
下のグラフは、平成29年に金融庁委託事業として実施された統計調査の結果です。
上の結果に示されるように、借金のきっかけとしては「低収入・収入減」の割合が群を抜いています。
また、次の表は、少し古いデータですが、日本弁護士連合会が4年に1度行っている多重債務事件の依頼人に対して行ったアンケート調査の結果です(ウェブ上で公開されている最新版は2014年度調査)。
上の表からも、借金の原因としてイメージされがちなギャンブル、浪費、遊興費は、全体の中ではそれほど大きな割合を占めていないということがわかります。
また、2002年と2014年との比較では、「給料の減少」、「失業・転職」、「生活用品の購入費の工面」、「教育資金」を理由に借金する人の割合が増えていることも見て取れます。
これらの統計調査から、借金問題は、「お金にだらしのない人」だけに生じる特殊な問題ではないことがよくわかります。
特に、実質賃金が下がり続けている(給料水準の上昇よりも物価上昇の方が大きい)現在の経済の状況では、生活苦を原因とした借金問題は「誰にでも起こりうる問題」として理解しておく必要があります。
2、借金の原因ごと|借金問題解決に向けた注意点
借金の問題は、「借金をしてしまったこと」よりも、「借金をした後の対応に問題がある」、「必要な対応が遅くなる」ことの方が深刻な結果に繋がる方が多いといえます。
これらは、借金の原因に引き起こされていることも少なくありません。
以下では、主な借金の原因ごとの「借金問題解決に向けた注意点」について解説していきます。
(1)低所得・生活苦
低所得・生活苦を原因に、さらに借金苦の状況に陥ってしまうケースは、この20年くらいの借金問題では最も多いパターンです。
近年では、「ワーキングプア」といった言葉が用いられることもあるように、「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり(ぢっと手を見る)(石川啄木)」という人も増えているようです。
収入に対して贅沢な暮らしをしていることが原因であれば、倹約に努めれば済む話です。
一方、実際の低所得・生活苦型の借金問題は、構造的な問題(家族構成・居住地域・職種・勤務先都合・学歴など)が原因となっており、自身の努力のみでどうにかできるものではないということが言えます。
①公的支援を上手に活用する
生活苦の原因が無駄遣い・浪費ではないケースでは、「公的支援」をできる限り活用することが、現在の生活環境を良くしていくためのひとつの方法といえます。
たとえば、ハローワークの職業訓練(ハロートレーング)を利用して、新しいスキルを習得する、生活福祉資金(総合支援基金)を利用して転職活動をするといったことは、ひとつの例です。
また、地方へのIターン支援などを活用して、今よりも生活コストの安い地域へ引っ越すこともひとつの方法かもしれません。
②1人で抱え込まない
生活苦型の借金は、「誰にも相談できない」ことが状況悪化の要因となることも少なくありません。
生活が苦しい、貧しいことを誰かに相談するのは恥ずかしいと考えたり、生活が楽ではないことを相談しても仕方がないとあきらめている人が多いからなのではないでしょうか。
勉強してこなかったから、家族が病気がちだから、と自分に制限をかけてしまい、「諦めている」という状況にすら気がつかないケースもあります。
しかし、問題を1人で抱え込むことは、問題解決のきっかけを失うことに他なりません。
生活苦型の借金事例には、早い段階で、家族・親類などに助けを求めていれば、深刻化しなくて済んだものも数多く含まれます。
最近では、低所得者の支援窓口を拡充している自治体も増えていますので、「まずは誰かに相談してみる」ことが大切といえます。
(2)介護・医療費
介護・医療費の負担も借金苦の典型的な要因のひとつです。
病気・ケガの問題は、予期しないタイミングで生じることも多く、「少しでも良い治療を受け(させ)たい」という思いから多額の借金を一気に抱える原因にもなりやすいものです。
また、家族の介護にかかる費用が家計を圧迫することも十分に考えられます。
これらの問題も、自治体の支援を受けることが解決策のひとつといえます。
たとえば、高額療養費制度、限度額適用認定証、高額療養費受領委任払い制度、高額療養費貸付制度、一部負担金減免制度といった、公的な支援制度を利用すれば、医療費の負担をかなり軽減することができます。
また、入院費・手術費用などは、分割払いの相談をすることも可能です。
治療費などの未払い・滞納を理由に診察拒否されることもありません(病院は診療費の未払いを理由に診察拒否することを法律で禁止されています)。
高齢となった親の介護費用が捻出できない場合にも、生活保護の活用など打開策が全くないわけではありません。
「自力で何とかしなければ」と抱え込まず、自治体や病院の相談窓口、ケアマネージャーなどに相談してみることが大切です。
(3)住宅ローン
住宅ローンは、人生でする最も高額な借金のひとつです。
ローンを組んだ当初から事情が変わってしまったことで、ローンの返済に行き詰まってしまうケースは、どんな社会情勢の下でも起こりうる問題です。
①「家を失いたくない」という気持ちが原因で対応が遅れる場合も
住宅ローンが原因の借金問題は、「対応が遅くなりやすい」のがひとつの特徴です。
「せっかく手に入れたマイホームを失いたくない」という思いが先に立つことで、既に返済に行き詰まっている住宅ローンのためにさらに借金をしてしまうケースも少なくありません。
②マイホームを失わずに借金(住宅ローン)をできる手続き
しかし、今の法律では、マイホームを差し押さえられずに、借金の返済条件を軽減してもらえる「住宅ローン特則付き個人再生」という制度があります。
住宅ローン特則付き個人再生を利用すれば、消費者金融・銀行のカードローン、クレジットカードの支払いがあるときには、これらの返済義務を大幅に免除してもらうことも可能です。
「返済条件を見直す(毎月の分割返済額を圧縮する)ことができれば何とか返せる」という状況のうちに債務整理に踏み切ることができれば、マイホームを失わずに、すべての借金を解決することができる可能性が高いです。
(4)離婚
離婚も借金を抱える(悪化させる)原因になりやすいものです。
①シングルマザーになる
子どもを連れて離婚した場合、多くの場合、世帯が別になることで生活費の負担が重くなります。
このような場合は生活に工夫をしていくことが必要です。
②養育費等の負担が大きい
一方、離婚に伴う慰謝料・養育費の負担が生活を圧迫することもあるでしょう。
養育費が支払いきれないという場合には、別れた配偶者と相談をして減額させてもらうのが一番の方法ですが、相手方との任意の話し合いができないときには、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てることもできます。
ペアローン・収入合算で住宅ローンを組んでいる夫婦が離婚をしたときには、住宅ローンの処理が大きな問題となることも少なくありません。
慰謝料(養育費)の代わりに、家を出る配偶者がローンを払い続けるという離婚条項を設ける人も見受けられますが、あまりオススメできません。
自分が住まない家のためにローンを払い続けることは簡単ではないからです。
オーバーローン物件になっていても、「任意売却」を実施することで処分するという選択肢もあります。
(5)娯楽のための費用や浪費
ギャンブル・風俗・浪費といった借金の原因は、古典的な借金の原因といえます。
他方で、浪費側の借金問題は、浪費をやめれば解決することが多いので、生活苦型のケースよりも対処方法がわかりやすいといえます。
しかし、ギャンブル・浪費といった行為は、メンタルを原因とするケースも少なくありません。
実際にも、「多額の借金を抱えたそのときは浪費行為をやめられても、借金問題が落ち着くとまた浪費をしてしまう」または「やめたくてもやめられない」という事例は珍しくありません。
ギャンブル等の原因として「ストレス」や「依存」のようなものが考えられるときには、ギャンブル、風俗、浪費を克服するための支援施設などに相談してみることも重要でしょう。
3、借金の原因によって借金解決が不利になることはあるか?
借金が返せなくなったときには「債務整理」で解決することができますが、借金を返せなくなった人の中には、「自分の場合、借金の原因が自分のせいだし債務整理なんかできるわけない」と思い込んでいる人も少なくないようです。
しかしそれは大きな間違いです。
(1)借金の原因に関わらず債務整理は可能
基本的に、債務整理をするにあたり借金の原因を気にする必要はありません。
(2)自己破産における注意点
ただ、債務整理の中でも「自己破産」だけは注意点があります。
破産法には、「浪費によって多額の借金を抱えたことが破産の原因であったとき」には免責不許可にするという規定(借金をゼロにすることが認められないとする規定)があるからです。
つまり、借金の原因に問題があるときには、免責が認められない(免責不許可となる)可能性があるわけです。
とはいえ、浪費などのように、「返済を完全に免除するのは道義的に問題」と考えられるケースでも、裁判所の裁量で免責を認めてもらえる制度が用意されており(裁量免責(破産法252条2項))、実際の自己破産のケースでは、免責不許可事由に該当するケースでもそのほとんどが裁量免責を認めてもらえています。
実務感覚としては、「借金の原因だけ」が理由で免責不許可となることはほとんどないといえます。
免責不許可となる場合のほとんどは、自己破産手続きへの非協力や裁判所の指示に従わなかったケースです。
なお、自己破産以外の債務整理の方法である任意整理・個人再生では、借金の原因は全く問題となりません。これらの方法では、借金の一部を分割で返済することになるからです。
したがって、「浪費やギャンブルなどが借金の原因だから債務整理はできない」とあきらめる必要はありません。
4、借金が原因でお困りのときにはできるだけ早く弁護士にご相談ください
借金の問題は、「打ち明けるべきだけど打ち明けにくい」とてもデリケートな問題です。
「借金が返せない人」というと、ずぼらでだらしない人を連想する方も多いかもしれませんが、生活苦型の多重債務者には、「生真面目」で「責任感の強い」人も少なくありません。
生真面目だからこそ「誰にも相談できずに、自力で何とかしよう」と考えすぎて、問題を深刻化させてしまうこともあるのです。
弁護士には守秘義務があります。したがって、弁護士に相談をしても、借金の原因にかかわるプライベートな事情は誰にも知られることはありません。
また、弁護士は、借金で苦しんでいる人を叱り飛ばすようなこともしません。弁護士は、目の前の相談者・依頼人の味方だからです。
借金問題を抱えると、さまざまなことを悪い方に考えてしまいがちですが、「誰かに打ち明ける」ことで精神的にもかなり楽になり、今後についても落ち着いて考えられるようになることが少なくありません。
借金問題の相談は、多くの弁護士事務所が無料相談を実施しています。
相談する上で費用の心配は不要ですし、手元にお金がないという場合でも、大きな負担なく費用を工面する方法についてアドバイスすることができます。
借金にお困りの際は、弁護士に相談してみてください。
5、本当に大切なのは、借金の原因を解決すること
債務整理は借金を解決することはできますが、「借金の原因」を解決することはできません。
本当の原因を解決しなければ、同じ問題が繰り返されるリスクはなくなりません。
借金の原因を解決するのに大切なキーワードは次の3つです。
- 適切な相談相手を知ること
- 自分にあった(公的)サービスを知ること
- 無意識にかけている自分への制限を知ること
1人の力だけでは、ギャンブルや買い物などへ依存症、闘病・介護生活、転職・再就職による新生活といった課題を乗り切ることは簡単ではありません。適切な相手に相談しましょう。
そして、日本は社会福祉国家です。苦しい時は制度を利用しましょう。
そこからまた始めれば良いのです。
最後に、無意識にかけている自分への制限に気づくことが大切です。
手に職がない、学がない、こういう家に生まれたなど、一度しがらみを捨てて考えてみてください。
そして、考えの合う人を味方につけ、やりたいこと、なりたい自分に向かうのです。
債務整理は、本当の問題と向き合えるだけの環境を整えるための手段です。
支払いきれない借金があるときは、まずは振り出しに戻ってから再出発を目指しましょう。
まとめ
「借金が返せなくなった」という問題は、自己破産などの債務整理を行えば、ほぼ確実に解決することができます。
ギャンブルなどの借金であっても、免責不許可になることは多くなく、裁量免責によって返済を免除してもらえるからです。
しかし、「借金をしてしまった原因」は、債務整理では解決することができません。
辛い思いを繰り返さないためにも、債務整理を行う際には、周囲の協力者などの力も借りながら、本当の問題と向き合っていくきっかけを作ることが大切です。