派遣社員は簡単にクビにされる、という印象をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
しかし派遣社員であっても、派遣元からの雇止めや派遣切りに対抗することができる場合もあります。
そこで今回は、
- どのような場合に派遣社員がクビになるのか?
- 派遣切りがOKな場合とNGな場合の具体例とは?
- 派遣社員がクビになる際に経験やスキルは関係あるのか?
- 欠勤数が多いとクビになるのか?
- 悪質な派遣切りに遭ったときはどうすればいいのか?
などの問題について解説していきます。
1、派遣社員がクビになる理由の前に|派遣先と派遣社員の関係
以下では、派遣先と派遣社員の関係について説明します。
①派遣先との雇用関係
まず、大前提として、派遣先は、派遣元の会社と労働者派遣契約を締結しているだけです。
派遣社員と派遣先とは直接の雇用関係にはありません。
派遣先での労働をしなくなったとしても、派遣元の会社と派遣社員との雇用契約は続きます。
そのため、派遣社員は、派遣先から来なくていいと言われたとしても、派遣元から新しい仕事を紹介してもらうことができます。
以上のことから、派遣先が派遣元との労働者派遣契約を終了させ、派遣社員が派遣先で働けなくなったとしても、それはクビではありません(ただし、労働者派遣契約の内容次第では、派遣先は派遣元との関係で損害賠償などの責任を負う可能性はあります。)。
②派遣3年ルールと派遣社員の実情
ところで、派遣社員のいわゆる3年ルールをご存じでしょうか。
従前は、派遣社員は、派遣先から派遣の契約が延々と更新され続けるケースも多く見られました。
しかし、正社員と同等の仕事をしているのに長期間「派遣」のままでは、派遣社員の雇用が安定しません。
そこで、2015年9月30日に改正労働者派遣法が施行され、同一の事業所では3年までしか派遣として働くことができないという「3年ルール」が実施されました。
3年ルールによって、派遣社員が一つの職場で3年以上働いたら、派遣元は、当該派遣社員が派遣先の企業で直接雇用してもらえるよう、依頼することができます。
また、派遣先はその依頼を受け入れる努力義務が発生します。
3年ルールが設けられた目的は、長期間仕事を続ける派遣社員については、派遣先で正社員として雇用したり、派遣元で無期雇用するなどによって雇用を安定させることにあります。
しかし、現実には3年が経過する直前で派遣契約を打ち切る派遣先会社が多く、結果的に派遣契約の打ち切りを促進する事態が発生しています。
2、派遣元からの雇用契約の終了
派遣社員は。派遣元との間で雇用契約を締結しています。
そのため、派遣社員にとって重要なことは、この派遣元との関係です。
派遣元との間では、雇用契約が終了され、クビにされることがあり得ます。
そして派遣元から雇用契約が終了させられる原因としては、
- 契約期間満了による終了(雇止め)
- 契約期間途中の解雇
があります。
それぞれ派遣元が無条件にできるわけではなく、適法に行うための条件や手続きがあります。
以下では、それらを確認してみましょう。
(1)契約期間満了による雇用契約の終了
派遣元と派遣社員との間の雇用契約では契約期間が定められています。
そのため、契約期間満了は雇用契約を終了させる一つの理由となります。
①契約期間満了によって派遣元が契約を終了させるための条件とは
まず以下の3つの条件がすべて満たされる場合には派遣元は雇止めができません。
派遣元から雇止めがされた場合には、以下の条件を満たしていないか確認しましょう。
ⅰ)雇用契約が過去に反復して更新されたものであって、雇止めをすることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められること、または有期労働契約の契約期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められること
雇止めが無期契約の解雇と同視できるか、労働者が更新を期待することに理由があるかについては、仕事の内容が派遣元にとって臨時的・補助的かもしくは基幹的か、更新の回数、雇用の通算機関、更新のたびに契約書を毎回締結しているか、手続きが形式的となっていないか、雇用継続の期待を持たせる派遣元の言動がないか、などが考慮されます。
ⅱ)派遣社員が契約更新の申し込みをした場合または期間満了後遅滞なく労働契約の申し込みをしたこと
申し込みの方法に特定の形式はありません。派遣元による雇止めの意思表示に対して、派遣元に伝わる形で労働者が何らかの反対の意思表示を示していれば足ります。
また、申し込みの時期については、弁護士への相談やけがの療養の後であっても、遅滞のないものとして許容されています。
ⅲ)派遣元が当該申込みを拒絶することが客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当であると認められないとき
これは解雇と同じ規制です。雇止めの場合にも、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が要求されます。
②契約期間満了によって派遣元が契約を終了させるときに必要な手続きとは
上記条件に該当せず、雇止めができる場合であっても、派遣元は下記の手続きをする必要があります。
ⅰ)雇止めの予告
以下の3つのいずれかに該当する場合は、雇止めを行う前に事前の予告が必要となります。
- 契約が3回以上更新されて働いている場合
- 契約が1回でも更新されて1年を超えて働いている場合
- 契約期間が1年を超える場合
上記の場合には30日前までに雇止めの予告をし、この予告をしなかった場合には30日に満たない日数分の平均賃金(予告手当)を支払わなければなりません。
ⅱ)雇止め理由明示義務
ⅰ)で掲げる3つのいずれかに該当するときは、派遣元は、派遣社員が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、更新をしなかった理由を明らかにする証明書を交付しなければいけません。
(2)派遣先による「派遣切り」と、派遣元による解雇
派遣先が、契約満了時ではなく契約期間中に派遣元との間で労働者派遣契約を解消することもあります。
このような労働者派遣契約の解消のことは一般に「派遣切り」と呼ばれます。
前記の通り、派遣社員は派遣先とは直接の雇用関係にはありません。
派遣先が派遣切りをしても、派遣元との雇用契約は継続します。
しかし、派遣元は、派遣切りに伴って派遣労働者を解雇する場合もあります。
こうなると、派遣労働者は働けない状態に陥ってしまいます。
派遣元からの解雇を避けるためには、解雇が適法となるための条件を知っておくことが重要です。
以下ではこの条件について見ていきます。
①派遣元が契約期間中に雇用契約を終了するために必要な条件とは
有期労働契約の場合、契約を途中で解消するためには「やむを得ない事由」が必要です。
やむを得ない事由とは、期間満了を待たずに直ちに契約を終了させざるを得ないような重大な事由を指します。
具体的には、倒産の危機に瀕していて解雇をしなければ倒産が避けられないといった状況や、経営危機に陥り会社全体の経営が破綻しかねないような危機的な状況である必要があります。
よほどのことがない限り、「やむを得ない事由」があるとはいえず、多くの場合に解雇は無効になると考えられます。
②派遣元が契約期間中に雇用契約を終了するために必要な手続きとは
上記条件に該当する場合でも、派遣元は少なくとも30日前まで派遣労働者に対して解雇をすることを予告する必要があります。
3、派遣切りや雇止め・解雇に納得できないときにはどうしたら・・・
派遣元による雇止めや解雇には上記のような条件や手続きが必要です。
しかし、すべての会社が適法な雇止めと解雇を行っているわけではありません。
派遣元による雇止めや解雇に納得できないときには、派遣社員には次のような相談先があります。
(1)総合労働相談コーナー
全国の労働局には総合労働相談コーナーがあり、ここでは労働トラブルの無料相談を受け付けています。
(2)労働組合
労働組合に相談するという方法があります。
雇用形態に関係なく、労働者であれば誰でも加入できる組織です。
個人で加入できる労働組合もあるので、そこに加入し団体交渉をお願いするということができます。
(3)弁護士
弁護士へ依頼することも有効な方法です。
弁護士であれば、派遣元との交渉からその後の裁判まで依頼することができます。
あなたの代理人として、最後まで力になってくれることでしょう。
まとめ
違法な雇止めや解雇は、その無効を主張して雇用契約が継続していることを認めさせ、支払われなくなった賃金の支払を請求することもできます。
法律や政府は、派遣社員の雇用の安定を図る方向で動いています。
クビにされてしまったら、弁護士に相談することで解決のアドバイスを受けることができます。
お気軽に弁護士にご相談ください。