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財産分与の口約束を実現させる方法を弁護士が解説

財産分与の口約束を実現させる方法を弁護士が解説

「離婚時の財産分与って口約束だけではダメなの?」
財産分与の書類といっても、どのようなものを作ればいいのか分からない…」

このような悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

財産分与は、夫婦が話し合って合意すれば口約束でも有効に成立します。特に書面を創らなくても、法律上無効となるわけではありません(民法第522条)。相手方がきちんと約束を守ってくれるのであれば、何の問題もありません。

しかし、財産分与口約束だけで済ませてしまうと、相手方が約束を守らない場合に約束内容を強制する手段が無くなってしまうのが注意点です。

どちらかの思い違いのために「言った・言わない」のトラブルが起こるケースもありますし、相手方に悪意がある場合には約束を反故にしようとする可能性もあります。

最悪の場合、せっかく約束をしていても、財産を何ももらえない状態になってしまう可能性もあるのです。

そこで今回は、

  • 財産分与を口約束で済ませた場合のリスク
  • 財産分与の約束内容を証拠化する方法
  • (元)パートナーが財産分与の書面作成に協力しない場合の対処法

について、離婚問題に精通したベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

この記事が、配偶者と財産分与に関する合意ができたものの、まだ書面の作成ができていない方の手助けとなれば幸いです。

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1、財産分与を口約束で済ませた場合に負う3つのリスク

財産分与を口約束だけで済ませると、約束内容を証明できる証拠が何もないことになります。そのため、後日に「言った・言わない」のトラブルが起こりやすいことは容易に想像できるでしょう。

いったん約束したにもかかわらず、後になって相手方が、

「○百万円も渡すなんて言ってない」
「自宅は渡さないと約束したはずだ」
「300万円渡すと言ったけど、やっぱり100万円が妥当だと思う」

などと言い出したら、もう一度話し合いをしなければなりません。

それでも話し合いがまとまればよいですが、口約束しかしていなければ、以下の3つのリスクを避けることはできません。

(1)名義変更ができないことがある

相手方が約束を守って財産を渡してくれたとしても、口約束だけでは名義変更の手続きができない場合があります。

土地・建物や自動車、株式、生命保険などを財産分与で取得した場合には、名義変更をしておかなければ安心できません。

たとえ自分が占有していても、所有名義を有する元パートナーが第三者に売却したり、借金を滞納するなどして差押えを受けてしまうと、あなたは財産分与で取得したことを主張することができなくなります。

上記の各財産について名義変更の手続きを行うには、それぞれ専用の書類が必要となります。

財産分与について合意したときに個別の必要書類まで作成するのは困難ですので、通常は離婚協議書を作成し、財産分与を原因とする名義変更手続を行うと記載しておくことになります。

(2)強制執行ができない

約束したはずの財産を相手方が渡してくれない場合、口約束だけでは強制的に引き渡しや名義変更を求めることができません。

つまり、それなりの財産をもらう約束をしていたとしても、その後に相手方の気が変われば、結果的に何ももらえなくなるということも起こりうるのです。

この場合、強制的に財産を取得するためには家庭裁判所で調停または審判を申し立てる必要があります。調停や審判で財産分与の内容が決まれば、相手方が任意に引き渡さない場合には強制執行(差押え)の手続きができるようになります。

土地・建物や自動車、株式、生命保険などについては強制的に名義変更が可能となりますし、金銭の場合は相手方の給料や銀行口座などを差し押さえることが可能となります。

なお、調停は家庭裁判所の調停委員を介して相手方と話し合う手続きですが、従前の口約束の内容を証明できる証拠が何もなければ、また一からの話し合いとなります。そのため、従前の口約束が守られる保証は何もないことに注意が必要です。

(3)贈与税がかかることがある

財産分与で財産を取得した場合は基本的に非課税とされており、贈与税はかかりませんが、口約束のみの場合は贈与税がかかることがあります。

たとえ(元)夫婦間であっても、年間に110万円を超える財産の移転があった場合には、贈与税を課せられるのが原則です。

このときに、離婚に伴う財産分与であることを税務署に証明できれば、課税はされません。しかし、口約束のみの場合は証拠がありません。そのため、税務署から見れば通常の「贈与」と何ら変わりなく、贈与税を課せられてしまうのです。

なお、贈与税率は非常に高いので注意が必要です。

例えば、財産分与額が300万円の場合は19万円、財産分与額が1,000万円の場合なら231万円もの贈与税がかかってしまいます。

したがって、財産分与を口約束のみで済ませると、たとえ相手方が約束を守ってくれたとしても、金銭的に大きな負担がかかることになってしまいます。

2、財産分与は書面できっちり証拠化する

以上のリスクを回避するためには、財産分与の約束内容を証拠化するために書面を作成しておくことが必要です。

離婚時に財産分与の約束をした場合には離婚協議書を作成し、それを公正証書にしておくことが望ましいといえます。

(1)離婚協議書を作成する

離婚協議書とは夫婦が離婚する際に、離婚することや離婚条件を記載し、双方が署名・押印する書面のことです。

この書面を作成することで、記載された内容については夫婦で話し合って合意したことを証明することが可能となります。

財産分与について合意したときは、分与する財産を明確に特定して記載し、いつまでに、どのような方法で分与するのかも明記します。

以下に、一般的な離婚協議書の雛形を掲げておきますので、参考になさってください。

 

離婚協議書

 

夫〇〇〇〇(以下、「甲」という)と妻□□□□(以下、「乙」という)は、甲乙間の協議離婚に関し、以下のとおり合意する。

 

第1条(離婚の合意)

 甲と乙は、協議離婚することに合意し、本協議書作成後、速やかに離婚届に所定の事項を記載の上、各自署名押印する。

 

第2条(離婚の届出)

 離婚届は、乙が、令和○年○月〇日までに〇〇市役所に提出するものとする。

 

第3条(親権)

 甲乙間の未成年の子である長男△△(平成〇〇年○月○日生、以下「丙」という)の親権者を乙と定め、乙において監護養育することとする。

 

第4条(養育費)

1 甲は乙に対し、丙の養育費として〇年〇月から丙が満20歳に達する月まで、毎月末日限り金○万円を乙が指定する銀行口座に振込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。

 

2 甲と乙は、上記に定めるほか、丙の養育に関して、進学や疾病等、特別な費用を要する場合には、相互に誠実に協議して分担額を定めるものとする。

 

3 上記の養育費は、物価の変動その他の事情の変更に応じて、甲乙の協議によって増減できるものとする。

 

第5条(面会交流)

1 乙は、月1回程度、甲が丙と面会交流することを認める。

 

2 面会交流を行う日時及び場所については、丙の福祉を考慮して、甲と乙の協議によって定めるものとする。

 

第6条(慰謝料)

 甲は乙に対し、慰謝料として金○○○万円の支払義務があることを認め、令和○年○月○日限り、乙が指定する銀行口座に振込んで支払う。振込み手数料は甲の負担とする。

 

第6条(財産分与)

1 甲は乙に対し、財産分与として金○○万円の支払い義務があることを認め、を令和○○年○月○日までに乙が指定する銀行口座に振込んで支払う。振込み手数料は甲の負担とする。

 

2 甲は乙に対し、財産分与として下記不動産を譲渡することとし、令和○○年○月○日までに、同不動産について乙のために財産分与を原因とする所有権移転登記手続を行うこととする。登録免許税及び移転費用については、乙の負担とする。

 

① 土地の表示

所 在 〇〇市〇○町○丁目

地 番 〇番○

地 目 宅地

地 積 〇○.〇〇㎡

 

② 建物の表示

所  在 〇〇市〇○町○丁目○番地○

家屋番号 〇番○

種  類 居宅

構  造 木造かわらぶき2階建

床 面 積 1階〇○.〇〇㎡、2階〇○.〇〇㎡

 

3 甲と乙は、下記生命保険の契約者及び受取人名義を甲から乙に変更することに合意し、甲において令和○年○月○日までに変更の手続きを行うものとする。

 

 ○○生命保険 証券番号○○○○○

 

4 甲と乙は、下記学資保険の契約者及び受取人名義を甲から乙に変更することに合意し、甲において令和○年○月○日までに変更の手続きを行うものとする。

 

 ○○学資保険 証券番号○○○○○

 

5 甲は乙に対し、乙の生活が安定するまでの○か月分の生活費として金○○万円の支払い義務があることを認め、これを令和○年○月から令和○年○月まで、毎月末日限り金○万円ずつに分割して、乙が指定する銀行口座に振り込んで支払う。

 

第7条(年金分割)

 甲は乙に対し、甲乙の婚姻期間中における双方の年金分割の按分割合を0.5とする旨合意し、その年金分割に必要な手続に協力することを約束する。

 

第8条(裁判管轄)

 甲と乙は、本契約に関する一切の紛争について、乙の住所地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄とすることに合意する。

 

第9条(清算条項)

 甲と乙は、本協議書に定めるもののほかには一切の債権債務がないことを相互に確認し、今後、名目の如何を問わず、何らの請求をしないことを相互に約束する。

 

第10条(公正証書)

 甲と乙は、本協議書と同趣旨の強制執行認諾文言付公正証書を作成することを相互に約束する。

 

以上の合意を証するため本書2通を作成し、甲乙署名押印の上、各自1通を保管する。

 

令和〇年〇月〇日

 

(甲)住所

   氏名        印

 

(乙)住所

   氏名        印

 

このような離婚協議書を作成しておけば、相手方との「言った・言わない」のトラブルを回避することができます。税務署に対しても財産分与を証明することができるので、贈与税を課せられることはなくなります。

(2)公正証書にする

離婚協議書は、上記のように夫婦それぞれが署名・押印するだけでも有効ですが、それだけでは法律上の強制力を持ちません。そこで、できる限り離婚協議書を公正証書にしておくことをおすすめします。

公正証書とは私人間で法的な約束をしたことを公的に証明するために、法務大臣から任命を受けた公証人が作成する文書のことです。

財産分与について取り決めた離婚協議書を公正証書にするときは、強制執行認諾文言を付することを忘れないようにしましょう。

強制執行認諾文言付公正証書には確定判決と同一の法的効力があります。万が一、相手方が約束を守らない場合には、すぐに強制執行手続きをとることが可能になります。

つまり、約束した金銭が支払われない場合には相手方の給料や銀行口座を差し押さえることができますし、不動産の名義変更をしてもらえない場合も、その不動産を差し押さえた上で名義変更を求めることができるのです。

この点、当事者が署名・押印しただけの離婚協議書しかない場合には、調停や裁判をした上でなければ強制執行手続きができませんが、強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておけば調停や裁判は不要となります。

3、(元)パートナーが書面の作成に非協力的な場合の対処法

離婚時に財産分与を取り決めたときには離婚協議書や公正証書の作成が重要だとはいっても、これらの書面を作成するには(元)パートナーの協力が必要となります。

しかし、約束を守らないような人は、得てしてこのような書面の作成に非協力的なことが少なくありません。そうでなくても、離婚問題については、夫婦だけでは話が前に進まないことも往々にしてあることです。

そんなときは、弁護士の力を借りるのが得策といえます。

弁護士は、あなたの代わりに相手方と交渉して話をまとめ、離婚協議書の文面を正確に作成し、公正証書化までサポートします。

財産分与の話し合いでもめて、欲しいものを分与してもらえない場合でも、弁護士があなたの味方として対応します。

そもそも財産分与の割合は原則として2分の1とされていますので、少なくとも2分の1はしっかりもらえるよう、協議はもちろん、協議が難航した場合は調停、裁判まで弁護士がサポートします

また、財産分与だけでなく、事案に応じて養育費慰謝料年金分割など、離婚に伴う財産関係について、トータルでサポートします。

弁護士に依頼する際の費用が気になる方も多いと思いますが、こちらの記事で弁護士費用の相場や弁護士費用を抑える方法について解説していますので、併せてご参照ください。

まとめ

離婚時に財産分与の口約束ができても、約束した財産を実際に渡してもらったり、名義変更手続きをしてもらえるまで安心することはできません。

万が一、約束を破られた場合には調停や裁判をする必要があります。最悪の場合、相手方が財産を使い果たしてしまえば、調停や裁判をしても財産分与をもらうことができなくなってしまうおそれもあります。

離婚協議がまとまった時点で離婚協議書を作成し、公正証書にしておくことは、財産分与の口約束を実現させるために非常に重要なことです。

わからないことがある場合や、(元)パートナーが書面作成に協力してくれない場合などは、早めに弁護士にご相談の上、書面作成を進めましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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