「エネ夫」とは、妻を苦しめる敵のような存在になってしまう夫のことを指します。
この記事では、エネ夫についての解説、被害を受けている場合の対処法、離婚が可能かどうかについて弁護士がわかりやすく説明します。
夫からのひどい仕打ちに悩む女性へ、自分の意思をしっかりと主張し、苦しい状況から抜け出すためのガイドとして役立てば幸いです。
目次
1、エネ夫とは?
「エネ夫」という言葉はまだ広く知られている言葉ではないので、初めて聞いた人もいるかもしれません。
エネ夫とは「えねお」と読み、妻の味方をせず、反対に妻を苦しめる敵となってしまう夫のことをいいます。英語で敵のことを「エネミー(enemy)」と言いますが、その「エネミー」と「夫」をかけ合わせてつくられた造語です。
2、被害者はあなただけではない!エネ夫による被害の具体的な事例
夫の存在に苦しんでいる女性の中には、自分の夫がエネ夫だと気づいていない人が少なくありません。エネ夫の存在に苦しめられている被害者はあなただけではありませんので、ここではエネ夫による被害の具体的な事例を確認していきましょう。
(1)姑が妻をいじめていても姑の肩を持つ
エネ夫の典型的な例として問題になるのが、姑が妻をいじめているにも関わらず、妻の味方をせずに姑の肩を持つケースです。姑の立場からすれば、かわいい息子を嫁に取られたような寂しさから嫁をいじめたくなる気持ちもあるでしょう。このとき、夫が妻の味方にならなければ、妻は立場がありません。
たとえば、夫の実家に帰省した際、妻の分だけ食事が用意されない、夫の実家で掃除や片付け等にこき使われる等、人間的扱いをしてもらっていないのに夫が姑に注意をしてくれない等のケースがよくあるようです。
これだけでなく、ひどいケースだと、エネ夫が姑と一緒になって妻の悪口を言ったり妻の人格を否定するような暴言を吐いたりするケースもあります。
(2)親戚や友人の前で妻をけなす
完璧な人間はいませんから、妻に直してほしいと感じるところが夫にあっても不思議ではありません。ただ、それは夫婦間で解消すれば良い問題であり、わざわざそれを他の人に伝える必要はないはずです。
しかしながら、エネ夫は親戚や友人の前で妻をけなし妻のことを傷つけます。「こいつが作る料理はひどいもんですよ」「家の掃除も満足にできないやつで」等と妻が傷つくことを他の人の前で発言します。
(3)家庭を顧みず給料を好き勝手に使う
経済的に妻を苦しめるエネ夫もいます。給料を稼いできても、家庭を顧みずに夫が好き勝手にお金を使ってしまい、生活費をほとんど渡してもらえない人もいるでしょう。
また、子どもの年齢が上がるにつれて食費や教育費は増えていくものですが、生活費の上乗せを夫に求めても「お前の家計管理が悪い」「どうせお前がくだらないことに無駄遣いしているんだろ」などと妻に責任を押し付け、生活費を今までと同じ金額しか渡さない等もエネ夫の具体的ケースです。
3、エネ夫の特徴とは?あなたの夫をチェックしてみよう
それでは、ここであなたの夫の『エネ夫』の度合いを確認してみましょう。エネ夫に苦しむ妻は、自分の夫がエネ夫に該当することに気づいていない人が少なくありません。逆に、妻が被害者意識を持っていたとしても、夫は客観的に見てエネ夫ではない可能性もあります。
そこでまずは、以下のチェックリストのうち、あなたの夫はいくつ当てはまるかチェックしてみてくださいね。
- 母親の言うことは絶対に守り、妻よりも母親の方が優先順位は上である
- 妻が親戚や他人にけなされていても、全くかばおうとしない
- 妻に対して、罵声や人格を否定する言葉を浴びせる
- 十分に暮らせるだけの生活費を妻に渡さず、自分の好き勝手に消費している
- 他の女性のことを褒め、その人と比較して妻のダメな部分をバカにする
- 妻の両親や妻の親戚との関わりを持とうとしない
- 育児に協力しようとせず、妻が大変な思いをしていても手伝おうとしない
- 子どもに対して妻の悪口やダメな部分を頻繁に吹き込む
- 自分に非があったとしても、妻に対して絶対に謝らない
目安として、当てはまるものが5個以上あればエネ夫である可能性が高いといえます。ただ、当てはまるものがそれ以下の数でも、程度がひどい場合にはエネ夫である可能性もあります。
当てはまるものの数は、あくまでも目安ですが、以上のチェックを通じて「うちの夫はエネ夫だ」と感じた方は、引き続き以下の対処法をお読みください。
4、エネ夫の被害に遭っている妻がとるべき対処法
エネ夫の被害に日々悩まされているかもしれませんが、何も対処しなければエネ夫の言動はさらにエスカレートしていく傾向にあります。それに伴い、あなたのストレスはどんどん溜まっていく一方となることでしょう。エネ夫の被害に悩まされている場合は、以下の対処法を検討していきましょう。
(1)まずは夫と話し合う
エネ夫の被害に遭っていると「もう離婚しか選択肢はないのでは?」と極論に走ってしまう人が少なくありません。しかしながら、エネ夫といえども一度は結婚を決めた人であり、子どもにとっては世界でたった一人のお父さんです。すぐに離婚を切り出すのではなく、まずは夫と話し合ってみるのがオススメです。
エネ夫の中には、自分の言動や行動に問題があることについて自覚がなかったり、自分の発言や行動によって妻がどれほど傷ついているのか全く理解できていなかったりする人もいます。そのため、エネ夫にもわかるように、どんな発言や行動でどのように自分が傷ついたのかを具体的に伝えましょう。ただ単に「傷ついた」と伝えるだけでは、エネ夫は「泣き言を言っている」「怠けているだけ」と考え、あなたと真摯に向き合わない可能性があります。エネ夫に伝える際は、具体的に伝えることを意識してください。
夫婦で今後の関係性について話し合い、妻も自分の辛い気持ちを正直に話すことで、夫婦のすれ違いを解消できることもあるでしょう。
(2)夫婦カウンセリングを利用する
夫婦二人で話そうとすると、どうしてもお互い感情的になり、まともな話し合いができない人もいるでしょう。その場合は、夫婦カウンセリングを利用するのも一つの選択肢です。
カウンセリングというと敷居が高く感じるかもしれませんが、欧米では特に大きな問題がなくてもカウンセリングを日常的に使う人が少なくありません。あまりハードルを高く考えずに、夫婦それぞれの気持ちを整理するイメージでカウンセリングを活用してみてください。
当事者同士だと話し合いができなくても、カウンセラーという第三者が間に入ればお互い冷静に話をしやすくなるでしょう。
仮に離婚を選択するにしても、夫婦のわだかまりを抱えたまま離婚するよりはお互いの正直な気持ちをぶつけてスッキリしてから離婚する方が、新たな人生のスタートを切ることができるようになるというメリットが得られます。
(3)別居や離婚を検討する
エネ夫の発言や行動があまりにもひどく、夫婦関係を修復できる兆しも気持ちもない場合は、別居や離婚を検討しましょう。
別居中は婚姻費用として夫に生活費を請求できますが、離婚すると夫から生活費をもらうことができなくなりますので、離婚した場合のデメリットもしっかり踏まえながら検討していくことが大切です。特に、子どもがいる場合は、親権、養育費、面会交流の取り決め等、離婚の条件をいろいろ取り決める必要があります。
できる限りリスクをおさえながら別居や離婚をしたい場合は、仕事先や引っ越し先、子どもの学校の転校先等を入念に準備してから別居や離婚を切り出しましょう。
5、エネ夫との離婚は可能?
それでは、エネ夫との結婚生活に耐えきれなくなり離婚を検討する場合、エネ夫とはスムーズに離婚することができるのでしょうか?以下、離婚できるケースを具体的に見ていきましょう。
(1)基本的には合意が必要
夫婦双方が離婚に合意すれば、離婚理由を問わず離婚することが可能です。そのため、エネ夫が離婚に合意している場合は、あまり時間をかけずに協議離婚で離婚を成立させた方がよいでしょう。離婚成立までに時間をかけると、「やっぱり気が変わった、離婚はしない」「親権は俺がもらう」等と話が複雑になる可能性が出てきます。取り決めるべきことを取り決められたら、早めに離婚届を提出し離婚しましょう。
これに対し、離婚について夫の同意が得られない場合は法定離婚事由が必要になります。法定離婚事由とは、配偶者の同意がなくても裁判で離婚が認められる原因として民法第770条1項に定められた事由のことで、その中の一つに「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」(同項5号)というものがあります。
しかし、一般的にエネ夫の発言や行動だけでは「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」には該当しないため、基本的には離婚協議で決着をつける必要があるケースが多いと考えられます。
(2)モラハラ行為がある場合は合意がなくても離婚可能
エネ夫というだけでは法定離婚事由には該当しませんが、モラハラ行為がある場合は合意がなくても離婚できる可能性があります。
たとえば、「お前なんか生きている価値がない」「家事もろくにできない無能な人間だ」等の侮辱的発言を頻繁に繰り返していたり、行動を逐一報告しないと脅迫じみたことを言ってきたりする等、モラハラ行為が頻繁に繰り返されていれば、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たる可能性が高いといえます。その場合には、モラハラを理由に離婚できる可能性が出てきます。
(3)その他にも離婚できるケース
モラハラの他にも、夫が十分な生活費を渡してくれなかったり、家庭を顧みず自分勝手な行動をするようなケースでは、経済的DVや悪意の遺棄に当たり、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるものとして離婚できる可能性があります。
また、エネ夫やその両親などからの仕打ちを総合的に考慮して、夫婦関係が破綻していて修復も困難であると認められるような場合には「婚姻を継続しがたい重大な事由」として離婚できることもあります。
法定離婚事由に該当する事情が認められるかどうかはケースバイケースですので、悩ましい場合は弁護士に相談してみることをおすすめします。
6、エネ夫と離婚する場合、慰謝料も請求できる?
エネ夫と離婚する場合、具体的な事情によっては慰謝料の請求が可能なケースもあります。
たとえば、エネ夫からモラハラを受けている場合、モラハラは不法行為なので離婚に際して慰謝料を請求できる可能性が高く、慰謝料額の相場は数十万〜300万円程度といわれています。慰謝料請求をするためには、エネ夫の言動のひどさや頻度等について証拠とともに主張立証していくことが必要です。
経済的DVや悪意の遺棄を理由として離婚する場合も慰謝料を請求できる可能性があります。
いずれの場合も、請求可能な慰謝料額はケースバイケースなので、慰謝料請求をお考えの場合は弁護士に相談して検討する方がよいでしょう。どのような証拠を集めればよいのか、証拠の集め方などについてもアドバイスを受け、準備していくことをおすすめします。
7、エネ夫との夫婦関係を改善・離婚したい方は弁護士へ相談
エネ夫の発言や行動がひどいものであったとしても、エネ夫との夫婦関係を改善したいのか離婚したいのかは人によって異なります。どちらが正解というわけではなく、最終的にはあなたが何を望むのか、何を優先するのかという点から判断していく必要があります。
夫婦関係を改善したい方も離婚したい方も、まずは一度弁護士にご相談ください。弁護士にご相談いただくことで、現状の問題点を客観的に分析してもらうことができます。そして、離婚すべきかどうかについて、冷静に検討できるようになることでしょう。
夫婦関係を改善したい場合は、弁護士によっては実績のあるカウンセラーを紹介してくれることもあります。また、弁護士に依頼して「夫婦円満調停」を申立て、夫婦関係の改善について相手方と話し合っていくことも可能です。
また、離婚することになったとしても、弁護士に依頼をしておけばエネ夫との連絡・交渉や裁判手続については全面的に弁護士に任せることができます。弁護士のサポートを受けて、納得のいく結果を得ることが期待できるでしょう。
エネ夫に関するQ&A
Q1.エネ夫とは?
エネ夫とは「えねお」と読み、妻の味方をせず、反対に妻を苦しめる敵となってしまう夫のことをいいます。英語で敵のことを「エネミー(enemy)」と言いますが、その「エネミー」と「夫」をかけ合わせてつくられた造語です。
Q2.エネ夫の被害に遭っている妻がとるべき対処法とは?
- まずは夫と話し合う
- 夫婦カウンセリングを利用する
- 別居や離婚を検討する
Q3.エネ夫との離婚は可能?
夫婦双方が離婚に合意すれば、離婚理由を問わず離婚することが可能です。そのため、エネ夫が離婚に合意している場合は、あまり時間をかけずに協議離婚で離婚を成立させた方がよいでしょう。
まとめ
エネ夫との結婚生活は、想像以上にストレスが溜まります。しかも、暴力のようにわかりやすい被害がなく、他の人の前ではエネ夫は良い人を演じることもあるので、なかなか周りの人にエネ夫の被害を理解してもらえない点も苦しいところでしょう。エネ夫との夫婦関係を改善するにしても離婚するにしても、まずは専門家である弁護士に客観的なアドバイスを聞いていただくことをおすすめします。