冤罪は弁護士に相談すべきなのでしょうか。
冤罪(えんざい)とは、実際には犯罪を犯していないのに犯人と認定されて刑罰を科されることです。
いわゆる「濡れ衣」や「無実の罪」です。
真面目に生きていても、突然、身に覚えのない疑いをかけられ「冤罪」であるにも関わらず「犯人」と扱われてしまうことがあります。痴漢事件などで、本当はやっていないのに逮捕・処罰される例などが典型です。
今回は、
- 冤罪が起こりやすい犯罪
- 冤罪が起こる原因
- 冤罪で処罰されないために弁護士に相談すべき理由
9を解説します。ご参考になれば幸いです。
刑事事件に強い弁護士について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、冤罪を弁護士に相談するかどうか判断する前に|冤罪に関する関心は高まっている!?
冤罪(えんざい)という言葉自身は昔からありますが、最近では冤罪に対する世間の関心が高まっています。
警察による強硬な取調が行われて虚偽の自白をした人が、DNA鑑定などによって冤罪であることが証明されたりした例があります。
NHKでも「ブレイブ 勇敢なる者「えん罪弁護士」」と題して冤罪事件で何件も無罪を勝ち取った弁護士が特集されるなど、「冤罪」が社会的な関心を集めていることがうかがえます。
2、冤罪が起こりやすいのは痴漢
このように、世間で冤罪に対する関心が高まっているのは、実際に一般人でも冤罪被害を受ける可能性があるからです。
特に冤罪が起こりやすい犯罪が「痴漢」です。
痴漢では、誰が実際に触っていたのか、ということを特定できる客観的な証拠が乏しく、被害者の供述が重視されがちですし、故意に触ったのか過失で触れたのかわかりにくいです。
勘違いで被害申告が行われ、犯人とは別の人が取り押さえられてしまったりすることもあります。
また、窃盗でも人違いによって逮捕されてしまうケースがありますし、過去には殺人の冤罪も起こっています。
このようなことを考えると、冤罪は決して他人事とは言えません。
3、冤罪が発生する原因
冤罪が発生する原因は「勘違い」と「思い込み」です。
まず被害者がある人を加害者であると勘違いして被害申告します。
すると、周囲の人や捜査機関もついつい、その人が犯人であると思い込んでしまうことがあります。
そして、捜査機関も「犯人であることを前提として」証拠集めや取調べを行ってしまいがちで、責められる中でつい犯人でなくても自白してしまう、というケースがいまだ存在しています。
裁判所としても、客観的にその人が犯人でも不自然ではなく、自白もしている、というケースでは、否認している場合と比べ、積極的に「別に犯人がいるのではないか」とは疑わないでしょう。
4、冤罪予防に向けた動きも
このように冤罪が社会問題になる中で、冤罪防止に向けた動きも起こっています。
まず、捜査機関による取調べ方法に制限があります。
過去には取調べの際に少々暴力的な言動があっても問題になりにくい傾向がありましたが、最近では、そのような不適切な取調べを行ったことを理由に処分を受ける例もあります。
第三者の目が入らない状況で行われることを問題視し、取調べを録画して、可視化しようという運動が長年行われています。
2016年には、裁判員裁判対象事件など一部の事件について、身柄拘束中の被疑者取調べの全過程の録画を義務づける改正刑事訴訟法が成立しています。
弁護士会も全ての取調を録画・録音すべきという主張を続けており、今後も可視化への流れは続いていくでしょう。
5、犯人と疑われたとき、適切に対応できないとどうなるの?
もしも冤罪で犯人とみなされたとき、適切に対応できないとどうなってしまうのでしょうか。
何の罪で疑われているのかを告げられた上で身柄拘束されて、捜査官によって厳しく取調べが行われます。
被疑者が当初は「やっていない」と主張していても、「犯人である」と思い込んだ捜査官から強圧的に問い詰められたことで、犯人でないにもかかわらず自白してしまうケースもいまだに存在しています。
勾留されると、逮捕から通算して20日以上警察で身柄を拘束されるケースが多いため、精神的に追い詰められていってしまいます。
勾留期間の間に検察官は「起訴」するか「不起訴」にするかを決定します。
起訴されると「被疑者」から刑事裁判の「被告人」となります。
日本の刑事裁判の有罪率は99.9%以上ですから、たとえ冤罪でも裁判になったら有罪になる可能性が高く、有罪判決を受けたら、一生消えない「前科」がつきます。
また、保釈されない限り、裁判が終わるまでの期間も留置場や拘置所で身柄拘束され続けるので、その間に仕事や家族を失ってしまう方も多いのです。
このように、いったん冤罪になったら、その後どんな補償を受けても到底まかないきれないほどの多大な不利益を受けることとなります。
6、無実を証明するにはどうすればいいのか
それでは、冤罪にならないため、無実を証明するにはどのように対応すれば良いのでしょうか?
まずは「絶対に虚偽の自白をしないこと」が大切です。
やってもいないのに「やった」と言ってしまうことは絶対に避けなければなりません。否認は一貫して続けることが必要です。被害者に取り押さえられたとき、警察に逮捕されたとき、取調べを受けている間、刑事裁判になった後、ずっとです。
途中で一回でも認めてしまったら、後に裁判で「実はやっていない」と言っても「あのとき認めていたのはなぜか?」と言われて挽回することが難しくなります。
捜査官による厳しい取調べを受け続けると、精神的に参ってしまって自白してしまう方も少なくありません。
犯人だと思い込まれたまま厳しく問い詰められるケースもあるので、自分ひとりで継続して反論を続けるのは厳しいかもしれません。
そのため、逮捕直後の段階から自白してしまう前に刑事事件に強い弁護士に対応を依頼して、どのように対応していけばいいのかアドバイスをもらい、ときおり励ましに来てもらうなど、適切なサポートを受けることが重要となります。
7、冤罪の弁護について弁護士ができること
それでは、弁護人に依頼すると、冤罪防止のために弁護士は何をしてくれるのでしょうか?
(1)適切な対応をアドバイスしてくれる
弁護士からは、そのケースにおいてどのように対応すればいいのか、具体的にアドバイスがあるはずです。
特に冤罪事件では、一度してしまった虚偽の自白が最後まで障害になるなど、これまでの冤罪事件の歴史を踏まえた上で「やってはいけない対応」を教えてくれるでしょう。
(2)励ましてくれる
連日の厳しい取調に心が折れて「話してしまおうか」などと思ったときにも、弁護士が頻繁に接見に来て励ましてくれるので、何とか気持ちを奮い立たせて耐えることができます。
(3)不当な取調べがあったら抗議してくれる
否認を貫いていると、取調べが厳しくなっていき、ときには強い口調で「犯人なのだろう」と問い詰められることもあります。
そのようなとき、暴力的な言動があったなど不適切な取調べが行われたことを弁護人に申告すれば、弁護人から捜査官に抗議して、繰り返されることを防いでくれます。
また、不適切な取調べの際につい、圧力に負けて不利な供述をしてしまっていても、後に刑事裁判になったときに「違法収集証拠」として排除するよう争えます。
8、冤罪事件を積極的に取り組む弁護士の選び方
冤罪を防ぐためには刑事弁護人の力が重要ですが、どのような弁護士でも良いというものではありません。
以下では冤罪事件に強い弁護士の選び方をご紹介します。
(1)刑事事件に関する知識が豊富
まずは刑事事件についての知識が豊富な弁護士を選びましょう。
多くの刑事事件に取り組んできた実績を持ち、研究や勉強を欠かさない弁護士が良い弁護士です。
(2)弁護士歴の長さではなく刑事事件の対応経験が豊富
弁護士としての経歴を重視する人がいますが、それはたいして重要ではありません。
弁護士歴が長くても、その間に他の分野を中心に活動していて、刑事事件をあまり担当していないのであれば意味がないからです。
単純な弁護士歴の長さよりも「刑事事件への取り組み実績が高いかどうか」「これまで無罪判決を獲得したことがあるかどうか」といった基準で弁護士や法律事務所を選びましょう。
(3)フットワークが軽い
刑事事件を依頼する弁護士を選ぶときにはフットワークの軽さも重要です。
頻繁に接見に来てもらって適宜アドバイスを受ける必要がありますし、実験や現場検証などで無罪の証拠を探してもらわないといけない事例もあるためです。
(4)相性が良い
冤罪という人生に関わることを依頼するのですから、心から相手のことを信頼できないと意味がありません。
相談したときに「相性が良い」「フィーリングが合う」「話しやすい」弁護士を選びましょう。
(5)あなたの意向を汲み取る姿勢を持っている
希望を言ったり質問したりしたときに、意向を汲み取ってくれるかどうかも重要です。
依頼者の言い分に耳を傾ける姿勢を持った弁護士を選びましょう。
9、冤罪から身を守るために自身で注意すべきこと
冤罪から身を守るため、以下のようなことに注意しましょう。
(1)やってないことは認めない
最も重要なことは「やっていないことは絶対に認めない」ことです。
被害者から強い勢いで責められたり、周囲から「やったんだろう」と言われたり警察に厳しく責められたら、ついつい認めてしまう人がいます。
しかし、繰り返しになりますが、そのようなことをすると一気に冤罪で処分される方向に舵を切ってしまいます。
毅然とした態度で「私はやっていない」と主張し続けましょう。
(2)謝らない
謝らないことも重要です。
被害者に責められると、ついついその場をおさめようとして「(騒ぎを起こして)すみません」などと言ってしまうことがありますが、相手は「犯罪を犯してすみません」の意味に受け取ってしまいます。
やっていないのであれば、たとえその場をおさめるためであっても謝ってはいけないのです。
(3)その場で目撃者を探す
冤罪で捕まりそうなときには、その場で「やってないこと」を証言してくれる目撃者を探しましょう。
痴漢などのケースでは動画を撮影していたり目撃していたりして、「この人はやっていないと思う」と言ってくれる人がいるケースもあります。諦めてはいけません。
(4)自分で証拠を集める
手先についた衣類の繊維の有無を確認したり、DNA鑑定を行うことによって、冤罪を証明できる可能性があります。
早期に弁護士を探して、こういった鑑定などを依頼することも重要です。
(5)すぐに弁護士に相談する
冤罪対策は、ひとりで進めるには限界があります。
「疑われている」と感じたら、すぐに刑事事件に強い弁護士に相談しましょう。
まとめ
逮捕されたら、たとえ冤罪であっても適切に対応しないと不利な状況や証拠だけがクローズアップされて「犯人」として処罰されてしまうかもしれません。
そのようなことにならないため、一刻も早く、刑事事件に強い弁護士に相談しましょう。