遺産分割調停をすることになった方の中には、解決するまでにどれくらいの期間がかかるのか、何回裁判所に出向かなければならないのかがわからず不安に感じている方もいらっしゃるでしょう。
今回は、
- 遺産分割調停にかかる期間
- 遺産分割調停を早期に終了させるポイント
- 遺産分割調停が不成立になった場合の手続き
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
目次
1、遺産分割調停でかかる期間
遺産分割調停でどのくらいの期間がかかるかについては、裁判所の統計を見ることによって、大まかな期間の目安を知ることができます。
(1)遺産分割調停の期間
令和元年の司法統計のうち「遺産分割事件数 終局区分別審理期間及び実施期日回数別 全家庭裁判所」によると、令和元年度に遺産分割事件が終了した件数は、1万2785件ありました。そのうち、調停が成立したことにより遺産分割調停が終了した件数は、6320件あり、全体の約半分の事件が調停成立により終了していることがわかります。
そして、遺産分割調停にかかる期間については、1か月以内に終了するものもあれば、3年以上もかかる事件もありますが、調停が終了するまでには平均的に1年程度の期間がかかっています。
(2)遺産分割調停期日の回数
同じく令和元年の司法統計のうち「遺産分割事件数 終局区分別審理期間及び実施期日回数別 全家庭裁判所」によると、遺産分割調停期日の回数としては、5回までに終わるものが全体の63.4%、10回までに終わるものが全体の87.2%ですが、中には21回以上も調停期日を行ったものもあります。
5回程度はかかるものと考えておくと良いでしょう。
(3)遺産分割調停中の相続財産の帰属
上記のとおり、遺産分割調停は、平均で1年程度の期間がかかり、場合によっては3年以上の期間を要することもあります。そのため、相続人の中には、遺産分割調停が成立する前に被相続人の遺産を使いたいと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、遺産分割が完了していない状態で相続人が複数いる場合には、被相続人の遺産は各相続人の共有となっており、原則として一部の相続人が勝手に処分することは認められていません。したがって、遺産を使用したいと考えている場合には、早期に遺産分割調停を終了させることが重要となります。
なお、以前は、預貯金の払い戻しについても、判例では、一部の相続人が勝手に払い戻しを請求することはできず、共同相続人全員の同意を得るか、遺産分割の手続きが完了した後にしか払い戻しをすることができないとされており(最決平成28年12月19日)、この判例を踏まえた銀行実務により、遺産分割終了までは、原則として一切払い戻しを受けることができませんでした。
しかしながら、令和元年7月1日以降は、金額は限定されますが、遺産分割終了前に預金の一部について払戻しを受けられるようになっています(民法第909条2項)。
2、遺産分割の期間が短く済むケース
遺産分割調停の期間が短く済むケースとしては以下のものが挙げられます。
(1)相続人が少ないケース
遺産分割調停は、家庭裁判所の調停委員が各相続人から個別に話を聞くという方法で進められていきます。そのため、相続人の人数が多い場合には、1回の期日で多くの内容を処理することができず、何回も期日を重ねなければなりません。
また、相続人が多くなると、各相続人からさまざまな主張が出てくるため、遺産の評価や分け方を巡ってなかなか調整することができず、調停期間が長くなる傾向にあります。
一方で、相続人が少ないケースでは、主張内容がその分少なくなり、調整事項が早期に明確になりやすいため、調停期間が短くなる傾向にあるといえます。
(2)遺産が少ないケース
遺産が少ないケースでは、遺産の範囲が明確な場合が多くすぐに遺産の評価や分割方法の話し合いに入ることができるため、比較的早期に終了する傾向にあります。裁判所の統計でも、遺産が多いケースでは、遺産分割調停の期間が長期化する傾向にありますので、遺産が少ないケースの方が調停期間は短く済むといえます。
(3)感情的な対立があるだけのケース
法的な争いではなく、相続人同士の感情的な対立があるために、遺産分割協議がまとまらず調停を申し立てるケースがあります。
遺産分割調停では、調停委員が相続人それぞれから話を聞くため、相続人同士が直接顔を合わせて話し合いをする必要がなく、裁判官や調停委員が法的観点に焦点を当てて適切に話し合いを進めてくれます。
そのため、感情面が前面に出てくることが少なくなりますので、調停では、単に感情的な対立があるに過ぎないケースについては、早期の解決が期待できます。
3、遺産分割調停の期間が長引くケース
遺産分割調停の期間が長引くケースとしては、以下のものが挙げられます。
(1)遺産の内容が複雑であるケース
遺産分割調停では、遺産の具体的な分割方法の話し合いに入る前に、遺産の範囲について確定しなければなりません。
被相続人の遺産が明確であれば、特に時間はかかりません。しかし、相続人がどのような資産があるかを正確に把握していないようなケースでは、金融機関、証券会社、保険会社、市区町役場などに遺産の照会をしなければならないことがあります。
遺産の内容が複雑である場合には、遺産の範囲を確定するまでに相当期間を要することになるため、遺産分割調停の期間が長引く傾向にあります。
(2)遺産の評価に争いがあるケース
遺産の範囲を確定した後は、その遺産をどのように評価をするかについてや評価額について相続人全員が合意しなければなりません。
預貯金であれば、死亡時の残高がそのまま遺産の評価額になりますので、特に問題は生じません。
しかし、不動産を所有している場合には、当該不動産をどのように評価するかでもめることがあります。
他の相続財産や代償金の関係から不動産の取得を希望する相続人としては、できるだけ低い金額で評価したいと考えますが、不動産の取得を希望しない相続人としては、できるだけ高い金額で評価したいと考えます。
このように遺産の評価を巡って相続人同士に対立がある場合には、なかなか話し合いが進まず、遺産分割調停の期間が長期化することになります。
(3)特別受益や寄与分の主張があるケース
相続人の中に、生前に被相続人から多額の贈与を受けている相続人がいたり、被相続人の介護に尽力した相続人がいたりする場合には、遺産分割調停の中で、「特別受益」や「寄与分」が主張されることや、遺産分割調停とは別に寄与分を定める処分調停を申し立てられることがあります。
これらが主張された場合には、特別受益の存在や寄与分を基礎づける事情について、個別具体的に主張・立証を行う必要があり、相続人同士で主張と反論が繰り返されますので、何回も期日を重ねなければならないことがあります。
不公平感を感じる相続人がこれらの主張をすることが多いため、なかなか譲歩が得られず遺産分割調停が長引く原因となります。
(4)使途不明金の問題があるケース
被相続人の生前に、相続人の一部が勝手に預貯金を引き出していた場合には、使途不明金を巡って争いになることがあります。
遺産分割調停は、現存している遺産を分ける手続きですので、既に存在しない使途不明金を含めて遺産分割調停を行うことはできません。
使途不明金に関与した相続人が、引き出しの事実を認めて、話し合いに応じ、遺産分割調停の中で調整する場合は別ですが、生前の使途不明金の問題については、原則として、家庭裁判所の調停ではなく、別途、簡易裁判所や地方裁判所で不当利得返還請求訴訟又は不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を行わなければなりません。
なお、被相続人の死後に、相続人の一部が遺産を処分した場合には、処分した相続人以外の相続人全員が同意すれば、処分された遺産も遺産分割の対象とすることができますので、他の相続人の同意が得られれば、別途地方裁判所等で訴訟を行う必要はなく、遺産分割調停の中で解決できます。
4、早期解決をご希望の方へ〜遺産分割調停でかかる期間を早めるコツ
遺産分割調停の早期解決を希望する場合には、以下のような対応をすることで解決までの期間を短縮し、手間を省くことにつながる可能性があります。
(1)ある程度の譲歩も必要
遺産分割調停では、自分の主張がすべて通るとは限りません。調停を成立させるためには、当事者全員が合意しなければなりませんので、話し合いの過程では一定の譲歩が必要な場合があります。
遺産分割調停ではさまざまな争点が出てきますので、争点について優劣をつけて、重要な争点についてはきちんと争うものの、些末な争点については譲歩するなどの対応をすることも検討するとよいでしょう。譲歩の姿勢を示すことで、調停委員に対する心象もよくなりますし、譲歩したことを交渉材料として主要な争点で有利な内容を引き出すことが可能になる場合もあります。
(2)受諾書面の利用
遺産分割調停の当事者のすべてが自分の言い分を有しているとは限りません。相続人の中には、積極的に争うことを望まず、調停で決められた内容であればそれに従うという意向の方もいます。
そのような意向の相続人には、遺産分割調停が長期化することよりも遺産分割調停への出席を求められることに負担を感じられる方もいらっしゃいます。遺産分割調停は、原則として、欠席者がいる場合には調停を成立させることはできませんが、欠席する相続人が、あらかじめ調停委員会から示された調停条項案に合意する旨の書面(受諾書面)を提出し、その他の相続人が調停期日に出席してその調停条項案に合意したときは、欠席者がいても調停を成立させることができます。
また、代理人(弁護士等)を立てることで、調停に出席しなくてもよくなります。
調停への参加が負担に感じる場合には、受諾書面や代理人を利用することによって、調停への参加を回避することができます。
(3)相続分譲渡によって調停から離脱
遺産分割に関しては積極的な言い分はないものの、早めに財産を取得したいという希望がある場合や、遺産はいらないので争いごとに巻き込まれたくないという希望がある場合には、相続分譲渡をすることも考えられます。
相続分の譲渡は無償ですることも可能ですが、他の相続人に対して自己の相続分を有償で譲渡することによって、譲渡人は、相当な対価を得ることができます。そして相続分の譲渡人は、原則として、遺産分割調停に参加しなくてよくなります。
他の相続人が争っている限り、遺産分割調停を早期に解決するということは難しいですが、争いのない相続人としては相続分譲渡によって早期に遺産分割調停から離脱することができます。
5、遺産分割調停を欠席するとどうなる?
裁判所から遺産分割調停の呼び出しがあったにもかかわらず、それを無視して調停期日を欠席したらどうなるのでしょうか。
遺産分割調停を欠席したとしても調停は行われますが、調停を成立させるためには、相続人全員の合意を得る必要があります。そのため、遺産分割調停を欠席している状態が続くようであれば、合意の成立の見込みがないものとして調停が不成立となります。例外として、欠席者が前述の受諾書面を提出する場合は、調停を成立させることができます。
調停が不成立となった場合には、後述する遺産分割審判に移行します。遺産分割審判では、当事者が審判期日に欠席したとしても裁判所が審判を下すことができます。調停を欠席していた相続人も、審判に移行した後に、審判期日に出席し、主張書面や証拠を提出することができますが、審判期日も欠席し、主張書面等も提出せず、自らの主張を明らかにしないでいると、場合によっては不利な内容の審判内容となる可能性もありますので注意が必要です。
6、遺産分割調停が不成立になったら解決までの期間は長引く
遺産分割調停が不成立になった場合には、以下のとおり遺産分割審判に移行することになるため、解決までの期間はさらに長くなります。
(1)遺産分割調停が不成立なら審判へ移行する
遺産分割調停で当事者同士の意見がまとまらない場合には、調停は不成立になります。そして、調停が不成立になった場合には、特別な手続きを必要とすることなく自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割審判は、調停のような当事者同士で話し合って解決する手続きではなく、裁判官が遺産分割方法を決定する手続きです。裁判官は、調停や審判で提出された主張や証拠に基づき、法律に従って遺産分割方法を決定しますので、必ずしも当事者の希望通りの解決内容となるとは限りません。遺産分割審判は、必ず結論がでるというメリットはありますが、調停のような柔軟な解決ができないところがデメリットといえます。
(2)遺産分割審判でかかる期間
遺産分割審判でかかる期間は、事案によって異なります。遺産分割調停で十分な争点整理がなされている事案では、審判に移行したとしても新たな主張立証はあまり必要となりませんので、比較的短期間で審判が終了します。他方、遺産分割調停で十分な争点整理ができていない場合や、複雑な内容の事案である場合には、審判に移行した後もさらに主張立証を繰り返していきますので、終了するまでの期間が長くなる傾向があります。
遺産分割審判では、早い事案では3か月程度で終わることもありますが、1年以上もかかる事案も少なくありません。事案にもよりますが、遺産分割審判では、半年から1年程度の期間をみておくとよいでしょう。
(3)遺産分割審判は弁護士だけの出廷でOK
遺産分割審判は、調停のような話し合いの手続きではなく、基本的には書面審理になります。遺産分割審判で言い分のある当事者は、期日までに自己の主張を書面にまとめて裁判所に提出します。また、自己の主張を裏付ける証拠がある場合には、主張書面と同様に裁判所に提出します。
このように審判手続きは訴訟手続きに似ていますので、弁護士に依頼をしていれば弁護士が裁判所に出廷するだけで足ります。審判手続きに移行した場合には、法的観点から適切な主張を行わなければなりませんので、専門家である弁護士のサポートを受けて進めるのが安心です。
7、遺産分割調停を有利な短期決戦にするには
遺産分割調停を有利に進めるとともにできる限り早期に解決することを希望する場合には、弁護士に依頼することをおすすめします。
遺産分割調停において自分の言い分がある場合には、適切に主張しなければ調停委員や相手方を納得させることができません。そのためは、必要に応じて主張書面を提出したり、主張を裏付ける証拠を提出したりする必要があります。調停手続きに不慣れな方だと、どのような主張をすればよいかわからず、意味のない主張を繰り返してしまうことが少なくありません。このような無意味な主張を繰り返すことは、結果として遺産分割調停を長期化させることにつながります。
弁護士であれば、依頼者が有利になるように調停委員や相手方を説得したり、依頼者の言い分を法的観点から構成しなおして適切に主張を行ったりすることが可能です。事案に対する見通しも立てることができますので、争うべきポイントと譲歩すべきポイントを適切に取捨選択し、早期に遺産分割調停をまとめることが期待できます。
まとめ
遺産分割調停の期間は、以前に比べて短くなってきているとはいえ、平均で1年程度の期間がかかります。遺産分割調停が長期化することになれば、調停期日に出向かなければならない当事者の負担も増えてきますので、できる限り早期に解決したいものです。
遺産分割調停は、専門的な知識が必要となる場面が多く、当事者での対応は難しいことも多々あります。当事者間の遺産分割協議がまとまらず、遺産分割調停に進める際には、弁護士に相談をして法的観点からサポートを受けるとよいでしょう。