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有休が取れないのはなぜ?有休を取る方法をケース別に弁護士が解説

有休を取りたいのに取れない・・・」このように悩んでいる方も多いことでしょう。

厚生労働省の調査によると、2019年における年次有給休暇の取得率(付与された年次有給休暇の日数のうち、消費された年次有給休暇の日数の割合)は56.3%でした。

参考:厚生労働省|就労条件総合調査(令和2年)

有休の取得率は年々上昇しつつあるものの、いまだに約半分程度にとどまっています。
2019年4月からは年5日以上の有休取得が義務化されたにもかかわらず、実際の取得率は半分強に過ぎないのです。
日本の企業社会は、まだまだ有休を取りにくい状態にあるといえるでしょう。

しかし、有休の取得は法律で認められた労働者の権利ですので、適切に対処すれば確実に取得することができます。

そこで今回は、

  • 有休が取れない理由
  • 有休を取るために知っておくべき基礎知識
  • 有休を取る方法

について、弁護士が解説していきます。

この記事が、有休を取れずにお困りの方のご参考になれば幸いです。

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1、有休が取れない理由の3つのタイプ

有休が取れない理由の3つのタイプ

日本の会社で有休が取れないのはなぜなのでしょうか。
さまざまな理由が考えられますが、数多くのケースを見ていると、主な理由として以下の3つのタイプが挙げられます。

(1)仕事が忙しい

第1に、そもそも仕事が忙しいために、休みたくても休めないという現状があります。

たくさんの仕事を抱えていて、1日休んでしまうと休み明けの仕事量が大きく増えてしまうため、有休を取っても気が休まらないというケースは多いです。

そうでなくても、人材に余裕がないために、1人が休んだ日には他の社員の負担が過重になってしまうため、休みづらいという職場も少なくありません。

(2)有休を取らない社風

第2に、周囲が有休を取得していないという理由で、自分も取りにくくなっている方がたくさんいます。

「周囲が必死で働いているのに、自分だけ休むのはどうかと思う」「みんなが仕事をしていると思うと、ゆっくり休んでいられない」という罪悪感から、有休を取得しにくくなってしまうのです。

また、有休を取得することで上司から同僚から非難されることを恐れて、有休の取得を控えている人も少なくありません。

実際には上司や同僚も有休を取りたいのに、長年にわたって培われてきた「社風」には誰にも逆らうことができず、皆が有休の取得を言い出せずに苦しんでいるという職場も珍しくありません。

(3)会社が有休取得を拒否

第3に、日本では、労働者が有休を取得することに対する、会社側の意識が低いということも挙げられます。

有休の取得を申し出たところ、上司から嫌な顔をされたことから、それ以降は有休を取れなくなったという人は数多くいます。

それどころか、上司から「うちの会社では、今まで誰も有休など使っていない」「有給を使うのなら、昇給や査定は期待しないでくれ」などと言われ、有休取得を拒否されるケースも少なくありません。

上司としては、自分も若手時代から有休を取れない職場環境に耐えて頑張ってきたため、部下が有休を取得するのは面白くないのかもしれません。
また、社員に有休を取得させても業務がスムーズに進むようなシステムが採用されていないという問題もあるのでしょう。

2、有休取得に必須の知識

有休取得に必須の知識

有休を適切に取得するためには、有休に関する基本的な知識を持っておくことも大切です。

ここでは、労働者として知っておいていただきたい必須の知識について解説します。

(1)有休が発生する条件〜パートなどの非正規にはない?!

有休が発生するのは、労働者が次の2つの条件を両方満たした場合です(労働基準法第39条)。

  • 6か月以上の継続勤務をしていること
  • 所定労働日の8割以上出勤していること

以上の条件を満たす限り、正社員だけでなくアルバイトやパート、契約社員など非正規の方にも有休が発生します。

「所定労働日の8割以上の出勤」という条件は、非正規の人にとって厳しいと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

ここにいう所定労働日とは、労働契約で決めた労働日数のことを指します。その8割以上の日数を出勤すればよいのですから、多くの方は満たすはずです。

例えば、週に3日出勤するという契約を会社と結んだ場合、6か月間の所定労働日数は78日となります。
その8割にあたる63日以上で実際に出勤すれば、有休が発生することになります。

なお、遅刻や早退した日も出勤1日としてカウントされます。その他にも、産休や育休、介護休暇を取得した場合や、業務災害のために休業した日も同様です。

(2)勤続年数ごとの有休の日数

正社員の場合、上記の2つの条件を満たすと、まず10日の有休が発生します。

その後は勤務年数が増えるにつれて取得できる有休の日数が増えていき、下表のとおり最高20日まで漸増していきます。

勤続年数と有休発生日数の関係は、以下のとおりです。

勤続年数

有休発生日数

6ヶ月

10日

1年6ヶ月

11日

2年6ヶ月

12日

3年6ヶ月

14日

4年6ヶ月

16日

5年6ヶ月

18日

6年6ヶ月

20日

非正規の方の場合、週5日以上(週の労働日数が定められていない場合年間217日以上)または週30時間以上勤務している方については正社員と同様の有休日数が認められます。

所定労働日数がそれより少ない方については、以下のように所定労働日数に応じて比例的に有休が付与されます。

(引用:厚生労働省サイト

(3)有休の繰越期限

有休は毎年発生するものですが、その年度に使えなかった有休は次年度に繰り越すことができます。

ただし、有休の取得権は2年で時効消滅しますので、次々年度まで繰り越すことは出来ません。
そのため、1年間で利用できる有休の日数は最大で40日となります。

発生した有休は2年以内に消化しないと、どんどん消滅していってしまいますので、できるだけその年度内に使ってしまう方が良いでしょう。

(4)有休取得に理由はいらない

有休を取得するために「理由」は不要です。労働者は休暇の時間を自由に使うことが認められているからです。

労働者のみなさまの中には「病院に行く」「家族の介護をする」「冠婚葬祭」など、何かしら正当な理由がないと有休は取れないと考えている人もいるかもしれませんが、そんなことはないのです。

会社で有休の取得理由を尋ねられたとしても、答える義務はありません。
答えなかったとしても、会社がその従業員を不利益に取り扱うことは認められませんし、査定や昇給に影響が出ることもありません。

同僚などが「何をするの?」と聞いてくることもありますが、言いたくなければ言わなくてもかまいません。

たとえば

  • 遊園地に行く
  • デートする
  • 釣りに行く
  • 旅行する
  • 家でDVDを見る

などの理由でも、まったく問題ないのです。

「特に理由が見つからないから、有休を取得できない」という思い込みは捨てましょう。

(5)会社の権利「時季変更権」

労働者は好きなときに有休を取得することが可能であり、会社は原則として拒否することはできません。

ただし、実際には会社の業務上、「この時期に休まれるのは困る」という事情もあるものです。
そんなときには、会社は労働者に対して、他の日に有休を取得させることができます。

会社のこの権利のことを「時季変更権」といいます(労働基準法第39条5項)。

なお、会社による時季変更権の行使が認められるのは、労働者の希望日に有休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。

繁忙期や決算期で従業員が1人でも休むと業務をこなせなくなる場合や、その従業員でないと遂行できない業務があり、かつ、その納期が迫っているというような場合であれば、時季変更権の行使が認められる可能性があります。

しかし、単に「他の従業員が休んだ人の仕事を穴埋めしなければならない」という程度の理由では時季変更権の行使は認められません。

また、時季変更権は労働者が有休を取得する時季を変更できる権利に過ぎません。

会社が時季変更権を行使する名目で有休の取得申請を拒否し、変わりの日に有休を与えない場合は違法となる可能性があります。

(6)2021年現在、年5日の有休取得は義務化されている

現在では、年に最低5日は有休の取得が義務とされています。

正確には、労働者の義務ではなく、会社が労働者に有休を取得させなければならないという義務です。

会社は、有休の付与日数が10日以上ある労働者に対しては、年に5日以上、労働者ごとに時季を定めて有休を与えなければならないとされているのです(労働基準法第39条7項)。

この義務に違反した会社は、30万円以下の罰金という刑事罰の対象となります。

すでに同じ年度で5日以上の有休を取得している労働者に対しては、会社からそれ以上に有休の取得を促進する義務はありません。

この制度は、働き方改革の一環として2019年4月から施行された改正労働基準法によって導入されたものです。

ただ、このような制度が導入されたからといって「有休を取れるのは年5日まで」と考えるのは誤りです。

労働者には、あくまでも前記(2)でご説明した日数だけ、自由に有休を取得する権利があります。

年5日を超える有休を取得しようとすると、上司から嫌な顔をされることもあるかもしれませんが、そのような会社の対応にこそ問題があるということを知っておきましょう。

(7)会社の違法行為の具体例

現実には、労働者が有休の取得を申請しても会社が違法に拒否しているケースや、有給を申請した従業員に対してパワハラをしてしまっているケースは少なくありません。

例えば、以下のようなケースは違法となる可能性が高いので、心当たりがある方は郎度基準監督署や弁護士に相談することをおすすめします。

そのためには、上司の発言をボイスレコーダーで録音したり、書面やメールなどで記録が残っている場合には保管して、証拠を確保しておきましょう。

  • 「忙しいから無理」というだけの理由で申請を拒否された
  • 「誰も有休を取っていないから認められない」と言われた
  • 「アルバイトに有休はない」と言われた
  • 有休を取得したら評価が下がると明言された
  • 有休を取得したことを原因としてパワハラを受けた

パワハラの具体例としては、有休を取得したことに対する嫌がらせとして過重な業務を与えられたり、逆に仕事を与えられなくなったり、あるいは本人が望まない部署へ異動させられるなどが考えられます。

3、仕事が忙しい人が有休を取る方法

仕事が忙しい人が有休を取る方法

ここからは、なかなか有休を取れない状況にある人が上手に有休を取るコツをご紹介していきます。

まずは、仕事が忙しい人がスムーズに有休を取る方法を解説します。

(1)マネジメントが大切

「マネジメント」とは、さまざまな意味を含む言葉ですが、企業におけるマネジメントというと「経営管理」や「組織運営」のことを指すのが一般的です。

しかし、労働者が有休を取得するために求められる「マネジメント」とは、担当している業務の計画、実行、管理のことを意味します。

つまり、仕事が円滑に進むように計画し、その計画を効率よく実行し、適切に仕事が進んでいるかを確認して管理するということです。

仕事の計画の中に「有休」を組み込めば、忙しい仕事であっても有休を取りやすくなります。

場当たり的な仕事のやり方を進めていては、いつまで経っても仕事に追われ続けて、なかなか有休は取得できないでしょう。したがって、仕事をマネジメントすることが大切です。

(2)仕事、周囲、そして自分をマネジメントせよ

多くの場合、会社での仕事は一人だけで行うものではありません。
そのため、以下の観点からの管理表の作成は欠かせません。

① 仕事マネジメント

まずは、担当する業務ごとにゴールを見極めて、いつまでに、何を成し遂げるべきなのかを明らかにし、管理表に記載しましょう。

② 周囲マネジメント

上記の仕事には、自分以外にも周囲の何人かが携わるはずです。
誰がどの作業をやるのか、それぞれの作業をいつまでに終わらせるべきなのかを明らかにして、管理表に落とし込んでいきましょう。

③ 自分マネジメント(セルフマネジメント)

最後に、自分自身をマネジメントすることも重要です。以上の業務フローの中で、自分はいつ、何をすべきなのか、どう動くべきなのかを具体的に考えましょう。
あとは管理表に従って、できる限り効率よく仕事を実行していくだけです。

このように綿密にマネジメントした管理表を作成すれば、有休を申請する際に上司にその管理表を見せることで、理解も得られやすくなるでしょう。

4、有休を取らない社風の会社で有休を取る方法

有休を取らない社風の会社で有休を取る方法

次に、勤務先の会社が有休を取らない社風であるために有休の取得申請をしにくい人が有休を取る方法について解説します。

(1)自分から変わる

「他の人が有休を取らないから自分も取れない」と言っていては、いつまで経っても有休を取ることはできないでしょう。
そのため、有休を取るためにはまず、自分から変わる必要があると考えられます。

このような会社では、有休を取れない根本的な原因は、漫然と働く社風にあると言えます。
そこで、まずは自分から働き方を変えてみましょう。

上司からの指示を待ち、周囲の人たちと同じやり方で仕事を進めるのではなく、自分で段取りを整えて、自分なりの効率的なやり方で迅速に仕事をこなしていくことです。

山田さんなら、自分の担当業務については「山田株式会社」の社長になったつもりで、責任感を持ちつつ、短時間で仕事の成果を上げていきましょう。

(2)すると会社が変わる

有休取得は法律上の権利ですから、仕事が片付いた上で計画的に取得することは何らおかしいことではありません。

仕事をきれいにこなすあなたがスマートに有休を取得する姿を見て、周りが変わってくることが期待できます。
自然と変わっていかないなら、積極的に会社を変えていく姿勢も必要です。

5、有休取得を認めない会社に勤める人が有休を取る方法

有休取得を認めない会社に勤める人が有休を取る方法

次は、勤務先の会社が有休取得を認めない方針である場合に、有休を取る方法です。

(1)有休の趣旨を会社と共有

経営者または上司であれば、有休についての法定内容はご存知でしょう。
万が一詳しくないようであれば、ご自身で調べた知識をまとめ、会社の担当部署へ進言するなどのアクションを起こすのも1つの手段といえます。

有休の趣旨を会社に伝える際には、労働者にとっての必要性とともに、会社にとってのメリットも示すことがポイントです。

労働者にとっての有休の必要性については、人間に就寝時間が必要なのと同じであると説明するとよいでしょう。

また、会社にとってのメリットについては、労働者が有休を取ってリフレッシュすることで、より精力的に仕事に取り組むことができることを説明するとよいでしょう。

(2)会社の違法性を示唆

労働者が有休取得を申請したにもかかわらず会社が応じない場合、会社側には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が適用される可能性があります(労働基準法第119条)。

また、合理的な理由なく有休取得を妨害するような行為は、それ自体がパワハラに該当し、従業員への慰謝料支払い義務が発生することも考えられます。

また、労働者が労働基準監督署に通報して会社が書類送検に至れば、社名が公表されるおそれもあります。

勤務先の会社に対して、このような違法行為が行われているという事実を示唆した上で、「この会社で誇りを持って働き続けたいので、コンプライアンスを改善してほしい」と要望するのもよいでしょう。

6、有休が取れずに退職間際になっている場合

有休が取れずに退職間際になっている場合

最後に、有休が取れないまま退職間際になってしまった場合の対処法について解説します。

(1)有休日数を考慮して退職日を決める

この場合、最も効果的な方法は、退職前に有休を消化することです。

有休の残り日数を考慮して退職日を決め、引き継ぎ等の残務は計画的に済ませた上で、有休消化に入るようにしましょう。

なお、退職前の有休消化の場合は、会社による時季変更権は認められません。
そのため、たとえ引き継ぎがスムーズに終わらなかったとしても、労働者は必ず有休を消化できることになっています。

ただ、必要な引き継ぎが終わらなければ会社の業務に支障をきたす可能性が高いので、退職を申し出るときには早めに引き継ぎのスケジュールと、有休消化の予定を上司に伝えて理解を得ていくのが穏当なやり方です。

(2)有給休暇の買取請求は可能か

会社が労働者の有休を買い取ることは、基本的には認められません。
なぜなら、有休は労働者が身体を休ませるための重要な権利であり、会社による買取請求を認めると、この目的を果たすことができないからです。

ただし、2年以内に消化できなかった分や、退職前で消化できなかった分、法定日数を超える有休がある場合には、買取りが認められています。

もっとも、就業規則等で定められていない限り、会社に買取り義務はありません。
労働者側が希望したとしても買い取ってもらえるとは限りませんので、この点は注意が必要です。

7、有給休暇についてトラブルになりそうなときは弁護士へ相談を

有給休暇についてトラブルになりそうなときは弁護士へ相談を

ここまで、有給休暇に関する基礎知識や、有休を取るためのコツなどを解説してきましたが、現実には日本の会社ではまだまだ、有休取得にまつわるトラブルが発生するケースが少なくありません。

そんなときは、弁護士に相談することをおすすめします。

法律のプロである弁護士に相談すれば、会社の対応が違法かどうかを判断してもらった上で、有効な対処法を具体的にアドバイスしてもらうことができます。

費用はかかりますが、弁護士に対応を依頼すれば、弁護士から会社を説得することによって有休取得が可能となることも期待できます。

なお、労働基準監督署などの公的機関に相談することで、無料で有休に関するトラブルの解決につながるケースもあります。
その場合には、弁護士から相談先の案内もしてもらえるので安心です。

また、有休が取れない会社では他にも長時間労働や残業代の未払い、パワハラなどのブラック行為が見受けられるケースも少なくありません。

弁護士には有休の問題だけでなく、あらゆる法律問題を相談できますので、お困りのときは気軽に相談してみるとよいでしょう。

まとめ

有休を取りたいのに取れないという場合、たとえ他の人も取っていないとしても、労働者としての権利を会社に無視されているわけですので、納得いかない気持ちになることでしょう。

労働者にとって、有休取得は法律で認められた正当な権利です。
会社の都合で制限されるべきものではありません。

ただ、日本の企業風土では、長年にわたって有休が重視されてこなかったという経緯もあります。
そのため、会社に悪気はなくても、労働者の有休取得に対応しきれていないというケースもあります。

そんなときは、この記事をご参考に、自分から変わっていくことをおすすめします。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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