
相続税の対策にはどのような方法があるのだろう……。
- 近い将来に親の遺産を相続する予定。財産が入るのはうれしいけれど、相続税の負担がどうなるのかわからなくて心配…。
- 相続税対策をしておくと相続税がかなり安くなるらしいけど、いったい何から始めたらいいの?(アパート経営?生命保険?墓の購入?)
今回は、こうした疑問にお答えします。
相続する遺産が一定額を超える場合、相続税という税金を負担しなくてはなりません。
具体的には、遺産の金額が3、600万円を超える場合には、何らかの形で相続税の負担が生じることを理解しておきましょう。
一方で、相続税は節税対策を適切に行っておくことによって、ずいぶんと負担を小さくできる税金でもあります。
今回は、相続税の節税対策を検討している方向けに、次のような内容を説明いたします。
- 相続税の基本的な計算方法
- 相続税はいつまでに誰が払う必要があるのか?のルール
- 相続税の負担を小さくするための節税方法7つ
節税対策は始めるタイミングが早ければ早いほど、選択肢が多くなりますので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事が、近い将来に相続にかかわる可能性がある方の参考になればうれしく思います。
目次
1、相続税対策について知る前に|相続税とは
相続税とは、亡くなった人が残した財産の金額が一定額を超えるときに相続人が負担しないといけない税金です。
亡くなった人の相続人となる人(普通は親族です)が、相続発生後、期限までに支払わなくてはなりません。
以下では、相続税に関する基本的なルールを理解しておきましょう。
関連記事(1)計算方法
相続税の計算方法を、簡単にまとめると以下の通りです(実際の計算はもう少し複雑ですが、ここではごくおおまかに理解しておいてください)。
- ①「正味の遺産額」を計算します:プラスの遺産からマイナスの遺産を差し引きします
- ②「課税遺産総額」を計算します:相続税の『基礎控除』を「正味の遺産額」から差し引きします
- ③「相続税の総額」を計算します:「課税遺産総額」を法定相続分で分割したものと仮定し、相続税の税額表に当てはめて計算します
- ④「相続人各自が負担する相続税額」を計算します:実際に選択した遺産相続の割合に基づいて、相続人各自が負担する相続税の金額を計算します
②の相続税の『基礎控除』は、以下の計算式によって計算をします。
相続税の基礎控除=3、000万円+600万円×法定相続人数
例えば、相続人として長男・次男・三男の3名がいたとすると、相続税の基礎控除は3、000万円+600万円×3人=4、800万円となります。
この場合、正味の遺産額が4、800万円を超えないときには、相続税の負担は発生しないこととなります。
(2)いつ払うのか
相続税は、相続が発生した日(つまり親族が亡くなった日)の翌日から計算して、10か月以内に税務署に対して申告と納付を行います。
もっとも、上で見た正味の遺産額が相続税の基礎控除の金額に満たない場合には、申告や納付を行う必要はありません。
なお、申告と納付を行う税務署は、亡くなった人(被相続人といいます)の住所地を管轄していた税務署です。
(3)非課税財産がある
相続税は故人が残した財産に対して課税されますが、一定の種類の財産については相続税の課税対象とはなりません。
相続税の課税対象とならない一定の種類の財産とは、次のようなものをいいます。
- 墓地や仏壇仏具など
- 生命保険金や死亡退職金のうち「500万円×法定相続人数」の金額まで
- 国や地方公共団体などに寄付をした財産
- 交通事故による損害賠償金
これらは、相続税の計算上、上の(1)計算方法でみた「正味の遺産額」に含めないことができます(必然的に相続税の負担を小さくする効果があります)。
関連記事(4)配偶者には特別な税軽減措置がある
故人の配偶者は、ほとんどのケースで相続税が課税されない仕組みとなっています。
これは「相続税の配偶者控除」という税軽減措置が認められているためです。
具体的には「配偶者が実際に相続した正味の遺産額」が次の金額までであれば、配偶者が負担する相続税を0円としてもらうことができます。
- ①法定相続分で遺産分割した場合は、常に相続税がかかりません
- ②法定相続分と異なる割合で遺産分割した場合は、1億6、000万円まで
例えば、遺族として配偶者と子供3人(合計4人)がいて、遺産が4億円あったとしましょう。
もし、法定相続分の通りに遺産分割を行ったとすると、配偶者の取り分は2分の1ですので、4億円×2分の1=2億円ということになります。
この場合、上の①によって配偶者には相続税がかかりません。
一方で、相続人同士の話し合いで、「配偶者2億5、000万円、子供3人にはそれぞれ5、000万円ずつ」というように遺産分割を行ったとします。
この場合には、②によって配偶者にも相続税が課税されることとなります。
なお、相続税の配偶者控除を適用してもらうためには、納税の必要が無くても相続税の申告が必要です。
また、相続税の申告を行う時点までに遺産分割協議が完了している必要があることにも注意しておきましょう。
2、相続税を抑えるために生前にやっておきたい7つの対策とは
相続税の負担を小さくするための節税対策の方法として、代表的なものとして次の7つがあります。
- (1)生前贈与を活用する
- (2)アパート経営など不動産投資をする
- (3)生命保険を活用する
- (4)養子縁組をする
- (5)墓所等の生前購入
- (6)土地の分筆
- (7)小規模宅地等の特例を使う
それぞれの方法の内容や、活用するためのポイントについてくわしく見ていきましょう。
(1)生前贈与を活用する
生前贈与とは、簡単にいえば、財産を所有している人が将来の相続に備えて財産を家族などに分け与えておくことを言います。
相続税は相続発生時点で残されている財産に対して課税されますから、事前に残す財産を少なくしておけば、その分だけ相続税の負担を小さくできるというわけです。
ただし、生前贈与する金額が一定額を超える場合には、生前贈与を行う時点で贈与税を負担する必要があることに注意しておきましょう。
相続税対策として行う場合の生前贈与の方法としては、次のようなものがあります。
- ①暦年贈与
- ②教育資金の贈与
- ③住宅取得資金の贈与
- ④結婚や子育て資金の贈与
- ⑤夫婦間の住宅資金贈与
それぞれの方法について、順番に説明します。
①暦年贈与
暦年贈与とは、その名の通り1年ごとに生前贈与を行う方法で、相続が発生するタイミングまで時間がかなりあるという場合には有効な節税対策となります。
上でも見た通り、生前贈与する財産の金額が「一定額」を超える場合には、贈与税を負担しないといけません。
ここでいう「一定額」とは、1年間で110万円までをいいます。
例えば年間110万円の現金を3名の子供に10年間かけて暦年贈与の形で生前贈与したとすると、100万円×3名×10年間=3、300万円だけ無税で財産を分け与えることができます(相続税もかかりません)。
ただし、相続開始前3年間に行った生前贈与については、遺産の金額に組み戻しをして相続税の計算を行わないといけません。
上のケースで生前贈与を開始して10年後に相続が発生したとすると、生前贈与を行ったトータル10年間のうち、1年目~7年目の分については非課税ですが、8年目~10年目の分については相続税が課税されることになります。
もっとも、次の②~⑤で見る特別な生前贈与の方法を選択した場合には、これらの贈与が相続発生前3年以内に行われたとしても、例外的にみなし相続財産に含める必要はありません。
関連記事 関連記事②教育資金の贈与
30歳未満の子供や孫に対して、学費などの教育資金として財産を贈与した場合は、1、500万円までであれば贈与税が課税されません。
なお、こちらの特例の利用期限は2021年3月31日までです。
③住宅取得資金の贈与
20歳以上の子供や孫が、マイホームを購入するための資金として財産を贈与した場合、最大で3、000万円までは贈与税が課税されません。
非課税となる限度額は実際に購入する住宅の種類によって異なりますので、注意しておきましょう。
④結婚や子育て資金の贈与
20歳以上50歳未満の子供や孫に対して、結婚や子育てに必要な資金を贈与した場合、最大1、000万円までは贈与税を非課税とすることができます。
ただし、こちらは2021年3月31日までです。
⑤夫婦間の住宅資金贈与
20年以上夫婦として連れ添った配偶者が、マイホームを購入するための資金を贈与した場合には、最大で2、000万円が非課税となります。
ただし、配偶者は「相続税の配偶者控除」によって多くのケースで相続税が非課税となりますから、利用メリットがあるケースは限定的といえるでしょう。
関連記事 関連記事 関連記事 関連記事 関連記事 関連記事 関連記事(2)アパート経営など不動産投資をする
財産を現金ではなく、不動産の形で残した場合、相続税の負担が小さくなる可能性があります。
というのも、相続財産に土地や建物といった不動産が含まれている場合、それらの相続税評価額は一般的に時価よりもかなり低くなる仕組みになっているからです。
具体的には、土地については「路線価」という方法で、建物については「固定資産税評価額」で相続税評価額を計算します。
これらはおおまかにいって建築費用の半分程度、不動産時価でいうと7割~8割程度となりますから、不動産以外の形で財産を残した場合と比較して、相続税の負担が小さくなるのです。
(3)生命保険を活用する
生命保険に加入しておくことも、相続税の節税対策としてよく選択されます。
生命保険金として受け取った財産については、次のように非課税枠が個別に設けられているためです。
生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
また、相続発生時に生命保険金を家族に受け取らせるためには、当然ながら保険料を支払う必要があります。
保険料を支払うとその分だけ遺産の金額が減少しますから、こちらも相続税の負担を減らす効果があるといえるでしょう。
なお、生命保険に加入するためには、年齢制限や病気の有無などの条件があることも理解しておく必要があります。
一般的には、死亡保障のある生命保険に加入できるのは満80歳までが相場で、加入時の健康状態、年齢が高いなどリスクが高くなるほど保険料も高くなることを理解しておきましょう。
関連記事(4)養子縁組をする
すでに何度か説明していますが、相続税には次の計算式で計算する「基礎控除」というものがあります。
相続税の基礎控除=3、000万円+600万円+法定相続人数
計算式を見ても明らかなように、法定相続人(子供や孫などの法律上の家族)の数が多くなるほど、相続税の基礎控除は大きくなります。
相続税の基礎控除を計算するときには、養子と実子とは同じように扱われますから、養子縁組をして法定相続人の数を増やすことが、節税対策として選択されることがあるのです。
もっとも、養子縁組は本来、節税対策として用いられるべき性質のものではありませんから、法律上は次のような制限があります。
- すでに実子がいる人の場合は、基礎控除の計算に含められる養子の数は1人まで
- 同様に、実子がいない人の場合は2人まで
なお、養子縁組を行うこと自体には人数の制限はありません。
上のルールは、あくまでも相続税の基礎控除を計算する際の制限ということを理解しておきましょう。
関連記事(5)墓所等の生前購入
故人が生前に購入した墓所や墓石は、非課税財産として相続税が課税されません。
これらの購入は相続税の課税対象となる遺産を減らす効果があります。
(6)土地の分筆
一般的にいって、土地は広ければ広いほど活用の選択肢が多くなりますから、広い土地は相続税の課税対象としての評価額も高くなる傾向があります。
そのため、土地を分筆しておくこと(登記簿上2つ以上に分けておくこと)は、土地の相続税評価額を下げることにつながり、結果として相続税の負担を減らすことにつながります。
例えば、評価額1億円の土地A(100㎡)を、土地B(60㎡)と土地C(40㎡)に分筆したとしましょう。
この場合、単純に計算すれば土地Bの評価額+土地Cの評価額=1億円となりそうですが、実際には1億円よりも小さくなる可能性があるのです。
もっとも、分筆によって相続税の評価額が減ったとしても、土地そのものの財産的な価値が大きく減るような事態になっては、かえって相続人に残す財産としての価値を減じてしまう可能性もあります。
土地や建物といった不動産の相続税対策を検討する場合は、専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
(7)小規模宅地等の特例を使う
故人が自分で済んでいた宅地などについては、相続税の評価額を最大で80%減額してもらえる可能性があります。
これを「小規模宅地等の特例」と呼びます。
特例の対象となる宅地に該当するかどうかや、実際に減額される割合については状況に応じて異なりますから、くわしくは税理士などの専門家にアドバイスを受けるようにしましょう。
関連記事3、死亡後の相続税対策2つ
ここまでは、主に相続が発生する以前のタイミングで選択できる相続税対策の方法を説明してきました。
以下では、相続が発生した後(つまり財産を所有していた人の死亡後)に選択できる相続税対策の方法について見ておきましょう。
(1)不動産の評価額を減額させる
相続する遺産の中に土地や建物といった不動産が含まれる場合、この不動産を一定の基準に従って「評価」することによって、相続税の課税対象としての価値を計算することになります。
土地の評価に当たっては、さまざまな要因が「減点ポイント」として、評価額を下げてもらえる原因となる可能性があります。
当然ながら、遺産としての価値を低く評価してもらうことができれば、相続税の負担額も小さくすることができるでしょう。
例えば、角地になっていて道路に出にくい土地や、正面と裏面の両方に路線が走っているような土地は、特別な評価減が認められることがあるのです。
また、面積1、000㎡を超えるような広大な土地については、「広大地評価」という特別な評価方法を適用することにより、最大で65%の評価減を受けられる可能性があります。
不動産については遺産としての評価額を下げる方法が多くありますので、専門家と相談しながら相続税の負担を減らす方法を模索してみてください。
(2)国等へ寄付する
相続税は、原則として現金で納付する必要がある税金ですから、遺産のほとんどが現金以外の財産である場合には、相続人が自腹を切って相続税を負担せざるを得ないケースもあります。
相続人の生活に余裕があればいいですが、そうでない場合には相続税を納めたくても納めることができない…という状況になることも考えられるでしょう。
このような場合には、相続する財産を国や地方公共団体に寄付してしまうのも一つの選択肢です。
国や地方公共団体、公益目的の事業を行っている団体に相続財産を寄付した場合には、相続税が課税されないという特例があります。
なお、こうした寄付は相続税の申告期間(相続税発生から10か月)以内に行う必要があることに注意しておきましょう。
4、相続税対策は生前に行うことがおすすめ
相続税は、節税対策を行うタイミングが早ければ早いほど、選択できる方法が多くなる税金といえます。
特に、財産を所有している人が生きているうちに行う方が、さまざまな節税方法を選択できることは理解しておいてください。
財産が多くある場合、場合によっては相続人となる遺族に大きな負担を強いることにもなりかねません。
ご自分の相続において、相続税が多く発生する見込みの方は、できるだけ早いタイミングで節税対策を検討するようにしましょう。
まとめ
今回は、相続税対策として選択できるさまざまな方法について解説いたしました。
本文でも見たように、相続税は行うタイミングが早いほど選択できる方法が多くなる税金です。
相続税対策の具体的な方法については、専門の税理士や弁護士に相談することでアドバイスを受けることができますから、ぜひ検討してみてください。
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