相続時精算課税制度とは、どのような制度なのでしょうか。
生前贈与を行うときには、贈与税の控除制度を上手に利用する必要があります。
贈与税が大きく控除される制度としては「相続時精算課税制度」がありますが、この制度は、税金が完全に無税になる制度ではないので、注意が必要です。
- どのようなケースで相続時精算課税制度を利用すべきなのか
- 制度のメリットやデメリット
を正確に理解しておきましょう。
今回は、贈与税控除制度の1つである、相続時精算課税制度について、べリーベスト税理士事務所の税理士が解説していきます。
相続税対策を進めている方のご参考になれば幸いです。
非課税となる贈与税の仕組みについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、相続時精算課税制度とは?
相続時精算課税制度とは、原則的に60歳以上の親や祖父母から、20歳以上の子どもや孫に対して財産を贈与したときに、最大2,500万円までの贈与分にかかる贈与税を無税にする制度です。
贈与対象の財産に特に制限はなく、現金や預貯金でも良いですし、不動産や株券、投資信託、ゴルフ会員権や各種の積立金、車や貴金属など、どのようなものでも制度を適用することができます。
2,500万円については、一回で贈与する必要はありませんし、年数に制限もありません。
同じ人の間であれば、何年にわたって贈与をしても、2,500万円に達するまで、贈与税の控除を受け続けることができます。
相続時精算課税制度の適用を受けるためには、当初に贈与が行われた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の申告をしなければなりません。
そのときに、戸籍謄本などとともに「相続時精算課税選択届出書」を提出する必要がります。
相続時精算課税制度を使った場合、2,500万円を超える贈与をすると、一律で20%の贈与税を課税されます。
また、贈与された財産は、後に相続が発生したときに遺産に足されて、贈与時の時価を基準として相続税が課税されます。
相続税精算課税制度は、無税になる制度ではありません。
2、相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税の計算方法は?
相続時精算課税制度を利用すると、どのくらいの贈与税がかかるのか、見てみましょう。
(1)親が子どもに2,000万円贈与したケース
この場合、贈与した金額が2,500万円以内におさまっているので、贈与税は0円となります。
(2)親が子どもに3,000万円贈与したケース
この場合、2,500万円を500万円分超過しているので、500万円に対する贈与税がかかります。
贈与税の金額は、500万円の20%である100万円です。
(3)祖父母が孫に5,000万円贈与したケース
この場合、2,500万円を2,500万円分超過しているので、2,500万円に対する贈与税がかかります。
贈与税額は、2,500万円の20%である500万円です。
3、相続時精算課税制度は得じゃない?デメリットとは?
上記のように、相続時精算課税制度を利用すると、贈与税が大幅に安くなるので、メリットがありそうにも思えます。しかし、実際には大きな落とし穴があるので、注意が必要です。
以下では、相続時精算課税制度のさまざまなデメリットをご紹介します。
(1)後に相続税が課税される
相続時精算課税制度の最大のデメリットは、相続時において、贈与分が遺産に足されて相続税が課税されることです。
つまり、相続時精算課税制度を利用しても、無税となるのではなく、単に贈与税が相続税に変わり、支払時期が繰り延べられるだけです。
税金の金額的にも、相続時精算課税制度を利用することにより、むしろ支払う金額が大きくなってしまうこともあります。
そこで、相続時精算課税制度は、基本的に節税対策にはあまり向いていません。
明らかに相続財産が相続税の基礎控除に収まる事案であれば、相続税が発生しないので、相続時精算課税制度を利用するメリットがありますが、そうでないケースでは、将来大きな税金が発生するおそれがあるので、安易にこの制度を利用しない方が良いのです。
(2)贈与税の申告が必要となる
相続時精算課税制度を利用するためには、必ず贈与税の申告が必要となり、手間がかかります。
(3)小規模宅地の特例を利用できなくなる
相続時精算課税制度を利用すると、「小規模宅地の特例」という相続財産評価の減額制度を利用できなくなるので、将来の相続税が上がってしまう可能性が高くなります。
以上のようなデメリットがあるため、相続時精算課税制度の利用をお勧めできるケースは、かなり限定されてきます。
4、非課税枠以外の相続時精算課税制度のメリットは?
それでは、相続時精算課税制度には、非課税枠以外にメリットはないのでしょうか?
(1)無税で多額の財産を贈与できる
1つには、まとめて無税で多額の財産を贈与できることがメリットです。
通常の暦年課税を選択すると、年間110万円までしか贈与税が控除されないので、残りの部分には高額な贈与税がかかってしまいますが、相続時精算課税制度なら、2,500万円まで無税になりますので、当面支払うべき税金を大きく減らすことができます。
たとえば、5,000万円の贈与をするとします。
このとき、相続時精算課税制度を適用しなければ、贈与税は以下の通りです。
(5,000万円-110万円)×55%-640万円=2,049万5,000円
ここで、相続時精算課税制度を利用すると、贈与税は以下の通りとなります。
(5,000万円-2,500万円)×20%=500万円
このように、贈与税を大きく減らすことができるので、手元に贈与税の資金となる現金資産がなくても贈与をしやすくなります。
さらに、居住用不動産取得資金の贈与制度と併用すると、最大3,700万円までの贈与分を無税にすることができるので、大変効果的です。
(2)収益物件の贈与に利用しやすい
相続時精算課税制度を利用するならば、収益物件を贈与すると、相続税対策になりやすいです。
相続時精算課税制度によって物件を贈与してしまったら、その後に発生する賃料は、すべて受贈者のものとなるからです。
贈与後にどれだけ受贈者が賃料を受けとったとしても、それは相続財産になりませんし、贈与にもあたりません。受贈者の固有の財産として、増えていきます。
これに対し、もし収益不動産を贈与しなければ、賃料もどんどん遺産に加算されてしまうので、相続税の課税対象資産が増えて、相続税の金額が上がってしまいます。
(3)贈与時に評価額が下がっている財産を贈与すると、税金が安くなる
相続時精算課税制度を利用した場合、後に相続税が課税されますが、このとき、贈与時の時価で財産が評価されます。
そこで、土地や株式などの価格が下がっているときに相続時精算課税制度を使って生前贈与をすると、相続税評価額が下がり、効果的に節税することが可能となります。
(4)相続争いを防止できる
生前贈与の一般的なメリットとして、将来の相続トラブルの予防が挙げられます。
遺産相続トラブルの大部分は、遺産分割協議時に起こるからです。
あらかじめ生前贈与をしておけば、贈与対象資産は相続財産から外れますので、遺産分割協議をする必要がなくなります。
ただし、生前贈与をすると「特別受益」と評価されて、それが相続トラブルの種になることもあるので、生前贈与するなら、遺言書内で「特別受益の持ち戻し免除」の手続きをしておくことをお勧めします。
(5)自分の希望する人の財産を継がせることができる
相続時精算課税制度には限られませんが、一般的に生前贈与をすると、確実に自分が望む人に遺産を受け継がせることができる点もメリットです。
5、相続時精算課税制度は暦年贈与と選択制
相続時精算課税制度を利用するとき、もう一点注意しておかなければならないことがあります。
それは、相続時精算課税を選択すると、通常の贈与税の基礎控除が適用されなくなることです。
贈与税の基礎控除とは、毎年110万円までの贈与税非課税枠のことです。
一般的に生前贈与によって税金対策を行うときには、この贈与税の基礎控除枠を使って、毎年少しずつ贈与を重ねていくことにより、相続税の課税対象資産を減らしていくことが多いものです。
ところが相続時精算課税制度と暦年贈与は選択制となっているので、いったん相続時精算課税制度を利用すると、暦年贈与はできなくなります。
後になって「やっぱり暦年贈与を適用して下さい」ということは認められないのです。
後日、「やっぱり少額ずつ贈与をして、相続税を節税したい」と考えても後の祭りですから、相続時精算課税制度を利用するならば、その相続人との間では、将来にわたって暦年課税制度を利用しないことを前提にする必要があります。
6、相続時精算課税制度を選択すべき場合とは?
以上を前提に、相続時精算課税制度を選択すべきケースとは、どのような場合なのか、考えてみましょう。
(1)相続財産が基礎控除の範囲内
まず、文句なしにお勧めできるケースは、相続財産(贈与分を含む)が基礎控除の範囲内に収まる場合です。
この場合、相続時精算課税制度を利用しても、後日相続税が課税されることがありません。
そこで、贈与税だけを無税にしてもらうことができて、非常にメリットが大きくなります。
(2)収益物件を贈与する
2つ目は、メリットの項目で説明をしたように、収益物件を贈与する方法です。
たしかにこの場合、将来相続税がかかる可能性はありますが、将来にわたって発生する賃料を無税にすることができるメリットが大きいです。
贈与者が若くて元気な場合には、死亡するまでに発生する賃料も多額になるでしょうから、この方法による節税効果が高くなりやすいです。
(3)贈与時に評価額が下がっている資産を贈与する
3つ目は、贈与時に評価額が下がっている資産を贈与する方法です。
たとえば、不動産や株式などが一時的に非常に下がったタイミングで贈与してしまうと、後の相続税評価額も低くなるので、節税対策になります。
たとえば、同族会社の株式の評価などは、経営者への退職金支給などである程度下げることができる(コントロールできる)ので、そういったタイミングで後継者に贈与してしまうと、高い節税効果を生むことがあります。
まとめ
今回は、相続時精算課税制度を利用した節税方法について解説しました。
この制度は完全に無税になるものではないので、どのようなケースでもお勧めできるものではありませんが、賢く使うと効果的な節税につながります。
今後の相続対策の参考にしてみてください。