
内縁関係のカップルは、内縁の配偶者の財産を相続できるのか知りたいところでしょう。
内縁関係は婚姻している夫婦とは違い、権利や義務が違います。
ここでは、
- 内縁の夫(妻)が残した財産を相続する方法
をご紹介します。
気になる相続権や居住権についての疑問を解決していきましょう。
目次
1、法律からみる内縁関係とは
そもそも内縁関係とは、法律上どんな関係のことを指しているのでしょうか。
(1)事実上夫婦のように生活している男女
内縁関係とは、婚姻をしていない男女が生活を共にし、事実上夫婦のように生活していることを指しています。
何らかの事情をもって婚姻関係にならないカップルのことです。
(2)愛人との違い-一方もしくは双方が他の人と婚姻関係にあるかないか
内縁関係と混同しやすいのが愛人です。
しかし愛人とは違う関係です。
その違いは、一方もしくは双方が他の人と婚姻しているかどうか。
内縁関係は、どちらも他の人と婚姻関係にはないことを条件とします。
一方愛人は、一方もしくは双方が他の人と婚姻関係にある関係をいいます。
(3)重婚的内縁
一方もしくは双方が他の人と婚姻関係にあったとしても、それら他の人との婚姻関係は破綻しているというケースはどうなるのでしょうか。
これを「重婚的内縁」といって、いわゆる内縁関係と認められるケースもない訳ではありません。
しかし、法律上の婚姻関係にある相手方も関わってきますので、内縁関係と認められるにはハードルが高いといえるでしょう。
2、内縁関係における権利義務
内縁関係は法律でも保護されており、権利義務関係はは次のように整理されます。
(1)婚姻関係にある夫婦と同じように与えられている権利義務
内縁関係であっても夫婦同様に認められる権利と義務が存在します。
見ていきましょう。
①貞操義務
婚姻関係と同様にお互いの貞操を守ります。
不貞行為は認められません。
②同居・協力・扶助の義務(民法752条)
内縁関係であっても、同居し、互いに協力し、助け合わなければいけません。
③婚姻費用分担の義務(民法760条)
内縁関係でも生活に必要なお金は分担する義務があります。
④日常家事の連帯責任の義務(民法761条)
日常の家事は連帯責任で行います。
⑤帰属不明財産の共有推定(民法762条)
婚姻前の財産や個人名で得た財産は内縁関係夫婦一方の財産です。
しかし、内縁関係で得たどちらの財産かわからない財産は、共有財産と推定します。
⑥財産分与(民法768条)
内縁関係を解消する際には、財産分与を行える権利があります。
⑦嫡出の推定(民法772条2項)
内縁関係中に生まれた子どもは内縁の夫の子どもだと推定します。
その他内縁関係の特別法でも婚姻関係と同様にみなされる権利と義務があります。
⑧遺族補償年金を受ける者としての配偶者の権利
遺族補償年金は内縁の配偶者でも受け取ることができます。
⑨労働災害の遺族補償を受ける労働者の配偶者の権利
労働災害の労災保険は内縁の配偶者でも受け取ることができます。
⑩退職手当を受ける者としての配偶者の権利
死亡退職金は内縁の配偶者でも受け取る権利があります。
(2)内縁関係では認められていない権利義務
一方で婚姻関係では認められている義務や権利でも内縁関係には認められていない権利や義務もありますので、確認しておきましょう。
①夫婦の同姓(民法750条)
内縁関係の夫婦は別姓となり、同姓にはなりません。
②成年擬制(民法753条)
婚姻によって未成年者は成人の権利を得られますが、内縁関係ではその権利は得られません。
③準正(民法789条)
非嫡出子が父母の婚姻によって嫡出子になる法律です。
この場合、内縁関係になる前に非嫡出子がいたとしても内縁関係になったからといって嫡出子にはできないことになります。
④配偶者の相続権(民法890条※ただし958条の3)
婚姻関係の夫婦では配偶者の相続権がありますが、内縁関係の配偶者に相続権はありません。
正式な婚姻関係と内縁関係において、これが決定的な違いといっても過言ではないでしょう。
3、基本的に内縁の妻(夫)には相続権がない
基本的に日本の法律では内縁関係の夫婦には、相手の財産についての相続権がありません。
例え何十年連れ添っていたとしても同様です。
挙式をしていたとしても相続権は認められないのです。
法的な婚姻関係でない限りは内縁関係の相続は認められていません。
相続人には婚姻関係の配偶者が常に相続すると民法890条で定められています。
優先順位は被相続人の子ども(孫)と配偶者、次いで両親と配偶者さらには兄弟と配偶者です。
4、内縁関係でも相続する方法はある
では、内縁関係の夫婦には遺産などを相続する権利がないため、相続することは不可能なのかというとそうではありません。
法的に正当に被相続人の財産を受け取る手段もあります。
(1)特別縁故者の申立をする
内縁関係の配偶者が相続するためには、家庭裁判所に特別縁故者の申立てを行いましょう。
民法958条の3によると、被相続人と生計を同じくしていた者や療養看護に努めた者、その他被相続人と特別な縁故のあった者を相続人と認めてその財産の全部または一部を相続できると定めています。
内縁の配偶者は「被相続人と生計を同じくしていた者」に該当するためこの法律で救済されることになるでしょう。
ただし、この法律は、他に相続人がいなかった場合に限り有効です。
さらには、必ずしも縁故者と認められるものではないので注意してください。
内縁関係だったからといって、この法律で救済されるとは限りません。
仮に縁故者に認められても、相続までに時間がかかることと財産の一部しか認められない可能性を考えるとあまり有効ではないともいえるでしょう。
そして、被相続人に子どもや両親、兄弟がいた場合には、内縁の配偶者は相続することができません。
ただし、この法律で内縁関係ではなく愛人だったとしても、配偶者が不在で相続する者がいない場合には特別縁故者になれる可能性があります。
(2)遺言書に相続させる旨を記載してもらう
特別縁故者の申立てを行うよりも確実な方法は遺言書に「遺産を内縁の妻に譲る」などと書いてもらう方法です。
その際には遺留分を省いた財産を譲ると書いてもらうようにしてください。
遺留分とは、法定相続人がいた場合に生活に必要な最低限度の財産を確保する法律です。
被相続人の財産をあてにして生きてきた人を守るための法律。
もしも「内縁の妻に全財産を譲る」と遺言書に記載してあった場合には、遺留分権利者が、「遺留分減殺請求」を行うかもしれません。
そうなった場合には、内縁者と法定相続人との間で揉めごとが発生する恐れがあります。
法定相続人と被相続人との間で事前に遺産相続について相談しておけるといいでしょう。
(3)賃借権は無条件で相続できる|居住権について
内縁関係の配偶者が唯一相続できるのが賃借権です。
賃貸借契約によって得られる借主の権利のこと。
例え内縁の夫がアパートなどを借りる契約をしていたとしても、内縁の夫が死亡後に内縁の妻が住み続けることができる権利です。
内縁の夫が死亡したからといって、すぐさま住んでいた家を追い出されることはありませんから安心してください。
ただし、それはあくまでも賃貸住まいの話。
所有しているマンションや一軒家などの不動産は遺産の一部にあたるでしょう。
そのため、内縁の妻は、遺産相続人から不動産を明け渡すように請求された場合には、法的には明け渡さなければいけません。
とはいえ、これまで内縁関係で長く住んでいた住まいをすぐさま明け渡すのは難しいことでしょう。
これまでの判例では、「所有者の明渡請求が権利の乱用にあたる」とする判決が出るケースもあります。
もしも、遺産相続について遺言などに明確に示されていなかった場合には、信頼できる弁護士に相談してみるといいでしょう。
内縁関係の妻にとって有利になるように導いてくれます。
(4)婚姻関係を結ぶ
そもそも内縁関係を断ち切り、婚姻関係を結ぶことも一つの手段です。
配偶者が離婚経験者だった場合などには婚姻関係にためらいを感じ、内縁関係を長らく続けていたケースも多いでしょう。
しかし、遺産相続を考えた場合には内縁関係よりも婚姻関係の方がずっとスムーズで有利です。
今からでも婚姻関係を結ぶことを内縁の夫婦で検討してみてはいかがでしょうか。
5、遺言書の作成以外で生前にできる内縁妻(夫)の相続対策
生前に遺産相続についてできるだけ内縁関係の配偶者と相談できるといいかもしれません。
生前にできる相続対策について見ていきましょう。
(1)生前贈与
生前贈与であらかじめ生きている間に内縁の妻に遺産を残す手段もあります。
ただし、年間に110万円を超えてしまうと贈与税がかかってしまいます。
また、亡くなる前3年間に贈られた贈与は相続税の課税対象になってしまいます。
注意したいポイントです。
(2)生命保険の受取人指定
生命保険の受取人を内縁関係の配偶者に指定しておく手段もあります。
保険は遺産分割の対象にはなりません。
そのため、あらかじめ保険の受取人に指定してもらえば法定相続人との揉めごとにも発展しないでしょう。
ただし、保険は相続税の課税対象です。
その点を理解した上で処理するようにしてください。
6、内縁者の相続について悩んだときは
このように内縁関係の夫婦の相続は難しいことばかりです。
また、婚姻関係の夫婦とは違い認められない権利や義務もたくさんあります。
遺産相続に困ったことがあるなら、弁護士を頼ってみてください。
法的な根拠を元に適切な解決方法を提案してもらえるでしょう。
面倒な手続きも代行してくれるため、精神的な負担も少なくて済みます。
関連記事まとめ
内縁関係の配偶者が財産を相続するためには、遺言書を残してもらう方法が確実です。
もしくは生前贈与などであらかじめ対策を講じておきましょう。
内縁関係といえども長らく生計を共にしてきたはず。
財産を相続したいと感じたとしても不思議はありません。
一緒に暮らした住まいを手放したくないのは当然です。
できるだけ生前にカップル間で相談し後々困らないようにしてください。
困った場合には迷わずに知識豊富な弁護士に相談するといいでしょう。