深夜残業をさせられているのに、残業代をもらえていないケースは結構多いものです。
そもそも、深夜残業は違法なのでしょうか?
また、深夜残業をしたときに、割増賃金がもらえるのか、具体的にどのくらいの金額を請求できるのかという点も、押さえておく必要があります。
今回は、
- そもそも深夜残業は違法ではないのか?
- 深夜残業を減らす方法
- 深夜残業をしている場合の残業代の計算方法
など、深夜残業をさせられている場合に知っておきたい8つのことを、ご紹介します。
また、残業代がもらえないかも…?とお悩みの方は以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、深夜残業は労働基準法に反している?
そもそも、深夜残業は違法なのでしょうか?
結論的に言うと、一定の場合には、深夜残業が違法となることがあります。
法定の労働時間を超えて深夜残業が許される一つの事由は、会社と労働組合等が「36協定」という協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出た場合です。
そこで、36協定なしに深夜残業させていたら、違法です。
また、36協定を締結しているとしても、週15時間、月に45時間等の延長限度時間を超えて残業をさせると、やはり違法です。
ただし、36協定が「特別条項付き36協定」になっている場合には、上記の延長限度時間を延長することが認められる場合があります。
以上のように、36協定を締結していなかったり、36協定を締結していても上限を超えて働かせていたりすると違法となる可能性があります。
これとは別に、18歳未満の労働者や妊産婦については、深夜に働かせることについて禁止・制限されていますので、かかる規制に反した場合には違法となります。
2、深夜残業を減らす方法は?
深夜残業が辛い場合、どのようにすれば残業を減らすことができるのでしょうか?
(1)合法性を確認する
まずは、自社で行われている深夜残業が適法か、検討しましょう。
36協定が締結されていなかったり残業時間が長すぎたりする場合には、違法性を指摘して、会社に残業を控えさせることができる可能性があります。
もし、そもそも深夜残業が違法なのであれば、労働基準監督署に申告することにより、会社が是正する可能性もあります。
(2)ご自身の働き方を点検してみる
合法的に深夜残業が行われている場合には、なぜ深夜残業が多くなっているのか、考えてみましょう。
ひょっとしたら、ご自身の取組みで深夜残業を減らせることがあるかもしれません。
もしも、効率よく仕事ができていないのであれば、業務への取り組み方を改善するのも1つの方法です。
他にも、朝型に切り替えてみたり、1日の始めにその日のスケジュールを立ててみたり、退社後の予定を事前に入れてみたり、といった取組みにより深夜残業を減らせることもあるのではないでしょうか。
3、そもそも深夜残業とは?
次に、まず深夜労働とは、いつ働くケースなのか、確認しておきましょう。
一般的に、深夜労働というと、午前0時以降のようなイメージもありますが、法律上の定義はこれと異なります。
深夜労働とは、午後10時から翌午前5時の間の労働を言います。
そのため、1日8時間を超えて、午後10時~午前5時に働いた時間が、いわゆる深夜残業となります。
4、もし残業代を会社に請求したいなら!そもそも残業代の計算方法は?
深夜残業をした場合、どのくらいの残業代を請求することができるのでしょうか?
まずはその前提として、一般的な残業代の計算方法をご説明します。
(1)まずは1時間あたりの賃金を計算する
残業代を計算するときには、まずは1時間あたりの賃金を計算しなければなりません。
そのためには、以下の計算式を使います
1時間あたりの賃金=月給÷1か月の平均所定労働時間
そして1か月の平均所定労働時間は、以下の計算式を使って計算します。
(365日-年間所定休日数 )×(1日の所定労働時間数)÷12(か月)
(2)残業時間を計算する
このようにして1時間あたりの賃金を計算したら、次に残業時間を計算します。
労働基準法上の時間外労働は、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えたものを言います。
所定労働時間を超えているけれども法定労働時間内の残業の場合には、就業規則等で特段の定めがなければ、割増賃金は適用されず、通常の賃金が支払われます。
これに対し、法定労働時間数を超えて働いた残業時間には、「割増賃金」が適用されるので、基本の賃金額より多額になります。
便宜上、法定労働時間を超えた労働については、法定時間外労働、法定労働時間内の残業を「法内残業」と呼びます。それぞれの残業の残業代の計算方法は以下の通りです。
①法内残業の残業代計算式
就業規則等において労働基準法より有利な割増率が定められていない場合の法内残業についての残業代計算式は、以下の通りです。
法内残業の残業代=1時間あたりの賃金×法内残業の時間数
②法定時間外労働の残業代計算式
法定時間外労働の残業代計算式は、以下の通りです。
法定時間外労働の残業代=1時間あたりの賃金×法定時間外労働の時間数×割増賃金率(1.25倍以上)
さらに、詳しくは「5、深夜残業がある場合の残業代の計算方法は?」で解説しますが、深夜残業も異なる割増率の残業代が発生します。
③深夜残業の残業代計算式
深夜残業の場合には法定時間外労働の割増率に加えて、さらに0.25倍以上の割増率が加算されます。
例えば、所定労働時間が午前9時から午後5時まで(便宜上、ここでは休憩時間は無視します)の会社で、午前9時から翌午前5時まで働いた場合は以下の図のようになります。
深夜残業の残業代=1時間あたりの賃金×深夜残業の時間数×割増賃金率(1.50倍以上)
④法定休日労働の残業代計算方法
より詳しい計算方法は割愛しますが、法定休日労働にも残業代が発生します。
法定休日労働の残業代=1時間あたりの賃金×法定休日労働の時間数×割増賃金率(1.35倍以上)
例えば、法定休日に午前9時から午前0時まで働いた場合、以下の図のようになります。
※法定休日労働かつ深夜労働の場合割増率は1.6倍以上
以上の計算方法にしたがって、残業代は算出されます。
5、深夜残業がある場合の残業代の計算方法は?
それでは、深夜残業をした場合、どのくらいの残業代を請求できるのでしょうか?
深夜残業に適用される「割増賃金率」を見てみましょう。
深夜残業の割増賃金率は「法定時間外労働に適用される割増賃金率」と「深夜労働の割増賃金率」を足したものとなります。
原則として、法定労働時間(1日8時間、1週間に40時間)を超えて働いた場合、0.25倍の割増率を加算して計算します。
そして、午後10時~午前5時までの深夜に労働した場合(深夜労働の場合)、やはり0.25倍の割増率が加算されます。
そこで、深夜残業をした場合には、1.5(1+0.25+0.25)倍の割増賃金を請求することが可能となります。
たとえば、1時間あたりの賃金が3,000円の方が3時間深夜残業をしたら、3,000円×3×1.5=13,500円の残業代を請求することが認められます。
毎日のように深夜残業を繰り返している方の場合、すべての深夜残業分に1.5倍の割増賃金を適用して未払い残業代を計算すると、かなり多額になるケースもあります。
6、残業代請求にあたり必要な証拠は?
残業代を請求するためには、「証拠」を揃えることが重要です。
証拠がないと、会社側が残業を否定したりして、支払いに応じない可能性があるためです。
以下では、残業代請求に必要な証拠を例示します。
(1)1日当たりの賃金を計算するための資料
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 給与明細書
(2)残業時間を証明するための資料
- タイムカード、管理ソフト、オフィスビルに入退館する際に使うIDカードにもとづく労働時間のデータ
- 業務日報
- 上司から受け取った残業指示するメールやメモ
- 店舗の営業時間を示す資料(ホームページや採用広告等)
- 交通ICカード、タクシー代の領収証
- 手帳
上記以外にも、職種や状況によって証拠にできるものがあります。
もしも自分で証拠の集め方が分からないのであれば、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
また、残業代請求に必要な証拠については、「未払い残業代請求のために必要な証拠について知っておくべき7つのこと」において詳しく説明しておりますので、ご参照下さい。
7、残業代請求の手順
次に、残業代請求の手順をご紹介します。
(1)内容証明郵便で請求する
まずは残業代を計算して、内容証明郵便で未払い残業代の請求書を送付することを検討しましょう。
内容証明郵便を利用し、支払を催告すれば、請求したことを明らかにすることができますし、時効の完成を6ヶ月間先延ばしにする効力もあります。
また、相手にプレッシャーをかけることもできるので、請求を受けた企業が真剣に支払いを検討する可能性が高くなります。
内容証明郵便を送ったら、会社と交渉をして、残業代の返還方法を決定しましょう。
(2)労働審判を利用する
内容証明郵便を送っても会社が残業代請求に応じない場合には、労働審判の利用を検討しましょう。
労働審判とは、裁判所において、労働者個々人と使用者の労働トラブルを解決するための制度です。
労働審判では、労働審判員が関与して、話合いや審判によって問題の解決を目指され、原則として3回以内の期日で審理を終結するため、通常裁判よりも短い期間で済みます。
(3)訴訟を提起する
訴訟を提起して、未払い残業代を請求することもできます。
労働審判を経由することもありますが、労働審判を経ずに訴訟を提起することも可能です。
労働訴訟は、通常かなり長い時間がかかりますし、手続きが複雑なので弁護士に依頼しないと不利になる可能性がありますが、判決が確定すれば事件の終局的解決を図れます。
以上、残業代請求の手順について、「残業代が未払いになったら! 残業代請求の全手順」の記事をご参照下さい。
8、深夜残業代で注意すべき疑問集!
最後に、深夜残業代に関するQ&Aをご紹介します。
(1)みなし残業の場合でも深夜残業代をもらえるのか?
残業代を請求しようとすると「うちはみなし残業として既に基本給に組み入れているので、残業代は発生しない」と言われることがあります。
しかし、みなし残業代を基本給に含める旨の合意の有効性が争われた小里機材事件(最判昭63.7.14)において、最高裁は、法定時間外労働に対する賃金と、通常の労働時間に対する賃金が明確に区別されて合意され、かつ労働基準法所定の計算額がみなし残業代を上回るときは、その差額を支払うと合意されている場合のみ有効とした原審の判断を是認しました。
そもそもみなし残業代が無効なら全額の深夜残業代を請求できますし、みなし残業代が有効であっても、それを超える部分については割増賃金を請求することができます。
(2)仮眠時間は深夜残業に入るのか?
深夜残業する方の中には、仮眠を取る方も多いでしょう。
そのような場合、仮眠時間も残業時間に入れることができるケースがあります。
それは、仮眠時間であっても、使用者の指揮監督下にあるときです。
たとえば、仮眠していても外出は認められず、異常があったらすぐ対応することが義務付けられている場合等は、休憩時間にはならないので、残業時間に入ります。
このようなケースでは、完全に労働から開放されているとは言えないので、残業時間としてカウントできる可能性があります。
(3)女性は深夜残業させられないのか?
女性の深夜労働は禁じられていると思われていることがあります。
確かに以前はそういった規制がありましたが、今は撤廃されていますので、女性でも男性と同じように深夜残業できますし、企業がそう指示する可能性もあります。
ただし、妊産婦の場合、時間外・休日・深夜労働を断ることができますので、企業が残業を強要することは許されません。
まとめ
以上のように、一定の場合、深夜残業は違法ではありませんが、深夜残業をした場合、1.5倍以上の割増賃金を請求することができます。適正に支払われていない企業も多いので、お心当たりのある方は、一度確認してみましょう。
残業代請求をするとき、弁護士に依頼すれば複雑な残業代の計算をしてもらえますし、専門知識に基づいて請求手続を進めることができるので、労働問題を得意とする弁護士に相談することをお勧めします。