赤い本とは?交通事故賠償の基本について詳しく解説

赤い本

 交通事故における「赤い本」をご存知でしょうか?

この記事では、交通事故に携わる裁判官・弁護士必携の「赤い本」について詳しく解説していきます。

また、「赤い本」の解説を通じて、交通事故賠償の基本的な考え方や知識についても解説していきます。

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 1、「赤い本」とは?

「赤い本」とは?

交通事故に関する相談で弁護士事務所や法律相談センターに訪れると、必ずといっていいほど目にするのが赤い表紙をした「赤い本」と呼ばれる書籍です。

ここでは、「赤い本」とはどういった書籍で、どういったことが書かれているかについて簡単に説明します。

(1)「赤い本」は裁判官・弁護士必携の書籍

「赤い本」は、正式には「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という雑誌で、交通事故事件に携わる裁判官・弁護士必携の書籍です。

なぜ必携かというと、「損害賠償額算定基準」とあるように、「赤い本」に書かれている内容が、交通事故事件における損害賠償額を計算する際の「基準」となるからです。

実際、交通事故事件の損害賠償実務では、「赤い本」に     準拠して損害賠償金額が算定され、よほどの事情がない限り、そのようにして算定された損害賠償金額の支払がなされています。

(2)「赤い本」に書かれていること

①加害者に対して請求できる損害項目と裁判例

交通事故の損害賠償では、「損害積み上げ方式」という方法により損害賠償金を算定します。

「損害積み上げ方式」とは、治療費、休業損害、慰謝料といった加害者に対して請求できる損害ごと(損害項目)の金額を積み上げることによって、最終的に加害者に対して請求できる金額の総額を算定する方法です。

したがって、加害者に対して、どういった損害項目を請求できるか、という点が重要です。

「赤い本」には、加害者に対して請求できる損害項目が網羅されており、これを参考にしながら、具体的な事案ごとに損害項目ごとの金額と最終的な総額を算定し、加害者に対して請求することになります。

また、「赤い本」には、損害項目ごとの裁判例が広く掲載されています。

そこで、交通事故事件の弁護士は、それらの裁判例を参考にしながら、依頼者の請求が裁判において認められる可能性について検討します。

また、交通事故事件を担当する裁判官は、過去の裁判例を参考にしながら、具体的な事案ごとの適正妥当な損害賠償金額を算定します。

②慰謝料の「相場」

交通事故の損害賠償における慰謝料とは、大きく、通院慰謝料と後遺障害慰謝料に分けられます。

通院慰謝料とは、交通事故により通院や入院を余儀なくされたことによる精神的苦痛を補うための金銭的な補償です。

また、後遺障害慰謝料とは、交通事故により後遺障害が残った場合に、その精神的苦痛を補うための金銭的な補償です。

「赤い本」では、通院慰謝料について通院・入院期間によって慰謝料が算出できる表が掲載されており、裁判になった場合には、基本的に、この表によって算出された通院慰謝料が     基準となります。

また、後遺障害が残存した場合、その程度によって、自賠責保険会社において「等級」の認定がされます。「等級」は最も重いものが1級(たとえば寝たきり等)、最も軽いものが14級(むちうち等)とされ、後遺障害の程度に応じて14段階で認定されます。

「赤い本」には、後遺障害の「等級」ごとの慰謝料額が記載されています。

たとえば、後遺障害14級の場合には110万円、後遺障害12級の場合には290万円といった形で記載されています。なお、後遺障害の「等級」が認定されないケースもありその場合には後遺障害慰謝料は0円とされています。

2、「赤い本」を買うことはできる?

「赤い本」を買うことはできる?

弁護士や裁判官などの法曹関係者でなくても「赤い本」は買えるのでしょうか?

「赤い本」を買う方法、購入にあたっての注意点などについて説明します。

(1)「赤い本」の購入方法

「赤い本」は、「公益社団法人 日弁連交通事故相談センター」という公益社団法人が発行している書籍で、法曹関係者以外の方も購入することが可能です。

もっとも、一般の書店では販売しておらず、

  • 東京弁護士会の弁護士会館3階の日弁連交通事故相談センター東京支部霞が関相談所において購入する
  • FAXで購入申し込みを行い、郵送してもらう

などの方法になります。

(2)購入にあたっての注意点

①「赤い本」を読むだけで損害賠償金を算定できるわけではない

「赤い本」は、基本的に、交通事故事件に携わる弁護士や裁判官などの法曹関係者に向けての書籍です。

「赤い本」には、交通事故の損害賠償における損害項目や、損害項目ごとの裁判例が掲載されていますが、具体的な事案で、何を請求することができ、また、過去の裁判例と具体的な事案とを比較して、その請求が認められる見込みがどの程度あるかといった検討は、交通事故訴訟の経験が必要で、交通事故訴訟の経験がない一般の方には理解が難しいところがあります。

そのため、「赤い本」を読めば具体的な事案での損害賠償金額が算定できる、と思って購入することには注意が必要です。

②上下巻のセット販売になっている

「赤い本」は、上下巻セットでの販売となっています。

「赤い本」の上巻には、損害項目の説明、損害項目ごとの裁判例、慰謝料の相場など、一般の人にとっても、ある程度有益な情報が掲載されています。

他方で、「赤い本」の下巻は、裁判官の講演録が掲載されており、交通事故事件における先端的な議論が展開されています。

下巻の内容は、完全に法曹関係者向けの内容ですし、特定の争点についての議論であるため、購入を希望する方が知りたいと考えている内容が掲載されているとも限りません。

そのため、ある意味「不要」となってしまう可能性が高い下巻もセットで購入する必要があるという点は、注意が必要です。

3、「赤い本」はどうやって使うの?

3、「赤い本」はどうやって使うの?

交通事故の損害賠償金はどのように算定するのでしょうか?

ここでは、交通事故の損害賠償金の算定方法、「赤い本」に書かれている具体的な内容、「赤い本」を使って実際に損害賠償金を算定することができるか?について説明します。

(1)「赤い本」による損害賠償金の計算方法

①加害者に対して請求できる損害賠償金の計算方法

加害者に対して請求できる損害賠償金は、交通事故によって被った損害ごと(損害項目)の金額を積み上げていく方法により算定するとされており、「赤い本」には、加害者に対して請求できる損害項目が網羅的に掲載されています。

たとえば、交通事故によって、1か月通院し、その期間中、通院のために会社を休むことがあり、後遺障害については認定されなかった(非該当)というケースを考えてみます。治療費は21万円、会社を休んだことにより10万円給料が下がったとします。また、治療期間は適正であったとします。

「赤い本」によると、このケースの場合、通院のためにかかった治療費を治療関係費、会社を休んだことによる減給分を休業損害、通院1か月に相当する慰謝料を通院慰謝料として加害者に対して請求することができるとされています。

「赤い本」によると、後遺障害がない場合の1か月の通院慰謝料は19万円ですから、治療費21万円+休業損害10万円+通院慰謝料19万円=50万円が、加害者に対して請求できる金額となります。

②損害賠償金が減額される事情による減額

もっとも、上のケースで、治療費は加害者が加入する任意保険会社が負担しており、また、被害者の過失が1割であったとします。

この通院中の治療費等を加害者が加入する任意保険会社が負担することを「一括対応」あるいは単に「一括」と実務上呼ぶことがあります。具体的には、加害者側の任意保険会社が病院に直接治療費を支払い、被害者の窓口負担は0となります。「一括」自体は、比較的よくある対応です。

「赤い本」によると、この場合、加害者側の任意保険会社から支払われた治療関係費は、被害者が損害金の支払いをすでに受けたものと考えて損害賠償金から控除するとされています。

また、被害者側にも過失がある場合、損害賠償金がその分減額するとされ、これを「過失相殺」とよびます。

ここで、加害者側による損害賠償金の支払と(既払金)、過失相殺とをどちらを先にするか、という問題があります。

たとえば、上のケースで過失相殺を先にすると、50万円×0.9(過失1割分を減額)-21万円(既払金)=24万円となります。

他方、既払金を先に控除すると、(50万円-21万円)×0.9=26万1000円となります。

この結果をみると、既払金を先に控除する方が被害者にとっては有利です。

しかし、「赤い本」によると、過失相殺を行ってから既払金を控除すべきとされているため、上のケースでは前者の24万円が、加害者に対して請求できる金額となります。

(2)加害者に対して請求できる損害項目の具体的な内容

「赤い本」において、加害者に対して請求できるとされている損害項目、損害項目ごとの内容を具体的にみていくと、次のようになります。

①積極損害

まず、積極損害として、

  • 治療関係費
  • 付添費用
  • 将来介護費
  • 雑費
  • 通院交通費
  • 宿泊費
  • 装具、器具購入費
  • 家屋、自動車改造費
  • 葬儀関係費用

等があります。

交通事故による損害は、大きく積極損害と消極損害と分けられます。

大まかにいえば、積極損害とは、     「交通事故により実際に支出を余儀なくされた損害」のことです。他方、消極損害とは、     「交通事故がなければ得られていたはずの金額」のことをいいます。

治療関係費、通院交通費、葬儀関係費などは、比較的、積極損害としてイメージがしやすいものです。
たとえば治療のために支出した治療関係費、治療のために病院に通院するために支出した通院交通費、被害者が亡くなってしまったために葬儀に要した費用については、必要かつ相当な範囲で、実際に支出した金額をベースに損害として認められます。

装具・器具購入費、将来介護費、家屋・自動車改造費等はイメージしにくいものですが、重度の後遺障害を負った場合には、たとえば義足を要したり、将来にわたっての介護を要したり、介護のために家屋を改造する必要が生じることがあります。

この場合の義足の費用装具費、将来の介護費用が将来介護費、介護のために家屋を改造するための費用が家屋改造費等についても、必要かつ相当な範囲で、実際に支出した金額あるいは実際に支出すると認められる金額をベースに損害として認められるとされています。

②休業損害

ア サラリーマンの場合

休業損害とは、いわゆるサラリーマンの場合には、事故前の収入を基礎として交通事故のために休業したことによる現実の収入減をいいます。
有給を取得したために実際の減収がなかった場合にも認められます。

「赤い本」では、更に、事故後、昇給が予定されていたケースにおける収入の認定に関する裁判例や、必要な休業期間に関する裁判例等が掲載されています。

イ 自営業者の場合

自営業者の場合にも、現実の収入減があった場合に休業損害が認められるとされます。
また、自営業者の場合、休業をしている期間中、事業の維持・継続のために必要な固定費(家賃・従業員給料等)が無駄になってしまうことから、このような「無駄になった」固定費についても、休業損害に含まれるとされています。

自営業者の場合、基本的には源泉徴収票があるサラリーマンと異なり、事故前の収入の認定が困難なケースが多々あります。
また、「無駄になった」固定費といっても、何がそれに該当するのか判断が難しいものがあります。

そのため、「赤い本」には、自営業者の収入の認定に関する裁判例や、固定費に関する裁判例等が数多く掲載されています。

ウ 会社役員の場合

会社役員の場合、報酬のうち労務対価分に関する減収については休業損害として認められる傾向にある一方で、利益配当の実質をもつ部分は消極的であるとされます。

従業員の場合、「ノーワーク・ノーペイ」の原則により、労務の提供をしなければ給料が減収するという関係にあります。
そのため、交通事故により会社を休業し、給料が減った場合には、その収入減を休業損害ととらえることができます。

他方、会社役員の場合には、役員報酬の中に「労務提供分」と「利益配当分」の性質が混在していることが通常です。
そのため、会社役員が事故により休業し、それにより減収が生じたとしても、それが労務を提供しなかったことによる損害であるのか、単に利益配当の性質をもつ報酬が減額されたのかにすぎないのか、という点は判断が難しいものです。

そこで、「赤い本」には、この点に関する裁判例が数多く掲載されています。

エ 主婦・無職者・学生の場合

主婦・無職者・学生の場合、実際に収入を得ていないことが通常であるため、事故前の収入の認定が困難です。

もっとも、主婦の場合には、実際には収入を得ていないものの、いわゆる「主婦業」として潜在的な収入が観念できます。    

そこで、「赤い本」には、主婦の収入に関する裁判例が掲載されており、基本的には、賃金センサスという平均賃金に関する統計資料をもとに、収入を認定すべきとされています。

また、無職者・学生であっても、無職者の場合には収入を得る蓋然性(可能性よりももう少し程度が高い概念です)がある場合や、学生の場合にはアルバイトなどで収入を得ている場合には、休業損害が認められるとされています。

そこで、「赤い本」には、無職者・学生で休業損害が認められたケースなどに関する裁判例が掲載されています。

③後遺症による逸失利益

後遺障害による逸失利益とは、大まかにいうと「交通事故により後遺障害が残った場合に、その後遺障害が残ったことによる将来の収入の減少」のことをいいます。
たとえば、工事関係の仕事で現場作業を行っていた従業員が、事故により歩行が困難となる後遺障害が残り、現場作業から経理等の事務作業を任されるようになったため減収が生じたという場合には、後遺障害による逸失利益が生じているといえます。

後遺障害による逸失利益は、基本的に、「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」により算出されます。

この式をみて分かるように、後遺障害による逸失利益は、

  • 基礎収入をどのように認定するか
  • 労働能力喪失率をどのように認定するか
  • 労働能力喪失期間はいつまでか

といった点について、それぞれ判断が難しい点が存在します。

なお、ライプニッツ係数とは、簡単にいえば、後遺障害による逸失利益の支払を受ける場合、将来得ていたはずの金額を現在一括で受け取ることになり、そのままでは被害者にとって利息分だけ得が生じることになるため(5年後の10万円より現在の10万円の方が価値があ     るため)それを調整する係数です。

そこで、「赤い本」には、

  • 会社員、自営業者、会社役員、主婦等それぞれの職業における基礎収入の算定に関する裁判例
  • 労働能力喪失率に関する裁判例(特に、労働能力喪失率に関しては労災保険における労働能力喪失率が参照されますが、それとは異なる認定をした裁判例)
  • 労働能力喪失期間に関する裁判例

などが数多く掲載されています。

④慰謝料

ア 死亡による慰謝料

「赤い本」では、交通事故で被害者が死亡してしまった場合、被害者の立場に応じて、以下の慰謝料が目安となるとされています。

  • 一家の支柱の場合には2800万円
  • 母親・配偶者の場合には2500万円
  • その他の場合には2000万円~2500万円

もっとも、あくまで上記は「目安」であり、具体的な事例ごとに増減されるべきとされています。

そこで、「赤い本」には、過去の裁判例での認定例が掲載されています。

イ 入通院慰謝料

これは「赤い本」では「傷害による慰謝料」とされていますが、実務的には「入通院慰謝料」とよばれることがあり、分かりやすいので、このように表現します。

入通通院慰謝料は、交通事故により入院・通院を余儀なくされたことを補うための金銭的な補償です。
「赤い本」は、軽度の傷害による入通院慰謝料を別表、それ以外の傷害による入通院慰謝料を別表と整理して、入院期間・通院期間により慰謝料を算出できる表を掲載しています。

もっとも、「赤い本」では、障害の部位・程度によっては表によって算定される金額よりも増額することが相当であるとされ、また、生死が危ぶまれ状態が継続したとき等には別途増額を検討することが相当であるとされるなど、個別具体的な事情によって増額を検討すべきことが示されています。

ウ 後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、交通事故により後遺障害が残った場合に、その精神的苦痛を補うための金銭的な補償です。

「赤い本」では、自賠責保険で認定された後遺障害の「等級」に応じて、後遺障害慰謝料の基準が示されています。

具体的には最も重い1級の場合には2800万円、軽い14級の場合には110万円とされています。

「赤い本」では、これを基準に

  • 具体的な事例ごとの認定に関する裁判例
  • 慰謝料を増額した裁判例
  • 自賠責保険での後遺障害の認定がなくても後遺障害慰謝料を認定した裁判例
  • 自賠責保険での後遺障害の認定よりも重い後遺障害を認定した裁判例

などが掲載されています。

⑤物損

物損とは、交通事故により車両が壊れた場合における損害をいいます。

「赤い本」では、物損については、

  • 修理費用
  • 評価損
  • 代車使用料
  • 休車損

などが認められることが説明されています。

馴染みのない言葉として、評価損と休車損があります。

評価損とは、簡単には、事故歴があることによって減価が生じたことの損害をいい、休車損とは、タクシーなどの営業車が事故により稼働できなかったことによって売上減少が生じた場合の損害をいいます。

「赤い本」では、

  • 修理費用については車両時価額が上限となること
  • 代車使用料が認められる期間
  • 評価損や休車損が認められるケース

など、物損に関する損害項目ごとに、重要な裁判例が掲載されています。

(3)損害賠償金が減額される事情

①損益相殺・損害の填補等

損益相殺とは、簡単には、被害者が交通事故により利益を得た場合に、その利益を損害額から控除するという考え方をいいます。

「赤い本」では、控除することが相当な利益の具体的と共に(自賠責保険会社からの給付や、労災保険による給付)、控除することが相当でない利益の具体例(労災保険における特別支給金等)が掲載されています。

また、損益相殺と過失相殺とのどちらを先にするかによって被害者に有利にも不利にもなりますが、損益相殺の項目によって、どちらを先にすべきであるかという基準が示されています。

さらに、人身傷害保険という、被害者側が加入している任意保険会社からの給付に関しては、重要な最高裁判例が掲載されています。

②同乗事故における減額

同乗事故における減額とは、簡単にいうと、無償で他人が運転する車に乗って事故に遭った場合に、その車に乗ったこと自体に過失を認めて、損害賠償請求を減額するという考え方です。

この考え方は、無償で他人の車に乗ること自体が珍しかった時代に、「無償で車に乗るという利益を得ていたのであるから、危険も負担すべきである」という考え方に基づくものでしたが、現在では、そのような考え方自体が古くなっています。

そこで、「赤い本」においても、無償で同乗していたというだけでは減額が認められないとされています。

ただし、

  • 飲酒運転を知りながら同乗したケース
  • スピード違反・無謀な運転を注意しなかったケース

など、同乗者が危険な運転を知りながらあえて同乗したといえるケースや、危険な運転を招いたといえる場合には減額が認められるとされており、同乗事故における減額を認めた裁判例・認めなかった裁判例が掲載されています。

③素因減額

素因減額とは、交通事故による損害の発生に、被害者の素因(もともとの体質や性格等)が寄与したと考えられる場合に、被害者の素因が結果発生に寄与した分を損害賠償金額から控除するという考え方です。

この「被害者の素因」については、

  • 何を素因として考慮できるかという問題
  • 素因として考慮できるとして、どの程度素因減額を行うべきか

という問題があるとされます。

非常に難しい問題で、「赤い本」には多数の裁判例が掲載されています。

④過失相殺

過失相殺とは、交通事故において被害者側にも過失が認められる場合に、その過失分を損害賠償金額から控除するという考え方です。

交通事故では、極端なケース(追突事故や赤信号無視等)を除き、被害者にも何らかの過失が認められることが通常です。そして、加害者と被害者との過失の割合を「過失割合」とよぶことが一般的です。

交通事故事件は、他の民事事件と比較して、数多くの裁判例があり、ある程度、交通事故の状況を類型化し、類型化した交通事故ごとの過失割合を定めることができます。

「赤い本」では、そのように交通事故の状況を類型化し、類型化した事案ごとの過失割合を表にしたものが掲載されています。

(4)素人でも「赤い本」を使って損害賠償金を算定できる?

以上でみたように、「赤い本」では、損害項目と損害項目ごとの裁判例が、相当細かに掲載されていることが分かります。

たとえば、サラリーマンの方で、源泉徴収票がきちんと発行されており、休業して実際に減収が生じ、通院期間も特に問題がなく、後遺障害が残り、実際に減収しているというケースでは、法曹関係者でない     素人     の方であっても、「赤い本」にしたがって損害賠償金を算定することができると考えられます。

もっとも、

  • 通院期間が長期に及んで「一括」が打ち切られているという場合
  • 後遺障害が残っているが実際の減収はない場合
  • 労災保険や人身傷害保険等の保険給付を受けている場合
  • 過失が認められる場合

等には、「赤い本」を使った損害賠償金の算定が難しくなります。また、本来請求できる損害項目を見落としてしまい、結果として過少請求(本来できる損害賠償項目の請求をしていない)となってしまう場合もあります。

このように法曹関係者でない方が「赤い本」を使いこなして損害賠償金を算定することは一般的に難しいと考えられます。

そのため、よっぽどのことがない限り、一度は、弁護士等の専門家にご相談することが望ましいといえます。

4、「赤い本」に書かれている内容で示談することはできる?

「赤い本」に書かれている内容で示談することはできる?

交通事故事件は、通常、当初は、加害者側が加入する任意保険会社と損害賠償金についての話し合いを行い、話し合いがまとまれば示談をし、まとまらなければ裁判という形で進んでいきます。

「赤い本」が交通事故の損害賠償金を算定するための「基準」であるとすれば、話し合いの段階でも「赤い本」を基準として算定した損害賠償金(「赤い本基準」)で示談ができそうです。
しかし、一般的には、話し合いの段階では「自賠責基準」、「保険会社基準」といったものが存在し、「赤い本基準」での示談は難しいとされています。

ここでは、そもそも「自賠責基準」、「保険会社基準」とは何か、話し合いの段階で「赤い本」基準で示談をする方法について説明します。

(1)自賠責基準、保険会社基準とは何か?「赤い本」基準との違いは?

①自賠責基準とは?

「自賠責基準」とは、「自動車損害賠償保障法」という法律及びこれに基づく政令(自動車損害賠償保障法施行令)によって算定された賠償金額のことをいいます。

「自動車損害賠償保障法」のことを「自賠法」、自動車損害賠償保険のことを「自賠責保険」あるいは「自賠責」と略してよぶことがあります。

自賠責保険は、ご存知のとおり、強制加入の保険です。強制加入保険とされているのは、自動車の運転者が保険に加入していないために被害者に対する最低限の救済もできないといった事態を避けるためです。

自賠法に基づく損害保険金の支払は、政令に細かな定めがあります。

たとえば、通院慰謝料については原則として1日4300円、後遺障害慰謝料については「等級」に応じて、たとえば14級であれば32万円、12級であれば9万円などと決められています。

②保険会社基準とは?

「保険会社基準」とは、一般的には、加害者が加入する保険会社が、話し合いの段階で損害賠償金を提示する際に参照する保険会社独自の内部基準のことをいいます。

実際に、どのような内部基準を用いているかは分かりませんが、一般的には、「自賠責基準」によって算定する金額よりは高く、「赤い本」基準よりは低い金額です。

③「赤い本」基準との違いは?

以上でみたように、「自賠責基準」は、そもそも被害者に対する「最低限の保障」を図る趣旨で定められた自賠法に基づき算定された金額ですから、自ずと損害賠償金は低くなります。実際、後遺障害14級が認定されたケースでみると、後遺障害慰謝料は、「自賠責基準」では32万円、「赤い本基準」では110万円と78万円も差があります。

また、「保険会社基準」は、「赤い本基準」よりも低い金額となります。

したがって、金額の大小関係としては、基本的には自賠責基準 < 保険会社基準 < 赤い本基準ということになります。

(2)「赤い本基準」で示談する方法

では、「赤い本基準」で示談する方法はないのでしょうか。

ここでは、2つの方法をご紹介します。

①弁護士に依頼する

弁護士に示談交渉を依頼した場合、「保険会社基準」から「赤い本基準」に近づくことが一般です。

これは、弁護士の場合、「示談がまとまらなければ訴訟をする」という選択肢が背後にあるため、加害者側が加入する保険会社として、「結局、訴訟になって手間暇をかけて「赤い本基準」になるのであれば、早期に「赤い本基準」で示談してしまった方が得だ」という考慮が働くからだと考えられます。

ただし、弁護士に示談交渉を依頼する場合、弁護士費用がかかります。
そのため、弁護士に依頼することのコストと、弁護士に依頼することで増額が見込まれる金額との「帳尻があうかどうか」を検討することが必要です。

もっとも、弁護士費用に関しては、近年の損害保険では、一般に「弁護士費用特約」という特約を付していることが通常です。「弁護士費用特約」が付いている場合、原則として、弁護士費用を保険会社が立て替えて支払うため、依頼者の負担は0円ということもあります。

「弁護士費用特約」については、車両の損害保険のみでなく、火災保険や生命保険にも特約として付いていることがあり、交通事故で利用可能であることも多いです。
そのため、弁護士への依頼を考えている場合には、まずは加入されている保険会社に確認することが勧められます。

②交通事故紛争処理センターに申立てをする

ア 交通事故紛争処理センターとは?

交通事故事件における一般的な手続は、交渉又は訴訟ですが、その中間的な手続として、交通事故紛争処理センターにおける和解あっ旋手続があります。
交通事故紛争処理センターは、東京、大阪、名古屋、福岡、仙台など、高等裁判所が所在する都道府県に設置されています。

交通事故紛争処理センターにおける手続は、単純化すると、被害者による申立てセンターからの嘱託を受けた弁護士が被害者と加害者側保険会社との間に立って和解協議を行う嘱託弁護士があっ旋案を提示あっ旋案に応じれば示談成立・応じなければ審査移行審査会による裁定により原則として終了、という流れで進みます。

イ 交通事故紛争処理センターを利用するメリット

交通事故紛争処理センターにおける和解あっ旋手続を利用するメリットとしては、

  • 通院慰謝料及び後遺障害慰謝料に関して、ほぼ「赤い本基準」での和解あっ旋案が提示されること
  • 保険会社側は、通院慰謝料及び後遺障害慰謝料の相当性のみを理由として異議の申立てをすることができないこと

が挙げられます。

結果的に、相手方保険会社が「保険会社基準」として提示してきた通院慰謝料と後遺障害慰謝料の額だけに不服があり、かつ、その争点がその点だけという事案では、ほぼ「赤い本基準」で示談することができます。

ウ 交通事故紛争処理センターを利用する場合の注意点

ただし注意点としては、

  • 後遺障害の該当性を争って申立てをするケースは取り扱ってもらえない(たとえば、非該当であるのに後遺障害14級を前提として申立てをするケース等)
  • 事実関係に大きく争いがあるケースでは取り扱ってもらえず、仮に取り扱ってもらえたとしても保険会社から訴訟手続に移行するよう異議が出される可能性がある(たとえば、そもそも事故が起こったかどうか疑わしいケース)
  • 相手方が任意保険会社に加入していなければ取り扱えない

など、利用するために多くの条件があります。

そのため、まずは交通事故紛争処理センターでの手続を利用することができるかどうか、最寄りの相談センターに問い合わせることが勧められます。

5、「赤い本」以外にも相場本があるの?

「赤い本」以外にも相場本があるの?

Statue of justice

これまで「赤い本」について説明してきましたが、「赤い本」以外にも交通事故の損害賠償金を算定する「基準」となる本はあるのでしょうか?

ここでは、「赤い本」以外に交通事故の損害賠償金を算定する「基準」とされている書籍について、簡単にご紹介します。

(1)「青い本」、「緑本」、「黄色い本」とは?

①「青い本」とは?

まず、「赤い本」と同じ「公益社団法人 日弁連交通事故相談センター」が発行する「青い本」と呼ばれる書籍があります。

「赤い本」との違いは、まず表紙が青いことと、「赤い本」が毎年発行されるのに対して「青い本」は隔年で発行されます。

また、内容的には、「赤い本」が東京地方裁判所交通部の運用と、その結論的な部分の記載に重点が置かれているのに対し、「青い本」は比較的説明が詳しく、より弁護士などの実務家向けといえます。

②「緑本」、「黄色い本」とは?

また、「赤い本」、「青い本」の他にも、大阪弁護士会交通事故委員会が発行する『交通事故損害賠償額算定のしおり』という、緑色の表紙であるため「緑本」と呼ばれる雑誌や、「黄色い本」と呼ばれる日弁連交通事故相談センター愛知県支部が出している『交通事故損害賠償算定基準』などがあります。

発行団体から分かるように、「緑本」は大阪地方裁判所の運用を、「黄色い本」は名古屋地方裁判所の運用に重点を置いた書籍とされています。

③結局、何が使われるの?

以上のように、交通事故の損害賠償を算定する「基準」には色々ありますが、現在の実務では、全国の裁判所で基本的には「赤い本」が用いられ、地域ごとに必要に応じて「緑本」や「黄色い本」を参照するといった扱いが一般と考えられます。

いずれにしても、困ったときには、その地域における弁護士(あるいは全国対応を行っている弁護士)に相談することが一番です。

(2)別冊判例タイムズ38号~いわゆる「判タ」とは?~

「赤い本」にも過失割合に関する表が掲載されていますが、過失割合については、判例タイムズ社が出版している「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という雑誌が最も有名です。

この雑誌では、事故状況ごとの基本的な過失割合、そこから修正する要素などが記載されており、比較的誰でも、ある程度の過失割合を推定することが可能です。

過失割合については、実務的には、この雑誌が全てというほど、全国の裁判所においても影響力をもつ雑誌です。

具体的な事案で、相手方保険会社が提示する過失割合に納得がいかないといった場合には、根拠となる過失割合の表の提示を求めるなどしてみることも、一考かもしれません。

まとめ

いかがだったでしょうか。

「赤い本」の簡単な内容からはじまり、交通事故の損害賠償の基本的な考え方がお分かりいただければ幸いです。

交通事故事件は、「赤い本」といった基準に単純にあてはめていけば機械的に損害賠償金が算定できるというイメージもありますが、実は複雑で、具体的な事案で適切な賠償金を算定するためには、知識と経験が必要です。

交通事故に巻き込まれた上に、加害者側の保険会社が提示する示談金額に納得がいかない場合には、     法律     事務所     への相談を検討してみるべきでしょう

様々な事情があり、認められるとも限らないので表現を改めました。

経験的に赤い本の80%も提案していることは稀であるように思います。弁護士介入後も赤い本基準の8割と言われることもありますし、依頼者の方から、弁護士が入ったのに保険会社基準じゃないか!と言われる可能性もでてきてしまいますので、このような記載はやめた方がっ良いと思います。

また、そもそも任意保険基準は赤い本の計算方法を参考にしていない気がします。

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