「代襲相続って何?」
「代襲相続が起こった場合、相続手続きはどうすればいいの?」
私たちが普段生活している限りにおいては、代襲相続という言葉は聞き慣れないものだと思います。
しかし、遺産相続の場面では、代襲相続の問題に直面している人も決して少なくありません。
代襲相続とは、簡単にいえば、相続人となるはずだった人が被相続人よりも先に亡くなっているなどの場合に、その人の子どもが代わって相続人となる制度のことです。
代襲相続が発生した場合は、通常の相続とは少しルールが異なることに注意が必要ですし、思わぬトラブルに見舞われることもありますので、事前に概要を知っておくとよいでしょう。
そこで今回は、
- 代襲相続する人の範囲
- 代襲相続人の相続分
- 代襲相続において注意すべきこと
などについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
この記事が、代襲相続の問題に関してさまざまな疑問や悩みを抱えている方の手助けとなれば幸いです。
法定相続人に関して詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
目次
1、代襲相続とは
代襲相続とは、被相続人が亡くなったときに、被相続人に子がいれば子が法定相続人となりますが、子が被相続人よりも先に亡くなっていた場合には、被相続人の子の子ども(被相続人から見て孫)が本来の相続人に代わって法定相続人となる制度のことをいいます。
この制度によって相続人となる人のことを「代襲相続人」、本来相続人となるはずだった人(被相続人よりも先に亡くなった人)のことを「被代襲者」と呼びます。
相続とは、基本的に親から子へと財産が引き継がれる制度ですので、子が先に亡くなっている場合はそこで相続を途絶えさせるのではなく、さらにその子ども(被相続人から見ると孫)へ直接財産を引き継がせるというのが、代襲相続という制度の趣旨です。
2、代襲相続する人の範囲
代襲相続する人の範囲については、民法で一定のルールが定められています。
そのルールを確認していきましょう。
(1)一般的な場合
代襲相続が発生するのは、次の2つのケースです。
- 被相続人の子(被代襲者)に直系卑属(子や孫)がいる場合(民法第887条2項)
- 被相続人の兄弟姉妹(被代襲者)に子がいる場合(民法第889条2項)
父母と長男、長男の子(孫)がいる家族で父が亡くなった場合、本来なら母と長男が相続人となりますが、長男が父よりも先に亡くなっていた場合は長男の子(孫)が長男に代わって法定相続人となります。
これが「1.」の典型的なケースです。
一方、父母と子がいて、祖父母など上の世代はすべて既に亡くなっており、父には兄(妻子なし)が一人いるとします。
この場合、兄が亡くなると本来なら父が相続人となりますが、父が兄よりも先に亡くなっていた場合は、子(兄から見て甥または姪)が父に代わって代襲相続人となります。
これが「2.」のケースです。
なお、被相続人に子がおらず、父母はともに既に亡くなっている場合には、被相続人の祖父母が相続人となります。
この場合に、祖父母も既に亡くなっていて曾祖父母が存命である場合には曾祖父母が相続人となります。
これは民法第889条1項1号に別途定めがあるために発生する相続であり、代襲相続ではありません。
(2)本来の相続人の子も既に亡くなっている場合
上記の2つのケースは、本来の相続人(被代襲者)が被相続人よりも先に亡くなっている場合は、本来の相続人の子が代襲相続人となるというものです。
ここまでは、本来の相続人が被相続人の子であるか兄弟姉妹であるかによる差異はありません。
しかし、代襲相続人もすでに亡くなっている場合は、2つのケースで差が生じます。
父母と長男・次男・長男の子・長男の孫がいる家族の場合で考えてみましょう。
本来の相続人が子である場合(上記「1.」のケース)では、父(被相続人)が亡くなったときに長男(被代襲者)が既に亡くなっている場合は、長男の子(代襲相続人)が相続します。
このとき、長男の子も既に亡くなっている場合は、長男の孫が代襲相続人となります。
このように、二代にわたって代襲相続することを「再代襲相続」、略して「再代襲」といいます。
被代襲者が被相続人の直系卑属である場合は、被代襲者に子・孫・曾孫……と下の世代の人がいる限り、際限なく代襲相続していきます(民法第887条3項、2項)。
一方、上記「2.」のケースでは、代襲相続するのは一代限りとされています(民法第889条2項)。
つまり、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合、本来の相続人が先に亡くなっていればその子(被相続人の甥・姪)が代襲相続人となりますが、甥・姪も先に亡くなっている場合には甥・姪の子どもは代襲相続できません。
被代襲者が被相続人の兄弟姉妹である場合は、代襲相続するのは甥・姪までと覚えておきましょう。
(3)相続欠格や廃除があった場合
本来の相続人が先に亡くなったのではなく、相続欠格または相続人から廃除されたために相続できなかった場合も、その人の子が代襲相続人となります。
相続欠格とは、相続人が被相続人や他の相続人を殺害した場合や、遺言書の偽造や隠匿などといった犯罪行為や不正をした場合に、その人の相続権を失わせる制度のことです。
もう一方の相続人からの廃除とは、相続人が被相続人を虐待したり、その他の著しい非行を行った場合に、家庭裁判所の審判によってその人の相続権を失わせる制度のことです。
相続欠格や廃除の場合は、相続人の意思とは関係なく相続権を失うものですから、死亡したのと同様に、代襲相続が発生します。
(4)相続放棄をした人がいる場合
一方で、相続放棄をした人がいる場合は、その人に子どもがいても代襲相続は発生しません。
相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったとみなされる(民法第939条)ためです。
(5)相続人が養子の場合
本来の相続人が被相続人の養子である場合、本来の相続人の子が代襲相続人となるかどうかはその子が生まれた時期によります。
被相続人と本来の相続人の養子縁組後に生まれた子は、被相続人の法律上の直系卑属(孫)となりますので、代襲相続人となります。
一方、養子縁組前に生まれていた子は、被相続人の法律上の直系卑属ではありませんので、代襲相続人となりません。
3、【ケース別】代襲相続人の相続分はどうなる?
(1)基本的なルール
代襲相続が発生した場合は、本来の相続人(被代襲者)の相続分を代襲相続人が引き継ぐことになります。
1人の被代襲者について複数の代襲相続人がいる場合は、その相続分を等分します。
代襲相続人に独自の相続権が発生するわけではなく、あくまでも被代襲者の代わりに本来発生するはずだった相続分を引き継ぐわけですから、このようなルールとなっているのです。
では、いくつかのケースで具体的にみていきましょう。
(2)被相続人の孫が代襲相続する場合
被相続人に妻と子ども1人がいたものの、子ども(被代襲者)が被相続人よりも先に亡くなっており孫が1人いる場合は、妻と孫(代襲相続人)が相続人となります。
この場合の各相続人の相続分は以下のとおりです。
- 妻:2分の1
- 孫:2分の1
このとき、孫が複数いれば、2分の1の相続分を等分します。
2人いる場合、各自の相続分は4分の1(2分の1×2分の1)、3人いる場合は6分の1(2分の1×3分の1)となります。
(3)被相続人の甥・姪が代襲相続する場合
被相続人に妻がいるものの子どもはおらず、両親もすでに亡くなっていて、弟が1人いたとします。
この弟も被相続人よりも先に亡くなっていて、弟に子ども(甥または姪)がいる場合は、妻と甥・姪が相続人となります。
この場合の各相続人の相続分は以下のとおりです。
- 妻:4分の3
- 甥・姪:4分の1
このとき、弟の子(甥・姪)が複数いれば、4分の1の相続分を等分します。
2人いる場合、各自の相続分は8分の1(4分の1×2分の1)、3人いる場合は12分の1(4分の1×3分の1)となります。
(4)代襲者も既に亡くなっている場合
前記(2)のケースで、被相続人の孫(代襲相続人)もすでに亡くなっている場合は、被相続人の孫に子(曾孫)がいれば、曾孫が再代襲相続人となります。
孫の相続分が2分の1だったとすれば、曾孫が1人の場合は2分の1、曾孫が2人いる場合は4分の1(2分の1×2分の1)が相続分となります。
一方、前記(3)のケースで、甥・姪(代襲相続人)が既に亡くなっている場合は、甥・姪に子どもがいても、それらの人は再代襲できません。
本来の相続人が被相続人の兄弟姉妹であるときは、代襲相続するのは一代限り(甥・姪まで)だからです。
(5)先に亡くなった相続人が養子の場合
被相続人に妻と長男、次男がいたが、長男は実子で次男は養子であった。
次男は被相続人よりも先に亡くなっていたが、子が1人いた。
この場合、次男の子が生まれたのが被相続人と次男の養子縁組よりも前であれば、次男の子は代襲相続人とはなれませんので、相続人は被相続人の妻と長男だけです。
次男の子が生まれたのが被相続人と次男の養子縁組の後であれば、次男の子が代襲相続人となりますので、相続人は被相続人の妻と長男、次男の子の3人です。
次男の子が養子縁組後に生まれていた場合、各相続人の相続分は以下のとおりです。
- 妻:2分の1
- 長男:4分の1
- 次男の子:4分の1
養子の相続分と実子の相続分は同じですから、相続分は上記のとおりとなります。
孫が複数いる場合に被代襲者の相続分を等分することは、これまでのケースと同じです。
4、こんなときは要注意!代襲相続でトラブルが起こりやすいケース
代襲相続が発生するケースでは、通常の相続の場合よりもトラブルが起こりやすいので注意が必要です。
ここでは、代襲相続でよくあるトラブルをご紹介しますので、参考になさってください。
(1)知らないうちに借金を相続していた
知らないうちに身内の方が亡くなって借金を相続していたというケースは、通常の相続でもたまに起こりますが、代襲相続が発生するケースでとくに起こりがちです。
例えば、ある人(被相続人)が多額の借金を残して亡くなった場合、その配偶者と子どもたちが全員相続放棄をすると、相続権は被相続人の両親に移ります。
両親も相続放棄をするかすでに亡くなっている場合は兄弟姉妹に移ります。
このとき、兄弟姉妹の中で先に亡くなっている人がいる場合は、その子ども(甥・姪)がいれば、甥・姪が代襲相続人となりますので、借金を相続してしまいます。
親子や兄弟姉妹で誰かが亡くなったときにはすぐに連絡があることが多いのですが、叔父・叔母と甥・姪の関係で長年交流が途絶えていたりすれば、すぐには知らされないことも多くあります。
相続放棄をする人たちも、自分たちが相続放棄をすることで甥・姪が借金を代襲相続することに気づかなかったり、疎遠になっていたりして、長期間連絡をしないことも珍しくありません。
そのため、知らないうちに甥・姪が借金を相続しているというケースが発生するのです。
相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」です。
被相続人が亡くなってから3か月以上が経過していても、自分が相続人となったことを知ってから3か月以内であれば、相続放棄は可能です。
ただし、その場合の相続放棄の手続きは少し複雑になるため、弁護士にご相談されるのをおすすめします。
(2)親戚の相続トラブルに巻き込まれた
遺産相続で感情的なトラブルが起こることは少なくありませんが、代襲相続によって親戚の相続トラブルに巻き込まれることもあります。
例えば、孫が代襲相続人となり、他の相続人である叔父・叔母たちのもめごとに巻き込まれるようなケースです。
このような場合、代襲相続人は他の相続人よりも一世代若いので発言力も弱く、叔父・叔母たちに太刀打ちできないことも多いでしょう。
こういった相続トラブルを解決するには、弁護士に遺産分割協議の代行を依頼する、家庭裁判所へ調停を申し立てる、遺産の状況によっては相続放棄をする、などの方法が考えられます。早期に弁護士にご相談ください。
(3)知らなかった相続人が現れた
(1)(2)とは異なり、自らは代襲相続人でなく相続人である場合でも、代襲相続が発生することによるトラブルに巻き込まれる可能性はあります。
例えば、今まで面識もなかった人が代襲相続人として現れるケースです。
例えば、父が亡くなり、母と長男・次男がいたものの、次男は先に亡くなっていて子ども(孫)もいないので母と長男で遺産分割をしようとしたところ、次男が認知していた子が代襲相続しているようなケースです。
遺産分割の際に戸籍を調査すると、このように知らなかった相続人が現れるケースは決して珍しくありません。
認知された子にも嫡出子(婚姻関係にある夫婦間に生まれた子ども)と同じ相続権がありますので、このケースのような代襲相続人が現れた場合は遺産分割協議に参加させなければ、遺産分割は無効になってしまいます。
5、代襲相続人にも遺留分はある?
被相続人の孫が代襲相続人となる場合には、代襲相続人も、遺留分を主張することができます。
なぜなら、代襲相続は被代襲者が有するはずだった相続権を引き継ぐものだからです。
遺留分とは、一定の法定相続人に保障された最低限の相続分のことです。
たとえ被相続人が特定の人にすべての遺産を譲るという遺言書を残していた場合でも、一定の相続人は遺留分侵害額請求により遺留分に相当する遺産を取得できます。
ただし、遺留分が認められる一定の法定相続人とは、兄弟姉妹以外の法定相続人です(民法1042条1項)。
兄弟姉妹には遺留分はありません。
したがって、被相続人の孫が代襲相続人となる場合には遺留分が認められますが、甥・姪が代襲相続人となる場合には遺留分は認められません。
なお、遺留分の割合は、被相続人に配偶者や子がいる場合は相続財産の2分の1、直系尊属(被相続人の両親等)のみが相続人の場合は相続財産の3分の1となります(民法1028条)。
代襲相続人が複数いる場合は、やはり被代襲者が有するはずだった遺留分を等分します。
6、代襲相続をすると税金(相続税)は上がる?下がる?
代襲相続が発生すると、相続税が下がる可能性があります。
なぜなら、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されるため、法定相続人の数が増えると基礎控除額が大きくなり、税額は下がるからです。
すなわち、相続税を計算する際には、課税遺産総額からこの基礎控除額を差し引くことができるため、課税遺産総額が基礎控除額以下となる場合は非課税となります。
例えば、父が亡くなり、母と長男・次男の3人で相続する場合、法定相続人は3人ですから、基礎控除額は4,800万円となります。
このケースで、次男が先に亡くなっていて次男の子(孫)が2人いる場合、法定相続人は母・長男・孫2人の合計4人となります。
したがって、基礎控除額は5,400万円となり、上記のケースよりも相続税が下がります。
孫が1人のみの場合は、法定相続人の数は3人のままなので、相続税が下がることはありません。
7、代襲相続の場合は必要書類が増える?
代襲相続が発生した場合は、裁判所での調停を申し立てる際や、銀行等で相続手続きを行う際に必要な書類が増えます。
何を行うかによって必要書類は異なりますので、手続きごとに手続き先にご確認ください。
代襲相続の場合は必要書類が増えることが多いため、相続開始後の早い段階から効率よく戸籍謄本を収集することが大切です。
まとめ
遺産相続は相続人全員で行う必要がありますが、代襲相続が起こると相続関係が複雑となりがちですし、誰が代襲相続するかの判断が難しいケースも少なくありません。
また、通常の相続の場合よりも縁遠い立場の人が相続に関わることになりますので、さまざまな相続トラブルが起こる可能性もあります。
お困りの際は、気軽に弁護士にご相談の上で、相続手続きを進めていかれることをおすすめします。