寡婦年金とは、どのような制度でしょうか。
夫の主治医から「もう先は長くない」と言われたとき、あるいは家計を支えていた夫が急に亡くなったとき、残された妻に収入が途絶えてしまうリスクが発生します。
そのような妻を収入面で支える公的制度の1つが、寡婦年金です。
今回は、
- 寡婦年金の基礎知識
- 寡婦年金の受給者の条件
- 寡婦年金を受給するまでの流れ
についてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。ご参考になれば幸いです。
相続に関して詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
目次
1、寡婦年金とは
寡婦年金とは、国民年金の第1号被保険者の夫(自営業者等)が死亡したときに妻に対して支給される年金です。
第1号被保険者には、日本国内在住の20歳以上60歳未満の自営業者、農業・漁業者、学生および無職の方とその配偶者の方(厚生年金保険や共済組合等に加入しておらず、第3号被保険者でない方)が該当します。
2、寡婦年金の受給条件や対象について
寡婦年金を受け取るためには、亡くなった人と受給対象者がいくつかの条件を満たしている必要があります。
(1)受給条件
国民年金の保険料の納付期間(免除期間も含む)が10年以上(平成29年8月1日より前の死亡の場合は25年以上)で、老齢基礎年金を受けずに死亡した場合、妻は寡婦年金が受給できます。
(2)対象
受給対象について、以下の表にまとめました。
受給者 | 国民年金の第1号被保険者の夫(自営業者等)が死亡したときに妻 |
婚姻期間は10年以上であること(事実婚状態でもOK) | |
死亡当時の状況 | 夫によって生計を維持していたこと |
受給期間 | 妻の年齢が60歳から64歳 |
妻の状況 | 自身の老齢基礎年金を繰り上げ受給していないこと |
金額 | 夫が生きていれば受けたであろう老齢基礎年金の4分の3 |
(3)寡婦年金の趣旨
国民年金の第1号被保険者の夫をもつ妻としては、遺族年金は「遺族基礎年金」が考えられますが、遺族基礎年金は、子どもがおり、かつ子どもが18歳未満の場合のみもらうことができます(子どもが18歳に達した時点で打ち切りとなります)。
そのため、子どもがいなかったり、もしくは子どもが18歳以上に成長している場合、妻は一切遺族年金をもらうことができなくなり、長年保険料を支払ってきたことが払い損になってしまいます。
また、老齢基礎年金の支給が開始される65歳になるまでの間、収入が途絶えてしまうというリスクも発生します。
これらの問題を解消すべく、寡婦年金の制度が設けられました。
3、寡婦年金の受給条件を詳しくチェック
寡婦年金の受給開始月、そして受給できる権利が消滅する条件について見ていきましょう。
(1)受給期間
寡婦年金の受給は、夫が亡くなったときに妻が60歳を超えている場合と60歳を超えていない場合で異なります。
妻が60歳を超えている場合 | 夫の亡くなった日の属する月の翌月 例:夫が平成27年2月10日に亡くなった場合、翌月の3月に最初の支給 |
60歳を超えていない場合 | 妻が60歳に達した日(60歳誕生日の前日)の属する月の翌月 例:昭和30年10月10日生まれの妻の場合、60歳に達した日は平成27年10月9日となり、翌月の11月に最初の支給 |
(2)権利が消滅する条件
妻の状況が次のいずれかに該当した場合、その翌月から寡婦年金の受給ができなくなります。
- 65歳に達したとき(65歳誕生日の前日)
- 亡くなったとき
- 婚姻(事実上の婚姻関係を含む)をしたとき
- 直系血族、直系姻族以外の者の養子となったとき
- 老齢基礎年金の繰上げ請求を行ったとき
4、寡婦年金でもらえる金額
寡婦年金の支給額は、60歳から65歳になるまでの5年間で、夫が存命ならば受給できたであろう老齢基礎年金額(第1号被保険者期間部分)の4分の3です。
たとえば、2018年度(平成30年度)の老齢基礎年金の満額は779,300円(年額)ですので、年額に4分の3を掛けた金額が寡婦年金の支給額となります。
5、寡婦年金を受け取るまでの流れ
年金の手続きは以下の通りですが、かなり面倒な作業が多いため、あらかじめ年金事務所等で受給権の有無や必要書類等の確認をされると良いでしょう。
寡婦年金を受け取るまでには、妻が扶養手当の対象になっていたことや、亡くなった夫の所得の証明などさまざまな書類が必要です。
また年金を受ける権利(基本権)は、権利が発生してから5年が経過すると時効によって消滅してしまいます。
手続きに関してわからないことがあるとき、悩みがあるときは、相続問題等に精通した弁護士に相談されることをおすすめします。
(1)死亡届の提出
まずは市町村役場に死亡届を提出します。亡くなった夫が年金受給者か否かで手続きが異なります。
亡くなった夫が現役の保険加入者 | 「国民年金被保険者死亡届」を市町村役場に提出 |
亡くなった夫が年金受給者 | 「年金受給権者死亡届」を年金事務所に提出 |
年金を受け取る・受け取らないに限らず必要な手続きですので、忘れずに行いましょう。
(2)請求のための必要書類
住所地の市区町村役場、またはお近くの年金事務所および街角の年金相談センターの窓口で請求の手続きを行います。
請求のために必要となる書類等は次のとおりです。
①必ず提出または添付するもの
- 亡くなった方の年金手帳、年金証書または基礎年金番号通知書
- 国民年金寡婦年金裁定請求書(下図)
- 預金通帳、貯金通帳、キャッシュカード等(年金請求書に金融機関の証明を受けた場合は不要)
- 戸籍の謄本(戸籍の全部事項証明書)、戸籍の抄本(戸籍の個人事項証明書)、戸籍の記載事項証明書(戸籍の一部事項証明書)のいずれか
- 住民票(世帯全員・本籍地・続柄記載)
- 亡くなった方の住民票の除票
②生計維持関係の書類
- 生計同一関係に関する申立書
- 事実婚関係に関する申立書
- 収入に関する認定書類
③第三者証明に代わる書類
- 健康保険被保険者証または組合員証等 ※健康保険等の被扶養者の場合(国民健康保険以外)
- 給与簿または賃金台帳等 ※給与計算上、扶養手当等の対象になっている場合
- 源泉徴収票または課税(非課税)証明書等 ※税法上の扶養家族になっている場合
- 定期的に送金されていたことのわかる現金封筒または預貯金通帳等 ※定期的に送金がある場合
④収入に関する認定書類
- 所得証明書、課税(非課税)証明書、源泉徴収票 ※ご本人の年収が850万円(所得が5万円)未満の場合
- 健康保険被保険者証または組合員証等 ※健康保険等の被扶養者の場合(国民健康保険以外)
- 第3号被保険者認定通知書(第3号被保険者資格該当通知書)、年金手帳(第3号被保険者である旨の記載があるものに限る)※国民年金第3号被保険者の場合
- 年金証書および決定通知書(裁定通知書)※公的年金の加給年金額対象者または加算対象者の場合
- 国民年金保険料免除該当通知書、国民年金保険料免除申請承認通知書 ※国民年金保険料免除者の場合
- 保護開始決定通知書 ※生活保護受給者の場合
⑤亡くなられた原因が第三者行為(交通事故等)の場合に必要な書類
- 第三者行為事故状況届
- 交通事故証明または事故が確認できる書類 ※事故証明がとれない場合は、事故内容がわかる新聞の写しなど確認書
- 被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類 ※源泉徴収票、健康保険証の写し、学生証の写し等
- 被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類
- 損害賠償金の算定書 ※すでに決定済みの場合、示談書等受領額がわかるもの
⑥その他書類等
- 委任状 ※請求者本人が署名押印したもの
- 窓口にお越しになる方の身分を確認できるもの ※運転免許証、パスポート等
- 印鑑 (認め印でも可、スタンプ印は不可) ※請求者本人が自署の場合は不要
6、他の年金制度も併用して受給できるの?
寡婦年金以外に年金を受け取る権利がある場合、併用して受給することはできるのでしょうか?
(1)同時受給はできない
寡婦年金は、公的年金(国民年金・厚生年金・共済年金)や遺族基礎年金、老齢基礎年金、死亡一時金などの各種年金と同時受給ができません。
2つ以上の年金を受けられるようになったときは、いずれか1つの年金を選択する必要があります。
(2)遺族基礎年金は同時受給でなければ受け取れる
寡婦年金と遺族基礎年金は同時に受給することができませんが、過去に遺族基礎年金を受給した経験がある方でも、60歳になれば寡婦年金を受け取ることができます。
遺族基礎年金は子供が18歳に達すると受給できない年金です。
たとえば、妻が夫の死亡後に遺族基礎年金を受け取っていたときに子供が18歳になると、その時点で支給が打ち切られます。
この場合、妻が寡婦年金を受給できる条件を満たしていれば、遺族基礎年金に代わって寡婦年金を受給できるようになります。
7、寡婦年金と死亡一時金はどちらを選択するのがベター?
夫が死亡した場合、寡婦年金の他に死亡一時金が受け取れる場合があります。
同時に受給できない寡婦年金と死亡一時金は、受け取れる金額や条件で良い方を選択します。
(1)寡婦年金と死亡一時金の違い
死亡一時金は家族が死亡した時に、1回だけ受け取ることができるお金です。
亡くなった人が保険料を納めた月数に応じて12万円~32万円までの金額が受け取れます。
厳密に言えば年金ではありませんが、先ほど解説したように寡婦年金と一緒に受給することはできません。必ずどちらか一方を選択する必要があります。
寡婦年金と死亡一時金では、受け取るための条件が異なります。
妻が夫の死亡後に死亡一時金を受け取れる条件は次のとおりです。
- 夫が第一号被保険者で36か月以上保険料を納めていた
- 遺族基礎年金、寡婦年金どちらの支給条件も満たしていない
- 老齢基礎年金、障害基礎年金のどちらも受け取っていない
- 亡くなった夫と生計を同じくしていた
死亡一時金を受け取ることができる遺族は妻に限りません。
さらに、死亡一時金の請求時効は2年となっています。
(2)基本的には寡婦年金の選択がおすすめ
死亡一時金が32万円上限で1回しか受け取ることができないのに対し、寡婦年金は60歳から65歳になるまでの5年間で、夫が存命ならば受給できたであろう老齢基礎年金額の4分の3を受け取ることができます。
圧倒的に寡婦年金の受取額のほうが高いため、死亡一時金と寡婦年金のどちらも受け取る権利がある場合は、寡婦年金を選択されることをおすすめします。
ただし、妻が老齢基礎年金を65歳になる前に繰り上げ受給していた場合、老齢基礎年金と寡婦年金は同時に受給することができないルールに基づき、寡婦年金の方を受け取ることができなくなります。
このような場合は、死亡一時金を受け取るようにしましょう。
まとめ|悩まれたら弁護士に相談してみよう
家計を支えていた夫が急に亡くなってしまった場合、残された家族は家庭を維持することさえも難しくなってしまうケースが少なくありません。受給資格があれば、効果的に活用しましょう。
ただし、寡婦年金は制度自体が複雑で、必要な書類も多岐にわたるため手続きが非常に面倒です。
受給資格があることに気づかず放っておくと、寡婦年金や遺族基礎年金の場合は受給資格の発生日から5年で請求できなくなってしまいます。
夫の死亡により相続の問題も残されています。それに加え、複雑な年金手続きを完璧にこなすことは容易ではありません。
そんなときこそ、法律のプロである弁護士に相談されることをおすすめします。