繰り返されるDVの後遺症は、被害者の心身に悪影響をもたらします。
- 不安感が過剰になる
- 恐怖心が強くなる
- 眠れなくなる
- 食欲がなくなる
- 頭痛やめまいがするようになる
- フラッシュバックに悩まされる
このような症状が起きることもあります。
この記事では、DVを受けた女性の後遺症について、回復に向けてできることについてアドバイスします。
目次
1、DVを受けた女性の具体的後遺症
DV(ドメスティックバイオレンス)とは、配偶者や恋人などパートナーから振るわれる身体的・精神的暴力のことを指します。
DVを受けた被害者は、加害者と離れてからも後遺症に悩まされるケースは多いです。具体的にどのような後遺症が残ってしまう恐れがあるのかみていきましょう。
(1)PTSD
DVによる後遺症の代表的な疾患として、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」が挙げられます。
PTSDとは、トラウマになるような出来事を経験した後に生じる精神疾患です。
DVを受けた女性はDVがトラウマになり、何度もその体験を思い出す「フラッシュバック」が起こります。時間が経過してもDVされた体験が蘇り、その時感じた恐怖などの気持ちを思い出してしまう症状を「侵入症状」と呼びます。
DVを思い出したくないという気持ちからトラウマ体験の記憶が乏しくなるようなことや、ぼんやりとすることが増えてしまう「回避・麻痺症状」が現れることもあります。また、音や刺激に敏感になることや、不眠、食欲不振などの症状もPTSDが原因と言えます。
(2)対人恐怖症
DV被害者は、「お前が間違っている」「お前がダメだから悪い」などと繰り返し言われながら暴力を受けるため、「自分はダメな人間だ」と自己肯定感が奪われていってしまいます。そのため、他人と接することに対して不安を覚える「対人恐怖症」になってしまうケースも多いです。
他人と接する前から「ダメな人間だと思われるのではないか」など想像して不安になってしまい、自律神経が機能不全を起こして息苦しさや発汗、吐き気、めまいなどの症状が現れるようになります。
DV加害者は何かと理由をつけて被害者に暴力を振るうため、被害者は常に相手の顔色を伺ってしまうことが習慣になることも対人恐怖症を引き起こす原因だと考えられます。
また、暴力を受けたことがトラウマになり男性恐怖症になるケースもあります。
(3)記憶障害
DVを受けた女性の中には、記憶障害に悩まされる方もいます。
解離性健忘症とも呼ばれ、強いストレスのせいで過去の出来事や、その出来事を受けた時の感情などの一部もしくは全てを忘れてしまう疾患です。
本人が思い出そうとしても思い出すことができず、日常生活に支障をきたしてしまうようなケースもあります。
辛いDV被害に心が耐え切れないと脳が判断し、通常とは別の場所で記憶するように働きかけることで発生すると考えられています。
(4)抑うつ
DVの後遺症として、抑うつも代表的な疾患として挙げられます。
抑うつとは、気分の落ち込みや憂鬱な気分が続き、身体や精神の活動が低下してしまう状態を指します。好きだったことを楽しむことができなくなり、やる気や集中力の低下、自尊心の喪失、食欲の低下、倦怠感などを引き起こします。
悪化すれば死についても考えるようになってしまうため、少しでも早く専門家へ相談することが大切です。
(5)体調不良
DV被害者は繰り返し暴力を受けることで、常に緊張や不安状態を強いられます。
人間は緊張や不安などのストレスを受けると自律神経と呼ばれる神経のバランスが乱れてしまいます。
自律神経は人間の循環器など身体のさまざまな機能をコントロールしている神経なので、バランスが乱れることで頭痛やめまい、動悸、発汗、イライラ、倦怠感、不眠などさまざまな体調不良が生じるようになります。
こうした症状は自律神経失調症と似ていると言われています。
(6)配偶者からのDVを受けていた場合には子供にも悪影響が出る
配偶者からのDV受けていた場合、子供も暴力を目撃することになります。
子供に暴力を振るうようなことはなくても、母親が暴力を受けている姿を目撃することで子供にも悪影響が出る恐れがあります。
将来的に暴力的になってしまうケースもあれば、対人関係に不安を持って不登校になってしまうケースもあります。
また、精神的ストレスがきっかけでアレルギーや喘息など体調的な不調が生じる子供も少なくありません。
配偶者に対する暴力で子供に精神的な外傷を与えることは、児童虐待に該当します。
2、DVを受けた女性が加害者から離れられない理由
DVを受けた女性はさまざまな後遺症に悩むことになる恐れがありますが、なかなかDV加害者から離れられない被害者は非常に多いです。
辛いDVを受けながらもなぜ被害者は加害者の元を離れられないのでしょうか?
(1)トラウマティック・ボンディング
DVを受けた女性が加害者から離れられない原因の1つに「トラウマティック・ボンディング」という特殊な心理状態が挙げられます。
トラウマティック・ボンディングとはトラウマ性の結びつきのことを指し、「離れたくても離れられない」と被害者が思い込んでしまっている状態です。
暴力を振るわれた直後は恐怖や危機感を覚えても、暴力を振るった後に加害者は優しくなる傾向があるため、「反省している」「私しか知らない優しい部分もある」などと考えてしまいます。
その結果、すぐには別れられなかったり、別れてもよりを戻すということを何度も繰り返したりしてしまいます。
(2)加害者を助けようとしてしまう
加害者を助けたいと被害者が考えてしまい、DVを受けても加害者から離れられないというケースもあります。
DVの加害者は、親からDVを受けたり母親がDVを受けている姿を見て育ったりしているケースが多いです。そのため、加害者も心の傷を抱えているようなケースもあります。
こうした背景を知って同情してしまい、加害者のDVが治るようにサポートしたいと考えて離れられなくなってしまうのです。
(3)血縁関係にある
DVの被害者と加害者が血縁関係にある場合、離れたくても離れることが困難になってしまうケースが多いです。
家庭内のDVは周囲に気付かれにくいというだけではなく、逃げたとしても血縁関係が無くなるわけではありません。
血縁者が加害者だからこそ誰にDVの相談をすればいいのか分からず、被害者は耐え続けることになる傾向にあります。
(4)加害者が配偶者
DVの加害者が配偶者の場合、DV被害から逃れるには離婚するしかありません。
しかし、離婚を切り出せば更なるひどい暴力を受けるのではないかと考え、離婚を切り出せなくなってしまいます。
また、離婚しても離婚後の生活における経済面や子供への影響を考え、離婚することができないという方も多いでしょう。
実家に逃げても居場所がバレてしまうことや両親に心配をかけてしまうため、逃げることが出来ない状態になっている被害者も少なくありません。
3、DVを受けた女性が後遺症に悩まされないようにするためにできること
DVを受けた女性は、後遺症に長く悩まされてしまうケースも多いです。
DV被害からの後遺症に悩まされないようにするためには、少しでも早く避難してケアを受けることが大切だと言えます。
DVによる後遺症に悩まされるようなことにならないために、次の方法で対処しましょう。
(1)1日でも早く暴力から逃れる
DV被害を受けている女性からすれば、さまざまな理由でDV加害者のパートナーから逃げ出せない状況になってしまっています。
しかし、後遺症に一生悩まされてしまうことにならないためにも、1日でも早く暴力から逃れる勇気を持ちましょう。DV被害が長引けば長引くほど身体面だけではなく精神面への影響が大きくなり、後遺症として残ってしまう可能性が高まります。そのため、1日でも早く暴力から逃れることが、後遺症のリスクを抑える方法であると言えます。
(2)シェルターに避難する
緊急時には、DVシェルター(一時保護施設)を利用することができます。
シェルターは極秘施設なので加害者からの追跡を逃れることができ、今後の生活の相談や、精神的なケアなどさまざまなサポートを受けられます。
シェルターを利用するには、警察の生活安全課や配偶者暴力相談支援センターへの相談が必要です。
(3)専門機関へ相談する
DV被害に遭っている場合や、DV被害に遭っているかもしれないという場合には、専門機関へ相談することも大切です。
相談機関では今後の対処などのアドバイスや支援を得られます。
各都道府県には、女性センターや男女共同参画センターなどDV支援を行う施設があり、電話による相談をすることができます。
また、身の危険が迫っている場合には警察へ通報することや、警察の生活安全課へ相談してみることもできます。
4、DVを受けた女性に後遺症が残った場合、加害者へ慰謝料は請求できるのか?
DVを受けた女性に後遺症が残ってしまった場合、治療費や医療機関への通院費用、生活に支障をきたしている場合には生活費など金銭面で苦しくなってしまうことも多いです。
後遺症が残るような被害を与えた加害者へ慰謝料を請求することは可能なのでしょうか?
(1)配偶者が加害者の場合離婚時に慰謝料を請求できる
配偶者がDV加害者の場合、離婚時にDVを理由に慰謝料を請求することができます。
DVは夫婦関係を破綻させる原因にもなるため、慰謝料請求と同時に裁判で離婚することも可能です。DVの程度によって慰謝料の金額は異なりますが、後遺症の程度が重いほど慰謝料の金額は高額になる傾向があります。また、離婚後に後遺症が発覚したという場合でも、慰謝料請求は認められる可能性が高いです。
ただし、離婚時に離婚後の金銭請求を行わないという清算条項を定めていた場合や、慰謝料請求権の消滅時効である3年が過ぎている場合には慰謝料請求が困難になります。
(2)親などの家族が加害者の場合
親などの家族がDV加害者の場合も慰謝料請求が可能です。
DVは不法行為であり、不法行為の加害者は被害者に対して損害を賠償する責任を負います。(民法第709条)
親など家族であっても暴力は不法行為として扱われ、慰謝料請求の対象になります。
また、親から子供へのDVは児童虐待に該当し、犯罪行為です。
暴行罪や傷害罪などに問うことができ、血縁関係に関係なく刑事罰が科せられます。
(3)恋人が加害者の場合
結婚はしていない恋人関係のパートナーからDV被害を受ける女性も少なくありません。
DVは不法行為に該当するため、夫婦関係ではない恋人からのDV被害にも慰謝料を請求することが可能です。
ただし、慰謝料を請求するにはDV被害に遭ったことを証明する必要があるため、DV被害の証拠が必要になります。医療機関の記録やDV被害を記した日記、DVを録画した動画やボイスレコーダーなど証拠を集めておきましょう。
5、DVの慰謝料を請求する場合には弁護士へ相談しましょう
DVの慰謝料やDVによる後遺症への慰謝料を請求したいと考えている場合には、弁護士へ相談することをおすすめします。
慰謝料請求は当事者同士で行うことも可能ですが、DV被害者が加害者と直接交渉することは危険です。相手が逆上して更なるDVを行う可能性もあるため、第三者である弁護士を代理人として立てて請求を行いましょう。
弁護士が介入すれば、相手が恐喝や暴力など違法行為をしてくる予防になると考えられます。また、弁護士に依頼していれば裁判へ発展することになっても任せられるため、精神的な負担も軽減されるでしょう。
dvを受けた女性の後遺症に関するQ&A
Q1.DVを受けた女性の具体的後遺症とは?
- PTSD
- 対人恐怖症
- 記憶障害
- 抑うつ
- 体調不良
- 配偶者からのDVを受けていた場合には子供にも悪影響が出る
Q2.DVを受けた女性が加害者から離れられない理由とは?
- トラウマティック・ボンディング
- 加害者を助けようとしてしまう
- 血縁関係にある
- 加害者が配偶者
Q3.DVを受けた女性が後遺症に悩まされないようにするためにできることとは?
- 1日でも早く暴力から逃れる
- シェルターに避難する
- 専門機関へ相談する
まとめ
DVを受けた女性は、DV加害者から逃れても後遺症に悩まされてしまうケースも多いです。
現在パートナーからDV被害を受けているという場合には、1日でも早く暴力から逃れるために専門機関などへ相談することをおすすめします。
また、DV被害やDVによる後遺症は慰謝料請求することができるので、一人で悩まずに弁護士に相談してみてください。