コロナいじめにおける法的責任と対処法を弁護士がわかりやすく解説

コロナ いじめ(差別)

新型コロナウイルスへの感染が拡大し始めたころから、「コロナいじめ」の事例が相次いで報道されるようになりました。不当な差別・偏見に基づくいじめを行うことは重大な人権侵害です。

そこで今回は、

  • コロナいじめはなぜ起こるのか
  • コロナいじめの加害者にはどのような法的責任があるのか
  • コロナいじめに遭ったらどのように対処すればよいのか

といった問題について解説していきます。

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1、コロナいじめの実態

コロナいじめとは、正確な定義のある言葉ではありませんが、新型コロナウイルスへの感染者や感染リスクが高いと思われる人に対して不当な差別的扱いをすることをいいます。

ここではまず、世の中でどのようなコロナいじめが発生しているのか、その実態をみていきましょう。

(1)いじめの対象になりやすい人

一般的な「いじめ」の場合も対象になりやすいタイプの人がいると言われていますが、「コロナいじめ」の場合は標的になりやすい人が明確なのが特徴的です。

コロナいじめの対象になりやすいのは、主に次の3つのいずれかに該当する人です。

  • 感染者
  • 医療従事者
  • それらの家族

一般人からみて「この人に近寄るとコロナをうつされるかもしれない」という不安を抱きやすい人が標的になりやすいといえます。

(2)2種類ある「コロナいじめ」

ひと口に「コロナいじめ」といっても、よく見ると2種類のパターンがあることがわかります。

ひとつは、上でご説明したように、感染リスクが高いと思われる人に対して不当な差別・偏見に基づいたいじめ行為が行われるケースです。

もうひとつは、コロナに名を借りて通常のいじめ行為が行われるケースです。
標的とされる人は何ら感染リスクが高いわけでもないのに、周囲の人から「あいつに近寄るとコロナをうつされる」などと言われて仲間はずれにされるような場合が後者に該当します。子どものいじめに多いケースと考えられます。
後者のケースは通常のいじめとして原因を追及し、対処する必要があります。

本記事では、前者の意味での「コロナいじめ」について解説していきます。

(3)具体的な事例

コロナいじめの事例については、今までにさまざまなものが報道されています。
代表的なものをいくつかご紹介します。

  • 感染者の自宅に石を投げつけられて窓ガラスを割られたり、壁に落書きされたりした
  • コロナに感染したとされる女性について、SNSで実名を挙げて「コロナ女」などと誹謗中傷する書き込みが行われた
  • 亡くなった感染者の遺族が職場で「お前も感染者か?」などと言われたり、避けられたりした
  • 小中学校で感染が拡大した地域に訪れたかどうかのアンケートが行われ、家族が仕事で訪れたと回答した子どもに対して学校から自宅待機が求められた
  • 大学生を中心にクラスターが発生した事例で、その大学に対して電話やメールによる抗議や脅迫が殺到した
  • 医療従事者がタクシーへの乗車拒否や飲食店などへの入店拒否を受けた
  • 医療従事者の子どもについて保育園への登園の自粛を求められた
  • 医療従事者の子どもが学校でいじめを受けた
  • 県外ナンバーの車が投石されたり、傷をつけられたりした

2、コロナいじめの原因

次に、コロナいじめがなぜ発生するのか、その原因をみていきましょう。

(1)コロナに対する誤った認識

たしかに新型コロナウイルス感染症は、場合によっては死に至ることもある怖しい病気です。
しかし、実際に感染した場合にどのような症状の経過を辿るのか、死亡に至るケースや重症化するケースが何%くらいあるのかについて正確に知っている人は少ないでしょう。
ほとんどの場合は感染しても適切な治療を受けることによって完治しますし、無症状のまま回復するケースも多いようです。

それにもかかわらず、有名人等が新型コロナウイルスに感染して亡くなったことが大々的に報道されることもあり、多くの人は実態以上に怖しい病気だという認識をもっているようです。
そのため、感染リスクが高いと思われる人に少しでも近づくと命に関わるような気がしてしまうのでしょう。

(2)休業への不安

新型コロナウイルス感染症は政令による「指定感染症」とされているため、感染が確認されると症状の程度にもよりますが、基本的には入院隔離措置がとられます。そのため、ある程度の期間は仕事を休まなければならなくなります。
ただでさえコロナ不況によって収入が減少している人が多い現状において、新型コロナウイルスに感染して休業してしまうと生活が成り立たなくなる人も多いことでしょう。
そのため、絶対に感染してはいけないという気持ちが強くなり、感染リスクが高いと思われる人は排除しようとしてしまうと考えられます。

(3)潔癖な国民性

世界の各国と比べて日本の国民が清潔であるということは、よくいわれるところです。
しかし、潔癖な国民性が感染者や感染リスクが高いと思われる人を排除する方向に向けられているとも考えられます。

新型コロナウイルス感染症は誰もが感染する可能性のある病気なのですから、予防も大切ですが、医療体制を整えるとともに治療方法などに対する理解を深めることも同様に重要になってきます。
それにもかかわらず、日本人の潔癖な国民性がわざわいして、「感染者ゼロ」を目指すために感染者や感染リスクが高いと思われる人を排除しようとしてしまう面があるのかもしれません。

(4)身近に感染者がいない

新型コロナウイルスへの感染が拡大したとはいっても、ほとんどの人は感染していませんし、身近に感染者がいない可能性が考えられます。
日本国内での累計感染者数は、2021年2月7日23:59時点で405,562人です。日本の人口は1億2,580万人(2020年8月1日時点)ですから、感染者はわずか0.3%に過ぎません。

もし、感染者が国民の1~2割にも上れば、多くの人が新型コロナウイルス感染症を自分や家族の問題として捉えて、感染者に対する理解も深まることでしょう。
しかし、現在のところはごくわずかな人しか感染していないため、感染者のことをある意味で「特別な人」と捉えている人が多いと考えられます。
そのため、感染者や感染リスクが高いと思われる人に対する理解に乏しく、排除しようとしてしまう面があるように思われます。

(5)実際に損害を与えられた

わずかなケースかもしれませんが、新型コロナウイルスの感染者が発生したために損害をこうむった人も実際にいます。
例えば、職場で感染者が発生したために休業を余儀なくされたり、施設内を徹底的に消毒をせざるを得なくなったようなケースなどがあります。

このようにして損害をこうむった人は感染者に対して迷惑な気持ちを抱いてしまい、不当な差別やいじめ行為に及んでしまうケースもあるかもしれません。

3、コロナいじめの法的問題

一般的ないじめの場合もそうですが、コロナいじめには看過できない法的問題があります。

ここでは、コロナいじめの加害者がどのような法的責任を負うのかについてご説明します。

(1)人権侵害

全ての国民は、個人として尊重されなければなりません。
新型コロナウイルスに感染したことや感染リスクが高いことを理由とする嫌がらせは、その人の人格権を傷つけるものです。誹謗中傷などによって名誉権やプライバシー権が侵害されることもあります。
このように、コロナいじめは重大な権利侵害につながる行為なのです。

(2)民事上の不法行為責任

不当な差別やいじめ行為によって被害者が精神的苦痛を受けた場合は、加害者に対して慰謝料を請求することができます。
投石や落書き、ビラ貼りなどによって物理的な損害を受けた場合は、壊された物の修理代など財産的な損害賠償を請求することもできます(以上、民法第709条、第710条)。
ひとつひとつのいじめ行為に対する慰謝料はごく低額にとどまることが多いですが、コロナいじめによってうつ病を発症したり、退職に追い込まれたような場合は高額の慰謝料が認められる可能性もあります。

(3)刑事上の罪責

コロナいじめは、具体的な行為態様によってさまざまな犯罪に該当する可能性があります。
以下に代表的な罪名と刑罰を掲げておきます。

(4)名誉毀損罪

不特定または多数の人がいる場所で、相手が感染者や医療従事者であったりその家族であることを指摘したような場合は、名誉毀損罪(刑法第230条)が成立する可能性があります。
名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示して人の社会的評価を下げることによって成立する犯罪です。摘示した事実が真実であっても名誉毀損罪は成立します。
相手の面前で言う場合だけでなく、SNSなどインターネットで誹謗中傷した場合や壁などへの落書きでも名誉毀損罪が成立する可能性があります。

名誉毀損罪に対する刑罰は、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。

(5)侮辱罪

事実を摘示しないで公然と人の社会的評価を下げる発言をした場合は、侮辱罪(刑法第231条)に該当する場合があります。
名誉毀損罪と侮辱罪の違いは、事実(真実であるかどうかを問わない)を摘示するかどうかです。

侮辱罪に対する刑罰は、拘留または科料です。
拘留とは1日以上30日未満で身柄を拘束される刑罰で、科料とは1,000円以上1万円未満の支払いを強制される刑罰のことです。

(6)脅迫罪

相手を脅迫するような発言をした場合は、脅迫罪(刑法第222条)が成立します。

脅迫とは、相手やその親族の生命、身体、自由、名誉や財産に危害を加えることを告げて相手を怖がらせるような発言をすることです。
例えば、飲食店などに対して「営業を自粛しないとどうなるかわかっているのか」などと電話やメールで抗議するような行為が脅迫罪に該当し得ます。貼り紙やSNSへの投稿などでも脅迫罪が成立する可能性があります。

脅迫罪に対する刑罰は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。

(7)強要罪

脅迫または暴行によって人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害した場合は強要罪が成立し得ます。
例えば、上記の脅迫行為によって実際に店に営業自粛を余儀なくさせた場合は強要罪に該当する可能性があります。

強要罪に対する刑罰は、3年以下の懲役です。

(8)業務妨害罪

相手の職務や営業などを妨害する行為をした場合は、業務妨害罪が成立し得ます。

業務妨害罪には、虚偽の風説を流布することなどによって業務を妨害する「偽計業務妨害罪」(刑法第233条)と、脅したり圧力をかけるなどの威力によって業務を妨害する「威力業務妨害罪」(刑法第234条)とがあります。
営業中の飲食店などに「従業員にコロナ感染者発生」などと虚偽の貼り紙をした場合は偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。
店主に対して執拗に苦情を述べて仕事をできなくさせた場合は威力業務妨害罪に該当する可能性があります。

業務妨害罪に対する刑罰は、どちらも同じで3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

(9)器物損壊罪

県外ナンバーの車に石を投げるなどによって傷をつけた場合は、器物損壊罪(刑法第261条)が成立します。

器物損壊罪に対する刑罰は、3年かの懲役または30万円以下の罰金です。

(10)軽犯罪法違反

他人の店や家屋、会社の建物などに貼り紙をするだけでも軽犯罪法違反の罪(同法第1条33号)が成立し得ます。

この場合の刑罰は、拘留または科料です。

4、コロナいじめに遭ったときの対処法

それでは、コロナいじめに遭ってしまったときはどのように対処すればよいのでしょうか。

(1)周囲の誤解を解く

コロナいじめは、前記「2(2)」や「2(4)」でご説明したように、多くの人がコロナに対する正しい理解を有していないことが大きな原因で発生していると考えられます。

そこでまずは、「感染していそうだ」「近寄ると危険」などといった周囲の誤解を解くことが大切です。
具体的には、職場では感染者が一人も発生していないことや、医療従事者でも感染者との接触がない職務に従事している場合はそのことを説明しましょう。PCR検査で陰性だったこと、家庭内でも感染防止対策を徹底していることなども説明すると良いでしょう。
子どもの学校などでいじめが発生している場合は、担当者や担任の先生などにしっかりと説明して、全校に周知してもらうことが重要です。

なお、医療従事者で実際に感染者の治療や看護に当たっている場合など感染リスクが高いことを否めない場合は、感染防止対策をしっかりとる必要があるでしょう。その上で、いじめが発生している学校などに相談して理解を求めることが重要です。

(2)人権相談窓口に相談する

コロナいじめの実態は政府も把握しており、対策に力を入れています。
法務省では、管轄の人権擁護機関においてコロナいじめに遭った人からの相談を受け付けています。
インターネットや電話で相談できるので、困ったときは気軽に相談してみると良いでしょう。

(3)弁護士に相談する

前記「3(2)」と「3(3)」でご説明したように、コロナいじめの加害者に対しては民事上・刑事上の責任を問うことができる場合があります。慰謝料の請求や刑事告訴等をお考えの場合は、弁護士に相談するのが得策です。
そこまでひどいコロナいじめに遭っている場合でなくても、弁護士に相談することによって具体的な解決法についてアドバイスを受けられる可能性があります。まずは気軽に相談してみることで、精神的にも楽になるはずです。

まとめ

コロナいじめが発生していても、加害者に悪意はなく、自分がいじめ行為をしているとは自覚していない場合も多いものです。
多くの人はコロナに対する正しい理解を有していないために、「不当な偏見」に基づいて差別やいじめ行為に至ってしまっていると考えられます。
そのため、周囲の誤解を解くことがまずは大切ですが、自分一人では対応しきれないことも多いと思います。

とはいえ、コロナいじめは人権侵害であり、看過することはできません。
困ったときは一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。

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