家をもっている夫婦の離婚では、財産分与が特に重要なポイントになることが少なくありません。その理由は、これからの住まいをどうするかということは、今後の生活のさまざまなことに大きな影響を及ぼすからです。
離婚で家を財産分与する場合には、家を売却し、その代金を夫婦で分ける方法や、夫婦のどちらかが家に住み続け、もう一方が家を出て行き代償金を貰うという方法などがあります。
また、家は財産ですが、結婚する前から所有していた家や相続などによって得た家は、「特有財産」とされ財産分与の対象にはなりません。
そして住宅ローンが多く残っているというケースでは、家を売却するにしても夫婦のどちらか一方が住み続けるにしても、リスクが多いので注意が必要です。
今回は、
- 離婚の際の財産分与の基本
- 家を財産分与する方法
- オーバーローンである場合の注意点
などをまとめました。
離婚を考えていて、財産分与について悩んでいるという人は、是非今後の対応の参考にしてみてください。
また、財産分与全般についてお知りになりたい方はは以下の記事を併せてご参照ください。
さらに、住宅ローンも財産分与の対象になるか?についてYouTubeでも紹介しているのでこちらも併せてご参照ください。
1、家も?離婚の際の財産分与の基本
婚姻中に夫婦が協力して得た財産は「共有財産」となり、夫婦が離婚するときには、1/2ずつ受け取ることで財産分与するのが原則です。
しかし、婚姻前から持っていた財産や、相続などで得た財産は、「特有財産」とされ財産分与の対象にはなりません。
また、「共有財産」であっても必ずしも5:5の割合とは限らず、協議や調停で話し合う場合にはお互いが納得できる財産分与をすることもできます。
(1)夫婦の「共有財産」は折半が原則
「共有財産」は名義や夫婦それぞれの収入にかかわらず、折半が原則となっています。婚姻中に夫婦の協力によって形成・維持してきた財産は「共有財産」とされます。不動産や家具、自動車、預貯金、退職金、保険解約払戻金なども、婚姻中に夫婦の協力によって得られた財産であれば、財産分与の対象になります。
たとえば、専業主婦で婚姻中に収入がゼロだったという人でも、共有財産の半分を得ることができます。夫が稼いだ収入であっても、「妻は家事や育児をして夫を支えた」という評価を得られるからです(具体的な分け方については、2、で解説します)。
(2)財産分与の対象にはならない3つのケース(不動産)
夫婦で築いた財産は、原則としてすべてが財産分与の対象となりますが、以下で解説する3つのケースに該当する家や土地は、財産分与の対象とはなりません。これらのケースに該当する家や土地は、夫婦で協力して取得した家・土地であるとはいえないからです。
①結婚前からそれぞれが保有していた家
結婚前から夫、または妻が保有していた家は「特有財産」とされ財産分与の対象にはなりません。結婚前から保有していたのであれば、そもそも夫婦の共有財産となる前提を満たしていないからです。
②結婚後に家族などから相続した家
家族などから相続した家も財産分与の対象外です。たとえば、結婚後に妻の家族が亡くなり、妻が家族から家を相続したというケースは、結婚をしていてもしていなくてもその家や土地を相続できたわけですから、「夫婦の協力によって得た財産」とはいえず、妻の特有財産となり、財産分与の対象にはなりません。
③そのほか夫婦の共有財産とはいえない特別な事情がある場合
婚姻中に取得した家や土地であっても次のような事情があるときには、財産分与の対象とはならず、その名義人である配偶者の特有財産となる場合があります。
- 離婚後の生活のために夫婦の一方が購入した家
- 共働きの夫婦の一方の仕事のために購入した不動産
これらのような事情がある不動産の購入は、必ずしも婚姻生活のために夫婦で協力して取得した家とはいえないからです。そもそも、離婚に向けて夫婦が別居したときには、すでに婚姻生活は破たんしているといえますので、その後に取得した財産は財産分与の対象とはなりません。
2、家を財産分与する3つの方法
家を財産分与するためには、売却した代金を分ける方法と、夫婦のどちらか一方が住み続けながら財産分与を行うこともできます。家が最大の財産という夫婦も多いですから、家をどのように分与するのかが離婚の条件を定める際の大きな争点となるかもしれません。
(1)家を売却した代金を分与する方法
家が共有財産である場合には、家を売却し、その代金を夫婦で分けることができます。家に愛着がある人や、せっかく購入した家を手放すなんてもったいない、と感じる人も多くいるかもしれませんが、今後のお互いの関係を考えても、家を売却すれば現金にして平等に分けられるので、後から不満が出にくい方法だといえます。
しかし、離婚の時期に合わせて家を売却しなければならないので、そのときの不動産相場によっては希望の価格で売れない可能性もあります。
(2)家を保有する側が他方に代償金を支払う方法
家を売却せずに、どちらかが家に住み続けるという場合には、家を保有する(住み続ける)側が家を出ていく方に対して代償金を支払って財産分与する方法があります。
たとえば、家に夫が住み続け、妻が家を出ていく場合には、家の評価額の1/2の金額を夫が妻に渡し、夫が家に住み続けることができるという方法です。
この方法のメリットとしては、せっかく購入した家を手放すこともなく、生活環境を大きく変えることもないので、「子供がいるから離婚による転校や引っ越しを避けたい」と考える人にとっては適しています。
しかし、家に住み続ける側にまとまったお金がない場合には、家を出ていく方は納得しないでしょうし、どちらが家を保有するかで揉めてしまうこともあるので難しいでしょう。
代償金の分割払いは、途中で離婚後の関係が悪化していしまったり、支払う側の生活環境が変わって支払いをしてもらえなくなるリスクがあるので、公正証書を作成しておくなど対策も大事になります。
(3)家を二人の共有名義にする方法
夫婦のどちらかが家に住み続け、名義は二人の共有名義にしておく(1/2ずつの持ち分登記をする)こともできます。
しかし、この方法には多くのデメリットがありお勧めできない場合の方が多いといえます。
この方法を選択した場合の最大のデメリットは、不動産の権利関係が将来かなり複雑になってしまう可能性があることです。たとえば、元夫が再婚後死亡した場合には、元夫の再婚相手(とその夫婦の子)が家を相続することになるので、全く無関係の人と家を共有することになってしまいます。共有不動産の処分は、共有者全員の承諾を必要とするのが原則なので、見ず知らずの他人との関係が原因で、「家を処分したくてもできない」という自体にもなりかねません。また、共有者には「共有物の分割」を求められる権利があるので、予期しないタイミングで共有物の分割を求められるトラブルに巻き込まれる可能性も生じてしまいます。
3、家がオーバーローンである場合の注意点
マイホームを購入するほとんどの人は住宅ローンを組んでの購入となりますので、離婚の段階では「住宅ローンが残っている」というケースも少なくありません。このような場合にマイホームの財産分与を行うためには、ローン債権者との調整が必須となります。
特に、ローンの残額が家の評価額よりも大きい場合(これをオーバーローンの状態といいます)には、ローン債権者である銀行などとの交渉がうまくいかない可能性が高くなるので注意する必要があります。
(1)売却には住宅ローン債権者の同意が必要
住宅ローンを完済する前に家を売却するときや、名義人を変更するときには、住宅ローン債権者(金融機関)の同意が必要となります。住宅ローンの残った家には、債権者のために担保(抵当権)が設定されているからです。
家の売却代金(+工面できる自己資金)でローン残債務を完済できる場合であれば、ローン債権者の同意は得られやすいといえますが、家の評価額(売却代金)がローン残債務よりも低すぎる(オーバーローンの状態といいます)にあることで、家を売却してもローンだけが残ってしまう場合には、売却や名義人の変更についてローン債権者が承諾をえられない場合が少なくありません。
そのため、「離婚するから家を売りたい」と思っていても「思うように家を売れない」という離婚夫婦も少なくないのです。
(2)「任意売却」という売却方法
住宅ローン債権者の同意が得られないという場合でも、「任意売却」と呼ばれる手法を使えば、オーバーローンの状態にあるマイホームでも売却できる場合があります。
任意売却とは、裁判所の強制競売を背景に通常の方法での物件売買に応じてもらいやすくする方法です。強制競売になれば売却額がいくらになるかを問わず抵当権は抹消されてしまうため、それよりも高い金額で売却できる可能性のある通常の方法での売却にも同意してもらいやすくなるというわけです。
また、家を売却した後に残ったローンの残債の返済についても家の売却とあわせてローン債権者と交渉できる点にもメリットがあります。しかし、任意売却を行うためには、裁判所による強制競売がなされうる状況を作り出す必要があるため、住宅ローンを滞納しローンを強制解約される状況を作り出す必要があります。
そのため、信用情報の悪化(いわゆるブラックリスト入り)などのデメリットがある点には注意しておく必要があります。
4、家を出て行く側がローンを払い続ける方法の注意点
住宅ローンが残っている状態で、夫婦の一方が家に住み続け、家を出ていく方がローンの支払いを続けるということもできます。この方法は、「慰謝料や養育費の代わり」に家を出て行く側がローンを払い続けるという形で選択されることも珍しくありませんが、これから解説するようなリスクがあることに注意しておく必要があります。
(1)別れた配偶者がローンの支払いを怠るリスク
たとえば、離婚後、元妻と子が住宅ローンのある家に残り、元夫が出ていきローンの支払いをするといったケースでは、元夫がローンの支払いをしなくなるリスクがあります。
離婚をして新たな住居を借りたり、購入するためにも費用はかかりますし、独身になると家族で一緒に暮らしていたときよりも生活費の負担が重くなることも珍しくありません。
また、ローンを支払う元夫が再婚し、新しい家族との生活を優先せざるを得ない状況になることもあるでしょう。さらには、元夫にローンを支払う気持ちがあったとしても、病気で収入が減ったり、失業してしまってローンを支払えなくなることも考えられます。
特に、若い世代の夫婦が離婚する際には、ローンの残額も多く残りの支払期間も長くなるので、離婚後の事情変化によってローン返済が滞ってしまうリスクも高くなるといえます。そもそも「自分が住むことのない家」のローンを支払い続けることそれ自体がかなり重い負担であることも忘れるべきではないでしょう。
(2)突然家を差し押さえられてしまうリスク
元配偶者が住宅ローンの支払いを怠ってしまうと、ある日突然、こちらの予想していないタイミングで家を差し押さえられてしまうこともありえます。
離婚をすれば、元配偶者との関係が希薄になることは少なくありませんので、ローンの返済が苦しい(できなくなった)ということについて事前の連絡を得られないことも珍しくありません。また、離婚に伴って連帯保証人から外れてしまったような場合には、債権者からもローンの支払いに滞納があることの連絡はこない場合の方が多いからです。
連帯保証人となっている場合であっても、主債務者である別れた配偶者が住宅ローンの期限の利益を失い債権者からローン残額の一括返済を求められてはじめて滞納に気づくということも多いので、安心しきってしまうのは危険といえます。
まとめ
夫婦にとってマイホームはとても重要な財産です。生活の拠点としてだけではなく、精神的なこだわりがあるケースも珍しくないので、その分け方をめぐってトラブルになることも珍しくありません。そもそも、財産分与を巡ってこれから離婚する配偶者と話し合いをすることそれ自体が苦痛・負担と感じる人も多いといえます。
離婚についての配偶者との交渉を弁護士に依頼すれば、これらの負担を大幅に減らすことが可能なだけでなく、公平な財産分与を実現できるようになります。特にマイホームの財産分与は、その分割方法も慎重に選択して対応すべき場合が少なくありませんから、専門知識のある弁護士に相談しておくことは、後のトラブルを回避する意味でも非常に重要といえます。