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違法収集証拠とは?証拠があっても無罪となるケースとその理由を弁護士が解説

違法収集証拠とは?証拠があっても無罪となるケースとその理由を弁護士が解説

被告人を有罪とするに足りる証拠がある場合であっても、その証拠を収集する捜査手続きに違法性がある場合、「違法収集証拠」として刑事裁判の審理で排除されることがあります(このようなルールは「違法収集証拠排除法則」と呼ばれています)。この場合、ほかの証拠で被告人の有罪を証明できなければ、無罪判決が言い渡されます。

一般の方から見れば、たとえ捜査手続きに違法性があったにせよ、被告人が罪を犯したのが明らかなのに無罪とすることに疑問を感じるかもしれません。

しかし、法律家の間では、違法収集証拠排除法則は常識的なルールとして用いられています。

今回は、

  • 違法収集証拠はなぜ排除されるのか
  • 違法収集証拠が排除されるのはどのような場合か
  • 被告人の立場として違法収集証拠を争うためにはどうすればよいのか

といった問題について解説していきます

この記事がご参考になれば幸いです。

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1、違法収集証拠とは

違法収集証拠とは

違法収集証拠とは、捜査機関の違法な捜査手続きによって収集された証拠のことをいいます。

捜査手続きの違法性が重大であり、その証拠によって被告人の有罪を認定することが将来の違法な捜査を抑制する見地から相当でないと認められる場合に事実認定の資料から排除するルールのことを「違法収集証拠排除法則」と呼びます。

被告人が話したことを記録した「供述証拠」の場合、例えば、供述を得る過程で違法な手段が用いられた結果、供述者の意思に沿わない供述がなされるというような可能性も想定されることから、違法に収集された証拠の価値には疑義が生じうると考えられます。一方、証拠物などの「非供述証拠」については、収集手続きが違法であったとしても、その証拠物等の有する証拠としての価値自体には違いはないと考えられます。

それにもかかわらず、非供述証拠も含めて違法に収集された証拠が排除されるのはどうしてなのでしょうか。

(1)証拠の収集手続きには厳格なルールがある

まず、供述証拠については、強制、拷問又は脅迫による自白等、任意にされたものでないと疑われる自白について、証拠とすることができないことが憲法及び刑事訴訟法で定められています(日本国憲法第38条2項 、刑事訴訟法319条1項)。

それに対して、非供述証拠については、証拠とすることができない場合について、明文の規定はありません。

しかし、憲法第31条では何人も適正手続きによらなければ処罰されないことが保障されており、憲法第35条では何人も裁判官による令状がなければ証拠の押収について強制捜査を受けないことが保障されています。

捜査機関が証拠を収集する手続きに違法性があった場合に厳しく対処しなければ、憲法で保障されたこれらの基本的人権が容易に侵害されてしまいます。

そのため、証拠を収集する手続きには厳格なルールが刑事訴訟法などで定められており、捜査機関はそのルールを遵守しなければならないのです。

(2)違法収集証拠は証拠能力が否定されうる

捜査機関が違法な手続きで証拠を収集した場合、上記の基本的人権を守るために捜査機関に科すべきペナルティとしては、その証拠を刑事裁判の事実認定の資料から排除することが効果的です。なぜなら、裁判において証拠として使用できないとなれば、捜査機関にとって違法な手続きを行ってまで証拠を得る意味はなくなるため、結果として違法な捜査が抑止されることとなると考えられるからです。

しかし一方で、捜査手続きにわずかでも違法性があれば証拠が排除されるとすれば、真実の発見が困難になってしまいます。罪を犯した犯人に対して刑罰を科すことも、国家の重要な職責に違いありません。

そこで、基本的人権の保障と国家の刑罰権の実現という2つの重要な要請のバランスをとるため、判例では、一定の条件のもとで違法収集証拠の証拠能力を否定すべきと判断されています。

すなわち、捜査手続きの違法性の程度が令状主義(憲法第35条)の精神を没却するほど重大なものであり、その証拠を事実認定の資料として許容することが将来の違法な捜査を抑制するために相当でないと認められるときに限り、証拠能力が否定されるとされています(最高裁昭和53年9月7日判決や、後の項でご紹介する最高裁平成15年2月14日判決)。

証拠能力が否定されるというのは、刑事裁判における事実認定の資料から排除されることを意味します。

2、違法収集証拠は大きく分けて3種類

違法収集証拠は大きく分けて3種類

刑事裁判における証拠能力が問題となる違法収集証拠には、大きく分けて3種類のものがあります。

「供述証拠」と「非供述証拠」があることは既にご紹介しましたが、そのほかに「派生証拠」もあります。

ここでは、これら3つの証拠について、違法に収集された場合に証拠能力が否定される理屈をそれぞれご説明します。

(1)供述証拠の排除

供述証拠とは、人が話した(供述した)ことが事実認定の資料となるもののことをいいます。
供述調書や弁解録取書、陳述書などの証拠書類のほか、法廷での証人尋問や被告人質問における供述も供述証拠となります。

そのような供述証拠の中でも、度々その収集過程の違法性が問題となるものとして、被告人の自白に関するものが挙げられます。

違法な捜査手続きによって得られた疑いがある被告人の自白については、「任意にされたものでない疑のある自白」として、憲法第38条2項及び刑事訴訟法第319条1項によって証拠能力が否定される可能性があります。

刑事訴訟法第319条1項には、憲法第38条2項の規定を補う形で次のように定められています。

第319条1項 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

引用元:刑事訴訟法

強制や拷問、脅迫、不当に長い抑留や拘禁は違法な捜査手続きの例示です。

この規定のポイントは「任意にされたものでない疑のある自白」の証拠能力を否定しているところです。
任意性に疑いがある自白は虚偽の内容である可能性が高いため、証拠として採用されるとえん罪が発生するおそれがあります。

また、任意性に疑いがある自白がなされる過程では適正手続きが保障されていない可能性もあり、このような自白を裁判所が証拠として許容してしまうことは、将来の違法な捜査を助長することにつながりかねません。

なお、このように任意性に疑いがある自白を証拠から排除するルールのことは特に「自白法則」と呼ばれています。

(2)非供述証拠の排除

非供述証拠とは、人が話した内容を記録した証拠以外の証拠のことをいいます。典型例として、証拠物が挙げられます。

例えば、殺人事件における凶器や、犯行現場の状況を撮影した写真などが非供述証拠に該当します。

違法に収集された非供述証拠については、前記「1」でご説明したとおり、憲法第31条による適正手続きの保障及び憲法第35条による令状主義の精神に照らして、捜査手続きの違法性の程度が令状主義の精神を没却するほど重大なものであり、その証拠を事実認定の資料として許容することが将来の違法な捜査を抑制するために相当でないと認められる場合には証拠能力が否定されます。

(3)派生証拠の排除

派生証拠とは、違法に収集された証拠(一次的証拠)に基づいて発見された二次的証拠のことをいいます。

その証拠の直接的な収集手続きに違法性がなくても、前提となる捜査手続きに違法性があれば、無条件に証拠として許容するのは相当ではありません。

しかしながら、証拠収集手続きの違法性が軽微な場合や、違法行為とは無関係な捜査活動によって証拠を入手した場合及びその証拠の発見と違法行為との因果関係が乏しいと認められるような場合にまで証拠能力が否定されると、国家の刑罰権を適正に実現することができなくなってしまうおそれがあります。

そこで、派生証拠の証拠能力を否定すべきか否かは、一次的証拠に関する収集手続きの違法性の強さや、派生証拠の重要性、違法に収集された一次的証拠とそこから得られた派生証拠との関連性の程度等を考慮して判断すべきものと考えられています。

3、違法収集証拠が排除される要件

違法収集証拠が排除される要件

どのような場合に違法収集証拠が排除されるかについてはこれまでの説明で明らかとなっていますが、ここで改めて整理します。

違法収集証拠が排除される要件は、大きく分けて次の2つです。

(1)重大な違法性があること

1つめの要件は、捜査手続きに令状主義の精神を没却するような重大な違法性があることです。

例えば、人の自宅内を捜索して証拠物を差し押さえるためには、原則として裁判官による捜索差押え令状が必要です。この令状なしに捜査機関が被疑者の自宅に立ち入って覚せい剤を発見したような場合は、令状主義の精神を没却する重大な違法性があると考えられます。

そして、そのような捜査によって得られた覚せい剤が違法収集証拠に該当すると判断された場合、捜査機関が押収した覚せい剤は、刑事裁判で証拠能力が否定されることになります。

(2)排除することが相当であること

2つめの要件は、その証拠を事実認定の資料から排除することが相当であることです。

そして、上記の証拠収集の違法性の程度も考慮しつつ、その証拠を事実認定の資料として許容することが将来の違法な捜査を抑制するために相当でないと認められる場合には、この相当性の要件を満たすものと考えられます。

同じような違法捜査が将来も繰り返されると国民の基本的人権を適切に保障することが期待できなくなるため、このような場合には証拠から排除されるのです。

4、違法収集証拠が排除された実例

違法収集証拠が排除された実例

捜査機関が証拠収集手続きにおいて違法行為に至ることはあります。しかし、実際には刑事裁判で違法収集証拠が排除されるケースは多くありません。なぜなら、違法収集証拠が排除される要件として「令状主義の精神を没却するほどの重大な違法性があること」が求められているからです。

そのため、実際の裁判例では証拠収集手続きに違法性が認められるものの、証拠を排除すべきほどの違法性はないと判断されたケースが数多くあります。

それでも、ときには違法収集証拠が排除されるケースもあります。ここでは、そんな実例を3つご紹介します。

(1)逮捕状を呈示せず逮捕した事例(最高裁平成15年2月14日判決)

警察官が、窃盗容疑の被疑者を、逮捕状を呈示せずに逮捕したことを理由として、その逮捕の当日に採取された被疑者の尿や、その尿に関する鑑定書の証拠能力を否定した事例があります。

この警察官は捜査報告書には逮捕時に逮捕状を呈示したという虚偽の内容を記載し、公判廷でも「逮捕時に逮捕状を呈示しました」と事実に反する証言をしました。

逮捕当日、被疑者が任意に提出した尿から覚せい剤成分が検出されたことから、その5日後、警察は捜索差押え令状により被疑者の自宅から覚せい剤(派生証拠)を押収しました。

最高裁は、本件逮捕手続きには重大な違法があり、本件逮捕と密接に関連する証拠である被疑者の尿及びその尿に関する鑑定書の証拠能力について、将来の違法捜査抑制の見地からもこれを否定すべきであると判断しました。

もっとも、その後の覚せい剤及びその鑑定書については、押収手続が令状によって行われていることや、上記の違法な逮捕とのと密接な関連はないこと、それらの証拠の重要性等の事情を考慮し、証拠能力を認めました。

このように、違法収集証拠の排除について最高裁は限定的に判断しています。しかし、この判例は最高裁が違法収集証拠の排除を認めた初の事例として意義があります。

(2)証拠物の証拠能力が否定された事例(東京地裁令和2年3月18日判決)

一方、各地の地方裁判所ではより積極的に違法収集証拠排除法則が適用されています。
一例として、被疑者が所持していた大麻の押収手続きに重大な違法性があるとして無罪が言い渡された東京地裁の最近の裁判例があります。

この事例では、アメリカ国籍の被疑者に警察官が職務質問をする際、被疑者を壁に強く押し付けたり、地面に投げ倒したりしました。さらに、その後、警察官は、不法残留を理由として被疑者を逮捕し、その逮捕に伴う捜索差押えという名目で、別件である大麻所持の嫌疑に関する捜索を行いました。このような捜査の結果、大麻が発見されたため、警察官はこれを差し押さえました。

判決では、警察官が令状によらずに被告人を制圧してその自由を制約して過度に留め置いたこと、さらには、必要性を十分に検討せずに被疑者を不法残留によって現行犯逮捕した上、令状なく、別件の大麻所持に関する捜索差押えを行い、暴行にも該当しうる行為を繰り返したことなど、警察官が様々な違法を重ねていることを踏まえ、証拠である大麻の収集手続きには重大な違法があるとして、押収した大麻等の証拠能力を否定し、無罪が言い渡されました。

(3)派生証拠を排除した事例(京都地裁令和元年10月29日判決)

京都地裁では、派生証拠の証拠能力を否定して無罪判決が言い渡された事例があります。

この事例では、覚せい剤使用罪の被疑者の自宅に、警察官が令状も被疑者の同意もなく、さらに有形力を行使しつつ立ち入り、被疑者の両腕を撮影する等の捜査を行いました。

後日、強制採尿令状に基づいて行われた尿検査で覚せい剤成分が検出されたことから、被疑者は覚せい剤使用罪で起訴されました。

判決では、警察官の被疑者宅への立入り行為や被疑者の両腕を撮影した行為等、警察官の捜査手続きに重大な違法があり、その後の強制採尿手続も、そのような重大な違法のある捜査に関する報告書をもとに認められたものであることから、やはり重大な違法があるものと判断されました。その結果、被疑者宅での捜査に関する捜査報告書や、その後の強制採尿手続によって得られた尿の鑑定書等(派生証拠)は違法収集証拠に当たるとして証拠能力を否定し、被告人に対して無罪を言い渡しました。

5、違法収集証拠を争う方法

違法収集証拠を争う方法

では、違法な捜査によって起訴された被告人の立場として違法収集証拠を争うためにはどうすればよいのでしょうか。

捜査機関が自ら捜査手続きの違法性を認めれば難しいことはありませんが、捜査手続きに違法な点はなかったと主張してくる可能性もないわけではありません。
そのような場合には、違法な捜査が行われたことを弁護人から主張しなければなりません。

その方法としては、問題となる捜査手続きに関わった関係者の証人尋問を公判廷で行ったり、捜査での証拠の収集過程を記録したりしておくことなどが考えられます。

(1)関係者の証人尋問

例えば、上記「4(3)」の京都地裁の事例であれば、令状なしに被疑者の自宅に立ち入って被疑者の両腕を撮影した捜査員の証人尋問を行うことが考えられます。

刑事裁判では検察官が有罪を立証する責任を負っており、そのような立証のために検察官が用意した証人の尋問においては、まずは検察官が主尋問を行います。検察官の尋問に対して捜査員は、適法に捜査したことを供述するかもしれません。

それから、弁護人が反対尋問を行います。

この反対尋問の目的は、捜査員が令状なしに被疑者の自宅に立ち入ったことや、立ち入りについて被疑者の同意がなかったこと、立ち入りについて緊急の必要性もなかったことなどを明らかにすることです。その際、弁護人は「適法に捜査した」という捜査員の供述の信用性を疑わせる具体的な事実について、質問していくこととなります。

また、裁判官からも、気になった点について補充尋問が行われます。

以上の証人尋問に併せて、被告人質問も行われます。
被告人質問では弁護人、検察官、裁判官の順に、被告人に対する質問が行われることとなります。

裁判所は、これらの証人尋問や被告人質問におけるそれぞれの供述の信用性及びその他の証拠等を総合的に考慮して、問題となっている証拠が違法収集証拠に該当するか否かの判断を行います。その結果、違法収集証拠に該当するとの判断がなされれば、その証拠の証拠能力は否定され、判決にあたっての判断材料から除かれることとなります。

そして、その他の証拠のみで被告人の有罪を立証できない場合は、被告人に対して無罪判決が言い渡されます。

(2)証拠の収集手続きを記録しておく

違法収集証拠の証拠能力を刑事裁判で争う方法は以上のとおりです。しかし、当事者の供述以外に有力な証拠がないような場合には、結局は言った・言わないの問題になってしまい、捜査手続きの違法性を弁護人が立証するのは容易ではないのが実情です。

そのため、違法な捜査が行われた証拠をできる限り客観的な形で確保しておきたいところです。

できれば、捜査員とのやりとりをボイスレコーダーで録音したり、スマホで動画撮影しておくと有力な証拠となりえます。録音・録画ができなかった場合は、その日のうちにメモでもよいので捜査の状況を記録しておくことです。

逮捕・勾留されてしまった場合は、被疑者ノートにしっかりと記入しましょう。被疑者ノートの記載が、違法な取り調べ状況の立証に役立つこともありえます。

6、証拠の収集手続きに疑問を感じたら弁護士に相談を

証拠の収集手続きに疑問を感じたら弁護士に相談を

一般の方にとっては、警察官が行う捜査手続きのどこまでが適法でどこからが違法なのかを正確に判断することは難しいでしょう。そのため、疑問を感じたらすぐに弁護士に相談することが望ましいです。

逮捕される前に弁護士に相談すれば、違法な捜査方法について弁護士から捜査機関に苦情を申し入れるなどによって、逮捕を避けることが可能な場合もあります。

逮捕・勾留されて、いったん起訴されてしまうと、刑事裁判で捜査手続きの違法性を争うことは容易ではありません。そのため、できる限り逮捕前に弁護士に相談することが望ましいです。もちろん、逮捕・勾留された後も弁護士を呼んでアドバイスを受けることで、違法な取り調べを抑制することも期待できます。

まとめ

違法収集証拠は、被疑者・被告人の人権を侵害する違法な捜査手続きによって収集された証拠です。このような違法な捜査手続きは本来、決してあってはならないことです。

しかし、現状、違法な捜査が行われることが全くないとは言い切れず、仮に違法な捜査が行われたとしても、被疑者・被告人側から異議を唱えなければそのまま捜査が進められてしまい、結果的に起訴されて有罪となってしまう可能性もあります。

ただ、違法な捜査を行う捜査機関に対して一人で立ち向かうことは困難です。捜査手続きに疑問を感じたら、すぐに弁護士に相談されることをおすすめします。

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