「熟年不倫」という言葉を皆さんは知っていますか?
2007年4月から年金分割制度が変更になり、婚姻期間中に納めた年金を夫婦で折半できるようになったことで、経済的な理由で離婚を躊躇していた熟年夫婦の妻からの熟年離婚の請求が増えています。
また、離婚時期による損得があるため、「夫の退職金が出てから」や「加給年金が加算される65歳になってから」といった理由で、離婚待ちの夫婦もいます。
このような社会制度的な背景が関係しているのか、明確にはわかりませんが、熟年不倫が増えているという問題がメディアで取り上げられることも少なくありません。
今回は、多くの男女問題に関わってきたベリーベスト法律事務所の弁護士監修の上で、
- 熟年不倫の実態や防止策
- 熟年不倫のメリット・デメリット
- さらに熟年不倫の先にある熟年離婚
について解説していきます。ご参考になれば幸いです。
目次
1、熟年不倫の実態
相模ゴム工業株式会社が全国47都道府県の20代~60代の男女を対象に実施した「ニッポンのセックス」の調査結果を元に、熟年不倫の実態について分析してみます。
(1)不倫経験率はどうなのか?
若くて遊びたい盛りの20代の不倫経験率が一番高いのではと予想されるかもしれませんが、30代40代の女性の方が不倫経験率は高いようです。
医学的には、女性は35歳を過ぎると女性ホルモンの分泌が減退する一方で、男性ホルモンの働きが活発になり性欲が強くなると考えられています。そのため、30代40代の女性の性欲は若い頃よりも強くなるようです。
結婚している20代の女性は育児が忙しくて時間的な余裕がありませんが、40代の女性は育児がひと段落して時間を持て余しています。性欲の強さと時間的な余裕が相まって不倫をしてしまう人が多いと考えられます。
また、働く女性の半数を超えて6割近くの人が不倫を経験したことがあるそうです。仕事をしている女性の半数以上が不倫経験があるというデータは、テレビドラマや小説の中だけでの話ではないことを如実に表しています。
(2)不倫相手とどこで知り合ったのか?
女性が不倫をする相手とどこで知り合ったのか気になるかと思いますが、一番多いのは職場というデータがあります。2割以上の女性は同じ職場の人と不倫しているそうです。
仕事をしている女性は職場で1日のうちの多くの時間を過ごすため、同じ職場の人とは親密になりやすいのでしょう。また、既婚の女性は休みの日に遊びに出かけることはほとんどないので、職場の上司・同僚などと不倫関係になってしまうのかもしれません。
(3)不倫相手とどれくらいの期間交際しているか?
不倫相手と交際した期間は、全体の7割以上が1年以上となっています。しかも5年以上という長期間にわたって不倫関係を継続している場合は、25%以上という調査結果が出ているのです。普通の恋愛でも5年以上続くことはそれほどないでしょう。
(4)これまで何人と不倫したのか?
不倫というと経験人数は多いと想像しがちですが、70%以上の人は2人以下としか不倫したことがないのです。多くの相手と不倫をするのではなく、決まった相手と不倫を続けるということが多いようです。決まった相手とだけ不倫するのであれば、仕事をしていても長く関係を続けることができるでしょう。
2、熟年不倫が増えている背景
熟年不倫が増えている背景にはインターネットの普及が大きく影響していると言われています。家庭でインターネットに気軽に接続できるようになり、スマホや携帯電話を1人1台は所有しています。インターネットが普及する以前であれば、個人間の連絡手段としては自宅の電話か手紙、対面などしかありませんでした。
現代はインターネットを使えばメールでいつでもどこでも会う約束ができ、気軽にコミュニケーションがとれるようになりました。特にソーシャルメディアを使ってコミュニケーションするようになり、個人と個人が親密な関係になるのが簡単になっています。このような環境の変化が、熟年不倫の増加に大きな影響を与え後押ししていると考えられます。
3、熟年不倫のきっかけ・原因
熟年不倫に走ってしまうきっかけとしては、以下のようなことが考えられます。
(1)若いうちから不倫をしていて
不倫し始めたのが若い時で、熟年になるまで配偶者にばれずに惰性で関係を続けているということがあります。離婚はしていませんが、実質的な夫婦生活は破綻している場合がほとんどです。
(2)軽い気持ちから
最初から不倫をしようとしていたわけではなく、軽い気持ちで不倫関係になることがあります。同窓会で久しぶりに会った同級生や趣味のサークルの仲間と不倫関係になるケースが多いようです。
(3)新しい刺激を求めて
熟年になると日々の生活がマンネリ化して新しい刺激を求めるようになり、その気はなかったのに不倫をしてしまうことがあります。特に配偶者とセックスレスになっていると、性的な刺激を求めてしまうようです。
(4)理由のない物足りなさ
これといった悩みがあるわけではないのですが、何となく自分の人生に物足りなさを感じることが熟年になるとあります。特別な理由はないのですが、何となく不倫に走ってしまうというパターンです。
(5)時間的余裕ができたから
育児が終わって子離れした時期がちょうど熟年期で、時間的な余裕ができて不倫をしてしまうパターンがあります。子供と同居していなければ、罪悪感も薄れるようです。
(6)お金に余裕ができたから
熟年期になると育児も終わっているので金銭的な余裕があります。デートで食事をしたり贈り物をしたりするのにお金がかかりますが、お金に余裕があると不倫しやすいのでしょう。
(7)介護に疲れたから
自分が熟年になる頃には、実の親も義理の親も高齢になっていて介護をしていることがあります。介護は仕事のように終わりというものはないため、肉体的・精神的な苦痛や疲れは相当なものです。介護に疲れて精神的な支えを配偶者以外に求めて、不倫に走るパターンがあります。
(8)家庭内で精神的あるいは肉体的な暴力を受けたから
家庭内でパートナーから精神的あるいは肉体的な暴力を受けたことが原因で、パートナー以外の異性に魅力を感じるようになることがあります。精神的な支えが欲しくて不倫をしてしまうわけです。
4、熟年不倫の予防策
人はいくつになっても異性に好意を抱くもので、若者であろうと熟年であろうと関係ありません。好意を持つだけならいいのですが、不倫に走ってしまい夫婦関係が破綻するのは避けたいところです。ここでは、熟年不倫を予防するための予防策をいくつか紹介します。
(1)よく話し合いをする
長年連れ添っていると夫婦の間でコミュニケーションが不足してくるので、積極的に話し合いをすることが大切です。今何を考え、将来どうするのかについてじっくりと話して理解し合うようにしましょう。
(2)共通の楽しみを持つ
旅行やスポーツなど共通の趣味を持って、一緒に過ごす時間を持つようにしましょう。
(3)手紙を書くようにする
手紙を書く習慣をつけるようにしましょう。最初のうちはあいさつだけでもかまいませんが、慣れてきたら相手への想いを書くといいでしょう。
(4)興信所などへ相談する
パートナーが不倫をしているのではないかと感じるのであれば、興信所などへ相談して確認してみるといいでしょう。専門家に調査してもらって早い段階で対処できれば、元の円満な夫婦関係を回復できることもあります。
5、熟年不倫を見抜く方法
不倫をしているかどうかは携帯電話やスマホを見れば簡単に見抜けることが多いのですが、手放さずに持っている人がほとんどなので見るのは難しいでしょう。他の不倫を見抜く方法としては、以下のようなところをチェックしてみることをおすすめします。パートナーが不倫をしていることが見抜ける可能性があります。
(1)持ち物
浮気の兆候が現れやすいが持ち物です。パートナーの持ち物から浮気しているかどうかがわかります。
①財布
普段からパートナーの財布の中の状態を把握しておくことは大切です。いつもはなかったホテルやレストランのレシート・会員カードがあれば、不倫をしている可能性があるでしょう。
②通勤で使っている交通ICカード
パートナーが通勤手段として電車を使っている場合は、交通ICカードの履歴をチェックすると不倫をしているかどうかチェックできます。専用のアプリを使えば、自宅のパソコンから履歴を調べることが可能です。
③通勤かばん
通勤かばんの中から不倫相手と会っていることの証拠が発見できることがあります。財布に入らない大きさのものが、通勤かばんの中に隠されていたりすることがあります。
例えば、あまり身だしなみを気にしなかった人のかばんの中に、歯磨きセットや口臭の消臭剤があると不倫をしている可能性があるでしょう。
④新しいアクセサリー
新しいアクセサリーを身に着けていると不倫をしている可能性があるでしょう。ネックレスやブレスレッドなどを不倫相手とペアで身に着けていることがよくあるのです。
(2)見られたくないものを隠す場所
用心深い人は不倫の証拠となるものを隠すことがあります。パートナーに見つからないように、隠す場所はだいたい決まっています。不倫の証拠となるものを探したい場合は、以下の場所を探してみると発見できる可能性があるでしょう。
①カバン類
- 旅行用カバン、トランク
- ゴルフバッグ
- いつもは使わないバッグ
- 鍵のかかるカバン
②自家用車の中
③パートナーの個室
- ベッドの下
- クローゼットや押入れの中
- 段ボールの中
- アルバムの間
- 机の引き出しの中
- 本棚
- CDやDVDのケース
- パートナー専用のパソコン周辺
④女性限定の場所
- 台所の棚の奥
- 洗濯機周辺
- 冷凍庫の奥
- 化粧品の置いてあるところ
6、熟年離婚も増えている
近年、熟年離婚は増加しています。定年退職を迎えた団塊の世代の人口が多いというのが単純な理由です。
また、夫の厚生年金部分を分割して妻も受給できる年金分割制度が始まったことも影響していると考えられます。以前は、熟年になって離婚すると専業主婦である妻のもらえる年金は少なかったため、離婚に踏み切れないという状況がありました。
本心では離婚したいと思っても、老後の生活のことを考えると離婚ができないという状況でした。年金を一部分割してもらえるのなら、生活のことを気にしなくていいので離婚に踏み切るわけです。
さらに夫が定年退職を迎える頃には、子供も独立して夫婦二人きりになっています。夫に対する不満を我慢することもないので、離婚に踏み切るハードルは低くなっています。
このような理由から、夫の定年退職のタイミングで離婚に踏み切る妻が増加しているのが現状です。
7、熟年離婚のメリットとデメリット
長年連れ添ってきた夫婦が熟年になって離婚することを決断することは大変勇気のいることです。熟年離婚のメリットとデメリットをしっかりと考慮する必要があります。
(1)熟年離婚のメリット
①自由になる時間が増える
離婚すると自由な時間が増えます。パートナーがいると相手に合わせなくていけませんが、離婚すれば自分の好きな時に好きなことができます。
②自分を犠牲にしなくてもよくなる
実の親や義理の親が高齢になって介護する必要が出てくると、専業主婦である妻が負担させられることがよくあります。離婚することで、介護するために自分を犠牲にすることもなくなります。
③新しい出会いがある
熟年期になると子供は別居していることが多く、新しい出会いもあり熟年でも恋愛することもできます。
(2)熟年離婚のデメリット
①パートナーがいないことへの精神的な負担が大きくなる
何十年も一緒に生活してきたパートナーと離婚すると、パートナーがいなくなったことに対する精神的な負担が大きくなることがあります。離婚した後にパートナーに対する情を感じ、大切なものを失ったことに気がつくというパターンです。
②いざという時にだれも自分を助けてくれない
若いうちは一人でも不自由はありませんが、熟年になると病気になったりちょっとしたことでケガをしたりします。そんなときにパートナーがいれば助けてくれますが、離婚して一人だとだれも手助けしてくれません。
③日々の生活でパートナーに頼れなくなる
離婚する前は分担していた家事をすべて自分だけでしなくてはならなくなります。今まで自分でしていなかった家事をするのは、時間的・精神的な負担になります。
8、離婚とお金
離婚してすぐに直面するのがお金の問題です。ここでは離婚により発生するお金の問題について解説します。
(1)財産分与
離婚という法律上の手続きを行うと財産分与を行わなくてはなりません。財産分与とは、結婚している間に夫婦が協力して築き上げた財産を、それぞれが貢献した度合いに応じて(原則として2分の1ずつに)分割することです。離婚する時に、相手に対して財産を分配するように請求することができます。
財産分与の対象になるのは、夫婦が結婚している間に協力して築き上げた共有財産です。単純に名義がだれかということで判断するのではなく、実質的に夫婦で協力して財産を築き上げたかどうかで判断します。
例えば、夫婦が共同して購入した不動産、一緒に生活していた住宅の家具など家財一式などは財産分与の対象です。また、自動車、預貯金、株式、保険返戻金などは、名義がだれかではなく、夫婦で協力して財産形成したかどうかという実質的な判断がされます。
ここで問題になるのが、退職金が財産分与の対象となるかということです。退職金は後で払う給料という性質を有しているため、原則として財産分与の対象になります。ただ退職金は会社の経営状態によっては、将来支払われない可能性もあります。
そのため、退職金の支払いが確実になった時点で財産分与の対象になるとされています。また退職金すべてが財産分与の対象となるわけではなく、婚姻期間に応じて対象となる金額は変動します。
(2)年金分割
年金分割制度とは、離婚した後に夫の年金の一部を分割して妻が受け取れるという制度です。この制度の趣旨は、熟年離婚した会社員だった夫と専業主婦の妻との間で公平な年金の分割を実現させることです。
注意しなくてはならないのは、この制度は厚生年金と共済年金だけを対象としているということです。つまり、国民年金や厚生年金基金、国民年金基金などは対象となりません。そのため、夫が給与所得者以外の自営業者の場合は、制度を利用するメリットはないのです。
(3)慰謝料
離婚によって精神的な苦痛やダメージを受けた場合には、離婚した相手に対して慰謝料を請求することができます。離婚する原因を作った配偶者に対して慰謝料は請求できますが、どんな理由でもよいわけではありません。単なる性格の不一致や価値観の違いなどが理由の場合は、慰謝料は請求できません。
パートナーによる暴力や不倫などが理由であれば慰謝料は認められることが多いのですが、基本的には個別の事情を考慮して裁判所が判断します。
なお、不倫が原因で離婚した場合は、不倫をした相手に対しても慰謝料を請求できます。パートナーが結婚していることを知りながら不倫をしたことが、民法の不法行為に該当するため損害賠償できるのです。
(4)婚姻費用
離婚するまでは法律上は夫婦であり、別居していても夫婦はお互いに助け合う義務があります。そのため別居中であっても、夫婦で経済力のある方が生活費などを支払う義務があります。これを婚姻費用といい、婚姻関係が続いている間は支払い義務のある相手へ請求することができます。離婚に向けて話し合いをしている間でも、婚姻費用は請求可能です。
具体的な生活費の金額は当事者の話し合いで決めることになっています。話し合いがまとまらなければ調停という手続により決められますが、それでも決まらない場合は家庭裁判所の審判により決定されます。
調停と審判は家庭裁判所で行われる手続きですが、婚姻費用を算定する資料である婚姻費用算定表に基づいて話し合いが行われることになっています。
9、熟年離婚の損得
熟年離婚をする前に考えなくてはならないのは、離婚するのが得かどうかということです。
専業主婦の方が熟年離婚する場合に妻の立場からすると、夫からもらう生活費と年金の額の関係が重要です。離婚しない場合の生活費と離婚した場合の年金の金額を比較して、どちらがトータルで多いかを見極めることが必要です。夫が長生きしないようであれば生活費はすぐに入ってこなくなりますが、年金は夫が死んだ後でも入ってきます。
「離婚しない場合の生活費<離婚した場合の年金」と予測できれば熟年離婚はお得ですが、「離婚しない場合の生活費>離婚した場合の年金」という予測結果であれば熟年離婚をすると損ということです。
Q&A
Q1.熟年不倫の実態は?
若くて遊びたい盛りの20代の不倫経験率が一番高いのではと予想されるかもしれませんが、30代40代の女性の方が不倫経験率は高いようです。
医学的には、女性は35歳を過ぎると女性ホルモンの分泌が減退する一方で、男性ホルモンの働きが活発になり性欲が強くなると考えられています。そのため、30代40代の女性の性欲は若い頃よりも強くなるようです。
結婚している20代の女性は育児が忙しくて時間的な余裕がありませんが、40代の女性は育児がひと段落して時間を持て余しています。性欲の強さと時間的な余裕が相まって不倫をしてしまう人が多いと考えられます。
Q2.熟年不倫のきっかけ・原因は?
不倫し始めたのが若い時で、熟年になるまで配偶者にばれずに惰性で関係を続けているということがあります。離婚はしていませんが、実質的な夫婦生活は破綻している場合がほとんどです。
Q3.熟年離婚も増えている?
近年、熟年離婚は増加しています。定年退職を迎えた団塊の世代の人口が多いというのが単純な理由です。
また、夫の厚生年金部分を分割して妻も受給できる年金分割制度が始まったことも影響していると考えられます。以前は、熟年になって離婚すると専業主婦である妻のもらえる年金は少なかったため、離婚に踏み切れないという状況がありました。
本心では離婚したいと思っても、老後の生活のことを考えると離婚ができないという状況でした。年金を一部分割してもらえるのなら、生活のことを気にしなくていいので離婚に踏み切るわけです。
まとめ
いかがでしょうか。熟年不倫の実態や防止策、熟年不倫のメリット・デメリット、さらに熟年不倫の先にある熟年離婚について解説しました。今回の記事を参考に、熟年不倫、熟年離婚について真剣に考えてみてください。この記事がお役に立てれば幸いです。