離婚する夫婦の中には、5組に1組が熟年離婚を選ぶというデータがあります(下記グラフ参照)。以前は、妻から熟年離婚が切り出されることが多かったですが、近年では夫からの提案も増えています。
今回は、
- 熟年離婚後の生活の展望
- 熟年離婚の長所と短所
- 熟年離婚の進め方
などについて弁護士がわかりやすく解説していきます。
目次
1、熟年離婚の原因・理由
では、実際に熟年離婚の原因・理由にはどのようなものがあるかをみていきましょう。
なお、熟年に限らない一般の離婚原因については、「離婚原因ランキングと裁判で認められやすい離婚原因」をご参照ください。
(1)相手が自宅にいることがストレス
全世代における離婚原因をずっと抱えてきた夫婦では、この理由が一番多くなってきます。
全世代に共通する離婚原因とは、
- 性格の不一致
- 浮気
- DV、モラハラ
- お酒やお金遣いなどに問題がある
などです。
そんな相手でも、これまでは日中仕事で不在だったことで、すれ違いを利用してなんとかやってこれました。
しかし、そんな相手が定年や引退によって自宅にいる時間が増えてくるー。
これによって、癒しの場であった自宅が一気にストレス空間へと変わるのです。
また、年を重ねるごとに「介護」の恐怖も近づいてきます。
夫婦には法律上「協力・扶助義務」があり、協力し合い、助け合って生活しなければならないという法律上の義務があります(民法第752条)。つまり、夫婦では、先に要介護状態になった方を介護しなければならないわけです。
若いころは遠かったこの義務がどんどんリアルに近づいてくるため、離婚を選択することになるのでしょう。
ずっと我慢してきた相手との関係から目をそむけてきた場合、お互いに(もしくは片方が)「もう無理!」と音を上げるケースです。
(2)会話が辛い
- 会話がない
- 会話が合わない
夫婦でなくても、このような相手は一緒にいて辛いものです。価値観や性格に不一致があると、会話が楽しいものではなく苦痛でしかなくなります。
「この人の前ではもう一生黙っていたい」と思ったとき、なんのために結婚生活を続けるのかわからなくなるのです。
(3)スキンシップがない、セックスレス
スキンシップ不足に相当な不満が続いていれば、すでに離婚をしていたかもしれません。
婚姻期間が20年以上経った今、スキンシップ不足で離婚をしたくなる場合、多くのケースでは「気になる異性ができたとき」と言えます。
触れたくなるような異性に遭遇したとき、今の配偶者と十分なスキンシップができる状態であれば、浮気に走ることはない方でも、今の配偶者と全くスキンシップがないとなれば、いっそのこと離婚をして次の人にアタックしたい、という本能が動き出します。
(4)思いやりを感じない
だんだん身体も疲れが出るようになってくるというのに、若いころと変わらずに家事を押し付けてくるなど、相手の行動に自分への思いやりを感じないというケースは多々あります。
しかし「思いやり」とは本当に難しいもので、わかりやすく思いやりを示せる人は、実はとても少ないかもしれません。「相手のために」と長年尽くしてきた方にとってはこのことがわかりづらく、なぜ自分は尽くせるのに相手はしてくれないのか、と思い詰める方も多いのです。
(5)舅・姑と合わない、介護がつらい
舅や姑といった、配偶者の親とソリが合わないというケースは少なくありません。
結婚当初から合わないというケースもあれば、結婚の途中で何かのきっかけで合わなくなったというケースもありますが、いずれにしても共通するのは長い結婚生活で積もり積もった不満が爆発して離婚に至るということです。
離婚さえすればこの親の介護はしなくてもいいー。
その一心で熟年離婚へ走ります。
ただ、その奥には、親を自分に任せきりな配偶者への怒りもあるのです。
(6)他に好きな人ができた
夫も妻も、他に好きな人ができたことをきっかけに離婚に至ることもあります。
インターネットの普及などもあり、出会いのきっかけも増えています。
やはり、もう愛情の冷めてしまった夫よりも好きな相手といたいと思うものでしょう。
そのような事情もあって、他に好きな人ができたことをきっかけに熟年離婚するケースがあります。
2、熟年離婚に踏み切るきっかけ
「1」で見た原因があっても、踏み切るか踏み切らないかは「きっかけ」があったかどうかにかかってきます。
本項では、熟年離婚に踏み切るきっかけをみていきましょう。
(1)子育てが終わった
「子はかすがい」とよく言われるように、子育てに手がかかるうちは夫婦がお互いに不満を持ちつつも、子どもために我慢しながら協力し合って生活を支える夫婦は数多くいます。
しかし、子供が成人して独り立ちすると夫婦が協力し合う必要もなくなり、それまでにたまっていた不満が爆発して熟年離婚に至るケースもあります。
ただ、子育てが終わったことが必ずきっかけになるわけではありません。
ずっと「離婚したい」と思いながらも、相手が変わってくれることでこれまでの我慢が報われる実感を感じたならば、考え直すケースも多いでしょう。
(2)離婚後の生活費の目処がついた
特に妻側に多いケースとして、今までは離婚後の生活費に不安があったために離婚を思いとどまってきたものの、生活費の目処がつくと熟年離婚を申し出るというケースもあります。
ある程度の貯金が貯まり、夫の退職金も出て、あとは年金分割を請求すれば老後まで生活できそうだという計算ができた時点で、離婚を切り出すのです。
このケースでは、かなり前に離婚を決意していることが多いでしょう。
そのため、これをきっかけとして離婚話はどんどん進めてくることが考えられます。
(3)強烈な夫婦喧嘩
一方にとっては「いつもの」言い合いにすぎなかったかもしれません。
しかし、もう一方にとって、強烈な痛みを負った夫婦喧嘩だと感じた出来事があった場合、これまでの我慢が後押しして熟年離婚の強いきっかけになってきます。
相手がこの喧嘩のどこを特別視したのか、理解できない場合は後戻りは難しいかもしれません。
(4)気になる異性と両想いになった
気になる異性と両想いになったことは、離婚のきっかけの王道です。
「年甲斐もなく」などと罵りたい気持ちもあるでしょう。しかし、もう成人した子どものことを気にすることもないですし、親、職場など周りを気にする立場でもなくなっているのです。自分の気持ちに素直に生きたいと願うのが人間の本能でしょう。
この場合、熟年離婚のきっかけとさせないためには、当該異性の方に負けないことです。あなたがその異性の方に勝てるのは、「長年連れ添った」ということ。つまり、どれだけあなたに情(愛情)をもってもらえるかということになります。
それには、まずはあなたが史上最高の愛情を相手に注ぐことです。
それしか勝てる方法はないと思います。
3、芸能人にみる熟年離婚事情
熟年離婚は、芸能界でも少なくありません。代表的な例をいくつかご紹介します。
(1)ビートたけし・北野幹子夫妻
ビートたけしさんと北野幹子さんは、36年間の結婚生活の末、2019年に離婚しました。
離婚原因はビートたけしさんが18歳年下の女性と親しくなったことだと報道されました。ただ、結婚当初から、ビートたけしさんは自宅に帰ることはあまりなかったとも言われています。
(2)森進一・森昌子夫妻
歌手の森進一・森昌子夫妻は1986年に結婚し、2005年に離婚しました。
離婚原因については、森昌子さんが芸能界に復帰したことだったり、森進一さんの病気が原因だったり、はたまた子供たちに対する教育方針の違いだったりと、様々なことが言われています。
(3)千葉真一・野際陽子夫妻
俳優の千葉真一・女優の野際陽子夫妻は、1972年に結婚し、1994年に離婚するまで、計22年もの間夫婦生活を送っていました。
離婚原因ついては、夫婦それぞれの芸能活動の拠点についての意見が合なかったことが原因だったと言われています。
(4)坂本龍一・矢野顕子夫妻
歌手・音楽家の坂本龍一・矢野顕子夫妻は、1982年に結婚し、2006年に離婚するまで、計24年の夫婦生活を送っていました。
ただ、結婚生活のうち半分以上の14年間が別居状態だったと言われています。
離婚原因については、坂本龍一さん側の女性問題が原因だと言われていたり、はたまた矢野顕子さん側の宗教的な問題が原因だと言われていたりしています。
4、熟年離婚後の末路はどのようになる?
熟年離婚をすると、長年連れ添った夫婦がそれぞれ別の道を歩み始めていくことになるわけですが、熟年離婚後の生活はどのように変わるのでしょうか。
ここでは、男女別にご紹介したいと思います。
(1)男性の場合
男性の場合ですと、金銭的な面で困るということは少ないようです。
まだ現役で働いている人の中には、仕事とともに趣味に時間を費やすなど、日々充実した生活を送っている人も少なくありません。
ただ、仕事一本だったりして、料理や家事をこれまで全て妻に任せっきりだった人の場合ですと、食事は外食ばかりになってしまったりする方もいます。
また、妻に「飲み過ぎ」と言われることもないので、アルコールに依存してしまったりして、結果として、従前よりも健康状態が悪化してしまう方もいらっしゃるようです。
病気になった場合でも、働いている間は職場の人たちに助けてもらえるかもしれません。しかし、いよいよ最期だというとき、絶対にそばにいてくれるという安心できる存在は誰もいないという覚悟は必要かもしれません。
(2)女性の場合
女性の場合、金銭的に困るのではないか・・・
と思われる方が多いようですが、一定の割合で本来もらえるよりも上乗せした金額で年金を受給できるようになりますし、離婚時に財産分与で夫の財産をもらうことから、意外とお金に困ることはないようです。
なお、財産分与については以下の記事を参考にしてみて下さい。
とはいえ、夫が国民年金のみの場合には年金分割は請求できませんし、夫の財産状況によっては財産分与を請求しても、まとまった財産はもらえないこともあります。
熟年離婚して金銭的な不安がある場合には離婚の決断は慎重にした方がよいでしょう。
仕事を探そうにも、経験がなかったり年齢が高かったりするため、正社員として働くことは難しいからです。
その場合、パートで働くことになりますが、パートの収入だけだと正直十分な生活費を手にするのは難しいです。
5、熟年離婚のメリット・デメリット
熟年離婚には、メリットもありますがデメリットもあります。
ここでは、実際に熟年離婚された方の意見も踏まえて、メリット・デメリットをまとめていきます。
(1)メリット
熟年離婚のメリットとしては、「1」で記載した離婚原因に関する問題が解決することが挙げられます。
例えば、「相手が家にいること自体がストレス」であれば離婚することで夫を気にしなくてもいい悠々自適の生活を送れるようになります。
ちなみに、結婚生活を送っている間自分の気持ちを出さないようにしてつらい結婚生活を送っていた方の場合は、離婚することでそれまでの不満や不安から解放されたと口を揃えて言います。
総じて、結婚生活から解放されて自由になり、まだ体力が残っているうちにやりたいことができるようになるというのが熟年離婚のメリットのようです。
(2)デメリット
熟年離婚のデメリットとしては、以下の3点を挙げることができます。
①孤独感
離婚して一旦は喜びを感じるものの、一人での生活が始まりしばらくすると、一人でいることに孤独感を感じ、寂しさのあまり離婚しなければよかったと思う人もいるようです。
また、長年連れ添ったパートナーと別れたことで相手の大切さに気づいたということもあるようです。
②お金がない
前述のように、もし女性が専業主婦だった場合には、特に離婚後の職探しに苦労することが少なくないようです。
いざ仕事を始めようと思っても、年齢が高くなればなるほどなかなか就職できず、結果として収入を得るのが難しい方もいらっしゃるようです。
そのような事態を避けるためにも、十分なお金を確保できるのかを離婚時にきちんと確認しましょう。
③子どもや親族に金銭面で迷惑をかけてしまう
離婚するときには、自分一人でも生活できると思って離婚したものの、実際には生活していくのが難しく、子どもや親族に金銭的な援助を求める方もいらっしゃいます。
自分一人の収入では生活できず結果として、子どもや親族に迷惑をかけて後悔するということもあります。
また、自分に介護が必要となった場合にも、子どもに頼らざるを得ないケースが多いでしょうから、そのときにも後悔するかもしれません。
6、熟年離婚をしても後悔しないための方法
では、熟年離婚をしても後悔しないようにするためにはどのようにしたらいいのでしょうか。
(1)友人や知人との交流をする
先ほど、熟年離婚して後悔した理由の一つに挙げたのが、孤独感でした。
孤独感を感じないためにも、友人や知人と交流する機会を増やして、いざ熟年離婚をしてもご自身の居場所があるようにしておきましょう。
そうすることで、仮に熟年離婚して、長年連れ添ったパートナーと別れて生活をしても、孤独感は軽減されるでしょう。
資金があれば、お好きなタイプの介護施設への入居などでも孤独感の軽減にはなるかもしれません。
(2)離婚後の資金をしっかり蓄えておく
また、熟年離婚をして、離婚後の生活をするのにお金が足りないということが少なくありません。
そのため、熟年離婚をしようとお考えの方は、今後ご自身が誰にも頼らずに一人で生活できるように、しっかりお金を貯めておくようにしましょう。
前述しように年齢が高くなればなるだけ、新たに仕事を探そうしても、年齢の壁が立ちはだかりますので要注意です。
(3)目標を見つけておく
熟年離婚をした後は、パートナーから解放されてゆっくりと過ごしたい…と考える方も多いことでしょう。
もちろん、しばらくの間はゆっくりするのも良いでしょうが、ずっとゆっくりしているだけでは生き甲斐を見つけることはできません。
50代で熟年離婚をしたとすれば、平均してあと30年は人生が残っています。
まだまだ、生き甲斐を持って何らかの活動をすべきではないでしょうか。
そのためには、離婚前からご自身なりの目標を見つけておくことをおすすめします。
目標を持って、いきいきと活動することで孤独感も癒えるでしょうし、新たなパートナーも見つかるかもしれません。
健康状態も良くなり、健康寿命が長引くことにもつながるでしょう。
(4)弁護士に相談する
熟年離婚で後悔しないためには、勢いや感情だけで離婚してしまうのではなく、弁護士に相談してみるのもおすすめです。
夫婦だけで離婚を決める場合、法律的な離婚条件の検討が不十分なケースがよくあります。
例えば、本来なら財産分与で妻が夫から数千万円の財産をもらえるはずなのに、知識が乏しいために数百万円しかもらっていないというケースがあります。
また、数百万円の慰謝料を請求できるケースなのに、請求せずに離婚しているケースも少なくないのです。
今後の生活を充実させるためには、生活費を確保することが重要です。
請求する側の人は、請求できるものはきちんと請求するように、請求される側の人は過度に財産を取られ過ぎないように、弁護士にご相談の上、適切な条件で離婚するようにしましょう。
7、熟年離婚は慎重に
離婚したい方はもちろん、離婚を切り出された方も、熟年離婚は慎重に進めてください。なぜなら、離婚は精神的負担がとても大きいものだからです。
「もう耐えられない」と最終結論のような熟年離婚ですが、もし初めて離婚の話が出ているのであれば、今はある意味「始まり」です。今、相手との話し合いが始まったのです。
二人では話し合いが進められない場合は、弁護士に相談してみてください。
間に入ることで、話し合いがスムーズにいくケースも多いです。
また、とりあえず別居をしてみることも検討してみましょう。
場合によっては、婚姻関係を維持したまま夫婦が別々の道を歩む「卒婚」という選択肢もあります。卒婚について詳しくは、こちらの記事をご参照ください。
8、熟年離婚する際の流れ
熟年離婚の場合であっても、離婚するまでの流れは通常の離婚の場合と変わりません。
最初に、離婚するかどうかを話し合い、そこで離婚できる場合もあります。
この場合の離婚のことを「協議離婚」と言います。
もし、話し合いで離婚できなければ、調停を申し立てた上で、離婚することになります。
この場合の離婚のことを「調停離婚」と言います。
調停でも離婚できなければ、最終的には裁判で離婚することになります。
この場合の離婚のことを「裁判離婚」と言います。
協議離婚で円満に離婚することが理想的ではありますが、財産分与や慰謝料などの離婚条件について十分に話し合えない場合には、調停や裁判も視野に入れた方がよいでしょう。
それぞれの離婚方法について詳しくお知りになりたい方がいらっしゃれば以下の記事をご参照下さい。
熟年離婚の原因・理由まとめ
今回は熟年離婚の原因・理由として主なものをご紹介しました。
あなたご自身の人生設計や、現在のパートナーとの関係性などによっても、熟年離婚をした方がよいかどうかは異なってきます。
迷われたときは、弁護士に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
離婚問題の経験が豊富な弁護士は、あなたの立場に立って最善の解決策を一緒に考えてくれますし、熟年離婚を決意した場合には、心強い味方となってくれます。