法律婚では離婚の際に相手に離婚原因があれば慰謝料請求することができますが、内縁関係を解消する際には慰謝料を請求することは可能なのでしょうか?
内縁関係を解消して新しい生活を始めるには金銭が必要になるため、可能であれば慰謝料請求したいと考える方も多いと思います。
今回は、
- 内縁関係の解消で慰謝料請求ができるのか
について詳しく解説していきます。
目次
1、内縁関係を解消!慰謝料は請求可能?
内縁関係とは「事実婚」とも呼ばれ、婚姻手続きを行っていないものの互いに結婚する意思を持って夫婦と同様に共同生活を送っている関係のことを指します。
法律上の婚姻関係はないものの、法律上で守られる権利や義務は内縁関係も法律婚もほとんど同じであり、法律婚の夫婦のように扶養・協力・同居の義務や貞操義務が内縁関係でも発生します。そのため、内縁関係を解消するのであれば、法律婚の離婚のように財産分与や分割年金を請求することができます。また、子供がいる場合には父親が認知をしていれば養育費の請求をすることも可能です。ただし、内縁の配偶者には相続人となる資格がないことや税制上の優遇がないといった法律婚とは異なる点もあります。
そして、慰謝料を請求する権利に関しては、法律婚と同様に内縁関係でも発生します。夫婦は婚姻共同生活の平和を維持する権利が法律で守られていると考えられており、この共同生活の平和を破綻させる原因を作った当事者に対して慰謝料を請求することができます。
内縁関係も法律婚と同じように夫婦として扱われるため、内縁関係の解消の原因がパートナーにある場合には慰謝料請求を行うことが可能です。
2、内縁関係で慰謝料請求ができるケース・できないケース
内縁関係では、法律婚と同じように正当な理由があれば慰謝料を請求することができます。
ただし、慰謝料を請求できるケースもあれば、慰謝料請求できないケースがあります。それぞれどのようなケースが該当するのか見ていきましょう。
(1)内縁関係で慰謝料請求ができるケース
内縁関係で慰謝料請求ができるケースは、法律婚の「法定離婚事由」と基本的に同じです。法定離婚事由とは、民法第770条に定められている裁判で離婚が認められる理由のことです。
①パートナーによる不貞行為があった場合
内縁関係でも法律婚と同様に、貞操義務が存在します。貞操義務とは、パートナー以外の人と肉体関係を持つことを指します。
パートナーが他の人と肉体関係を持てば「不貞行為」となり、法律上の「不法行為」に該当します。不法行為を行った場合には、損害を与えた相手に対して損害を賠償する責任を負うことが民法第709条に定められています。そのため、パートナーが不貞行為を行った場合には、パートナーに対して慰謝料を請求することができます。ただし、不貞行為があった時には内縁関係が破綻していたような場合には慰謝料請求をすることは難しいと言えます。
また、不貞行為を行った2人に共同の責任が発生するため、配偶者だけではなく不倫相手にも慰謝料請求を行うことが可能です。ただし、不倫相手に故意や過失がなかった場合には慰謝料請求を行うことはできません。内縁関係のパートナーの存在を知らなかった場合や、内縁関係のパートナーについて知り得ない状況だった場合のことと指します。
②悪意の遺棄があった場合
悪意の遺棄は、民法第752条に定められている夫婦の同居・協力・扶助の義務を放棄することを指します。
悪意の遺棄に該当する行動は、次のことが挙げられます。
- 故意に生活費を渡さない
- 正当な理由なく同居を拒否する
- 頻繁に家出を繰り返す
夫婦には日常生活を互いに扶助して協力し合う義務があるにも関わらず、上記のような行動は夫婦の義務を放棄していると考えられます。悪意の遺棄も民法上の不法行為に該当するため、パートナーに慰謝料を請求することができます。
③パートナーからDVやモラハラを受けた場合
DVやモラハラは不法行為であり、肉体的・精神的に大きな苦痛を受けることになります。そのため、パートナーからDVやモラハラを受けていたのであれば慰謝料を請求することが可能です。
ただし、一時的な喧嘩における暴言などではDVやモラハラを主張しても慰謝料請求が認められない可能性があります。DVやモラハラを立証できる証拠を集め、慰謝料請求を行う必要があります。
④セックスレス
性行為は夫婦生活の重要な要素であり、セックスレスが原因で夫婦関係が破綻したのであれば慰謝料を請求することができます。
ただし、セックスレスで慰謝料請求できるのは、「夫婦のどちらか一方が性行為を拒絶している場合」や「セックスレスの原因がパートナーの不貞行為だった場合」です。夫婦のどちらも性行為を望んでいない結果、セックスレスになってしまったのであれば夫婦のどちらにも原因があると考えられるため、慰謝料請求は認められません。
⑤一方的に内縁関係を解消された場合
夫婦は共同生活を行う義務があるため、内縁関係を一方的に解消や破棄することは不法行為になります。そのため、内縁関係を解消された側はパートナーに対して慰謝料を請求することができます。
「他に好きな人ができた」「一緒に暮らすことがしんどい」といった理由は、正当な内縁関係の解消の理由とは言えません。
法定離婚事由として民法第709条に定められている内容に該当することがあれば、正当な理由です。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 配偶者の生死が3年以上明らかではない
- 強度の精神病で回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由(長期の別居やDV、モラハラ、セックスレスなど)
こうした正当な理由がある場合には、慰謝料請求をすることは難しいと言えます。
⑥相手が既婚者であることを隠していた場合
相手が既婚者であることを隠して内縁関係を結んでいた場合、「貞操権の侵害」を理由に慰謝料を請求することができます。
貞操権とは、肉体関係を持つ相手を自由に決めることができる権利のことです。相手が既婚者であることを知っていれば内縁関係にはなっていなかったため、貞操権が侵害されたと言えます。
既婚者でありながらも内縁関係を結ぶことは、重婚的内縁と呼ばれています。
(2)内縁関係で慰謝料請求ができないケース
内縁関係で慰謝料請求できるケースをご紹介しましたが、慰謝料請求できないケースもあります。
慰謝料請求を行うことは時間や手間がかかる作業なので、あらかじめ慰謝料請求ができないケースについて知っておきましょう。
①内縁関係を証明できない場合
内縁関係であったとしても、内縁関係を証明できなければ慰謝料請求は認められません。慰謝料請求をしても内縁関係を証明できなければ、相手は「内縁関係ではない」と内縁関係を否定する可能性もあるでしょう。
また、裁判で慰謝料請求をするには証拠が必要になります。同居していたとしても、恋人関係である場合やルームシェアの場合もあるからです。そのため、互いに婚姻の意思があり、同一の家計で夫婦として生活をしていることを立証しなければなりません。
②違法な権利侵害がない場合
慰謝料請求を行うには、違法な権利侵害によって精神的苦痛を与えられたという事実が必要になります。
内縁関係を解消する理由には、「性格の不一致」や「家族との折り合いが悪い」「価値観が合わない」などといったことが挙げられますが、これらは違法な権利を侵害しているとは言えません。そのため、慰謝料請求が認められることは難しいと言えます。
また、すでに内縁関係が破綻している場合にも、慰謝料請求をすることはできないと考えられます。内縁関係が破綻しているのであれば、夫婦の共同生活の平和を守るための権利は失われていると考えられるからです。
3、内縁関係で慰謝料請求するときの注意点
内縁関係で慰謝料請求を行う際には、法律婚とは異なり関係性の証明を行わなければなりません。
内縁関係では法律上の婚姻手続きが行われていないため、内縁関係であることが客観的に見て分かるような証拠を提出する必要があります。内縁関係証明書や、内縁関係が記載されている住民票や賃貸契約書、第三号被保険者になっている健康保険証など明確な証拠になります。
また、長期間の同居や周囲から夫婦として扱われていることなど、客観的事情も内縁関係の証明の判断材料になります。
4、内縁関係の慰謝料請求を成功させるための4つの秘訣
慰謝料請求を行うのであれば、失敗することなく慰謝料を獲得したいものです。
内縁関係の慰謝料請求を成功させるために、慰謝料請求を行う前に次の4つのポイントを押さえておくようにしましょう。
(1)慰謝料原因に対する証拠集め
慰謝料請求を行う場合には、慰謝料の原因となった行為を証明する証拠を集める必要があります。証拠がなければ慰謝料請求の根拠がないものと同じ扱いになってしまうため、慰謝料請求は認められません。
裁判で慰謝料請求するのではなく、直接パートナーに慰謝料請求する場合でも、証拠がなければ相手が偽証や言い逃れをする恐れがあります。そのため、慰謝料請求をする根拠となる証拠集めはしっかりと行う必要があります。
(2)被害の大きさに対する証拠集め
慰謝料の金額は法律で細かく定められているわけではありません。慰謝料の金額の増減を決める判断材料は、被害の大きさです。精神的苦痛が大きかったことが証明できる要素が多いほど、慰謝料は増額される傾向にあります。そのため、被害の大きさが客観的に見ても分かる証拠を集めることも大切です。
(3)裁判まで持ち越さない
慰謝料請求を行う方法は、当事者同士の話し合いで行われる方法と、裁判で請求する方法の2種類に分けることができます。多くの場合は、当事者同士の協議を行ったものの合意に至らなかった時に裁判に持ち越されるというパターンになることが多いです。
しかし、裁判になると解決までに時間がかかるだけではなく、慰謝料金額は前例に従って決定されることになるので希望金額よりも低くなってしまう可能性があります。そのため、裁判に持ち越すのではなく、協議で解決できるようにすることがおすすめと言えます。
(4)支払方法で交渉する
慰謝料は数十万円~数百万円の金額で請求することになるため、一度に全額を支払えないという理由で支払いを拒否する人も少なくありません。そういった場合には、慰謝料を減額するのではなく、支払い方法で交渉をしてみましょう。慰謝料の支払い方法は基本的に一括払いと言われていますが、協議でお互いが合意すれば分割払いで支払ってもらうことも可能です。
また、持っている資産や何らかの権利を譲り受けるといった方法もあります。何をどのように受け取るのか相手の事情を考慮しながら協議を行えば、慰謝料を支払ってもらえないという可能性は低くなると言えるでしょう。
5、内縁関係の慰謝料請求は弁護士に相談を
内縁関係は法律婚と同じように相手に内縁関係の解消原因がある場合には、慰謝料請求をできる可能性があります。
しかし、慰謝料請求をするには内縁関係を証明することや、慰謝料請求の根拠や被害の大きさまで証明しなければなりません。こうした証明に加え、相手と慰謝料に関する交渉や手続きなども行う必要があるため、自力で解決することは困難であると言えます。
内縁関係の慰謝料請求は複雑なケースも多いので、まずは弁護士に相談してみましょう。弁護士に相談すれば証拠集めのアドバイスをもらえるだけではなく、手続きや交渉など全ての工程を任せることができます。また、慰謝料請求だけではなく、内縁関係の解消にあたって財産分与や養育費などを請求することもまとめて依頼することが可能です。
まとめ
内縁関係の解消にあたり、相手が違法な権利を侵害して内縁関係を破綻させた場合には慰謝料を請求することができます。
しかし、内縁関係の慰謝料請求は複雑化しやすいため、一人では抱え込まずに専門家である弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談すれば、慰謝料請求の交渉や証拠集めのサポートを受けられるだけではなく、裁判になっても代理人として適切な主張を行うことが可能です。
ご自身で解決することが難しい内縁関係の解消に関する慰謝料問題のトラブルは、弁護士に相談してみることを検討してみてください。