所定労働時間(しょていろうどうじかん)とは、労働者が働くことになっている時間のことです。
会社の利益を上げるために労働者に何時間でも働かせるようなことは法律上認められておらず、労働基準法に違反しない範囲で会社は所定労働時間を定めています。
通常、所定労働時間は就業規則や雇用契約書に記載されています。
始業から終業までの時間から休憩時間を除いた時間が、労働者が働くことになっている時間となります。
ご自身の所定労働時間がわからない場合は、就業規則や雇用契約書を確認してみてください。
また、所定労働時間という言葉について調べている人の中には残業代についても関心を抱いている方が少なくないでしょう。
そこで本記事では
- 所定労働時間と残業代との関係
- 残業代が出ていない場合はどう対処するべきか
についてご紹介します。
本記事がお役に立てば幸いです。
残業代未払いについては以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、所定労働時間以上働いたら残業代は出る?
会社で残業をした場合の残業代が、ご自身が想定している金額よりも少ないと感じたことがあるかもしれません。
残業代の計算は、単に「何時間残業した」というだけでは正確な計算ができず、具体的な金額を算定するには所定労働時間を確認する必要があります。
ここでは、10時〜18時が所定労働時間(うち1時間は休憩時間)となっている勤務先を例に、以下説明していきます。
(1)所定労働時間以上働けばその分の賃金は出る
まず、10時〜18時が所定労働時間(うち1時間は休憩時間)となっている勤務先で、所定労働時間以上働いた場合、所定労働時間を超えた分に賃金が支払われます。
この際、所定労働時間を超えた分の賃金にプラスして割増賃金が支払われるかどうかですが、所定労働時間を超えて残業しても法定労働時間の範囲内であれば割増賃金は支払われません。
では法定労働時間とは一体何時間を指すのでしょうか?
(2)残業代が割増になるのは「法定労働時間」以上働いたとき
①法定労働時間とは
上記のように、所定労働時間を超えて残業し、その残業が割増賃金の支払いの対象となるのは、法定労働時間を超えて働いた場合です。
所定労働時間と法定労働時間の違いについてここでまず確認しましょう。
法定労働時間とは、労働基準法32条で定められている労働時間のことです。
同法32条では、
- 1項で「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない。」
- 2項で「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」
と定められています。
つまり1日の法定労働時間は8時間になります。
労働基準法は労働者保護の観点から定められていますので、使用者が勝手に労働基準法の範囲を超えて所定労働時間を定めることは原則として認められません。
②具体的ケース
労働基準法32条2項において、1日の法定労働時間は8時間とされています。
10時〜18時が所定労働時間(うち1時間は休憩時間)となっている勤務先では実働時間が7時間です。
そのため、たとえば18時〜19時まで残業したとしても、この残業時間を含めて1日の労働時間は8時間となります。
そうすると、法定労働時間の範囲内となりますので、この残業時間1時間分について賃金は支払われますが、割増賃金の支払対象とはなりません。
また、この勤務先では1日7時間が労働時間となっています。
この勤務先で平日5日間が勤務日となっている場合、5日間毎日18時~19時まで残業したとしても1週間の労働時間は40時間の範囲内ですので割増賃金の対象とはなりません。
なお、みなし残業代が出ているケースなどでは実際の残業代の計算はさらに複雑になりますので注意が必要です。残業代の計算の詳細はこちらも参照してみてください。
2、所定労働時間は法定労働時間内に収められる
(1)就業規則の届出義務
所定労働時間は法定労働時間の範囲内におさめなければなりません。
所定労働時間(始業と終業の時刻、休憩時間)は就業規則の絶対的必要記載事項とされており、常時10人以上の従業員を使用する会社は就業規則を労働基準監督署に届け出なければなりません。
万が一、所定労働時間が法定労働時間を超えて就業規則に定められていれば、労働基準監督署から所定労働時間を修正するように指摘されます。
仮に会社が法定労働時間を超えて所定労働時間を定めていたとしても、法定労働時間を超える部分は所定労働時間としては無効となり、法定時間外労働の扱いになります。
たとえば、10時〜21時を所定労働時間と定めた場合(うち休憩1時間)、労働時間が10時間となっています。
法定労働時間は1日8時間ですから、これを超える2時間分は所定労働時間としては無効となり、法定時間外労働の扱いとなります。
(2)所定労働時間は拘束時間と異なる
もし、アルバイトなどで、9時から19時が所定労働時間だ、などと言われている場合は、9時から19時は「拘束時間」である可能性があります。
拘束時間とは「休憩時間」も含めた時間であるため、拘束時間が法定労働時間より長いからといって常に違法となるわけではありません。
つまり、9時から19時であれば、少なくとも2時間の休憩時間が入っていれば労働時間としては8時間以内ですので、法定労働時間内だということになります。
ただし、忙しいアルバイト先では、本来休憩時間を取れるはずであっても忙しすぎて休憩を取れないというケースもあるかもしれません。
そのような場合、休憩時間中も労働していることになりますので、法定労働時間を超えた分については割増賃金の支払対象となります。
3、所定労働時間が法定労働時間を超える例外もある!
上記のように、所定労働時間は法定労働時間の範囲内に収めなければならないのが原則です。
しかしながら、例外的に所定労働時間が1日8時間を超えることが認められているケースがあります。
以下で確認していきましょう。
(1)変形労働時間制
一つ目のケースは、変形労働時間制が採用されているケースです。
通常の労働時間は、労働基準法32条で「1日8時間以内」と定められているように、1日単位で労働時間を計算します。
職種によっては、ある一定の時期はものすごく忙しく、そのほかの季節は余裕があるというように、時期によって繁忙期が大きく異なるものもあります。
そのような職種では変形労働時間制が採用されています。
このような変形労働時間制が採用されている場合、1日単位で労働時間を計算するのではなく、1ヶ月単位や1年単位で労働時間を計算します。
変形労働時間制の場合、1日単体の労働時間で見れば1日8時間を超えていたとしても、法律違反とはなりません。
(2)特例措置対象事業場
もう一つの例外として、特例措置対象事業場のケースがあります。
こちらに該当する職種は、週40時間を超えて労働しても法律違反にならない場合があります。
たとえば、
- 演劇
- 映画業(映画の映写)
- 病院
- 小売業
などのケースが該当します。
特例措置対象事業場に該当する場合、週40時間の上限を超えて、週44時間まで割増賃金なしでの労働が認められています。
なお、特例措置対象事業場に該当し週44時間の労働が認められているのは常時10人未満の従業員を使用する事業場に限られています。
4、残業代が出ていない、額に不安がある場合は弁護士に相談を
所定労働時間に関して労働者の方が一番悩んだり不満を持ったりするのは、残業代についてです。
所定労働時間や割増賃金については法律で概念・計算方法が決まっていますが、中には法律どおりの残業代が支払われていないことに不満を感じている人もいるでしょう。
- 所定労働時間以上働いているにもかかわらず毎月決まった金額の給与しか支払われていない
- 法定労働時間以上の労働をしているにもかかわらず割増賃金の支払いがなされていない
など支払われるべきものが支払われていないケースはゼロではありません。
残業代や労働時間の計算について少しでも不安がある方は、お気軽に弁護士に相談してみてください。
労働問題に詳しい弁護士であれば、どのように対応すべきか迅速に導くことが可能です。
「給与について不満を言ったり会社に意見を言ったりすることで出世できなくなるのではないか、会社をクビになってしまうのではないか」
と不安に感じる人もいるでしょうが、法律で決められている労働時間の計算に応じて給与を適切に支払ってもらうことは労働者の権利です。
泣き寝入りせず、あなたにとっての最善な方法を弁護士と一緒に考えていきましょう。
まとめ
働いた時間に応じて法律に則った賃金の支払いを受けるのは労働者の権利です。
所定労働時間は会社によって規定が異なりますので、支払われるべきはずの賃金が支払われていないなど不安に思うことがある場合は、会社の規定を確認し弁護士に相談するようにしてください。