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無期懲役と終身刑の違いとは?受刑者の出所の可能性や刑務所生活について

無期懲役と終身刑、これらの言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、その違いについて明確に理解していない方も多いでしょう。

この記事では、無期懲役と終身刑の違い、無期懲役が事実上の終身刑とされる根拠、そして無期懲役受刑者の日常生活についてわかりやすく解説します。

弁護士相談に不安がある方!こちらをご覧ください。

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1、無期懲役と終身刑の違いとは?

無期懲役と終身刑は似ていますが、以下のように重要な違いがあります。

(1)無期懲役とは

無期懲役とは、無期限、つまり期限を決めずに懲役を科す刑罰のことです。

これに対して、期限を決めて科せられる懲役刑のことを有期懲役といいます。
例えば、「懲役5年」と期限を決められた場合、5年が経過すれば懲役刑の執行が終了し、対象者は釈放されます。

無期懲役の場合、対象者が死亡するまで懲役刑が続くということになります。

もっとも、日本の無期懲役には仮釈放が認められています。無期懲役の受刑者でも、仮釈放が許可されると出所して社会内で生活することが認められます。

(2)終身刑とは

終身刑とは、終身、つまり対象者が死ぬまで刑務所に収容する刑罰のことです。期限を決めないのではなく、「死ぬまで」という期限を決めて言い渡されるのが終身刑です。

そして、終身刑には仮釈放の可能性がない「絶対的終身刑」があります。絶対的終身刑の受刑者は死ぬまで出所できる可能性がないという点で、日本の無期懲役とは大きく異なります。

ただし、終身刑を採用している国の中には、仮釈放の可能性がある「相対的終身刑」を採用しているところも多くあります。
相対的終身刑と日本の無期懲役は、期限を決めるのか決めないのかで表現の違いはあるものの、実質的には同様の刑罰であると考えて差し支えありません。

(3)終身刑は日本にはない

現在の日本の法律では、終身刑は採用されていません。

死刑廃止の議論と並行して、死刑の代替刑として(絶対的)終身刑を導入すべきではないかという意見が日弁連から出ていますが、現状具体的に国会などで議論されているわけではなく、導入の見通しはまだないと考えられます。

参考:死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針

2、無期懲役にあって終身刑にはない「仮釈放」とは?

日本の無期懲役には、絶対的終身刑にはない「仮釈放」が認められているという大きな特徴があります。

仮釈放とは、刑期が満了する前に一定の条件を満たす受刑者について、仮に出所することを認める制度のことです。
有期懲役の場合は、仮釈放中に問題を起こさなければ残りの刑期が免除されます。

無期懲役の受刑者にも、条件を満たせば仮釈放が認められます。
ただし、無期懲役の場合は生涯にわたって懲役刑が続きますので、問題を起こすことなく過ごしていても一生涯、「仮に」出所している状態となります。

無期懲役の場合、法律上は次の3つの条件を満たせば仮釈放が許可されます。

  • 刑の執行開始から10年が経過していること(刑法28条)
  • 受刑者に改悛の情があること(刑法28条)
  • 社会感情がその受刑者の仮釈放を是認するであろうこと(犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則28条)

しかし、法律上は10年で仮釈放が可能であっても、後で詳述する通り簡単には許可されていないのが実情です。

3、無期懲役が事実上の終身刑といわれる理由

実際のところ、無期懲役の受刑者が仮釈放を許可される確率は低く、獄中で死亡する人の方が多くなっています。そのため、無期懲役は事実上の終身刑(絶対的終身刑)に近いといわれることもあります。

(1)仮釈放までに最低30年はかかる

仮釈放の審理・判断は法務省管轄下の地方更生保護委員会が行いますが、審理・判断の運用基準は法務省が定めています。

そして、法務省は無期懲役の受刑者については、刑の執行開始から30年が経過したときに初回の審理を行うこととしています。

参考:法務省保護局長|無期刑受刑者に係る仮釈放審理に関する事務の運用について(通達)

その理由は、有期懲役で言い渡される刑期の上限が30年だからです。
有期懲役の上限は原則として20年ですが(刑法12条1項)、併合罪などで加重される場合には30年にまで引き揚げられることがあります(同法14条2項)。

有期懲役の受刑者が最大で30年服役する可能性があることとの均衡を図るため、それよりも重い無期懲役の受刑者には、最低30年は服役してからでないと仮釈放が認められないという運用が行われているのです。

つまり、無期懲役刑の判決が確定して服役し始めてから最低でも30年が経過するまで、仮釈放が許可されることはないということです。

20歳代で服役を始めたとしても、仮釈放が許可されるのは早くても50歳代以降となります。50歳代で服役を始めた場合には、80歳代以降にならないと仮釈放は許可されません。

(2)30年以上服役しても仮釈放が認められるケースは少ない

法務省の発表によると、令和4年に無期懲役から仮釈放が認められたのは6人でした。
同年末時点で服役中の無期懲役受刑者は1,688人いたので、1年間に仮釈放が許可される人の割合は0.4%程度ということになります。

新規に仮釈放が認められた人の平均受刑在所期間は32年6ヶ月ですが、その一方では死ぬまで仮釈放が許可されない受刑者もいることを忘れてはなりません。
令和4年中に死亡した無期懲役受刑者は41人もいます。

つまり、無期懲役になると、仮釈放で出所できる人よりも、そのまま獄中死する人の方が圧倒的に多いのです。以上が、無期懲役が事実上の終身刑であるといわれる理由です。

参考:法務省|無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について

4、無期懲役の受刑者の生活の実態

無期懲役になると最低30年以上は仮釈放が許可されず、死ぬまで服役が続く人も多いということになると、刑務所での生活の実態が気になることでしょう。

(1)刑務所内での暮らしは?

刑務所内では、基本的に雑居房で生活することになり、刑務官にも常時監視されているので、プライベートはほとんどありません。

起床・就寝や刑務作業の時間は厳格に決められていて、厳しい規律のもと、スケジュールどおりに過ごす必要があります。

運動や余暇の時間もありますが、施設内でできることは限られています。

月額約4,000円程度の作業報奨金があり、月に1回程度は嗜好品(お菓子など)を購入することも認められますが、当然ながら飲酒・喫煙などは禁止です。異性との性交渉を行うことも許されません。

そして、定期的に改善更生のための指導・教育を受けます。

最低限の基本的人権は守られているものの、ひとことで言えば「自由」がない暮らしを余儀なくされます。

その他、刑務所内での暮らしについては、こちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

(2)面会はできる?

無期懲役受刑者にも面会は認められています。

面会できるのは基本的に家族・親族に限られますが、内縁の夫や妻も含まれます。
それ以外の友人や知人などについては、刑事施設の長の許可を得なければ面会できません。
交友関係の維持など面会の必要性が認められ、面会によって刑事施設の規律・秩序を害する恐れがなく、受刑者の矯正処遇に支障をきたす恐れもない場合には、面会が許可される可能性があります。

面会の回数は月2~7回で、受刑者の刑務所内での成績に応じて決められます。この制度のことを「累進処遇」といいます。

1回当たりの面会時間は基本的に30分程度ですが、面会希望者が集中したときなどには時間が短縮されることもあります。

(3)医療は受けられる?

刑務所内でも、必要に応じて医療を受けることは可能です。
各刑務所に医師や看護師も勤務していますし、専門的な医療行為を要する受刑者は医療刑務所に収容されます。高齢の受刑者に対しては、他の受刑者による介護なども実施されています。

とはいえ、日本弁護士連合会の担当委員会からは、受刑者が願い出ても診察が許可されない、許可されたとしても刑務官立ち会いのもとで短時間の診察が行われるだけで、十分な医療が提供されていない、といった実態も報告されています。

医療を受けられないまま受刑者が死亡する、医療水準が劣悪である、といった事例も少なくないようです。

参考:刑務所医療をめぐる問題点と改革の提案

無期懲役が事実の上の終身刑のようになりつつある現状においては特に、刑務所内の医療については改善される必要があるといえます。

(4)死亡したらどうなる?

受刑者が施設内で死亡した場合、基本的には連絡を受けた遺族が遺体を引き取ることになります。

ただ、実態としては引き取りを拒否する遺族も少なくありません。特に、無期懲役の受刑者については家族・親族と疎遠になっており、遺体の引き取り手がいないケースが多くなっています。

遺体の引き取り手がいない場合には、刑事施設において簡単な葬儀を行った上で火葬場に送ります。
遺骨は2年間、刑事施設で保管されますが、その間に引き取り手が見つからない場合には、自治体が運営する共同墓地に埋葬されます。

近年は受刑者も高齢化が進んでいることもあり、施設内で亡くなり遺体の引き取り手がいないケースがさらに増えつつあります。

もし、ご家族など身近な人が無期懲役になった場合は、将来的に施設内で亡くなったらどうするかということも考えておかれた方がよいでしょう。

5、法定刑に無期懲役が規定されている犯罪

法定刑に無期懲役が規定されている犯罪、つまり刑事裁判で無期懲役刑が言い渡される可能性がある犯罪には、以下のものがあります。

  • 殺人罪(刑法199条)
  • 強盗致死傷罪(刑法240条)
  • 強盗・強制性交等及び同致死罪(刑法241条)
  • 強制わいせつ等致死罪(刑法181条)
  • 現住建造物等放火罪(刑法108条)
  • 激発物破裂罪(刑法117条)
  • 現住建造物等浸害罪(刑法119条)
  • 汽車転覆等致死傷罪(刑法126条3項)
  • 水道毒物等混入致死罪(刑法146条)
  • 身の代金目的略取等(刑法225条の2)
  • 通貨偽造及び行使等(刑法148条)
  • 詔書偽造等(刑法154条)
  • 内乱罪(刑法77条)(なお、同罪は無期懲役ではなく無期禁錮が規定されています。)
  • 外患援助罪(刑法82条)

2001年に行われた調査では、服役中の無期懲役受刑者の罪名として、殺人罪、強盗致死傷罪、強盗・強制性交等(当時は「強姦」)及び同致死罪、現住建造物等放火罪が多くなっていました。

参考:矯正協会附属中央研究所・市原学園|無期懲役受刑者に関する研究

6、無期懲役の判決が言い渡された実際の事件

ここでは、実際に刑事裁判で無期懲役の判決が言い渡された事件をいくつかご紹介します。

(1)イギリス人女性殺害事件

2007年3月、千葉県で英会話学校の講師をしていたイギリス人女性のが、殺害された事件です。

犯人がストーカー行為をしていたことや、犯行後に美容整形をして逃走していたことなどが報道され、社会の注目を集めていました。

罪名は殺人罪・強姦致死罪・死体遺棄罪で、1審で無期懲役の判決が言い渡され、弁護人が控訴したものの棄却され、確定しています。

犯行の残虐性・悪質性などから死刑が適用される可能性もありましたが、検察官は前科がないことや犠牲者が1人のみであることなどを考慮し、無期懲役を求刑しました。そして、求刑どおり無期懲役が言い渡されたのです。

(2)ベトナム人女性殺害事件

2022年4月、大阪市内の弁当店で働いていたベトナム人女性(当時31歳)が、殺害された事件です。

被告人は被害者を自宅に誘い込み、所持金を出すように求めたが抵抗されたことから、首を絞めて殺害し、現金約2万6,000円を奪ったとのことです。

刑事裁判で被告人は「金を借りようとしただけ」「殺すつもりはなかった」などと、強盗の目的や殺意を否認しました。

しかし、裁判所は「面識のない被害者から金を貸してもらえるはずがない」「相当強い力で首を絞め続けている」ことなどから強盗殺人罪を認定し、検察官の求刑どおり無期懲役の判決を言い渡しました。

なお、被告人は控訴しており、上記判決はまだ確定していません。

(3)暴力団による市民襲撃事件

2012年から2014年にかけて、特定危険指定暴力団である工藤会のメンバーが市民襲撃など6事件で組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)の罪に問われた事件です。

この事件で、2023年1月、工藤会のナンバー3で理事長である被告人に対し、無期懲役の判決が言い渡されました。

被告人は、実行役となった組員らと共謀し、暴力団としての不正権益を維持・拡大する目的で、組織的な殺人未遂罪などを実行させたとされています。

死者は1人も出ていませんが、判決では「市民生活の安全と平穏を願う社会の意思表示に真っ向から背き、組織により踏みにじった」「反社会性、攻撃性、危険性が著しく、重大な加害行為である」などと指摘し、検察官の求刑どおり無期懲役を言い渡したのです。

なお、被告人は控訴しており、上記判決はまだ確定していません。

7、無期懲役か死刑かの判断基準

無期懲役が言い渡される事件は凶悪かつ重大なものばかりであり、死刑が選択されてもおかしくない事案も少なくありません。そこで、無期懲役か死刑かの判断基準をご紹介します。

両者の判断基準は法律で明確に定められているわけではありませんが、裁判例では以下の要素が考慮されています。

(1)結果の重大性

最も重視されるのは、結果の重大性です。特に、殺害された被害者の人数が重視されます。

絶対的な基準ではありませんが、殺害された被害者が1人だけのケースでは死刑となる可能性は低く、被害者の人数が増えれば増えるほど死刑となる可能性が高まる傾向にあります。

殺害された被害者が4人以上になると、ほとんどのケースで死刑が選択されています。

(2)犯行の態様など

もちろん、被害者の人数だけで無期懲役か死刑かが決まるわけではありません。

犯行の残虐性や悪質性、その他にも犯行の動機や計画性の有無、遺族の処罰感情、事件が社会に与えた影響の重大性なども考慮されます。

これらの内容によっては、被害者が1人であっても死刑となるケースもありますし、逆に、2~3人の被害者が発生していても無期懲役にとどまっているケースもあります。

(3)更生の可能性

無期懲役と死刑のどちらを選択してもおかしくない事案では、被告人に更生の可能性があるかどうかが重視されます。

被告の人の生育歴や事件前の境遇、反省の程度、前科の有無や内容などを考慮し、もはや更生の余地がないと判断されると、死刑の方向に傾きます。更生の可能性が認められる場合には、無期懲役となる可能性が高まります。

無期懲役と終身刑の違いに関するQ&A

Q1.無期懲役とは

無期懲役とは、無期限、つまり期限を決めずに懲役を科す刑罰のことです。

これに対して、期限を決めて科せられる懲役刑のことを有期懲役といいます。
例えば、「懲役5年」と期限を決められた場合、5年が経過すれば懲役刑の執行が終了し、対象者は釈放されます。

無期懲役の場合、対象者が死亡するまで懲役刑が続くということになります。

もっとも、日本の無期懲役には仮釈放が認められています。無期懲役の受刑者でも、仮釈放が許可されると出所して社会内で生活することが認められます。

Q2.終身刑とは

終身刑とは、終身、つまり対象者が死ぬまで刑務所に収容する刑罰のことです。期限を決めないのではなく、「死ぬまで」という期限を決めて言い渡されるのが終身刑です。

そして、終身刑には仮釈放の可能性がない「絶対的終身刑」があります。絶対的終身刑の受刑者は死ぬまで出所できる可能性がないという点で、日本の無期懲役とは大きく異なります。

ただし、終身刑を採用している国の中には、仮釈放の可能性がある「相対的終身刑」を採用しているところも多くあります。
相対的終身刑と日本の無期懲役は、期限を決めるのか決めないのかで表現の違いはあるものの、実質的には同様の刑罰であると考えて差し支えありません。

Q3.無期懲役にあって終身刑にはない「仮釈放」とは?

日本の無期懲役には、絶対的終身刑にはない「仮釈放」が認められているという大きな特徴があります。

仮釈放とは、刑期が満了する前に一定の条件を満たす受刑者について、仮に出所することを認める制度のことです。
有期懲役の場合は、仮釈放中に問題を起こさなければ残りの刑期が免除されます。

無期懲役の受刑者にも、条件を満たせば仮釈放が認められます。
ただし、無期懲役の場合は生涯にわたって懲役刑が続きますので、問題を起こすことなく過ごしていても一生涯、「仮に」出所している状態となります。

無期懲役の場合、法律上は次の3つの条件を満たせば仮釈放が許可されます。

  • 刑の執行開始から10年が経過していること(刑法28条)
  • 受刑者に改悛の情があること(刑法28条)
  • 社会感情がその受刑者の仮釈放を是認するであろうこと(犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則28条)

しかし、法律上は10年で仮釈放が可能であっても、後で詳述する通り簡単には許可されていないのが実情です。

まとめ

無期懲役と終身刑の違いは、懲役刑が期限を決めずに科せられるか、「死ぬまで」と期限を決めて科せられるか、という点にあります。

実質的な違いとしては、無期懲役では仮釈放で出所できる可能性があるのに対して、(絶対的)終身刑ではその可能性すらないということが挙げられます。

日本には終身刑はありませんが、無期懲役からの仮釈放が認められる確率は低く、無期懲役が事実上の終身刑とも言われているのが実情です。

もし、ご家族や身近な方が無期懲役が規定されているような重大な犯罪をしてしまった、またはその疑いをかけられたときは、刑事弁護の実績が豊富な弁護士にすぐご相談されることをおすすめします。

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