パートナーの不倫が発覚したとき、離婚や慰謝料を請求しても相手が事実を否定し、言い逃れをすることが多いものです。そんなときは、不倫された側が相手の不貞行為を立証しなければなりません。
しかし、不貞行為の立証は難しいことが多いのが実情です。相手の言い逃れによる責任回避を防止するためには、事前に不貞行為の有力な証拠を集めておく必要があります。
そこで今回は、
- 不貞行為の立証が難しい理由
- 不貞行為の証拠となるものとならないものの例
- 不貞行為を立証するときの注意点
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。
この記事が、パートナーの不倫でお悩みの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、不貞行為の立証が難しいと言われるのはなぜ?
不貞行為の立証は難しいと言われていますが、その理由はどういうことなのでしょうか。
まずは、そもそも不貞行為とは何なのかということからご説明します。
(1)不貞行為の法的定義
不貞行為とは、配偶者以外の人と自由意思で性的関係、つまり肉体関係を結ぶことです。
ここでいう「性的関係」には性交渉はもちろんのこと、口淫(オーラルセックス)や手淫、肛門性交、裸で抱き合うことなどの「性交類似行為」も含まれます。
しかし、キスやハグ(着衣のまま抱き合う)、手をつなぐ、腕を組むなどの行為は性交渉と直接的につながる行為ではないと考えられているため、不貞行為としての「性的関係」には含まれません。
法律上、不貞行為は離婚原因(法定離婚事由)とされており(民法770条1項1号)、不貞行為された側の配偶者は離婚や慰謝料を請求することが可能です。
(2)証拠がない場合立証は難しい
客観的な証拠がなくても、不貞行為をした本人が素直に事実を認めれば、その発言を証拠として離婚や慰謝料を請求できます。しかし、不貞行為をした本人は責任を回避するために事実を否定し、言い逃れをすることが多いものです。そんなときは、不貞行為を客観的な証拠で証明(=立証)しなければなりません。
不貞行為は通常、密室内で2人きりで行われることから、決定的な証拠をつかむのは難しいのが実情です。
決定的な証拠がない場合には、間接的な証拠を集めて不貞行為の存在を推認することになります。推認とは、ある事実の存在から推しはかって、他の事実の存在を認めることです。
しかし、不倫の当事者も不貞行為が悪いことだとわかっているので内密に交際し、証拠が残らないように細心の注意を払っていることがほとんどです。そのため、間接的な証拠をつかむのも簡単ではありません。
つまり、不貞行為の存在を証明できるだけの証拠をつかむことが難しいため、不貞行為の立証は難しいと言われているのです。
2、不貞行為の証拠として立証できる例
不貞行為の立証が難しいとはいっても、不可能ではありません。ここでは、不貞行為を証明できる証拠の例をご紹介します。
(1)二人で宿泊したことを匂わせるやり取り
メールやLINE、SNSなどでのやり取りは、不倫の証拠として利用されることが多いものです。そのなかでも、二人が同じ部屋に宿泊したことが分かるやり取りがあれば、その画面を自分のスマホやデジカメなどで撮影して証拠化することで不貞行為を立証できます。
なぜなら、男女が同じ部屋に宿泊して二人で一晩を過ごした事実が明らかとなれば、性的関係が推認されるからです。
宿泊ではなくても、性的関係があったことが分かるやり取りがあれば、それも不貞行為の証拠となります。例えば、「○○さんとのセックスが一番いい」、「またHしようね」というようなやり取りが挙げられます。
ただし、抽象的な表現では不貞行為を立証できないことに注意が必要です。例えば、「昨日はよかった」「好き」「また会いたい」などの表現では性的関係を推認できないため、不貞行為の証拠としては不十分です。
(2)性交渉の動画や裸の写真
性交渉の様子を撮影した動画や画像があれば、不貞行為の決定的な証拠となります。性交渉そのものではなくても、二人でいるときに撮影された裸の写真も、不貞行為を推認できる証拠となります。
近年はスマホで簡単に動画や写真を撮影できるので、性交渉の様子や裸を撮影する人も増えています。配偶者のスマホやパソコンの中に性交渉の動画や裸の写真が保存されている可能性もあるので、確認してみるとよいでしょう。
ただし、二人でいるときに撮影されたものではなく、裸の写真を送り合っているだけの場合は性的関係を推認できないため、不貞行為の立証はできません。
(3)ラブホテルなどの領収書
ラブホテルの領収書は、不貞行為を推認できる証拠となります。なぜなら、ラブホテルは性行為をするための場所なので、そこに出入りした事実を証明できれば性的関係の存在が推認されるからです。
ただし、ラブホテルの領収書だけでは誰と不貞行為をしたのかを立証できないため、証拠としては弱いです。不倫相手と二人でラブホテルに出入りする場面の写真があれば、確実な証拠となります。
なお、ビジネルホテルや一般的な旅館は性行為をするための場所とはいえないため、宿泊した際の領収書があってもそれだけでは不貞行為の立証はできません。他の証拠と合わせて、不倫相手と二人で宿泊したことを立証する必要があります。
(4)不貞行為を認める発言の録音
配偶者や不倫相手が不貞行為を認める発言を録音したデータも、不貞行為の直接的な証拠となります。
ただし、単に「不倫をしました」「不貞行為をしました」などの抽象的な発言だけでは、具体的な事実を証明できないため不貞行為の立証に失敗することもあります。
配偶者や不倫相手と話し合う際には、いつ、誰と、どのような行為をしたのか、不倫関係はいつからいつまでの期間続いたのか、不貞行為を何回したのかなど、具体的な事実をできる限り詳しく聞き出すようにしましょう。その発言を、ICレコーダーやスマホの録音機能などで録音するのです。
録音できなかった場合は、念書などの書面に具体的な事実を書かせて証拠化しましょう。
3、不貞行為の証拠として立証が難しい例
次に掲げるような証拠は比較的収集しやすいですが、不貞行為を立証するための証拠とはなりません。
(1)食事やデートの写真
二人で食事やデートをしている写真があっても、性的関係を推認できないため、不貞行為の証拠にはなりません。
二人で居酒屋やレストランなどで食事している場面や、街を一緒に歩いている場面、車でドライブしている場面などの写真があっても、それだけでは不貞行為の立証はできないのです。
たとえキスやハグ、腕を組んで歩いている場面の写真があったとしても、これらの行為は不貞行為に該当しませんので証拠として不十分です。
ただし、二人が親密に交際していることが分かるものであれば、他の証拠と合わせて不貞行為の立証に役立つこともあります。決定的な証拠がない場合は間接的な証拠を積み重ねることが重要なので、見つけた証拠はすべて保管しておくようにしましょう。
(2)日常的なメールやLINEのやり取り
二人が日常的にメールやLINE、SNSなどでやり取りをしていたとしても、性的関係を匂わせる内容でなければ不貞行為の証拠にはなりません。
先述したとおり、「好き」「また会いたい」などの発言があったり、裸の写真を送り合ったりしていたとしても、それだけでは性的関係を推認することはできないのです。
ただし、食事やデートの写真と同様に、二人が親密に交際していることが分かるものであれば、他の証拠と合わせて不貞行為の立証に役立つこともあります。親密なやり取りを見つけたら、スマホやデジカメで撮影するなどして証拠化しておきましょう。
4、証拠集めでGPSを使用すると犯罪になる危険性がある
GPSを使用して配偶者や不倫相手の行動経路を明らかにすれば、不貞行為の立証に役立つことがあります。しかし、証拠集めでGPSを使用すると犯罪になる危険性があるので注意が必要です。
具体的には、恋愛感情や怨恨の感情を充足する目的で他人の所有物に無断でGPSを仕掛ける行為はストーカー規制法の「位置情報無承諾取得等」に該当し、2年以下の懲役または200万円以下の罰金という刑事罰の対象となることがあります。この規定は夫婦間にも適用されます。
また、不倫相手の車にGPSを仕掛ける場合、無断で自宅の敷地内に侵入したことで住居侵入罪が成立します。さらに、GPSを仕掛ける際に車を傷つけると器物損壊罪も成立します。
その他にも、配偶者であっても相手のスマホやパソコンの中身を勝手に見ると、不正アクセス禁止法違反という犯罪に該当する可能性があります。
犯罪に該当しない場合でも、以上の行為は相手のプライバシー権を不当に侵害するものとして、民事上違法になることもあります。違法な手段で収集した証拠は離婚や慰謝料請求の裁判で採用されない可能性があるだけでなく、逆に相手から慰謝料を請求されるおそれもあるので注意しなければなりません。
ただ、離婚や慰謝料請求の証拠を収集する目的で、夫婦共有の車にGPSを仕掛けるのであれば合法と考えられています。
不貞行為の証拠収集において合法と違法の判断は難しいので、証拠集めをする際は弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
5、不貞行為の立証は証拠を出すタイミングが大事
不貞行為を立証するときは、証拠を出すタイミングも大事です。相手に対して証拠を突きつけるのは、性的関係があったことを十分に証明できるだけの証拠が揃ってからにしましょう。
さらには、相手を問い詰めるのも証拠が十分に揃ってからにすべきです。証拠が不十分なうちに相手を問い詰めると言い逃れをされる可能性が高いですし、有力な証拠がなければ話し合いをそれ以上進めることができません。
その上に、いったん不倫関係を問い詰めると配偶者と不倫相手が警戒して証拠を残さないようにしたり、既にある証拠も隠滅したりする可能性が高いです。そうなると、有力な証拠を収集することが極めて困難となってしまいます。
不貞行為の十分な証拠をつかむためには、配偶者と不倫相手に気づかれないよう、内密に証拠を集めていくようにしましょう。
6、証拠集めには専門家への相談がおすすめ
不貞行為の証拠を集めるなら、専門家への相談がおすすめです。相談先としては探偵や興信所も有効ですが、最もおすすめの相談先は弁護士です。
弁護士に相談するだけでも、どのような証拠が必要なのか、その証拠をどのようにして取得すればよいのかについて具体的なアドバイスが得られます。証拠集めが難しい場合には、弁護士に依頼すれば「弁護士会照会」などの法的手段を活用して証拠を取得してもらうことも可能です。
探偵などへの依頼が望ましい場合には、弁護士からその旨のアドバイスがあります。男女関係のトラブル解決に注力している弁護士事務所の中には、信頼できる探偵事務所を紹介してくれるところもあります。弁護士の指示に従うことで、適切な費用で有効な調査を依頼することが可能となります。
自力で不貞行為の証拠を集めようとすると違法な行為に及んでしまい、場合によっては罪に問われるおそれもあります。まずは弁護士に相談し、正当な手段で有力な証拠を集めていきましょう。
弁護士に相談していれば、証拠を確保した後の離婚や慰謝料請求の手続きも任せることができます。
まとめ
不貞行為の立証は難しいことも多いですが、諦めてしまっては泣き寝入りせざるを得ません。
弁護士の知識とノウハウを活用すれば、不貞行為の有力な証拠を収集して離婚や慰謝料請求が認められる可能性が高まります。
不貞行為の証拠集めでお困りの際は、離婚問題や男女問題の解決実績が豊富な弁護士に気軽に相談してみましょう。