生前贈与で現金を手渡す場合、税金はどうなるのでしょうか。
相続税の軽減に繋がる生前贈与について、現金を手渡す方法で行おうと考えている方もおられると思います。
今回は、
- 現金を手渡す方法によって生前贈与をすれば、税務署に申告しなくてもバレないのか
- また、もしバレたらどうなるのか
- 合法的に贈与税を支払うことなく生前贈与することはできるか
等、現金を手渡す方法による生前贈与をする前に知っておきたいポイントについてご説明します。
ご参考になれば幸いです。
生前贈与について詳しく知りたい方は以下のページもご覧ください。
1、生前贈与は現金を手渡しすればバレないというのは本当か
生前贈与を現金で行えば記録が残らないことから、贈与税を払わなくても(申告しなくても)バレない、と思われている方もおられると思います。
しかし、以下の理由から、現金で生前贈与をしてもバレてしまう可能性が高く、バレた時のダメージが大きいので止めたほうが良いといえます。
(1)現金の「流れ」が調査される
まず、贈与側について、税務署が税務調査を行う際には、銀行口座のお金の「流れ」について、最低10年分さかのぼって調査をします。
不自然に高額のお金が引き出されているのに、使途を説明(証明)できない場合、生前贈与を疑われる可能性があります。
(2)車の登録や不動産の登記
次に、贈与された側についても調査されることがあります。
贈与された側が贈与された金銭を使って車や不動産を購入した場合では、車の登録や不動産の登記から購入した時期等がわかります。
贈与を受けた側が、贈与された金銭を使って車や不動産を購入すると、その記録が残ってしまい、その購入資金がどこから出たのかということを調査されてしまいます。
そこで、合理的な説明ができないと生前贈与を疑われてしまいます。
(3)マイナンバーによる把握
マイナンバーの開始により、贈与税や相続税の申告書にはマイナンバーを記載しなければならなくなりました。
現時点(平成30年4月時点)では、マイナンバーと銀行口座の紐づけは行われておりませんが、将来的には紐づけされる可能性が高く、銀行口座とマイナンバーが紐づけされてしまうと、税務署が個人のお金の流れを把握しやすくなるので、不自然なお金の流れが発見されやすくなるといえます。
(4)贈与税の脱税によるペナルティ
贈与税の申告が誤っていると判断されると以下のような様々なペナルティがあります。
①金銭的なペナルティ
- 贈与税の納税が遅れたことに対して課される延滞税
- 申告書を期限までに提出しなかったことに対する無申告加算税
- 申告書を期限までに提出していても正しく申告しなかった場合に課される過少申告加算税
- 事実を仮装したり隠蔽したりした場合に課される重加算税
②罰則
- 期限までに申告書を提出せず、それに正当な理由がない場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
- 不正行為によって贈与税の納税を免れた場合、5年以下の懲役または500万円以下の罰金(またはその両方)に処せられる可能性があります。
(5)精神的な負担
贈与は、結果としてその方の相続財産を減らすことにつながり、相続税を軽減することにつながることから、贈与の時点だけでなく、相続の時点の調査によって判明してしまう可能性があります。
そのため、仮に、現金でこっそり生前贈与して、それがすぐにバレないとしても、いつかバレるのではないかという不安を常に抱えることになってしまい、精神的な負担となってしまいます。
また、結果としてバレてしまうと、結局相続人に思わぬ負担がかかってしまいます。
2、生前贈与しても,税金を払わなくてすむ場合とは
現金で生前贈与をしようと考える人は、もしかすると、現金での贈与は申告しなくてもバレないと考えているかもしれません。
しかし、前述のとおり、現金の贈与であっても、後から税務署に把握される可能性は高いですし、バレてしまった時には刑事罰を受ける可能性があり、得策とはいえません。
それよりも、生前贈与しても贈与税が発生しない範囲をしっかり把握して、それを最大限利用する方が賢い選択といえるでしょう。
以下、贈与税が非課税となる贈与形態についてご説明します。
それぞれの形態において注意点がありますので、ぜひチェックしてみてください。
(1)暦年贈与による生前贈与と基礎控除
1年間に110万円までの贈与には贈与税が発生しません。
というのは、贈与税は、1年間に贈与を受けた総額から、110万円(これを基礎控除といいます)を引いた額に税率をかけて算出することから、110万円までの贈与には結果として贈与税が発生しないのです。
この1年間に受けた贈与とは、毎年1月1日から12月31日までを基準として計算されます。
これを暦年課税制度といいます。
通常、贈与税は、暦年課税によって課税されます。
●注意点
暦年贈与は、毎年行っても何ら問題はありませんが、各贈与が単発の贈与であることが前提です。
例えば、総額2,000万円を贈与しようと思い、これを非課税の範囲で毎年110万円ずつ贈与する、というケースは、「連年贈与」といって当初から2,000万円の贈与があったものとして、暦年贈与の制度が否認されるケースがあります。
そのため、各年における暦年贈与は、単発の贈与でなければならないことに注意してください。
また、贈与者が子や孫の名義の口座を作成して通帳等の管理をし続けることも考えられますが、それもしてはいけません。
「贈与」とは、その処分権限が相手側にきちんと移らなければならず、通帳等の管理が依然として贈与者にあると、相手側に処分権限が移ったとみなされず、「贈与」と認定されずに相続財産に組み込まれてしまう危険性が残るのです。
サプライズ感覚で、贈与者がそのような贈与をしてくれていることを子や孫が知らないケースもあります。
しかし、「贈与」は契約ですので、相手側もこれを承諾していなければ「贈与」は成立していないと税務署に判断されてしまいます。
そのため、暦年贈与は相手側(子や孫等)の承諾の上行い、贈与財産の管理は必ず受贈者(もらった子や孫)がするようにしなければなりません。
(2)生活費や教育費の生前贈与
父母や祖父母の扶養義務者から受けた生活費や教育費として受けた贈与は、そもそも贈与税の対象とはならないとされています。
扶養義務者とは、民法上、ある者の扶養をする義務を負っている者をいい、配偶者や、直系尊属(父母や祖父母)、直系卑属(子や孫)、兄弟姉妹等が扶養義務を負うとされています。
つまり、配偶者は他の配偶者を扶養する義務を負い、親子や兄弟も互いに扶養する義務を負っているのです。
このような、法律上求められている扶養義務を果たすために生活費や教育費を渡しても、それは贈与税の対象とはなりません。
●注意点
扶養義務を負っている者の間の金品の贈与が全て非課税となるわけではなく、通常生活するのに必要な範囲や、教育のために通常必要な範囲を超えた金品の贈与は、贈与税の対象となることに注意が必要です。
また、扶養義務の履行である必要があるため、必要が生じた際に、その都度贈与するものに限られます。
ですから、例えば祖父母が孫のために、将来進学のために必要な資金をあらかじめ贈与するような場合は、扶養義務の履行とは認められず、贈与税の対象となってしまいます。
(3)教育資金の一括贈与の特例
(2)の注意点で述べたように、扶養義務の履行としての教育費の生前贈与は、贈与のタイミングがかなり限定的です。
そこで、教育資金としての贈与でタイミングを広げたものがこの教育資金の一括贈与の特例です。
令和3年3月31日までの特例措置ではありますが、父母や祖父母といった直系尊属が、30歳未満の子が孫に対して教育資金を一括して贈与する場合に、1,500万円まで非課税となる制度が教育資金の一括贈与の特例です。
この特例は、(1)の暦年課税の非課税枠(1年あたり110万円)とは別に利用することができます。
●注意点
この制度を利用するには、贈与を受ける子や孫の名義で信託銀行等の金融機関の口座を開設し、贈与を受けた子や孫は、教育資金が必要になった場合に、いったん自分でそれを支払い、支払った費用の領収書をその金融機関に提出して同額の金銭を引き出す、という手続きが必要な点でやや面倒といえるかもしれません。
また、贈与を受けた子や孫は、贈与を受けた金銭について、30歳になるまでに使ってしまわないと、30歳になった時点で口座に残っていた残高は、別途贈与されたものとして贈与税の対象になってしまう場合があるという点にも注意が必要です。
(4)結婚・子育て資金の一括贈与の特例
(3)の教育資金の一括贈与と同様、令和3年3月31日までの特例措置ですが、直系尊属が20歳以上50歳未満の子や孫に対して結婚や子育てのための資金を贈与した場合にも、1,000万円まで(結婚資金としては300万円まで)贈与税がかからないという特例があります。
結婚のための資金としては、結婚式にかかる費用はもちろん、新居を賃貸する際の敷金や礼金、引っ越し費用等も結婚資金として認められます。
子育てのための資金としては、妊娠・出産・産後ケアに関する費用や保育所・幼稚園・ベビーシッター等に係る費用のほか、不妊治療に関する費用も認められます。
●注意点
(3)の教育資金の一括贈与の注意点では、贈与を受けた側が30歳になるまでに、贈与を受けた金銭を使い切らなければ残額に贈与税がかかると記載しましたが、これは、贈与を受けた側が30歳になることは残期間の計算(あと何年で30歳だ、と計算すること)が容易ですので、それほどのデメリットではないと思います。
一方、この結婚・子育て資金の一括贈与の特例は、贈与をした側が死亡したときに贈与した金銭が使い切れていない場合に、その残金に贈与税がかかります。これは大きなデメリットです。
贈与を受けた側が30歳になることは、前述の通り前もって期間を計算することは容易ですが、贈与をした側が死亡するのがいつなのかは、基本的には全くわからないことです。
そのため、いつまでに使い切らなければならないのか計算することができない、という点が一般的には大きなデメリットとされます。
結婚資金として結婚式の時に結婚式費用を出したり、孫の進学の時に入学金を出す等、そのイベント時に贈与することは、そもそも(2)の扶養義務としての贈与と考えられるので非課税です。
そのため、タイミングを図らないという意味では、(3)の教育資金の一括贈与の方が、使い勝手が良いものとされています。
また、金融機関において贈与を受ける側の名義で専用口座を作る必要があり、贈与を受けた側は、いったん必要な費用を支払った後でその領収書を金融機関に提出して同額の金銭を引き出すという手続きが必要である点において教育資金の一括贈与の特例の場合と同様です。
(5)住宅取得資金等の贈与の特例
教育資金や結婚・子育て資金と別に、直系尊属である父母や祖父母が子や孫に対して、住宅を取得するための資金を贈与した場合についても、一定額までを非課税とする特例があります。
この特例は、令和3年12月31日までの特例とされています。
非課税となる限度額は、住宅の購入をする年度や、その時点での消費税率,また、購入する住宅が省エネ等基準を満たしているかどうかによって変わってきますが、最大3,000万円まで贈与税がかかることなく贈与することができます。
●注意点
子供に住宅を持たせることが、かえって相続税を増やしてしまう場合があります。
贈与者が住む自宅が相続されるとき、賃貸等で持ち家がない相続人においてはその評価額が8割引になる(相続税はかなり軽くなります)という制度があります(小規模宅地等の特例)。
贈与者の自宅の相続人である子供が自分の住宅を持ってしまうとこの制度が使えなくなるため、住宅資金の贈与においては相続税・贈与税が節税されるものの、自宅についての相続税額が確実にアップすることになってしまいます。
(6)相続時精算課税制度
一定の額の財産をまとめて贈与したい場合に利用できる制度として、相続時精算課税制度があります。
例えば、賃料収入があるマンションを贈与したい場合、早めに生前贈与することで、その後の賃料収入を、贈与を受けた側の収入とすることができます。
ただ、暦年課税制度では年110万円を超えた贈与には贈与税がかかります。
そこで相続時精算課税制度を利用することで、2,500万円までは、贈与時点において贈与税を発生させることなく贈与することが可能になります。
●注意点
贈与税は発生しませんが、相続時「精算」課税という名称のとおり、相続時には、その時点で相続したものとして相続税が発生する点には注意が必要です。
ただ、相続税額を算出する際、「基礎控除」という概念があります。
相続税は相続財産全額に対してかけられるものではなく、一定額を差し引いた相続財産についてかけられるのです。
この差し引く一定額を「基礎控除」と言います。
基礎控除は、相続人の数によって変わり、計算式は次の通りです。
3,000万円 + (相続人の人数 × 600万円)
相続財産がこの基礎控除の範囲内である場合、将来相続税はかかりません。
そのため、このようなケースにおいては、相続時に相続税が発生することはありません。
結局相続税を支払うのであれば、納税を先送りにする程度の意味しかないとも思われるかもしれませんが、賃料収入のあるマンションを贈与する等の例だと、贈与後の賃料収入は贈与を受けた者の収入となるので、相続財産が増加しないというメリットがあります。
また、贈与した財産の価額は、贈与時点で算定されるので、値上がりが見込めるような財産(例えば上場前の未公開株等)については、価額の低いうち(値上がり前)に贈与しておくことで、相続税を軽減することにも繋がるのです。
ただ、いったん相続時精算課税制度を利用した場合、その後は(1)の暦年課税制度を利用しての贈与は一切できなくなるという点にも注意が必要です。
3、現金による生前贈与で注意すべき点
(1)現金による生前贈与には証拠が残らない
現金で生前贈与をした場合、口座へ振り込む場合などと違って客観的な証拠が残りません。
そのため、仮に、1年に100万円しか贈与しておらず、暦年課税における非課税範囲内の贈与であっても、それ以上の金額を贈与しているのではないかという疑いをかけられてしまう場合があります。
また、贈与を受けた側が持っている現金が、借りたものかもらったものかも客観的にはわからないままになってしまいます。
そうすると、上記の贈与税非課税の制度が適用されるのかどうか、明らかとは言えないことになってきます。
そのようなことのないよう、現金で贈与したときには、贈与契約書を作成するか、受領証をもらっておく等、何らかの記録を残しておくとよいでしょう。
(2)相続前3年以内の生前贈与は相続税の対象となる
これは、現金による贈与に限った話ではないのですが、被相続人が亡くなる前3年以内にした贈与については、被相続人が亡くなった後、相続税の算定において、相続財産として相続税の計算の対象となってしまいます。
例えば、被相続人が亡くなる前3年間に、暦年贈与の非課税枠内であるとして毎年100万円ずつ贈与した場合、その300万円(100万円×3年)は、相続財産として相続税の対象となってしまうのです。
これは、相続税が累進課税であることから、亡くなる直前に、被相続人が、できるだけ生前贈与をして(贈与税を払ってでも)相続財産を減らそうとすることを防ぐという趣旨によるものです。
ただ、孫に対する生前贈与は、亡くなる前3年以内の贈与であっても相続税の対象になりませんし、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与、住宅取得資金の一括贈与の場合も、亡くなる前3年以内の贈与であっても相続税の対象にはなりません。
4、現金による生前贈与について相談するには
生前贈与は上手に行うことで、有効な相続税対策となります。
ただ、生前贈与を現金で行う場合は、記録が残らないので注意が必要です。相続時になって相続人が税務署から思わぬ指摘を受けないように、きちんと専門家に相談した上で行った方が安全といえるでしょう。
贈与税や相続税は税金に関することですから、税理士に相談されるのが一番の近道です。
ただ、特定の相続人に生前贈与すると、他の相続人との間に不公平感が生じ、後から相続トラブルが起こってしまう可能性があります。
せっかく相続税を軽減するために生前贈与したつもりが、相続人同士の争いを巻き起こしてしまっては元も子もありません。
相続トラブルを起こさないためには、相続に関する特別受益や遺留分に関する知識が欠かせませんし、遺言を残すかどうか、残すとしてどのような形式で残すかも大きな問題です。
このような問題をきちんとクリアして生前贈与を行いたい場合は、相続の専門家である弁護士に相談されるとよいでしょう。
まとめ
現金を手渡す方法であっても、税務署に把握されてしまう可能性は高く、また、バレてしまった時に刑事罰を科される可能性がある等リスクも大きいことから、こっそり生前贈与するのはやめた方がよいでしょう。
それよりも、課税の対象とならない生前贈与の制度をうまく利用して贈与を行うことで、結果として上手に相続財産を減らすことが得策といえるでしょう。
ただ、前述の通り各制度について注意点が付いて回ること、また、税法の解釈には幅があったり、法改正がなされたりすることから、正しいと思って行った生前贈与について後から税務署に指摘を受ける可能性があります。
そうならないよう、生前贈与を行う場合は、事前に専門家に相談されるのがよいでしょう。