婿養子が離婚する場合、一般的には養子縁組の解消という特別な手続きが必要になります。
婿養子制度によって結ばれた結婚が、離婚という未知の道へと進むとき、多くの方々が不安と悩みを抱えるでしょう。
そこで、婿養子が離婚するために必要な手引きや、特に気を付けておきたいポイントに焦点を当て、法的な手続きから感情的な対応までを網羅的に解説していきます。
また、離婚後の自分の苗字・旧姓についても詳細に解説するので、婿養子のみなさんが離婚を検討する際の参考になれば幸いです。
目次
1、婿養子の定義
そもそも「婿養子」とは、どのような状態のことを指すのでしょうか。
まずは法的な観点から見た婿養子の基本から押さえていきましょう。
(1)妻の姓を名乗ることが婿養子ではない
世間のイメージでは、結婚後に夫側ではなく妻側の姓を名乗ること=婿養子と解釈されていることも少なくありませんが、実はこれは誤りです。
法律上、婿養子となるために必要なのは以下の2点で、どちらの姓を名乗るかは通常の結婚の場合と同じく自由に選ぶことができます。
- 婚姻届を提出する
- 結婚した女性の両親と養子縁組を行う(=養子縁組届を提出する)
たとえ妻の姓を名乗り、妻の両親と同居している状態でも、養子縁組を行っていなければ法律上の婿養子にはならないので注意しましょう。
(2)妻の両親の遺産を相続できる
婿養子になると、妻の両親の養子という立場になるため、妻の両親から遺産を相続することができるようになります。
「養子になる=自分の実の親とは関係がなくなるということ?」と心配になった方もいらっしゃるかもしれませんが、婿養子になっても自分の実の両親との関係が切れるわけではなく、引き続き実の親の法定相続人になることもできるため、安心してください。
2、婿養子が離婚する方法|手続きの流れ
婿養子の基本を押さえたところで、ここからは肝心の離婚の流れについて解説していきます。
(1)離婚に向けた話し合いを進める
何はともあれ、夫婦で離婚に関する話し合いを行わなければならないところは、婿養子でもそうでなくても同じです。
以下に話し合うべきポイントをまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
①離婚の合意
妻に離婚の意思を伝え、同意を得るための話し合いを行います。
②慰謝料請求の有無
もし相手の不倫・モラハラ・DVなどが理由で離婚を考えている場合は、慰謝料の請求も検討しましょう。
たとえば不倫のケースでは数十万円~300万円、DV・モラハラでは数十万円~300万円が獲得できる慰謝料の相場になります。
③財産分与
財産分与とは、離婚時に夫婦の共有財産を分配する手続きのことです。
最初に財産分与の対象となるもの(=結婚後に稼いだ現金・不動産・有価証券・家具・家電など)のリストを作成し、どのようにして分けるかを話し合います。
婿養子における財産分与で気をつけるべきは、妻の特有財産についてです。
先ほど、財産分与は「共有財産」について分配する手続きだと説明しました。
共有財産とは、結婚後に築いた財産のことです(どちらが稼いだのかは、基本的には無関係です)。
一方、特有財産とは、結婚前からの財産や、結婚後に夫婦の一方が相手方の協力なしに取得した財産のことをいいます。
つまり、婿養子の場合、自宅が結婚前に妻の親から贈与を受けたものであるなど、妻側の特有財産があるケースが考えられます。妻が、特有財産を主張し、財産分与が難航した場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
④親権・面会交流
夫婦に子供がいる場合、親権をどちらが持つかも重要な話し合いのテーマです。
親権を持たないほうの親がどのくらいの頻度で子供と面会するのか、その場所や時間もある程度決めておく必要があります。
父親が親権を獲得するのは一般的に難しいとも言われていますが、「それでも絶対に子供を手放したくない」というみなさんは、下記の記事を参考に親権獲得を目指しましょう。
⑤養育費
離婚後、親権を得た側は子供と離れて暮らす相手に養育費を請求することができます。
金額の相場はお互いの収入や子供の年齢・人数によっても変わってきますので、詳しくは以下の記事を参照してください。
⑥養子縁組の解消の有無
婿養子の場合、離婚と同時に妻の両親との養子縁組を解消するかどうかも必ず話し合っておきましょう。
離婚と養子縁組の解消は基本的に別物で、離婚届を提出しただけではまだ養子の状態が継続されているため、これを解消するには別途「養子離縁届」を提出する必要があります。
(2)離縁届を各市区町村の戸籍住民課に提出する
離婚に関する話し合いがすべてまとまったら、まずは妻の両親との養子縁組を解消するため、離縁届を提出します。
提出先は各市区町村の戸籍住民課で、本人確認書類のほか、本籍地以外の役所に届け出る際には戸籍謄本も必要です。
養子縁組の解消にあたって話し合いでは解決できない問題がある場合、家庭裁判所に養子離縁調停を申し立てることもできます。
(3)離婚届を各市区町村の戸籍住民課に提出する
離縁届が受理され、妻の両親との法律上の親子関係が解消されたら、続いて離婚届の提出を行います。
これによって妻との夫婦関係も終了し、結婚時に妻の姓を名乗っていた場合は自動的に旧姓に戻ります。
ここでも話し合いで離婚の合意を得られない場合は、離婚調停で問題の解決を目指すことが可能です。
3、婿養子が離婚する際に心得ておきたい知識
ここからは、婿養子という立場だからこそ離婚時に気を付けておきたいポイントをまとめてご紹介していきます。
(1)妻の両親に慰謝料請求ができる可能性がある
離婚に至った理由や夫婦関係の悪化を招いた原因が妻の両親にある場合、妻の両親に対して慰謝料を請求できるケースがあります。
妻の両親からの暴力や度重なる嫌がらせに悩んでいたなら、離婚時の慰謝料請求も検討しましょう。
自分のケースで慰謝料請求が可能か知りたい場合は、弁護士の無料相談を活用して確認してみてください。
(2)妻の両親との財産分与は認められない
先ほどもお話したように、「離婚」と「養子離縁」は法律上別の手続きになり、養子離縁のほうには財産分与に関する取り決めが特にありません。
そのため、妻の両親と親子関係を解消するにあたって、相手側がいかに莫大な財産を所持していたとしても、その財産を分配してもらうことは原則できないのです。
(3)子供の戸籍について
婿養子で結婚後に妻の姓を名乗っている場合、離婚届を提出することでみなさん自身は旧姓に戻りますが、その子供はどちらが親権を持つことになっても現在の戸籍に残ったままになります。
たとえばみなさんが親権者となり、子供にも自分と同じ旧姓を名乗らせたいときには、「子の氏の変更許可」を裁判所に申し立てましょう。
(4)自分の苗字について
養子縁組を解消することで旧姓に戻る婿養子ですが、養子縁組が成立した日から7年以上が経過している場合は、離縁しても縁組中の苗字を名乗ることが可能です。
引き続き今の苗字を使用したい場合は、養子離縁届の提出時に各市区町村の窓口であわせて手続きを行いましょう。
(5)離婚よりも先に離縁をしておくべき理由
先ほど離婚の流れでもご紹介したように、養子離縁届は離婚届よりも前に提出しておくのがおすすめです。
離婚が成立した後で離縁を行う場合、感情のもつれなどでどちらかが離縁を拒否し、裁判所の判断に委ねられた際に離縁が認められないこともあります。
特に離婚の原因が妻にある場合や、離婚後に事情があって養子縁組を継続し、妻の両親と良好な関係を保った時期が一定期間あった場合には、後から離縁をすることが難しいケースもあるため注意が必要です。
(6)離縁してしまうと妻の両親の相続権はなくなる
離縁届を提出して養子縁組が解消されると、妻の両親の遺産を相続することはできなくなります。
逆に離婚が成立しても離縁届を提出していなかった場合、法律上の親子関係は継続されたままになるので相続権も有効です。
妻の両親からすると、自分の娘と離婚した相手に対して自分の財産を相続するというのも違和感のある話なので、ほとんどの場合、離婚と離縁はセットで考えられるでしょう。
4、婿養子の離婚は弁護士に相談するのがおすすめ
通常の結婚にはない養子縁組の解消手続きが発生する婿養子は、離婚の際にも夫婦間だけでなく妻の両親との話し合いが必要になるため、何かと揉めやすい傾向があります。
たとえば同居中の家で自分名義の住宅ローンを組んでいることから、借金トラブルが浮上した次のようなケースです。
嫁が離婚したいと言い出し、出て言った結果。 義父は娘と孫がいないのだから払わないと言い出し、嫁が出て言ってから一銭も払ってくれません。 私自身、土地が義父名義のために強く言えません。 そのくせに離婚にあたり、 連帯保証人を抜けたい その土地にはわたしたちは住めないのだから土地を買えと言ってきます。
引用:Yahoo!知恵袋
このような問題が発生した場合、当事者同士で決着をつけることは難しく、間に弁護士を挟んだほうがスムーズにトラブルを解決することができます。
法的な観点から自分にとって少しでも有利な離婚を目指すためのアドバイスも行ってもらうことができますので、婿養子で離婚を考えているみなさんはまず弁護士に相談してみましょう。
5、婿養子の離婚で頼りになる弁護士の選び方
普段の生活の中ではなかなか弁護士と接する機会もなく、どんな弁護士に話を依頼するのが良いのか分からないという人も多いかと思います。
そんなみなさんは、次のポイントを弁護士選びの参考にしましょう。
(1)離婚問題に関する知識が豊富
ひと口に弁護士といっても、得意とする分野は様々です。
金銭トラブル・不動産問題・労働問題・刑事事件など、大概の弁護士は具体的に専門とする分野を持っています。
離婚にあたって弁護士に相談するなら、やはり夫婦問題や養子縁組などに強く、その方面の知識も豊富な弁護士を選ぶのがベストです。
また、そういった家庭の問題を専門に扱う弁護士を探す際には、ひとまずインターネットで法律事務所のWebサイトを検索してみるのが良いでしょう。「離婚 弁護士」や「離婚 弁護士 東京」など、お住まいの地域とあわせたキーワード検索を行ってみるのもおすすめです。
(2)離婚事件の経験数が多い
知識の豊富さだけでなく、過去に受け持った離婚に関する相談件数の多さも重要なポイント。
実際の担当数が多ければ多いほど、その経験をもとにした効率的な進め方で手続きを行ってもらうことができ、「○○な場合には△△」といったケースバイケースな対応も安心して任せることができます。
(3)親戚や知人からの紹介
同じようなトラブルを経験した親戚や友人から、そのときお世話になった弁護士を紹介してもらうのもひとつの方法です。
「この人は頼りになったよ」という知り合いのお墨付きがあれば、弁護士ともより早い段階で信頼関係を結ぶことができ、スピーディーな問題解決を目指すことができるでしょう。
その他、離婚に関する手続きを安心して任せられる弁護士に出会うために押さえておきたいポイントについては、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
婿養子の離婚に関するQ&A
Q1.婿養子が離婚する方法|手続きの流れとは?
- 離婚に向けた話し合いを進める
- 離縁届を各市区町村の戸籍住民課に提出する
- 離婚届を各市区町村の戸籍住民課に提出する
Q2.婿養子が離婚する際に心得ておきたい知識とは?
- 妻の両親に慰謝料請求ができる可能性がある
- 妻の両親との財産分与は認められない
- 子供の戸籍について
- 自分の苗字について
- 離婚よりも先に離縁をしておくべき理由
- 離縁してしまうと妻の両親の相続権はなくなる
Q3.婿養子の離婚で頼りになる弁護士の選び方とは?
- 離婚問題に関する知識が豊富
- 離婚事件の経験数が多い
- 親戚や知人からの紹介
まとめ
婿養子は一般的に「結婚して妻の姓を名乗ること」と認識されていることも多いですが、その状態は単なる「婿」であって、法律上の「婿養子」となるには妻の両親との養子縁組が必要です。
そのため、離婚する際にも妻との離婚届を出すだけでは妻の両親との親子関係は解消されません。
もちろん、何らかの事情があって「妻とは離婚するけれども養子の関係は継続する」というパターンもないわけではありませんが、妻の両親の養子となっている状態=妻の両親の遺産を相続できる状態ということで、大抵の場合は相手側から離婚と同時に離縁の申し出があります。
ただし、そういった2つの手続きが絡んでくる婿養子の離婚の場合、通常の離婚よりも話し合いの際に揉めやすいこともまた事実。
もし納得のいかないことがあったり、自分にとって不利な条件での離婚を迫られたりした場合には、弁護士に相談して法的な観点からのアドバイスを得ましょう。
また、その際にはぜひ今回ご紹介した弁護士の選び方も参考にしてください。