遺贈で、思い通りに財産を譲渡するためにはどのような点に気を付ければよいのでしょうか。
自分が死んだ後の相続に関する問題は、ご自身が元気なうちはなかなか想像しにくいものですし、逆に家族から相続の話を持ち出すのも遠慮されることが多いと思います。
ただ、相続が「争続」にならないためにも、正しい知識と、早めの対策が欠かせません。
ここでは、相続の一場面としての遺贈について、相続との違いや遺贈を行うための注意点等、遺贈をするなら知っておくべき点についてご説明します。
遺言について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、遺贈とは
遺贈とは、遺言により、遺言者が所有している財産を、遺言者の死後に、無償で譲ることをいいます。
財産を譲る相手は、法定相続人に限られず、また、個人でも法人でも構いません。
遺贈においては、財産を譲る者を「遺贈者」、財産を譲り受けるものを「受贈者」といいます。
遺贈は、法定相続人に対して行うこともできますが、法定相続人に対しては、誰に何を(どれだけを)相続させるかを遺言に記載する、「遺産分割方法の指定」によって行う場合が多く、遺贈は下記のような法定相続人以外の者に財産を譲りたい場合に、しばしば利用されます。
- 内縁関係にある妻に、現在暮らしている住居を譲りたい
- 自分の介護をしてくれている長男の嫁に、財産の一部を譲りたい
- 養子縁組はしていないが、孫や妻の連れ子等に、直接財産の一部を譲りたい
- 長年お世話になった友人に、財産の一部を譲りたい
- 活動の趣旨に共感したNPO法人に、財産の一部を寄付したい
遺贈をする場合は、必ず遺言書を作成する必要があります。
遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
自筆遺言証書は自分で作成する遺言書で、公正証書遺言は、公証人役場において作成してもらう遺言書です。
秘密証書遺言は、作成は自分で行ったうえで、遺言書を公証人役場で保管してもらう方法です。
秘密証書遺言と公正証書遺言との違いは、内容を公証人に記載してもらうか、自分で記載するか(公証人には内容を伝えない)という部分にあります。
2、遺贈と相続、死因贈与との違い
(1)遺贈と相続の違い
遺贈は、遺言によって、死後に財産を承継させるものですから、誰にどのような財産を譲るかということに、遺言者(遺贈者)の意思が反映されます。
これに対し、相続は、遺言がない場合でも発生し、財産の所有者がなくなった場合、法律に定められた相続人(法定相続人)が、財産を承継することになります。
また、遺言を作成する場合であっても、「遺贈する」という言葉を使う場合と、「相続させる」という言葉を使うことがあります。
「相続させる」という言葉は相続人に対してしか使えないのに対し、「遺贈する」という言葉は、相続人にも、また相続人以外の者に対しても使うことができます。
ですから、相続人以外の者に財産を譲る場合は、かならず「遺贈する」という言葉を使う必要があります。
法定相続人に譲る場合は、「遺贈する」でも「相続させる」でも良いのですが、不動産を法定相続人に譲る場合、「遺贈する」よりも「相続させる」と記載した方が、譲受人が単独で登記手続きができることや(「遺贈する」の場合は、他の共同相続人との共同申請になる)、譲り受けた相続人が、登記がなくても第三者に不動産の所有権を主張できる(「遺贈する」の場合は登記がないと第三者に不動産の所有権を主張できない)というメリットがあるので、「相続させる」という言葉を使用した方がよいといえます。
(2)遺贈と死因贈与との違い
遺贈と同様、財産の所有者の死亡を契機として、相続人以外の第三者に財産を譲渡する方法に死因贈与があります。
死因贈与は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与契約です。
民法においても、死因贈与には遺贈に関する規定が準用されており、遺贈と効果は同様といえます。
ただ、遺贈が、受贈者の単独行為で、遺言を残すだけで良いのに対し、死因贈与は契約ですから、生前に、贈与者と受贈者との間で契約を締結する必要があるという違いがあります。
つまり、遺贈は、遺言である以上、遺言者が死亡するまで内容が明らかにされないのに対し、死因贈与は、生前に財産を譲り受けるものとの契約が必要であって、生前に内容を正式に伝える必要があります。
3、包括遺贈と特定遺贈の違い
遺言で行う遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2つの方法があります。
包括遺贈は、財産を特定せずに割合だけを示して財産を譲る方法です。
例えば「Aに遺産の4分の1を遺贈する」というような場合です。
包括遺贈の場合、遺贈を受ける者は、相続人と同一の権利義務を有することとなります。
ですから、遺言者にプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(債務)も有る場合は、割合に応じて債務も承継することになります。例えば、前記の例で言えば、プラスの財産の4分の1と同時に、債務(借金)の4分の1も引き継ぐことになります。
これに対し、特定遺贈は、財産を特定して遺言によって財産を譲る方法です。
例えば、「東京都○○区●●▲丁目▲番地の土地をBに遺贈する」というような場合です。
特定遺贈の場合、特定された財産だけを譲り受けるため、特に遺言で指定がない限り、債務を引き継ぐことはありません。
4、遺言書の記載例
遺言で遺贈を行う場合、以下のような内容で遺言書を作成します。
(1)包括遺贈の場合
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(2)特定遺贈の場合
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5、遺贈を受けた場合の税金(相続税)について
遺言によって遺贈を受けた場合、遺贈を受けた者(受遺者)が、法定相続人であっても、それ以外の第三者であっても、相続税が課税されます。
通常、相続税は、【3000万円+600万円×法定相続人の数】で計算される基礎控除を上回る財産を相続した場合に発生しますが、この基礎控除の計算方法は遺贈をした場合でも変化はありません。
つまり、法定相続人が3人いる場合に、法定相続人の3人と、法定相続人以外の者1人の合計4人に遺贈をしたとしても、基礎控除額は、4800万円(3000万円+600万円×3)で計算される(第三者に遺贈をしたからといって、基礎控除が増えるということはない)のです。
そして、相続人(及び受遺者)が相続した(遺贈を受けた)財産に対する相続税をそれぞれ算出し、それを合計して相続税額の合計額を求めた後、それぞれが相続(遺贈)した割合に応じて各自の相続税の負担額が決まるという点も、通常の相続税の計算と変わりはありません。
ただ、法定相続人以外の第三者が遺贈を受けた場合、最終的に算出した相続税額に2割加算がなされる点に注意が必要です。
法定相続人以外の第三者とは、第1順位の法定相続人でも第2順位や第3順位の法定相続人でもない者を指します。
ですから、被相続人に配偶者と子供がいる場合、実際の法定相続人は配偶者と第1順位の法定相続人である子になりますが、被相続人が兄弟に遺贈をしたとしても、兄弟は第3順位の法定相続人であるため、その兄弟が2割加算を受けることはありません。
法定相続人とは誰を指すのかについて詳しくはこちらをご参照ください。
6、遺贈を受けた場合の不動産登記及び税金について
(1)不動産の遺贈を受けた場合の所有権移転登記(名義変更)について
遺贈は、民法上、また税法上も相続の場合と同様に扱われることが多いのですが、不動産の登記及び税金の場面では相続の場合と異なる扱いがなされる場合があるので注意が必要です。
まず、遺贈によって不動産を譲り受けた場合、その不動産の名義を遺言者から遺贈を受けた者(受贈者)に変更する必要がありますが、相続の場合は、所有権移転登記(名義変更)が、その不動産を相続した者が単独でできるのに対し、遺贈の場合は、相続人全員及び受遺者との共同申請になります。
ですから、登記の必要書類に相続人全員の署名・押印が必要になります(遺言で遺言執行者が選任されているときは、遺言執行者と受遺者の共同申請となり、遺言執行者が受遺者と同一人物の場合は、受遺者が単独で登記申請することができます)。
(2)不動産の遺贈を受けた場合の税金について
相続によって不動産を譲り受けた場合、一般に、所有権移転登記を行うための登録免許税が発生しますが、不動産取得税は発生しません。
しかし、法定相続人以外の第三者が、特定遺贈を受けた場合は、不動産取得税が発生します。
また、登録免許税の税率も、相続の場合と遺贈の場合で割合が異なるので注意が必要です。
| 相続 | 遺贈 | |
不動産取得税 | 発生しない | 発生しない | 包括遺贈の場合:発生しない |
登録免許税 | 1000分の4(0.4%) | 1000分の4(0.4%) | 1000分の20(2%) |
7、遺贈を受けた者は放棄することができるか
遺贈は、死因贈与と異なり、遺言者が遺言によって遺贈の意思表示を行うだけで足り、遺贈を受ける側の意思は問われません。
ただ、相続の場合と同様、遺贈を受けた者は、遺贈を受けるか(承認するか)、遺贈を受けないか(放棄するか)を選択することができます。
放棄を行う方法は、包括遺贈の場合は、相続放棄と同様、遺贈があったことを知った日(通常は遺言者が亡くなった日)から3か月以内に、家庭裁判所において放棄の手続きをとることが必要です。
特定遺贈の場合、特に手続きは必要ありませんが、遺言で受贈者と指定された者が、遺贈を承認するか放棄するかの意思を表明しないままであると、財産の所有権の帰属がはっきりしないままになってしまいますから、相続人は、受贈者と指定された者に対し、遺贈を承認するか放棄するかの催告を行うことができます。
この催告を受けてから一定の期間内に、受贈者としてされた者が、承認するか放棄するかの意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされます。
8、遺贈で財産を寄付したいときは
近年、遺贈の方法により、自己の財産の全部または一部を、自己の死後、NPO法人や公益法人、学校法人等の非営利団体に寄付するという方が増えてきています。
単に財産を残す者がいないという理由の場合もありますが、積極的に遺産を社会のために使いたいとか、特定の活動を支援したいという想いから遺贈による寄付を選択する方が増えつつあるのです。
ただ、遺贈される側の施設や団体によっては、財産を受け入れること自体が困難な場合もあるので、事前の確認が必要です。
また、遺贈をした場合、遺贈した財産がどのように利用されるのかということもしっかり調べた上で、遺贈するかどうか、遺贈するとしたら、どのような財産をどの程度遺贈するのか、ということを判断されるとよいでしょう。できれば、非営利団体に生前にご相談されることをお勧めします。
9、遺贈をするときの注意点
(1)相続人の遺留分に注意する
遺贈は、自分が亡くなった際に、誰にどのような財産を受け継がせるかということについて、故人の遺志を最大限に反映することができます。
ただ、法定相続人には、法定相続分の2分の1までの遺留分があり、これを侵害すると、遺言によって財産を譲り受けた者に対し、遺留分減殺請求がされる場合があります。
ですから、遺言の内容が、法定相続人の遺留分を侵害していないかどうかには注意を払う必要があります。
(2)受遺者が先に亡くなった場合の対処をする
遺贈は、受遺者が、遺言者よりも先に亡くなってしまった場合には、遺贈自体が無効になってしまいます。
ですから、遺言者が亡くなった時点で受遺者の方が先に死亡していたときのことを考え、その時には財産を誰に引き継がせるかという、「予備的な遺贈」も遺言書に記載しておくべきでしょう。
10、遺贈についての相談先
遺贈は、財産を、自分の死後誰に譲るかという点について、財産の所有者(遺言者)の意思を最大限反映することができます。
ただ、既にご説明したように、遺贈は、相続に近い面も多々ありますが、不動産登記手続の点や登録免許税、相続税の点等で差異がでる場合があるので、注意が必要です。
このように、遺贈に関しては、法律的な側面、登記手続、税金面と様々な分野に関連しています。
一般的に法律的な側面は弁護士、登記に関しては司法書士、税金に関しては税理士がそれぞれの専門家といえるので、遺贈について相談をしたいときはこれらの専門家に相談されるのが良いといえますが、例えば、司法書士であっても、登記だけでなく税金面にも精通している司法書士、というように、遺贈について、広範囲な知識と経験を有している専門家に相談された方がよいといえます。
そのためには、複数の専門家に相談してみられたり、その専門家のHP等やコラム等を読んでみたりすることも大切です。
まとめ
遺贈は、財産の所有者が亡くなった後の帰属先について、所有者の意思を反映できる反面、法定相続人以外の第三者にも財産を譲ることができるため、しばしば、遺贈を受けた者(受遺者)と相続人との間でトラブルになることがあります。
また、相続と遺贈では税金面で違いが出てくるため、相続ではなく遺贈を選択したために、財産を譲り受けた側に負担をかけてしまうこともあります。
遺贈は、遺言によって行うことができ、遺言書は自分で作成することも可能ですが(自筆遺言)、このようなトラブルを未然に防ぐためにも、遺贈を行う際の遺言書の記載の仕方や内容については、専門家に相談しながら行われることをおすすめします。