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養育費請求権には時効がある?養育費の取りのがしを防ぐポイント

養育費請求権には時効がある?養育費の取りのがしを防ぐポイント

離婚時にバタバタとしていたので養育費をまだ請求していないけれど、もしかして時効にかかっているのではないだろうか……?

このような心配を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

法律では、さまざまな請求権について消滅時効という制度が定められています。請求しないまま一定期間が経過すると時効が完成し、その後は請求できなくなってしまいます。養育費の請求権も例外ではありません。

では、養育費の請求権は何年で時効にかかってしまうのでしょうか。

今回は、

  • 養育費請求権の時効期間
  • 養育費請求権の時効完成を阻止する方法
  • 養育費請求権の時効完成後も請求できる場合

などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がやさしく解説していきます。

この記事が、養育費をまだ請求していない方や、請求して取り決めをしたものの不払いや滞納が続いて時効が気になっている方の手助けとなれば幸いです。

養育費の基本については以下の関連記事をご覧ください。

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1、離婚後の養育費請求権の時効〜そもそも時効制度とは

離婚後、子どもの親権者は元配偶者に養育費を請求できますが、請求しないまま一定の期間が経過すると時効が完成し、養育費をもらえなくなってしまう場合があります。

時効制度とは、一定の事実状態が長期間にわたって続いている場合に、それが真実の権利関係と合致しているかどうかを問わず、そのまま正当な法律上の権利関係として認める制度のことです。

ある人が何らかの権利を持っていたとしても長期間行使しなければ、関係者はその権利が行使されないものとして生活し、さまざまな法律関係を築いていってしまいます。大げさに言えば、その権利が行使されないことを前提として一定の社会秩序が形成されていきます。

その後に急に権利を行使されると、請求を受けた相手方だけでなく、その周囲の人や関係者等も困ってしまいます。そこで、時効制度というものが定められ、長期間にわたって構築された法律関係や社会秩序の安定が図られているのです。

民法上、債権は次のいずれかの期間が経過すると消滅時効が完成し、消滅するものとされています(同法第166条1項)。

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
  • 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

権利を行使できることを知っている場合には知ったときから5年、知らない場合でも客観的に権利行使が可能となったときから10年間、権利を行使しなければその権利は時効で消滅してしまうということです。

離婚後の養育費請求権の時効について考える際にも、以上のことが基本となります。

2、養育費請求権の時効期間は何年?

では、養育費の請求権は何年で時効にかかるのでしょうか。上記の説明からすると、離婚したときから5年または10年で時効にかかると思われるかもしれませんが、そうではありません。

養育費の請求権は、売買契約における代金の請求権や、お金の貸し借りにおける返済請求権とは異なる性質がありますので、もう少し細かくみていく必要があります。

(1)養育費の取り決めをしていない場合は時効にかからない

まず、養育費は子どもが成人するまで請求することができます。その意味では、時効にかかることはありません。つまり、離婚時に養育費の取り決めをしていない場合、離婚から10年以上が経過した後でも、子どもが未成年なら養育費の請求は可能です。

ただし、請求可能なのは今後の養育費についてのみです。それまで支払ってもらっていなかった分については、原則として請求することができません。

なぜなら、養育費とは日々の子どもの生活に要するお金のことであり、今まで請求していなかったということは養育費をもらわなくても子どもの生活ができていたと考えられるからです。

この理由から、実務上は親権者が元配偶者に養育費の支払いを要求したときから具体的な請求権となると考えられています。過去の養育費については具体的な請求権がそもそも発生していないため、時効の問題とは無関係に請求できないということになるのです。

(2)養育費の取り決めをしている場合は5年

離婚時や離婚後に元配偶者と養育費の取り決めをした場合は、具体的な請求権が発生しています。そのため、時効の問題が出てきます。

取り決めをしたにもかかわらず養育費が支払われない場合、その請求権は不払いや滞納が発生したときから5年で時効にかかります(民法第166条1項)。

ただ、養育費は毎月支払われるのが通常ですので、5年以上が経過すると1ヶ月分ずつ順に時効消滅していくことになります。

例えば、令和3年7月から毎月末日までに5万円の養育費を支払ってもらうように取り決めたとします。

その後、養育費が一切支払われない場合、5年後の令和8年7月末日の経過をもって令和3年7月分の5万円が時効消滅します。令和8年8月末日が過ぎると、令和3年8月分の5万円も時効消滅します。

その後も同じように進行していき、令和8年12月末日が過ぎると5ヶ月分の合計25万円が時効消滅することになります。

このように、時間が経過すればするほど時効消滅する金額が増えていきますので、早めに回収することが重要となります。

(3)調停や裁判で養育費が決められた場合は10年

養育費の取り決めを当事者間の協議で行うのではなく、家庭裁判所での調停や審判、裁判で決められた場合は、時効期間はそのときから10年となります(民法第169条1項)。

裁判所で決められた債権はその存在が公的に確定されるため、当事者間の協議で決められた場合よりも時効期間が長くなるのです。

したがって、これから離婚する方や、新たに養育費を請求する方は、調停や裁判をした方が時効を心配する必要性は少なくなるといえます。

3、養育費請求権の時効期間が経過しても時効が完成しない3つのケース

養育費を取り決めた後、時効期間が経過したと思っても、事情によっては時効が完成していないケースもあります。そのため、請求を諦めるのはまだ早いです。

以下の事情がある場合には時効が更新され、それまで進行してきた時効期間はゼロに戻りますので、養育費を請求することができます。

(1)相手が支払いを承認した場合

たとえ時効期間が経過してしまった後でも、元配偶者が養育費の支払いを承認した場合は、もはや時効を主張することができなくなります(民法第152条)。

承認とは、支払いを請求された側が「自分に支払い義務があることを認めます」と意思表示をすることをいいます。

このようにストレートに認める場合の他にも、「支払わなければいけないのは分かっているけど、今はお金がない」、「遅れてでも支払うから待ってほしい」などと、支払い義務があることを前提とした発言をした場合も承認したことになります。

これらの場合は、できる限りその場で念書を書いてもらうなどして、承認したことの証拠を残しておきましょう。

また、何ら相手の発言がなくても養育費を一部でも支払った場合は、支払い義務があることを前提としていますので、やはり承認したことになります。

(2)裁判上の請求をした場合

時効が完成する前に裁判を起こして請求すると、その時点で時効の完成が猶予されます(民法第147条1項1号)。そして、裁判で改めて養育費が決められ、その裁判が確定するとそのときから10年が経つまで時効は完成しなくなります。

つまり、養育費の不払いや滞納が発生してから5年が経過する前に裁判を起こせば、その裁判が終了するのが5年経過後であっても時効は完成しないということです。

(3)差押え手続きをした場合

時効が完成する前に差押え手続きをした場合も、その時点で時効の完成が猶予されます(民法第148条1項1号)。

例えば、養育費の取り決めを公正証書で行っていた場合、養育費の不払いや滞納が発生してから5年以内に相手の給料や預金などの財産を差し押さえる手続きを行えば時効は完成しないということです。

ただし、公正証書で取り決めた場合は養育費の請求権が裁判で確定したわけではありませんので、差押えの効力が生じてから新たに5年が経過すれば時効が完成することにご注意ください。

4、養育費請求権の時効期間が迫っているときの対処法

元配偶者が養育費を支払わず、どうすればいいのか分からず悩んでいる間に気づけば時効期間が迫っているということもあるでしょう。

すぐに裁判や差押え手続きができればよいのですが、その準備に数ヶ月かかることも少なくありません。その間に時効が完成してしまえば、もう養育費を請求できなくなってしまいます。

このような場合には、相手に支払いを「催告」することによって6ヶ月間だけ時効の完成を遅らせることができます(民法第150条1項)。その間に相手と話し合うか、裁判を起こすことによって養育費を請求していくことが可能となります。

ただし、この方法が認められるのは1度だけです。催告を何度も繰り返すことによって延々と時効の完成を遅らせることはできません(同条2項)。

また、この方法を用いるときは、時効が完成する前に相手に催告したことの証拠を残すために、内容証明郵便を使うことが大切です。つまり、養育費請求権の時効期間が迫ってしまったときには、早急に内容証明郵便で請求書を送ればよいということです。

5、養育費請求権の時効完成後は絶対に請求できないのか

実は、養育費請求権の時効が完成した後でも、相手に請求することは可能です。なぜなら、時効はそれによって利益を受ける人が「援用」して初めて効力が生じるからです(民法第145条)。

援用とは、債権の消滅時効の場合なら「時効が完成しているので支払いません」という意思表示のことをいいます。相手が時効を援用しない限り、養育費請求権はまだ消滅していませんので、請求可能なのです。

相手が時効制度のことを知らずに請求に応じた場合でも、こちらから教えてあげる義務はありませんので、そのまま養育費を受け取って構いません。

相手が時効制度を知っている場合でも、任意に支払いに応じてくれるのであれば養育費を受け取ることができます。養育費を支払ってもらえないことで子どもがどれほど苦労しているかを相手に伝えて十分に話し合うとよいでしょう。

ただし、相手が明確に時効を援用しているにもかかわらず執拗に支払いを求めると罪に問われるおそれもあります。あくまでも常識的な話し合いを通じて理解を求めるようにしましょう。

6、養育費の取りのがしを防ぐための4つのポイント

ここまで、養育費請求権の時効の問題について解説してきました。

養育費は子どもを育てていくための大切なお金ですので、取りのがしのないよう事前に対策をとっておくことが重要です。

ここでは、養育費の取りのがしを防ぐためのポイントを4つご紹介します。

(1)離婚時に養育費を必ず取り決めておく

まず、離婚時に養育費を必ず取り決めておきましょう。

相手のDVやモラハラがひどいために取り決めができないまま離婚した場合も、できる限り早期に取り決めておくべきです。相手と直接話し合えない場合は、弁護士を通じて話し合うか、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てて話し合うとよいでしょう。

前記「2」(1)でご説明したとおり、取り決めをする前の養育費は請求できませんので、取り決めをしておくことは非常に重要です。

(2)離婚協議書は公正証書にしておく

当事者間の話し合いで養育費を取り決めた場合は、離婚協議書を公正証書(強制執行認諾文言付き)にしておきましょう。

なぜなら、もし相手が約束どおりに養育費を支払わない場合には、公正証書があれば裁判をすることなく相手の財産を差し押さえることが可能となるからです。公正証書がなければ、裁判で養育費を決めてからでなければ差押え手続きを行うことはできません。

なお、裁判以外でも調停や審判で養育費を決めた場合は、調停調書や審判書によって差押え手続きができますので、公正証書を作成する必要はありません。

(3)滞納があればすぐに催促をする

養育費を取り決めた後、もし滞納が発生したらすぐ相手に催促をしましょう。1ヶ月でも遅れたら催促すべきです。滞納されても連絡せずに放置していると、相手も「少しくらい遅れても大丈夫だ」と考えて滞納を重ね、やがて全く支払われなくなるケースが多々あります。

養育費をきちんと受け取るためには、相手任せにすべきではありません。「少しでも遅れると厳しく催促される」と相手に思わせることが大切です。

(4)滞納が続いたら強制執行をする

滞納が続いたら、躊躇せず強制執行手続きをとって相手の財産を差し押さえましょう。

養育費の支払いが1ヶ月遅れたら催促しながら強制執行手続きの準備を始め、3ヶ月遅れたら実際に強制執行を申し立てることをおすすめします。

ただし、強制執行を申し立てるためには相手の財産を把握していなければなりません。離婚時に相手の財産を把握しておくべきですが、離婚後に相手方が転職したり、メインバンクを変更するなどして差押え可能な財産が分からなくなることもあるでしょう。

その場合は、民事執行法に基づく「第三者からの情報取得手続」や裁判所における「財産開示手続」を利用することで、相手の財産を調べることが可能です。

財産を把握できずに悩んでいると時間だけが過ぎていき、時効が完成してしまうことにもなりかねません。困ったときは、弁護士に相談してみましょう。具体的に何をやればよいのかについてアドバイスが受けられます。

まとめ

養育費の滞納や不払いを放置していると、時効が完成して請求できなくなってしまいます。

子どもを育てていくためには、養育費の請求権があるからといって安心せず、離婚時から子どもが成人するときまでしっかりと請求していくことが大切です。

養育費の支払いに不安があるときには、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。弁護士がついていれば、離婚時には相手との話し合い代行してくれるので、養育費の取り決めを任せることができます。公正証書の作成も代行してもらえます。
取り決めた後に滞納や不払いが生じたときには、相手の財産調査や強制執行の申立ても弁護士が代行してくれます。養育費請求権の時効など心配する必要はなくなることでしょう。

弁護士の力を借りて、養育費をしっかりと確保していきましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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