離婚を検討する際、結婚前の姓と結婚後の姓、どちらを名乗るのか考えなければなりません。そして子供の姓についても考慮しなければなりません。
今回は、離婚後の戸籍と苗字について詳しく解説します。
1、離婚後の性と戸籍
結婚するときには、夫婦は新しい戸籍を作って一緒に入り、同じ姓を名乗ることになります。
一緒の戸籍に入っていた夫婦も、離婚すると、別々の戸籍になります。
夫を筆頭者として妻が夫の姓を選択した場合を前提に説明します。
この場合、筆頭者である夫の戸籍はそのままで、妻が夫の戸籍を出ることになります。
妻の離婚後の戸籍や姓をどうするかについては、妻自身が次の3つの選択肢の中から選ぶことができるようになっています。
(1)結婚時に姓を変えなかった場合
結婚により姓を変えなかった場合は、離婚をしてもそのままの性を名乗れるため、特に必要な手続は必要ありません。
(2)自分の親の戸籍(旧姓)に戻る
離婚後、妻は旧姓に戻るのが原則です。
妻が旧姓に戻る場合には、妻は離婚前に入っていた親の戸籍に戻ることができます。
<手続き方法>
親の戸籍に戻る手続きとしては、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄の「妻はもとの戸籍にもどる」にチェックを入れ、親の本籍を記載するだけでOKです。
(3)旧姓で新たな戸籍を作る
離婚後、妻は旧姓に戻りますが、親の戸籍に戻らず、自分が筆頭者となる戸籍を新しく作ることもできます。
この場合、本籍地は日本全国どこに置いてもかまいませんので、自分の好きな本籍地を選んで戸籍を作ることになります。
<手続き方法>
旧姓で新たな戸籍を作る場合には、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄の「妻は新しい戸籍をつくる」にチェックを入れた上で、自分の希望する本籍地を記載します。
(4)離婚時の姓で新しい戸籍を作る
離婚すれば原則として旧姓に戻りますが、離婚から3か月以内に届出をすれば、結婚していたときの姓をそのまま名乗り続ける「婚氏続称」も可能です。
婚氏続称したい場合でも、夫の戸籍は出なければなりません。
そのため、婚氏続称の場合には、妻1人だけの新しい戸籍を作る必要があります。
<手続き方法>
婚氏続称するためには、離婚届の「婚姻前の氏にもどる者の本籍」欄には何も記載せず、「離婚の際に称していた氏を称する届」(戸籍法77条の2の届)を本籍地または住所地に出せばOKです。
戸籍法77条の2の届は離婚届と同時に出すこともできますが、離婚届を出した後も3か月以内であれば出すことができます。
なお、一度戸籍法77条の2の届をしてしまうと、たとえ3か月以内であっても取り消しはできず、旧姓に戻るためには裁判所の許可が必要となってしまいます。どちらを名乗るかはよく考えて選ぶようにしましょう。
2、離婚したら子供の戸籍と氏(姓)はどうなる?
次に離婚したら子供の戸籍と氏(姓)がどうなるか説明していきます。
(1)基本的には父親の戸籍に入ったままになる|父親の姓
結婚している夫婦の間に子供が生まれると、子供も同じ戸籍に入ります。
夫婦が離婚することになっても、子供の戸籍に変動はありません。
つまり、子供は父親の戸籍に入ったままで、姓も変わらないことになります。
ちなみに、親権と戸籍とは関係がないので、離婚時に母親を親権者に指定しても、それによって子供が母親側の戸籍に入ることはありません。
離婚後も子供の姓を変えるつもりはなく、子供が父親の戸籍に入っていてもかまわないのであれば、子供の戸籍や姓に関しては何も手続きをする必要はありません。
(2)母親の戸籍に入れて離婚前と同じ姓を名乗る
母親が婚氏続称を選んだ場合には、母親と子供の姓は同じですが、子供は父親の戸籍に入っている状態です。
しかし、離婚後に母親が子供を引き取る場合には、母親は自分の戸籍に子供を入れたいと考えることが多いはずです。
母親と子供の戸籍が別でも、姓は同じですから、日常生活に大きな支障はありません。
しかし、子供が父親の戸籍に入ったままだと、父親が再婚した場合に、再婚相手も子供と同じ戸籍に入っている状態になります。
こうした状態は、母親にとっては心情的に複雑でしょう。
子供を離婚後に母親の方の戸籍に入れることも可能です。
この場合には、家庭裁判所で「子の氏の変更」の手続きをとる必要があります。
「子の氏の変更」というと、子供の姓を変える手続きと勘違いしてしまうことがありますが、子供の戸籍だけを変える場合にも「子の氏の変更」になります。
子の氏の変更の手続き方法と流れは、次のとおりです。
① 家庭裁判所に申立て
子供の住所地を管轄する家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出します。
申立書の書式は、裁判所のホームページからダウンロードできます。
申立ての際には、申立書のほかに、子供が入っている父親側の戸籍謄本と母親の戸籍謄本(どちらも離婚の記載があるもの)、収入印紙(子供1人につき800円)、郵便切手(即日交付を受ける場合には不要)が必要です。
申立書は直接家庭裁判所に持参する以外に、郵送で提出することも可能です。
裁判所によっては、直接申立書を持参すれば、即日許可がおり、その場で審判書の交付が受けられるところもあります。
いずれにしろ、申立書を提出する前に、管轄の裁判所に手続きの詳細を問い合わせするようにしましょう。
②審判書の受け取り
通常、子供の戸籍を親権者である母親側に変更するケースでは、問題なく許可がおります。
この場合、申立書に不備等がなければ、すぐに審判書が交付されます。
即日交付の場合にはその場で審判書を受け取ることになり、郵送の場合には、後日家庭裁判所から審判書が送られてくることになります。
③入籍届の提出
家庭裁判所の審判書を受け取ってから、本籍地または住所地の役所に行き、子供の入籍届を出します。
このときにも、子供が入っている父親側の戸籍謄本と母親側の戸籍謄本が必要になります(ただし、提出する役所に戸籍がある場合にはその戸籍謄本は不要)。
入籍届を出すことにより、子供は母親の戸籍に入ることになります。
(3)母親の戸籍に入れて母親の旧姓を名乗る
母親が離婚後に旧姓に戻った場合、そのままでは子供と母親の姓が違うことになります。
子供を母親と同じ姓にするには、母親の戸籍に子供を入れなければなりません。
離婚後に母親が子供を自分と同じ戸籍に入れるためには、上記(2)に記載の子の氏の変更の手続きを行う必要があります。
なお、母親が自分の親の戸籍に戻った場合、その戸籍に子供を入れることはできません。同じ戸籍に3世代が入ることはできないからです。
母親が子供を同じ戸籍に入れたい場合には、離婚後に親の戸籍に戻るのではなく、新しい戸籍を作っておかなければなりません。
離婚後親の戸籍に戻ってしまった場合には、分籍の手続きをして、母親だけの新しい戸籍を作ってから子の氏の変更を行う必要があります。
(4)15歳未満は親権者、15歳以上は自らの意思で手続き可能
上に書いたとおり、子供の戸籍や姓を変更するためには、家庭裁判所で子の氏の変更の手続きをする必要があります。
子の氏の変更は、子供が15歳未満か15歳以上かで、次のとおり手続き方法が変わります。
① 子供が15歳未満の場合
子供が15歳未満の場合、子供自身が家庭裁判所での手続きを行うことができないため、親権者が代わりに手続きすることになります。
母親が親権者となっているケースでは、母親が子供の代わりに子の氏の変更許可の申立てをします。
一方、母親が子供と同居していても、父親が親権者となっているケースでは、母親が子の氏の変更許可の申立てを行うことはできません。
親権者が父親であるケースでは、父親が申立てをしても、親権者でない母親側への子の氏の変更は認められない可能性が高くなっています。
子供を母親と同じ戸籍や姓に変更したい場合には、家庭裁判所で先に親権者変更の手続き(調停または審判)を行った方がよいでしょう。
②子供が15歳以上の場合
子供が15歳以上なら、子供自身が家庭裁判所で子の氏の変更の手続きを行うことになります。
つまり、子供自身が、自分の意思でどちらの戸籍に入るかを決めることができるということです。
なお、子供が子の氏の変更許可を受けて母親の戸籍に入った後、再び父親の戸籍に戻るには、再度家庭裁判所の許可を得る必要があります。
ただし、子供が成人した後1年以内であれば、市区町村役場で入籍届を出すだけで、従前の戸籍に戻ることができるとされています。
3、離婚時に選択した姓を途中で変更することも可能
結婚で姓を変えた妻が、旧姓に戻るか婚氏続称するかを選べるのは、離婚してから3か月以内の期間になります。
また、たとえ離婚後3か月経っていなくても、一旦婚氏続称を届出すれば、それ以降は旧姓に戻ることはできません。
その後に姓を変更したい場合には、家庭裁判所で「氏の変更許可」を受ける必要があります。
氏の変更は、通常、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、家庭裁判所によって許可されません。
やむを得ない事由がある場合とは、氏の変更をしなければ社会生活上著しい支障をきたすような場合になります。
ただし、婚氏続称後に旧姓に戻りたい場合には、一般的な氏の変更許可の基準よりも緩やかに判断される傾向があります。
過去の裁判例によると、大まかには次の3つの基準をみたす場合に、氏の変更が認められています。
- 婚氏の使用期間が短く、社会的に定着していない
- 思いつきで申立てをしたのではない
- 氏を変更しても、第三者に損害を与えるような社会的な弊害がない
4、戸籍から離婚歴を消すこともできる?
最後に、戸籍から離婚歴を消すこともできるのか、というお話をしていきます。
(1)離婚後の戸籍はどうなる?
離婚した後、戸籍には婚姻や離婚の情報が残ります。
コンピュータ化前の夫の戸籍では、離婚して除籍になった元妻の名前には大きく×印がつけられていました。
現在のコンピュータ化した戸籍では、×印はつかず、元妻の欄に「除籍」と表示される形になっています。
いずれにしろ、戸籍を見れば、結婚歴や離婚歴があることは一目瞭然となっています。
(2)転籍により離婚歴をわかりにくくすることはできる
現代では離婚が珍しくなくなったとはいえ、離婚歴があるとまだまだネガティブな印象をもたれることはあります。
特に、再婚を考えている場合には、戸籍から離婚歴を消せないかと思うことも多いはずです。
戸籍から結婚や離婚の情報を消す方法として、本籍を他の市区町村へ移す方法(転籍)があります。
他の市区町村に転籍すれば、以前の戸籍に入っていたときの結婚や離婚の情報は新しい戸籍には載りません。
そのため、現在の戸籍だけ見ても、離婚歴はわからないことになります。
ただし、現在の戸籍にも、「従前本籍」として転籍前の本籍が記載されますから、戸籍をたどることは可能です。
除籍になった戸籍も、役所で保存されています。
何回転籍をしても、戸籍をたどられてしまえば、過去の離婚歴はわかってしまいます。
たとえば、相続手続きの際には、過去の戸籍を取り寄せることになります。
離婚歴を隠して結婚しても、親の相続手続きの際に離婚歴がバレてしまうといったことがありますから、覚えておきましょう。
まとめ
結婚するときに姓を変えた側は、離婚後、旧姓に戻すか婚氏続称するかを選べる期間が決まっています。
期間経過後は改姓の手続きが困難になることもありますから、離婚後の姓や戸籍をどうするかは慎重に考えて決めるようにしましょう。
離婚後は子供の姓や戸籍をどうするかという問題もあります。
離婚するときには、子供の戸籍を変更する手続きについても知っておき、離婚後速やかに手続きできるようにしておきましょう。