離婚時の財産分与において、支給前の退職金を財産分与の対象にすることはできるでしょうか?
支給前の退職金は、財産分与の対象となる場合とならない場合があります。
今回は、
- 退職金は財産分与の対象となるか?
- 退職金が財産分与の対象となるケース
- 退職金を財産分与として請求する方法
についてご説明していきます。ご参考頂ければ幸いです。
1、離婚時に退職金は財産分与の対象になる?
まず、そもそも退職金は財産分与の一部として請求できるでしょうか?
結論としては、退職金も財産分与の一部として請求可能です。
そもそも給与は財産分与の対象となりますが、退職金は給与の後払いとしての性質があります。
そのため、給与と同様に財産分与の対象となります。
2、退職金が財産分与の対象になる場合とは?
もっとも、退職金はどのような場合にも支払われるわけではありません。
そこで、どのような場合に退職金を財産分与として請求できるかについて、
- まだ退職金が支払われていない場合
- 既に退職金が支払われている場合
に分けてみていきます。
(1)まだ退職金が支払われていない場合
まだ退職金が支払われていない場合、退職金が確実に支払われるかは分かりません。
そこで、退職金が財産分与の対象とされるかは、「退職金が支払われる可能性が高いか否か」で判断されます。
具体的にポイントとなるのは以下の点です。
①そもそも、会社の規定上退職金が支払われることになっているか
大前提として、会社の規定上退職金が支払われることになっているかを確認しましょう。雇用契約書や就業規則を見ることで確認できるでしょう。
②会社側の状況
もし、退職金が支給される段階で会社が倒産していたら退職金をもらうことはできないので、退職金を財産分与の対象とすべきではありません。
ですから、退職金を財産分与に含めるかを判断するにあたり、会社の現在の経営状況などが考慮されます。
③相手方の勤務状況
会社の制度上退職金が支払われることになっていたとしても、相手方が転職グセがあってあまり仕事が続かない傾向がある場合には退職金を財産分与の対象とすべきではありません。
一方、相手方の能力が高い上に勤務態度がいいような場合には、退職金はその会社の水準より高めに支払われるでしょう。
この場合には退職金の財産分与として請求できる金額は高めとなります。
④給与が支払われるタイミングまでの期間
退職までの期間が10年以上あるなど長いと、中途退職で退職金をもらえない可能性も十分に考えられます。
よって、給与が支払われるタイミングまでの期間が長ければ長いほど、退職金が財産分与の対象となる可能性は低いです。
また、仮に支払われるとしても、その金額は低額になる傾向があります。
具体的に財産分与の対象とされるのは、婚姻期間に応じた割合となります。
勤務期間が20歳から60歳までの40年間で退職金が2,000万円の場合、婚姻期間が30歳から50歳までの20年間であれば、財産分与の対象となるのは一般的に2,000万円全額ではなく、2,000万円×20年/40年=1,000万円と計算されることが多いです。
なお、公務員の場合は、倒産等で退職金をもらえない可能性はほぼありません。
(2)既に退職金が支払われている場合
この場合には基本的に退職金は財産分与の対象となるといってよいでしょう。
なお、退職金の支給のタイミングからかなり時間が経過しているような場合には、財産分与の対象となる財産が存在しないことから、退職金が財産分与の対象とならないとされる可能性があります。
3、離婚時の財産分与における退職金の計算方法
退職金の財産分与の金額の計算方法についても、
- まだ退職金が支払われていない場合
- 既に退職金が支払われている場合
で異なりますので、 それぞれみていきましょう。
(1)まだ退職金が支払われていない場合
財産分割の対象となる退職金の計算方法は明確に決まっているわけではありません。
そこで、いくつか計算例をみていきましょう。
①計算例1
- 別居時に自己都合退職したと仮定
- 別居時の退職金相当額を計算
→この時、会社の規定によって退職金の計算が可能な場合にはその数字をベースとします - 2で算出した金額から結婚前の労働分を差し引く
→例えば、50歳で別居・離婚するとして、その時点で自己都合退職した場合の退職金額が1,500万円だとします。この会社に20歳から勤務していて30歳から結婚した場合に、勤務期間は30年で婚姻期間が20年間なので、婚姻前の10年間勤務分の退職金を差し引き、財産分与の対象となる金額を1,500万円×20年間/30年間=1,000万円とみます。
②計算例2
- 定年退職時にもらう予定の退職金を算出
- 婚姻前の労働分と別居後労働分を差し引く
- 中間利息を控除して口頭弁論終結時の額を算出する
→勤務期間が20歳から60歳までの40年間で退職金が4,000万円の場合、婚姻期間が30歳から50歳までの20年間であれば、婚姻前の労働分と別居後労働分を差し引くことになります。そうすると、財産分与の対象となるのは一般的に4,000万円全額ではなく、2,000万円×20年/40年=2,000万円と計算することとなります。さらにここから将来受け取るべきものを今うけとることの利息分を差し引きます。これが中間利息の控除という考え方です。
(2)既に退職金が支払われている場合
この場合基本的には、退職金全額のうち、基本的に婚姻期間に応じた割合が対象となります。
例えば、勤務期間が20年間でそのうち婚姻期間が10年間という場合、退職金のうち半分が財産分与の対象となります。
4、退職金の請求方法は?
実際の請求方法については、以下の通りで進みます。
(1)まずは話し合い!
財産分与の対象となる退職金の金額について、まずは話し合いをしましょう。
具体的なやり取りの進め方は同居している場合か否かで異なるのでそれぞれみていきましょう。
①同居している場合
同居している場合、話しづらいかもしれませんが、直接退職金を財産分与として請求したい旨を伝えましょう。
支払ってくれるかを確認した上で、もし現在把握されていなければ退職金の額を確認した方がよいでしょう。
②別居している場合
別居している場合には、なかなか直接財産分与について話をすることが難しいでしょう。
したがって、まずは携帯メールやLINEなどで、証拠が残るようにして財産分与の一部として退職金を請求したい旨と金額を伝えましょう。
これに対して、話し合いに応じてくれない場合には、内容証明郵便というものを送付しましょう。
内容証明郵便とは、法的には通常の書面による請求と変わりませんが、郵便局が書面の内容を証明してくれることから、後々証拠として有効です。
(2)調停で決める
調停で争う方法としては、夫婦関係調整調停(離婚調停)で離婚するか否かに併せて話し合うか、財産分与請求調停で話し合うかの方法があります。
具体的には以下の通りです。
①申立てに必要な書類
まずは申立てに必要な書類を集める必要があります。
具体的に必要なものは以下の通りです。
- 調停の申立書およびその写し1通ずつ
- 離婚時の夫婦の戸籍謄本
- 財産目録
- 夫婦双方の財産に関する書類→退職金の明細、給与明細、預金通帳写し、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書
②申立てにかかる費用
次に申立てにかかる費用は以下の通りです。
・収入印紙 1,200円分
収入印紙は郵便局で購入することができます。
・連絡用の郵便切手 800円分
申請される家庭裁判所へ確認してください。
③申立て先の裁判所
原則として相手方の住所を管轄する家庭裁判所となります。
詳しくは、「調停で有利な財産分与請求をする方法」をご参照下さい。
(3)離婚調停でもまとまらなければ、離婚裁判!
離婚の問題と一緒に解決を図り、財産分与についての話し合いがまとまらない場合は離婚訴訟を起こすことになります。
離婚裁判の中で、離婚の問題と財産分与についての問題の解決を目指します。
①裁判離婚をするには離婚原因が必要!
裁判によって離婚をするには、以下の離婚の原因が必要とされています。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他、婚姻を継続しがたい重大な事由(暴行、浪費、犯罪、性格の不一致など)
②離婚裁判の流れ
離婚裁判は、以下の流れで進みます。
- 訴状の作成
- 訴状の提出
- 相手方へ訴状の送達
- 第一回口頭弁論期日の決定
- 数回の口頭弁論を繰り返す
- 判決
なお、場合によっては途中で和解が成立する可能性もあります。
③裁判では、証拠の重要性が高い!
裁判では、話し合いや調停の場合と比較して、証拠の重要性が増します。
相手の退職金額の明細や財産目録など、きちんと証拠をそろえて財産分与を請求しましょう。
5、退職金を支払うタイミングは?
支払いのタイミングについては、離婚時の場合と実際に退職金が支給されたタイミングの場合が考えられます。
話し合いでの交渉では、できるだけ離婚時に支払ってもらえるようにしたいところです。判例でも支払いのタイミングはケースバイケースで決定されているようです。
まとめ
今回は退職金として財産分与を獲得する方法についてご紹介してきましたがいかがでしょうか?
老後の生活のために、財産分与として退職金を獲得しておくことは非常に重要です。
お読み頂き、退職金を獲得してもらえれば嬉しいです。