離婚裁判で離婚が認められないケースについて、どのようなケースが考えられるのでしょうか?
離婚を望む一方の当事者にとって、離婚できないケースは気になる問題です。実際、離婚裁判においては、離婚の許可が下りないこともあるのです。離婚裁判での決定が、離婚を望む人にとっては大きな挫折となります。
そこで、この記事では、
・離婚裁判で離婚が認められない場合はどのようなケースがあるか
・離婚裁判で離婚が難しい一般的なケース
・離婚裁判で離婚できない可能性があるときの対処法
といったポイントを、弁護士の専門知識をもとに解説します。離婚に関する法的な問題に不安を感じる方や、離婚裁判の進行について疑問を持つ方に役立つ情報となるでしょう。
目次
1、離婚裁判しても離婚できないケースはあるのか
離婚裁判をしたからといって必ず離婚できるわけではありません。「離婚したい側」と「離婚したくない側」で争うのですから、「離婚したくない側」が認められることもあるわけです。離婚裁判で「離婚したくない側」の意見が認められ、「離婚を認めない」という判決が出れば、離婚裁判をしても離婚することはできません。
(1)離婚裁判をしても離婚できないケースはある
離婚裁判をしても離婚できないケースは実際にあります。
離婚裁判でも離婚できない代表的なケースは、「法定離婚事由に該当しないケース」です。離婚裁判で離婚できるかどうかは法定離婚事由に当てはまるかどうかが重要な判断ポイントになります。
法定離婚事由は民法770条1項に定められています。
第七百七十条一項
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
引用:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
不貞行為とは配偶者の浮気・不倫(肉体関係をもつこと)のことです。
悪意の遺棄とは、正当な理由もないのに生活へ協力しないことや、一緒に夫婦・家族として生活する上で助け合わないことを意味します。収入があるのに自分ですべて使ってしまって妻子に生活費を渡さないことや、妻子に無断で家を出て別居することなどが悪意の遺棄に該当する可能性があります。結婚した以上は夫婦が協力・助け合いをして生活しなければならないという義務があるため、義務違反は離婚事由になると判断される可能性があるのです。
この他、配偶者が生死不明の場合や強度の精神病で回復の見込みがない場合などは離婚事由になります。
法定離婚事由の中で一番理解が難しいのは「その他婚姻を継続し難い重大な事由」ではないでしょうか。「その他婚姻を継続し難い重大な事由」とは、不貞行為や悪意の遺棄など他の項目には当てはまらないが、結婚生活を続けることが難しい理由がある場合に主張する項目になります。例としては、DVや著しいモラハラなどがあげられます。
(2)離婚裁判では法定離婚事由に該当しないと離婚が難しい理由
離婚裁判では、裁判所が離婚をするか否かの決定を下します。
しかし、よく考えてみれば、結婚や離婚といった当人同士の感情で行動を起こすべきことに、どうして全くの他人の裁判所が関与することが可能なのでしょうか?この点を考えたとき、なぜ裁判では「法定離婚事由」に該当しないと離婚が難しいのかが見えてくるかと思います。
法定離婚事由に該当するということは、夫婦の間に亀裂を生じさせる要因である不貞行為や悪意の遺棄といった事情があるということです。配偶者の生死が分からないのに婚姻関係の拘束される状態や、回復の見込みのない配偶者に一方的に尽くさなければならない状態になっているともいえます。
法定離婚事由に該当するようなことが夫婦の間に起きており、生じた亀裂によって関係修復の見込みがないのであれば、一方の感情に基づき夫婦関係を継続させることは、他方においてはあまりにも理不尽です。夫婦の片方が生死不明で家庭生活を営めない状況や夫婦の片方が極端に負担を負う場合も、婚姻関係に配偶者を無理に縛り続けることは気の毒です。
つまり、「法定離婚事由」とは、第三者から見ても、夫婦を継続することが理不尽である事由ということなのです。
裏を返して法定離婚事由に該当しないということは、夫婦間に亀裂が生じていない可能性や、今後も夫婦としてやっていける可能性があるとも考えられます。ふたりの意思もあって夫婦になったわけですから、裁判所があえて離婚を認めなくても良いというわけです。
2、離婚裁判でも離婚できないよくあるケース
離婚裁判でも離婚できないよくあるケースは3つです。
(1)相手を愛していない
他に好きな人ができた、そうでなくてももう相手を愛していない–。
このような場合、これ以上結婚生活を継続する意味を感じず、離婚をして欲しいと感じる方も少なくありません。
しかし、このような理由だけでは離婚裁判では離婚判決は下りません。つまり、離婚裁判をしても離婚できません。
では、法定離婚事由にある「不貞行為」を起こそうと、好きな人と不倫をすれば離婚はできるのでしょうか?
この点、有責配偶者からの離婚請求についても離婚は認められません。有責配偶者とは離婚の原因を作った配偶者のことです。自ら法定離婚事由を作出した側からの離婚請求は認めらないのです。
(2)性格が合わず喧嘩ばかりである
ああ言えばこう言われる、「家庭」への価値観が違うなど、結婚後に「性格が合わない」と感じるケースは大変多い現象です。いわゆる「性格の不一致」として、実際離婚したカップルの離婚原因の1位にあげられるほどです(家事 令和2年度 19婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所 参照)。
「性格が合わない」ということは、本来であれば、相手である配偶者も離婚を望むはずでしょう。しかし、一方だけが離婚をしたいほどそれを強く感じるという場合、関係性に大きな歪みが潜んでいるケースがあります。
性格が合わないことを一方だけが感じているようなケースであれば、なぜそのような状況になっているのか、冷静に関係性を見つめ直してみましょう。
(3)配偶者の家族と合わない
配偶者のことは好きなのに、配偶者の家族と合わないケースもよくあります。
配偶者の家族とは配偶者との婚姻により「姻族」となり、法律上まったく無関係というわけではありません。しかし、夫婦の離婚事由になるかといえば、一概にそうとはいえません。
配偶者の家族と合わないことで離婚したいと思う根底には、配偶者の助け(潤滑油の役割)がゼロであるということが考えられます。家庭ごとの何らかのしきたりにより、配偶者との家族との縁を強く求められるご家庭では、家族でなかった者を受け入れる体制が必要です。その仲介役となるべき配偶者が全く役に立つ意識がないのであれば、結婚の意識を疑ってしまうのも無理はありません。
3、法定離婚事由がないなら離婚裁判は無意味?
(1)離婚の司法手続は「調停」から始まる
離婚の司法手続は、いきなり裁判ができるわけではありません。裁判の前に、基本的には「調停」を行わなければならないというルールがあります。これを、「調停前置主義」といいます。
調停とは、裁判官が判決を下すものではなく、当事者同士で話し合いをするという手続きです。もちろん、当事者のみで話し合うわけではなく、調停委員という進行役が存在します。離婚であれば、両者の意見を聞き出し、当事者間での話し合いをまとめていく役割です。
調停は話し合いの手続き、「判決」はありません。当事者の話し合いにより当事者の決めごとを作り、それが調停調書にまとめられ、強い力を持つことになります。
このように、離婚裁判をする前に、必ず当事者同士での話し合いの場を持つことになります。そして、二人きりではなく、進行役によりより合理的な話し合いをすることが可能になります。
ここで解決する可能性もありますから、法定離婚事由がなくても司法手続を利用しようとすることは、決して無駄なことではありません。
(2)離婚裁判での和解離婚と認諾離婚
離婚調停で話し合いがまとまらない場合に限り、離婚裁判へ進むことになりますが、この場合は前述の通り離婚判決を得るためには「法定離婚事由」が基本的には必要です。法定離婚事由がなければ離婚裁判へ進むことは無意味でしょうか?
離婚裁判は、もともとは、裁判所が離婚に関する判決を下すかどうかのみが基本的な出口となっている訴訟形態でした。
しかし、離婚というセンシティブな問題において、第三者である裁判所が結論を考えるというのは無理のある話です。
そこで、2004年から、離婚裁判における「和解離婚」と「認諾離婚」という制度が追加されました。
これらの登場により、法定離婚事由がなくても離婚裁判へ進むことは強い意味を持つようになったといえます。
①和解離婚
和解離婚とは、離婚裁判で夫婦双方の主張を出し合った結果、裁判上での和解による離婚を言います。
たとえば、離婚裁判の際は夫婦がお互いに主張したところ、離婚に反対していた側の配偶者が離婚に理解を示すようになる、という具合です。
このように、離婚裁判では裁判の最中に離婚についての和解が成立し、早期離婚できるケースもあります。
②認諾離婚
認諾離婚とは、離婚裁判で被告側が原告側の相手の離婚請求を認めることです。
これも、法定離婚事由などは要りません。
配偶者が離婚裁判を起こすということは、離婚への意思がどれだけ固いかを伝える手段でもあります。被告側がその気持ちを知り、戦意喪失するケースもあるでしょう。または、裁判沙汰ということを嫌がり、早期に結論を出すために、認諾離婚を決める可能性もあります。
4、離婚裁判しても離婚できない可能性がある場合の対処法
(1)別居
離婚裁判しても離婚できない可能性がある場合は、別居を戦略的に使うという対処法があります。
別居期間が長期にわたると、法定離婚事由の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」が認められることがあります。つまり、離婚裁判の前に別居期間を設けておくことで離婚が認められる可能性を上げるのです。別居しておくことで離婚調停や離婚裁判を進めやすくなります。
婚姻関係が破綻していると認められるためにはある程度の別居期間が必要です。別居期間は3~5年が目安です。配偶者とすぐに離れたい場合や離婚したい気持ちが強い場合は、すぐに別居を決行してもいいでしょう。
ただし、離婚に迷いがあれば別居は慎重に決めた方が無難です。
離婚したくないと言っている配偶者も、別居が続いている間に気持ちが冷めるかもしれません。別居中に「離婚はやめよう」と決めたとき、逆に配偶者の方から「気持ちが冷めたから離婚して欲しい」と言われる可能性もあります。気持ちに迷いがあるなら、後悔しないようによく考えてください。
(2)その他婚姻を継続し難い重大な事由への該当性を検討
上記「2」で挙げたようなケースにおいて、それら単体では離婚事由にならないとされることが基本です。
しかし、それらに付随して、実際は、その夫婦ごとにさまざまな背景があるのです。
喧嘩が絶えない夫婦であれば、物理的な暴力や精神的な暴力が横行しているかもしれません。
家族との不仲がある夫婦であれば、親族会での仲間外れをフォローせず家族側についてしまう頼りない配偶者なのかもしれません。
これらの細かい事情が、法定離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由」と認められるケースもあるのです。
ご自身の状態が、誰から見ても「結婚している意味がないよね」と言える状況かどうか、一度冷静に考えてみると良いでしょう。
5、どのような方法で離婚をするかは弁護士に相談を
上記のとおり、離婚裁判をしても離婚できないケースもあります。やみくもに司法手続を進めてしまうと、時間を無駄にしてしまうこともあるのです。
離婚のためにまず何をすべきか、どのような方法で臨むかはケースバイケースです。事情に合わせて離婚のための計画を立てるためにも、方法や流れについては弁護士相談して決めることをおすすめします。
中には本人が「離婚できない」と考えていても、日常生活の中に法定離婚事由が隠れており、離婚の事由として使えるケースもあります。弁護士であれば法定離婚事由に該当するかどうかの判断も可能です。離婚が本当に難しいのか、弁護士に相談して判断してもらうといいでしょう。
まとめ
離婚裁判をしても必ず離婚が認められるわけではなく、離婚できないケースがあります。法定離婚事由に該当しないケースなどです。
離婚できないと悩んでいるなら、法定離婚事由に該当しないか弁護士に話を聞いてもらってはいかがでしょう。仮に今の状況では離婚裁判をしても離婚できない可能性が高いなら、別居など離婚に向けて計画を立ててはいかがでしょうか。
離婚のためにどのように動くべきなのかは事情によって変わってきます。事情に合わせて動くためにも、まずは弁護士に相談することをおすすめします。