離婚後、生活保護の受給条件について疑問があるかもしれません。
離婚によって収入が減少し、生活が困難になった人々が生活保護を申請することは珍しくありません。
ただし、離婚後に生活保護を受けるためには、いくつかの条件を満たす必要がありますので、注意が必要です。
この記事では、
・離婚後に生活保護を受給するための条件
・離婚後の生活保護の支給額
・離婚後に生活保護を申請する方法
・離婚後に生活保護を受けながら制限を受ける可能性のある事項
・離婚後に生活保護の申請が却下された場合の対処法
など、離婚後の生活保護に関する重要な情報を、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳細に解説します。
この記事が、離婚後に生活保護を検討している方々に有益な情報を提供し、生活困難を軽減する一助となれば幸いです。
目次
1、離婚後に生活保護を受けられるのはどんな場合?
離婚後、生活費が足りない場合でも、必ずしも生活保護を受けられるわけではありません。
生活保護を受けるためには、一定の条件を満たす必要があります。
ここでは、生活保護の受給条件についてご説明します。
(1)養育費をもらっていても生活保護の受給は可能
「元配偶者から養育費をもらっていたら、生活保護を受給できないのでは?」とお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、そんなことはありません。
養育費をもらっていても、それを含めた収入が厚生労働省の定める「最低生活費」に満たない場合は、生活保護を受給できます。
ただし、養育費をもらっている場合には、生活保護を満額もらえるわけではないことにご注意ください。
生活保護費として支給されるのは、世帯の収入が最低生活費に満たない分だけです。
満額から養育費の金額を差し引いた分が、支給されることになります。
養育費をもらっていることを隠して生活保護を受給した場合、発覚すると不正に受給した分を返還しなければなりませんので、注意が必要です。
(2)収入がないか少ないこと
すでに説明しましたが、生活保護を受給するには、世帯の収入が厚生労働省の定める「最低生活費」に満たないことが条件となります。
最低生活費は、お住まいの地域や世帯の人数、世帯員の年齢などに応じて決められています。
以下の厚生労働省のページで確認できますので、ご参照ください。
養育費の他、仕事をして給料収入がある人や年金を受け取っている人などでも、収入が最低生活費に満たない場合は、不足分が生活保護として支給されます。
たとえば、最低生活費が15万円で、毎月の収入が10万円ある場合、不足分の5万円を受給できます。
(3)資産がないこと
生活費に充てることが可能な資産がある場合は、生活保護を受給できません。
ここでいう「資産」には、現金や預金だけでなく、不動産や自動車、株式などの有価証券、貯蓄型の生命保険など、換金できるものはすべて含まれます。
以上のような資産がある場合には、まず処分して生活費に充て、それでも最低生活費に届かない場合は生活保護を受給できます。
(4)働けないこと
働いて収入を得ることが可能である場合は、原則として生活保護を受給できません。
基本的には、申請する際に病気や怪我、あるいは年齢の問題などによって働けないことを証明する必要があります。
現実に仕事を探しても、なかなか見つからない場合や、働いていても収入が最低生活費に満たない場合には、生活保護を受給できる可能性があります。
(5)親族からの援助を受けられないこと
親族には法律上の扶養義務があり(民法第877条)、お互いに助け合うべきとされています。
親族から援助を受けることが可能である場合は、生活保護の受給はできません。
生活保護の申請をすると、福祉事務所から3親等内の親族に連絡され、申請者の生活費を支援できないかを尋ねられます。
未成年の子どもがいる場合には、元配偶者にも福祉事務所からのお尋ねがあります。
元配偶者には養育費の支払い義務があるので、生活保護を受給する前に可能であれば、元配偶者から養育費を受け取るべきとされているのです。
(6)他の公的支援を受けても生活できないこと
生活保護は最後の手段ですので、先に他の公的支援で利用できるものは利用すべきであり、それでも生活できない場合に限って受給できるものです。
母子家庭には様々な公的扶助や貸付の制度がありますので、ご自身が該当するものを申請しましょう。
どのような公的支援制度があるのかについては、以下の記事をご参照ください。
2、離婚後の生活保護はいくらもらえる?
では、離婚後に生活保護の申請が通った場合、どのくらいの金額が支給されるのでしょうか。
生活保護の支給額は、「1(2)収入がないか少ないこと」で説明したように、お住まいの地域や世帯の人数、世帯員の年齢などによって異なります。
本項では、いくつかのパターンについて、実際に厚生労働省の基準を使って計算してみましょう。
贅沢はできませんが、最低限の生活が可能な金額はもらえることがおわかりいただけるかと思います。
(1)離婚後に単身で生活する25歳女性のケース
例として、東京23区(1級地-1)にお住まいの場合と、埼玉県川越市(2級地-1)にお住まいの場合とで計算してみると、受け取れる金額はそれぞれ以下のようになります。
- 東京23区に在住の場合:月額132,930円
- 埼玉県川越市に在住の場合:月額113,620円
(2)離婚後に子ども1人(3歳)と生活する30歳女性のケース
この場合は、それぞれの居住地域に応じて、以下の金額を受給できます。
- 東京23区に在住の場合:207,510円
- 埼玉県川越市に在住の場合:181,280円
(3)離婚後に子ども2人(16歳と13歳)と生活する45歳女性のケース
この場合は、それぞれの居住地域に応じて、以下の金額を受給できます。
- 東京23区に在住の場合:261,840円
- 埼玉県川越市に在住の場合:230,210円
3、離婚後の生活保護申請手順
では、生活保護をもらうためには、どうすればいいのでしょうか。
本項では、生活保護の申請手順をご紹介していきます。
(1)申請の前に|まずは相手方へ請求を検討
「1、離婚後に生活保護を受けられるのはどんな場合?受給条件とは」でも説明したように、生活保護を受給するのは最終手段です。
離婚したあなたは、まずは元配偶者へ養育費や慰謝料、財産分与などの請求を検討しましょう。
元配偶者へ請求できる上記のお金は、離婚後でも請求できます。
元配偶者へ以上のお金を請求を検討しても、以下のような場合に当てはまれば生活保護を申請することができます。
- 請求しても何らかの事情で支払ってもらえない場合
- 支払ってもらっても最低生活費に届かない場合
- 相手方が行方不明などで請求できない場合
(2)必要書類
生活保護を申請するためには、一般的に以下の書類が必要となります。
あらかじめ準備しておきましょう。
- 身分証明書(運転免許証、健康保険証など)
- 印鑑(認印でOK)
- 戸籍謄本(離婚したことがわかるもの)
- 住民票(家族構成がわかるもの)
- 通帳や給料明細(収入や資産がわかるもの)
- 障害者手帳など(病気のために働けない場合は、その事情を証明できるもの)
(3)申請の流れ
必要書類が揃ったら、いよいよ生活保護の申請に赴きます。
①居住地の管轄である「福祉事務所の生活保護担当」へ申請
まずは、お住まいの地域を管轄する福祉事務所に出向き、生活保護担当の窓口を訪ねてください。いきなり生活保護担当の窓口で申請するわけではなく、面談による事前相談を行うことになります。
面談では、家族構成や病気の有無、資産や収入などをはじめとして生活の現状を尋ねられます。
窓口を訪ねる際には、準備した書類一式を持参するようにしましょう。
②申請後に調査が行われる
事前相談で、生活保護の受給条件を満たしていると判断されれば、申請を行います。申請後にすぐに受給できるわけではなく、調査がありますので注意しましょう。
ご自身や家族の資産や所得はもちろんのこと、3親等内の親族や元配偶者に対しても福祉事務所からの「お尋ね」によって調査が行われます。
申請後の調査は、詳細かつ厳密に行われます。申請を通すために嘘の記載をすると印象が悪くなり、再度申請した場合にも審査が通りにくくなる可能性があるので、注意が必要です。
質問に対しては、必ず正直に答えるようにしてください。
4、離婚後に生活保護を受けることで制限されること
生活保護を受けると、生活に一定の制限を課せられます。
生活に制限が課せられると不便な面もあるかと思いますが、制限を守らなければ生活保護の支給を打ち切られる可能性があるので、ご注意ください。
具体的に、次のような制限が課されることになります。
(1)預貯金
生活保護を受給している間、預貯金の額を随時チェックされます。
「いくら以上はNG」という明確な基準はありません。
しかし、預貯金額が多い場合には、預貯金を生活費に充てることが可能と判断され、生活保護を打ち切られることがあります。生活保護を受けている限り、基本的にはまとまった金額の貯金をすることはできません。
ただし、子どもの学費や社会復帰のための準備金など、正当な目的があれば貯金が認められる可能性もあります。
(2)借金
生活保護を受給する以上、借金することは禁止されます。
生活保護費は、「最低限の生活費として支給されるお金」という性質上、借金の返済に充てることも原則として禁止されています。
もし、新たに借金をしたり、生活保護費で借金を返済したりしていることが発覚すると、生活保護を打ち切られる可能性があります。
すでに受け取った保護費についても、返還を求められる可能性がありますので、注意が必要です。
借金を抱えている状態で生活保護費を受給することは可能ですが、基本的に自己破産を申し立てて借金を解消する必要があります。
(3)資産
生活保護を受ける以上、高価な資産を持つことはできません。
前記「1(3)資産がないこと」でも説明したように、不動産や自動車、株式などの有価証券、貯蓄型の生命保険などは処分して生活費に充てる必要があります。
ただし、冷暖房機器や冷蔵庫、洗濯機、テレビなど一般的な生活に必要な家財道具を所有することは認められているため、生活に困ることはないはずです。
(4)生命保険
前記「(3)資産」で説明したように、貯蓄型の生命保険は解約する必要があります。解約返戻金は、生活費に充てることができるはずだからです。
生活保護を受給しながら、資産性のある生命保険に新たに加入することも認められません。
ただし、一切の保険への加入が禁止されているわけではありません。
掛け捨て型の保険であれば、加入が認められる可能性もあります。具体的には、担当のケースワーカーにご相談ください。
(5)住む場所
生活保護を受給すると、住む場所についても制約を受ける可能性があります。
賃貸住宅に住む場合は、住宅扶助の上限額以内の家賃のところに住まなければならないと定められているからです。
現在のお住まいの家賃が住宅扶助の上限額を超えている場合は、上限額以内の家賃の賃貸住宅に引っ越すことが必要です。
5、離婚後に生活保護の申請を断られたときの対処法
離婚後に生活保護の受給条件を満たしていると思って申請しても、断られるケースもあります。
本項では、その際の対処法についてご説明します。
(1)生活保護を受けるのは簡単ではないのが現実
実は、受給条件を満たしている方でも、生活保護を受けるのはそう簡単ではありません。
近年、生活保護の受給者が増加しており、自治体の財政が圧迫されていることが理由です。自治体としては、生活保護の申請をできる限り通したくないし、そもそも申請件数を減らしたいと考えているのです。なかには、生活保護の相談に来た対象者に対して「あなたなら働けるはずです」「まずは親族に相談してみてください」などといって、追い返すケースもあると聞きます。
しかし、受給条件を満たしているのならば、生活保護を受けるのは国民の正当な権利です(生活保護法第2条)。一度断られると、再び申請するのが億劫になるかもしれませんが、あきらめる必要はありません。
(2)弁護士を通じて申請するのが有効
生活保護の申請がスムーズにいかない場合や、申請に不安がある場合は、弁護士を通じて申請するのが有効です。
弁護士は依頼を受ければ生活保護の申請を代行できますし、ケースワーカー等との交渉も行います。
受給条件を満たしている以上、自治体が対象者からの申請を法的に拒むことはできません。
弁護士から的確な説明と交渉を行うことで、生活保護を受給できる可能性が高まります。
(3)生活保護の受給が難しいときは他の公的支援の利用等を検討
ご自身では生活保護の受給条件を満たしていると思っていても、申請後の調査の結果、実は満たしていないことが判明するというケースもあるでしょう。
その場合は仕方ありませんので、他の公的支援の利用や元配偶者への養育費の請求などが本当にできないのかを再度検討してみましょう。
受給が難しいと思うような場合でも、弁護士に相談することで良い解決方法が見つかることもあります。
6、生活保護を受ける目的で離婚するのは要注意
実際には配偶者と別れるつもりはないのに、生活保護を受ける目的で形式上離婚することは絶対にしないでください。
以上のような行為は「偽装離婚」に該当し、発覚すると重いペナルティがあります。生活保護を打ち切られ、受け取った保護費の返還を求められます。
意図的かつ悪質な不正受給と判断されると、さらに徴収金を支払わなければなりません。
第七十八条
不実の申請その他不正な手段により保護を受けたときは(中略)、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。
引用元:生活保護法
「返還金」と「徴収金」を合わせると、最大で受け取った保護費の2.4倍の金額となります。これだけでもかなり重いペナルティですが、さらに刑事事件として告訴されるおそれもあります。
偽装離婚による生活保護の不正受給で成立しうる犯罪名と刑罰は、以下のとおりです。
- 生活保護法違反(生活保護法第85条):3年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 詐欺罪(刑法第246条1項):10年以下の懲役
- 公正証書原本不実記載罪(刑法第157条1項):5年以下の懲役または50万円以下の罰金
離婚後に生活保護を受給することに関するQ&A
Q1.養育費をもらっていても生活保護の受給は可能?
養育費をもらっていても、それを含めた収入が厚生労働省の定める「最低生活費」に満たない場合は、生活保護を受給できます。
ただし、養育費をもらっている場合には、生活保護を満額もらえるわけではないことにご注意ください。
生活保護費として支給されるのは、世帯の収入が最低生活費に満たない分だけです。
満額から養育費の金額を差し引いた分が、支給されることになります。
Q2.離婚後に生活保護を受けられるのはどんな場合?
- 収入がないか少ないこと
- 資産がないこと
- 働けないこと
- 親族からの援助を受けられないこと
- 他の公的支援を受けても生活できないこと
Q3.生活保護を申請するために必要な書類とは?
- 身分証明書(運転免許証、健康保険証など)
- 印鑑(認印でOK)
- 戸籍謄本(離婚したことがわかるもの)
- 住民票(家族構成がわかるもの)
- 通帳や給料明細(収入や資産がわかるもの)
- 障害者手帳
まとめ
今回は、離婚後の生活保護について解説しました。
受給条件に当てはまれば、生活保護を受給することは、国民の正当な権利です。受給条件を満たしているのに断られたような場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
その際、元配偶者に対して養育費や慰謝料、財産分与などを請求できないのかについても相談してみましょう。場合によっては、生活保護がなくても生活が可能となることもありますし、子育てにかけるお金も増やせる可能性があります。
離婚後の生活を充実したものにするため、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。