DV(ドメスティック・バイオレンス)を経験する女性にとって、夫からの暴力は深刻な問題です。DV被害から逃れるためには、DV加害者(夫)と被害者(妻)の特徴を理解し、適切な対処法を知ることが不可欠です。
ここでは、夫婦間のDVの特徴、DV加害者と被害者の特徴、そしてDVから逃れるための有効な方法について詳しく解説していきます。DV被害にある女性が自己防衛し、安全な未来を築くための具体的な手段を提供します。
1、夫婦間のDVの特徴
夫婦間のDVの特徴は、婚姻関係にない男女のDVと比べるとどのような特徴があるのでしょうか?
(1)何度も繰り返し暴力を振るう
DVは断続的かつ永続的に暴力が振るわれ、なおかつ徐々にエスカレートしていくものです。
最初はちょっとした嫌味や批判程度だったものが、殴る蹴る、首を絞める、タバコの火を押し付けるなど体に傷が残るような事態に発展するという特徴があります。
さらに、夫婦間のDVは加害者からの報復などを恐れて、だれかに相談したり、自宅以外の場所に逃げたりしにくい状況が作られていきます。
被害者にとってはDVで暴力を受けるよりも、家を出て失うものが多いことや人間関係を断ち切ることへの不安が大きいと考えるため、よりDVから逃げづらい原因となっています。
(2)精神的に追い詰める
体に傷跡が残る身体的な暴力に限らず、精神的にも被害者を追い詰めてしまうこともDVの問題の大きさを物語っています。
精神的暴力は、嫌がらせや暴言、無視、脅迫、馬鹿にするなど言葉によって被害者に精神的な苦痛を負わせる暴力です。
言葉による暴力であるため証拠が残りにくく、周囲の人はもちろんDVの加害者・被害者もDVであると気づきにくいという特徴があります。
さらに、生活費を渡さない、無断で借金をするなど経済的な暴力によって精神的に追い詰めることもDVに含まれます。
経済的な暴力は両者の経済格差の大きい夫婦間に起こりやすいとされています。
(3)加害者本人に悪意がない
DVをしている加害者本人は、暴力を振るうこと等によって被害者を教育しているという意識があり、悪意を持ってDVをしているわけではないというところが特徴です。
そのため、調停や裁判で被害者がDVを主張しても相手が全面的に認めることはほとんどありません。
一方で、DVの加害者が暴力を振るわないときは嘘のように優しく穏やかになるため、被害者に「もしかしたら暴力を止めてくれるのでは」という感情にさせ、「普段は厳しいけど優しい面もあるからまだ頑張れる」という心理状態を作り上げることがあります。
2、DV被害者の8割以上が女性
DVに関する相談件数は年々増加の一途をたどっており、令和4年年の1年間で8万件を突破しています。
DV防止法が施行された2002年は1万4千件程度だった相談件数が、21年間で実に6倍以上にも膨れ上がっているのです。
あくまでもこれらの数値は警察庁が把握している相談件数であり、氷山の一角に過ぎないという見方もできます。
DV被害を年齢別に見ると、配偶者からの暴力事件は30代をピークとして、20代~40代の間で全体の7割近くを占めています。
また、被害者と加害者の関係の7割以上は婚姻関係、あるいは過去に婚姻関係にあった者で、深い間柄であったことがわかります。
なお、警察庁に寄せられた相談件数のうち、DV被害者の8割以上は女性ですが、令和4年の男性のDV被害は2万2,714件で、年々、男性のDV被害者も増加しています。
出典:警視庁
今やDVについては「女性が男性から受けるもの」という認識から、「夫婦や恋人など、男女どちらも被害者(加害者)に成りうる」へと改めるべきかもしれません。
3、DV加害者(夫)の特徴
次に、DV夫の特徴を一緒にみていきましょう。
(1)独占欲が強く嫉妬深い
「他の男の連絡先をすべて削除しろ」
「外で誰と会ってきたんだ?」
など嫉妬深く、友人や親と会うことを許さないなど束縛が強い男性です。
妻のことはなんでも自分の思い通りにしたいと考えていて、妻が自分の意に反する行動をすると暴力に訴える特徴があります。
(2)男尊女卑の考えが強い
「男は仕事、女は家庭」という考えが強い男性は、暴力や威圧的な言葉で抑圧しようとする特徴があります。
具体的には、妻の仕事をやめさせたり、レシートや家計簿を必要以上にチェックしたり、暴力的な性行為を強要したりして自分の支配下に置こうとします。
(3)自分に自信がなく自己肯定感が低い
自己肯定感の低い人は自分に自信が持てず、他人にどう見られているか気になり、他人の言動に過敏に反応する特徴があります。
普段は気が弱く、職場の人などではっきりとした主張ができなかったり、日常的に抑圧されていたりする人が、鬱憤を晴らすように家庭内で弱い立場にある妻に暴力を振るってしまいます。
4、DV被害者(妻)の特徴
そして、被害者である妻側にも一定の特徴はみられます。これらの特徴、身に覚えがあるでしょうか。
(1)少なくとも夫婦間において罪悪感を覚えやすい
自分には非がないことであっても、つい「自分にも悪い部分がある」と考えてしまうタイプの人です。
自分がDVの被害者であるにも関わらず、暴力を振るわれることに対して「自分にも責任がある」と考えたり、「自分がダメだから」と自らを貶めてしまったりすることが少なくありません。
また、DVの加害者から「お前のせいだ」「お前がバカだから」などと罪悪感を押し付けられ、自分もそれを認めることで自責の念にさいなまれているとも考えられます。
(2)夫の役に立ちたい、尽くしたいと考える
夫の期待(欲望)に応えようとしすぎるタイプの人は、相手の欲望を完璧に満たそうとするあまり何事も受け身になりがちで、自分の欲望を持つことができません。
そのため、結婚後は「夫の期待に応えたい、失望させたくない」という気持ちが強くなり、DVをDVとして自覚ができていないケースが少なくありません。
(3)自分に自信がなく自己肯定感が低い
見た目が可愛かったり何事も卒なくこなせたりするのに、自分に自信がないタイプの人です。
相手から理不尽なことをされても抵抗せず、むしろ捨てられないように耐えなければならないと考えてしまいます。
5、配偶者からDVを受けたときの対処法
夫からの暴力は傷害罪や暴行罪に該当する犯罪行為です。
取り返しのつかない事態になる前に取るべき具体的な対処法を紹介します。
(1)自分の身の安全を確保する
夫から暴行を受けているときは、別居して自分の身の安全を確保しましょう。
DVは自然に収まるものではなく、むしろどんどんエスカレートしていくものです。
携帯電話を壊されたり部屋に監禁されたりして、外部との接触を遮断される可能性もあります。
生命が危機にさらされる前に自宅以外の場所に避難しましょう。
自宅を出るときは、当面の生活費に当てる現金や通帳、キャッシュカードなども持って行きます。
今後の生活のことなどで不安がよぎりますが、それら夫からの暴力から逃げた後で落ち着いて考えれば良いことです。
妻が避難先として選ぶ場所は実家が多いですが、DVの危険性が高い場合には夫が容易に居場所を突き止めることができ、ストーカー化や脅迫のおそれがあるため、実家は避けた方が得策でしょう。
各市区町村にはDV防止法で定められた配偶者暴力相談支援センターが設置されています。
無料で利用でき、なおかつ所在地も非公開となっているので、実家への避難が危険な場合は支援センターに相談することをおすすめします。
また、DVの被害が子供に及んでいる場合は子供も連れて出ましょう。
ただし、子供が別居を嫌がっているのに無理に連れて出ることは「連れ去り」とみなされる場合があります。
離婚後に子供の親権を獲得したい場合は裁判などで不利に働くので、無理やり連れて行くことは避けるべきでしょう。
(2)専門家に相談する
「優しいところもあるから」
「愛しているから」
「子どもがいる、稼ぐ夫であることから離婚は考えられない」
など、DVに疲弊しながらも離婚に踏み切れないケースはたくさんあります。
そんな時は、専門家に相談しましょう。
自分がどのような状況にいるのか、客観的に判断してもらえるでしょう。
相談先はこちらのサイトに掲載されています。
(3)離婚を検討するのであれば弁護士に相談する
離婚を少しでも検討しているのであれば、別居中の生活費の請求、離婚時の財産分与、慰謝料の請求、親権・養育権の獲得について法律の専門家である弁護士に相談しましょう。
離婚する方法は協議・調停・裁判の3つのうちいずれかを選ぶことになりますが、DVの加害者である夫と直接話し合いをする協議離婚は非現実的です。
この場合、調停か裁判で離婚の手続きを行うことになります。
調停、裁判も高度な法律の知識が要求されるため、離婚問題に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
①調停離婚
調停離婚は、家庭裁判所の調停委員が夫婦の間を行き来して離婚の話し合いを行う手続きです。
両者の合意が得られれば調停離婚が成立しますが、合意が得られなければ調停不成立となります。
DVを理由とする離婚の場合、夫と妻が裁判所でも顔を合わせることがないように配慮されています。
②裁判離婚
調停離婚が不成立となった場合は離婚訴訟(裁判)を起こして、家庭裁判所で離婚を認める判決を得ます。
離婚裁判を起こすためには、起こっているDVが民法第770条1項5号で規定されている「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたることの証拠が必要となります。
(4)DVの証拠を集める
離婚を裁判所に認めてもらうためには、DVの証拠が必要と述べました。
DVの証拠として認められるものには、次のようなものが挙げられます。
- DVによる怪我等の写真
- DVによる怪我を治療したときの診断書
- 夫からの暴言などを録音した音声ファイル
- DVの内容をつづったメモ、日記
①DVによる怪我等の写真
夫から日常的に身体への暴力を受けていた場合、傷跡や火傷跡、壊された物品などの写真は有力な証拠の一つです。
生々しい傷跡の写真で裁判官や裁判員に視覚的に訴えられれば、裁判を有利に進めることができます。
②DVによる怪我を治療したときの診断書
夫の暴力によって怪我をして病院で治療を受けた場合、医師の診断書はDVの有力な証拠となり得ます。
ただし、診断書は傷害を追った事実は証明できても、それのみで継続的なDVがあったことの証拠になるとは限りません。傷跡の写真や後述の日記、音声ファイルなどの裏付けが必要です。
③夫からの暴言などを録音した音声ファイル
暴言や中傷など言葉による暴力は、殴る蹴るなどの身体的な暴力と違って目に見える形で残るものではありません。
ICレコーダーやスマホの録音機能、留守番電話などの音声ファイルで証拠として残す必要があります。
④メモ、日記
夫からのDVの実態について、メモや日記を残しておくことは重要です。
それら自体がDVの証拠として有効なものではありませんが、写真や診断書などの信憑性を補強する役割として活用できます。
記録する際は夫からいつ、どこで、どのような状況で、どのような暴力を受けたか、どのような痛みがあり、どのように感じたかを詳細に書き残しましょう。
まとめ
暴力を振るう夫との生活に悩んだときは、迷わず専門家に相談してください。
これ以上DVに耐えられないと思うのであれば、離婚するという対応もひとつの選択肢です。
弁護士に相談すれば、調停や裁判を有利に進めるためのサポートをしてくれます。
相手と顔を合わせることなく離婚することも可能ですので、もう二度と相手に会いたくない場合におすすめです。