性の不一致で悩む夫婦は一定多数存在するものです。
性の不一致と一言でいってもさまざまなものがあり、セックスレスだけでなく性的異常なども挙げられます。
性の不一致が原因で夫婦生活が辛くなってしまっている場合や、夫婦関係が破綻してしまっている場合、離婚をしたいと考えることもあるでしょう。
そこで今回は、
- 性の不一致とは
- 性の不一致を理由に離婚できるのか
- 性の不一致による離婚で慰謝料はもらえるのか
などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
離婚する場合だけではなく、夫婦関係を修復する方法についても紹介しているので併せて参考にしてください。
また、離婚したい時全般の内容はこちらをご参照ください。
目次
1、性の不一致とは
そもそも性の不一致とはどのようなものなのか理解しておきましょう。
性の不一致に明確な定義はありませんが、「互いの性に関する価値観が合わない」もしくは「何らかの原因で性交渉できない」状態になっており、夫婦の性生活が上手くいっていない状態を指します。
主な性の不一致のパターンとして、次のようなものが挙げられます。
(1)セックスレス
セックスレスとは、夫婦のどちらか一方が性行為を望んでいるものの、病気など特別な事情がないにも関わらず相手が拒否をしている状態を指します。
夫婦生活が長くなるほどセックスレスになってしまう夫婦は増えますが、とくに女性の場合は子供の妊娠・出産を機に性交渉を拒否するようになることが多い傾向にあります。
一方で、男性の場合は「妻を女性として見れない」「仕事で疲れている」などの理由から性交渉を拒否するケースが少なくありません。
性行為は夫婦の愛を確認するための行為でもあるため、一方が性行為を拒むことで相手には不満や寂しさが募ってしまい、夫婦関係の破綻を招くことがあります。
(2)性的異常
性的嗜好には個人差がありますが、野外性向や野外露出、一日複数回の性行為、SMなどのアブノーマルプレイといった、一般的な嗜好とは異なる性行為を望むような配偶者もいるでしょう。
こうした性的異常は双方が合意していれば問題ありませんが、一方が苦痛に感じているのであれば性の不一致が生じているといえます。
配偶者の性的異常に苦痛を感じたまま夫婦関係を継続することは精神的に辛いものであり、場合によっては肉体的にも辛いと感じることもあるかもしれません。
こうした配偶者の性的異常によって行われる性行為から精神的・肉体的なストレスの積み重なり、離婚を考えるようになるようなケースもあります。
(3)性交不能
性交不能とは、本人の意思に関係なく性行為ができなくなってしまっている状態です。
男性の場合であれば、ED(勃起不全)に陥っているケースが典型的です。
EDが起こる原因には動脈硬化や高血圧、糖尿病などの病気が関係していることもあれば、精神的なストレスが原因になっていることもあります。
仕事や人間関係だけではなく、妻からのプレッシャーがストレスになっていることもあるでしょう。
また、女性の場合は機能障害によって性行為ができなくなってしまうようなケースもあります。
なお、男女問わず病気や加齢が原因で性交渉が難しくなった場合は、離婚原因としての「性交不能」には該当しないことがほとんどです。ただし、一方の性交不能が原因で夫婦関係が険悪となり破綻した場合には、離婚が認められる可能性もあります。
2、性の不一致を理由に離婚はできる?
法律で夫婦は互いに協力しながら生活していくことが定められている(民法第752条)ことから、性に関しても互いの協力が必要だといえます。
しかし、性に対する考え方や価値観が違った状態で夫婦生活を維持することは難しい場合もあるでしょう。
性の不一致を理由に離婚することは可能なのでしょうか?
(1)相手の同意があれば離婚できる
離婚を進める場合、まずは当事者間の話し合いによって行う「離婚協議」から始めることが一般的です。
離婚協議によって双方が合意すれば、離婚原因に関係なく離婚することができます。
離婚協議で合意に至らない場合は「離婚調停」を家庭裁判所へ申し立てることになります。
離婚調停は裁判所を介して話し合いを行い、問題解決を目指す手続きです。
離婚調停も離婚原因に関係なく申し立てることができますが、離婚を成立させるためには調停を進めていく中で相手の同意が必要となります。
(2)同意がない場合は法定離婚事由が必要
離婚協議や調停で相手の同意が得られない場合には、訴訟で離婚を争うことになります。
離婚訴訟では、法律に定められている法定離婚理由である「法定離婚事由(民法第770条1項)」が必要です。
法定離婚事由がなければ裁判で離婚は認められません。
法定離婚事由には、「不貞行為」や「悪意の遺棄」「3年以上の生死不明」などがあります。
法定離婚事由が存在し、その法定離婚事由を証明できる証拠があれば、相手の合意がなくても離婚することが可能です。
したがって、性の不一致で相手の合意なく離婚を成立させるためには、性の不一致が法定離婚事由に該当することを立証しなければなりません。
(3)性の不一致が法定離婚事由に該当するケース
法定離婚事由のひとつに、「その他の婚姻を継続しがたい重大な事由」というものがあります(同項5号)。
性の不一致で離婚訴訟を行う場合、婚姻を継続しがたい重大な事由に該当するかどうかが争点になると考えられます。
性の不一致が深刻なため婚姻生活の継続が困難であると判断されれば、裁判で認められる可能性があるでしょう。
例えば、子供が欲しいと強く主張しているにも関わらず、長期間に渡って配偶者より性交渉を拒否されている状態が続いている場合は裁判で法定離婚事由として認められる可能性があります。
また、性の不一致が原因で不倫やモラハラ、DVなどがあった場合には、性の不一致ではなく不倫やDV・モラハラを理由に離婚をすることもできます。
3、性の不一致による離婚で慰謝料はもらえる?
性の不一致で離婚をする場合、これまでに受けた精神的苦痛に対して慰謝料を請求したいと考えるケースもあるでしょう。
性の不一致を理由に慰謝料請求できるかどうかはケースバイケースです。
慰謝料を請求できるケースや、慰謝料の相場についてご紹介します。
(1)不法行為に当たる場合は慰謝料請求が可能
性の不一致による離婚で慰謝料を請求できるのは、「不法行為」に該当するような場合です。
不法行為とは、故意や過失によって他人の権利や利益を侵害する行為です。
不法行為があった場合、加害者は被害者の受けた損害を賠償すべきことが民法第709条に定められています。損害の中でも精神的苦痛を慰めるために支払うべき金銭のことを慰謝料といいます(同法第710条)。
性の不一致が不法行為として認められるのは、主に次のようなケースです。
- 夫婦の一方が合理的な理由なく性交渉を長期的に拒否している
- 相手の望まない性交渉を配偶者が執拗に要求し、強引に性交渉に持ち込むようなことが起こっている
- セックスレスを改善するための話し合いに配偶者が応じず、協力してくれない
一方で、配偶者に身体的または精神的な問題があって性行為ができない状態や、セックスレスの原因がお互いにある場合には慰謝料請求が認められにくいと考えられます。
(2)性の不一致による離婚慰謝料の相場
離婚の慰謝料の金額は法律で定められているわけではありません。
慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償金なので、裁判の場合は損害の程度や過去の判例などから慰謝料額が算出されます。
性の不一致による離婚の慰謝料の相場は、10万円~100万円ほどといわれています。
不倫やモラハラによる離婚の慰謝料の相場が50~300万円ほどになるので、他の離婚原因による慰謝料請求に比べると金額は低くなる可能性があります。
(3)高額の慰謝料が認められるケース
性の不一致による慰謝料の金額を決める場合、さまざまな要素が考慮されます。
精神的苦痛が大きいと判断される要素が多いほど、慰謝料の金額は高額化します。
慰謝料が高額化する要素としては、以下のようなものが挙げられます。
- 婚姻期間が長い
- 性の不一致が継続された期間が長い
- 性の不一致と併せて、不貞行為やDV・パワハラなど他の不法行為も存在した
- 幼い子供がいる
4、性の不一致で離婚する方法
性の不一致で離婚する場合、以下の手順を踏んで手続きを進めることになります。
(1)証拠を確保する
離婚について相手と話し合う前に、まずは証拠集めを行いましょう。
性の不一致があったことを証明するための証拠や、損害の程度を立証できる証拠が必要です。
こうした証拠は相手が離婚に合意してくれない場合や、慰謝料を請求する場合に必要になります。
離婚協議が始まってから証拠集めをすれば、相手が証拠を隠してしまう恐れがあります。
そのため、離婚の話を始める前の段階で相手に気付かれないように証拠を集めることが大切です。
(2)相手と話し合う
離婚や慰謝料請求するための証拠を集めたら、まずは離婚について相手と話し合いを行います。
この話し合いで離婚や離婚条件に双方が納得し、合意に至れば離婚を成立させることができます。
しかし、当事者同士の話し合いは感情的なってしまい、話し合いがスムーズに進まないというケースも少なくありません。
そのため、話し合いの際には冷静さを維持することを心がけることが大切です。
(3)合意できなければ離婚調停
話し合いで合意できなかった場合は、離婚調停を家庭裁判所に申し立てます。
離婚調停では裁判所に選任された調停委員が双方から意見を聞き取った上で話し合いを重ねて、意見をまとめていきます。
調停委員という第三者が介入することで、話し合いがスムーズに進みやすくなるというメリットがあります。
しかし、離婚調停はあくまでも意見を調整するための手続きなので、あくまでも相手が離婚に合意しなければ離婚を成立させることはできません。
(4)調停不成立なら離婚訴訟
調停が不成立だった場合には、離婚訴訟を行うことになります。
離婚訴訟では裁判所が双方の主張や提出された証拠に基づいて判決を下すため、性の不一致の証拠が重要になってきます。
離婚訴訟で離婚の判決が下された場合、相手が離婚に合意していなくても強制的に離婚することが可能です。
5、性の不一致による離婚を回避して夫婦関係を修復する方法
性の不一致に悩んでいるものの離婚は回避したいという場合であれば、夫婦関係の修復が必要です。
夫婦関係を修復するには、問題になっている性の不一致を解消する必要があります。
夫婦関係を修復したいという場合には、次の方法を試してみてください。
(1)セックスレスの解消に努める
セックスレスによる性の不一致の場合、セックスレスの解消が必要です。
セックスレスを解消するには、根気強く努力することが重要となります。
日頃からのコミュニケーションやスキンシップを増やすようにすれば、性行為のきかっけが掴みやすくなるでしょう。
また、外見を磨いたりムードを作ったりすれば、配偶者から性行為に誘ってくれるかもしれません。
(2)相手の性癖に理解を示す
相手の性癖と価値観が合わないと考えている場合でも、相手の性癖に理解を示す努力をしてみてください。
どうしても受け入れられないという場合は無理をする必要はありませんが、理解するために相手の希望に合わせてみることも大切です。
相手の希望を満たせば、こちらの希望を聞いてもらえる可能性もあります。
「○○はいいけれど、●●はダメ」など互いに譲歩し合うことができれば、互いの性の不一致に対するストレスも軽減されるでしょう。
(3)性交不能の場合は工夫する
性交不能の場合には、性交不能になっている原因を探って解消を目指しましょう。
ストレスが原因で性交不能になっているのであれば、ストレスになっている根本の問題の解消や、ストレス発散をするなどしてストレスをなくすことが必要です。
しかし、身体的なことが問題になっている場合は、病院での治療が必要になります。とはいえ、治療ですぐに改善されるとは限らないため、夫婦関係を円満に保つための工夫が必要になるでしょう。
性交渉ができなくても性交渉に近い行為やスキンシップを増やす、アダルトグッズを使うなど工夫をしてみてください。
(4)夫婦カウンセリングを利用する
性の不一致は誰かに相談したいと考えても、相談しにくいものです。
誰かに話を聞いてもらいたいという場合には、夫婦カウンセリングを利用するという選択肢もあります。
カウンセラーに話を聞いてもらうだけで悩みが解消されるようなケースもありますし、専門家からのアドバイスで問題解決の糸口を見つけられるかもしれません。
夫婦二人でカウンセリングを受けることが望ましいですが、難しい場合はまず一人でカウンセリングを利用してみてもよいでしょう。
(5)夫婦関係調整調停を申し立てる
家庭裁判所での手続きのひとつに、「夫婦関係調整調停」という夫婦関係の円満を回復するための手続きがあります。
夫婦関係調整調停でも、裁判所に選任された調停委員が介入します。
そして、夫婦関係の現状や問題が起こっている原因、どのようにすれば夫婦関係を修復できるのか調停委員が夫婦の話を聞き、解決策を一緒に考えてくれます。
夫婦間での話し合いが難しい場合に、真剣に話し合うための場として利用することも可能です。
6、性の不一致で苦しいときは弁護士に相談を
性の不一致に悩んでいても、友人や親には相談しにくいものです。
一人で悩みを抱え込んでいても解決しないため、まずは弁護士に相談してみてください。
離婚したいという場合は離婚に向けた相談をすることができますし、離婚を回避したい場合には夫婦関係調整調停などの手続きに関する相談をすることができます。離婚問題に力を入れている弁護士なら、信頼できるカウンセラーを紹介してくれることもあります。
弁護士に相談することで自分なりの考えもまとまり、今後法的手段を取るべきか否かも検討しやすくなるでしょう。
離婚をする場合でもしない場合でも弁護士に相談・依頼すれば、心強い味方として法的観点からのアドバイスやサポートを受けられます。
性の不一致に関するQ&A
Q1.性の不一致とは?
性の不一致に明確な定義はありませんが、「互いの性に関する価値観が合わない」もしくは「何らかの原因で性交渉できない」状態になっており、夫婦の性生活が上手くいっていない状態を指します。
Q2.性の不一致を理由に離婚はできる?
- 相手の同意があれば離婚できる
- 同意がない場合は法定離婚事由が必要
- 性の不一致が法定離婚事由に該当するケース
Q3.性の不一致による離婚で慰謝料はもらえる?
不法行為に当たる場合は慰謝料請求が可能。
性の不一致が不法行為として認められるのは、主に次のようなケースです。
- 夫婦の一方が合理的な理由なく性交渉を長期的に拒否している
- 相手の望まない性交渉を配偶者が執拗に要求し、強引に性交渉に持ち込むようなことが起こっている
- セックスレスを改善するための話し合いに配偶者が応じず、協力してくれない
まとめ
性の不一致は精神的なストレスとなり、誰にも相談できないことでさらに、あなたを苦しめることになってしまいます。
一人で解決することが難しい場合には、弁護士に相談してみてください。とくに離婚や慰謝料請求を考えているのであれば、専門的な知識や経験によるサポートが必要になります。
弁護士は性の不一致を初めとしたさまざまな夫婦のトラブルを解決する専門家なので、あなたの力になってくれるでしょう。