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相続放棄とは|手続きやメリットなど知りたい8つのこと

相続放棄

相続放棄とはどのような制度なのでしょうか。

  • 親が借金を残したまま亡くなってしまった
  • 事業を営んでいた親類が借金を残したまま亡くなったため、銀行やサラ金から借金を支払うよう言われている

こんなとき、あなたならどうしますか?

相続のタイミングで借金を引き継がないようにするための制度として、相続放棄というものがあります。

今回は、

  • 相続放棄の概要や手続
  • 放棄の対象となる財産
  • 相続放棄のメリットデメリット

等について述べたいと思います。

ご参考になれば幸いです。

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1、相続放棄とは(相続放棄の意義、効果)

(1)「相続放棄」とは?

「相続放棄」とは,相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がないことをいいます。

上の例でいれば、相続放棄をすれば、親が残した借金を一切受け継がないことになります。

相続放棄の趣旨は、相続人が十分な情報等を得たうえで、積極財産(プラスの遺産)・消極財産(マイナスの遺産)のいずれにしても承継するかしないかを自由に選択できることを可能とすることにあると思います。

旧民法では、一定の身分の者には、相続放棄の自由が認められていませんでした。

これは、昔の「家制度」の影響です。

「父債子還」の観念、つまり「親の借金は子が返せ」という考え方が支配的であったためです。

しかし、戦後、旧民法の「家制度」というのは、徹底的に排除されました。

そのため、現在の日本の民法では、誰でも自由に相続するかしないかを決定できるようになっています。

親の借金を放棄することが、道徳観念に反しても、債権者に損害を与えることになっても、放棄することが認められるようになったのです。

 

(2)相続放棄をするとどうなるのか?(相続放棄の効果)

相続放棄をすると、当該相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

相続人ではないのですから、当然財産を受け取ることもないし、借金を引き継ぐこともなくなります。

上の例でいえば、銀行やサラ金に対し、「相続放棄をしたから、親や親類の借金とは無関係です。」と言うことができることになります。

また、家庭裁判所では相続放棄の申述の「受理証明書」というものを発行してくれます。

銀行やサラ金に対し、それを見せて説明することもできます。

(3)相続放棄は家族全員で行わなければならない?(相続放棄の当事者)

相続放棄は、相続人一人で申立てすることが可能です。

つまり、親や兄弟等他の相続人に相談や同意を得ることなく、裁判所に相続放棄を申し立てることができます。

なお、資産と負債のどちらが多いかわからない場合に、相続した債務(負債)を相続した積極財産(資産)から弁済し、債務超過の場合は相続人固有の財産で弁済する責任を負わないという制度もあります。

これが限定承認です。

この限定承認では、相続人が複数いる場合、相続人全員の共同でなければ限定承認の申述はできないことになっています(民法923条)。

つまり、相続人のうち1人でも反対する者がいれば、限定相続はできないことになります。

このように、限定承認は、手続が面倒であるため、相続放棄と比較してあまり利用されていないのが現状のようです。

2、相続放棄の対象となるのはどんな財産?

(1)原則

さきほど、相続放棄の効果で述べたとおり、相続放棄をした場合、財産を受け取ることもないし、借金を引き継ぐこともなくなります。

そのため、相続放棄をしていい場合かどうか、慎重に財産状況を調査・把握する必要があります。

(2)例外

相続放棄をした場合でも、生命保険金は、受け取ることができます。

具体的には、相続放棄をした者が保険受取人となっている場合、相続放棄とは無関係に、他の相続人の同意を得ることもなく、保険金を受け取ることができます。

というのも、保険受取人が指定されている場合、保険金は、相続財産にはならない可能性があるからです。

相続放棄を理由に、他の相続人から保険金を諦めるように言われたとしても、その保険の受取人が誰なのかは必ず確認するようにしましょう。

ちなみに、相続と無関係に保険金を受け取るからと言って、保険金について、相続税を支払わなくていいということにはなりません。

生命保険金を受け取った場合、別途、相続税の申告は必要になります。

3、どのような場合に相続放棄にメリットがあるのか(相続放棄のメリットデメリット)

(1)メリット

相続放棄の最大のメリットは、何と言っても、被相続人の借金・債務を受け継がなくていいという点に尽きると思います。

親や親類の借金・負債が、何十億何百億だったとしても、相続放棄をすれば、その借金を支払わなくていいことになります(ただし、相続人がその借金の保証人になっていた場合は別です。)。

(2)デメリット

①原則として撤回不可能

デメリットとしては、一度、相続放棄をしてしまうと、いかなる理由があっても、熟慮期間内であったとしても、原則として撤回したり取消したりすることはできません (民法919条1項。ただし、効力が生じる前は、取り下げることが可能です。)。

例えば、相続放棄をしたものの、手続時には気づかなかった高価な資産が後から見つかったときとしても、相続放棄を撤回することはできません。

そのため、事前にしっかりと相続財産(遺産)を調査する必要があります

ただし、理由が他の相続人の脅迫によって相続放棄した場合、詐欺によって相続放棄した場合は例外的に取消すことが認められています。

②新たな相続人(別の親類)が登場する

別のデメリットとして、新たな相続人、具体的には、別の親類が、相続人として相続放棄を検討しなければならなくなります。

意外と知られていませんが、夫が亡くなり妻と子は相続放棄をしたことによって、夫の父母に相続権が移ることになります。

この場合、夫の父母にはじめから話しておかないと家族関係が悪くなってしまうこともあります。

その後、夫の父母も相続放棄すると、夫の兄弟姉妹が相続人となります。

このように相続放棄をすると新たな相続人、その相続人が相続放棄をしたら、さらに新たな相続人が出てくる状態となってしまいます。

法定相続人の相続範囲である兄弟姉妹までは相続権が移ってきます。

さきほど、親や兄弟等他の相続人に相談や同意を得ることなく、裁判所に相続放棄を申し立てることができると述べましたが、相続放棄をする場合、やはり、親や兄弟と話し合いをしてから相続放棄手続をした方がいいでしょう。

例えば、夫の父母へ突然、貸金業者から夫(息子)の分の借金を払ってくださいと連絡が来たとします。

夫の父と母は、『私たちは相続人ではない。』と言うでしょう。

しかし、貸金業者は、『妻と子は相続放棄したのであなたに払ってもらいます。』と言うはずです。

妻と子が相続放棄をしたからこそ、夫の父母に借金の支払を求めてきているからです。

それが夫の兄弟となれば、関係も疎遠になりがちになり、結果として親族同士でモメる火種にもなりかねません。

後で、親族同士モメたくなければ、前もって夫に借金があったこと、相続放棄を考えていることを伝えておいた方がいいでしょう。

4、結局、どのような場合に相続放棄をした方がいいのか?

結局、

  • 多額の借金をしていた
  • 多額の借金の保証人となっていた

というような方が亡くなられた場合、相続放棄をすれば、一切の借金を引き継がなくても済むことになります。

このような場合に、被相続人(亡くなった人)の借金を一切引き継がないという相続放棄手続をすることが非常に有効な方法ということになります。

5、相続放棄の手続の流れ

(1)相続の開始

相続は、死亡によって開始します(民法882条)。夫や妻、両親が亡くなった場合、相続が始まります。

(2)相続財産と相続人の調査

相続が開始したら、被相続人の財産と相続人を調査することになります。

前述のとおり、相続放棄をした場合、一切、財産を相続することができなくなります。

また、裁判所から相続放棄の決定が出た後は、原則として、相続放棄を撤回することはできません。

よって、相続放棄すべきかどうかを決定するためにも、きちんと、相続財産の調査をする必要があります。

(3)相続財産の確定

相続財産が確定しましたら、相続するのか・相続放棄をするのか・限定承認をするのかを決定することになります。

通常、資産よりも負債の方が多いことが分かっていれば、相続放棄を選択することになります。

資産か負債のどちらが多いのかが不明な場合には、限定承認という制度を利用することもできます。

6、相続放棄はどこにどのような書類を提出しなければならないのか?

(1)どこに申立てすればいいのか

相続放棄をするには、どこに行けばいいのでしょうか。

相続放棄は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所に申し立てることになります。

例えば、被相続人の最後の住所が、東京23区内であった場合、東京家庭裁判所に相続放棄を申し立てることになります。

(2)相続放棄の必要書類は何か

では、家庭裁判所に、相続放棄の手続をするには、どのような書類が必要になるのでしょうか。

相続放棄には、以下の書類が必要となります。

  • 申述人(相続人)の戸籍謄本
  • 被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本等(亡くなったことが分かるもの)
  • 被相続人(亡くなった人)の住民票の除票または戸籍の附票(本籍地が記載されたもの)
  • 収入印紙(1人800円)
  • 返信用の郵便切手

ただし、各事案の内容によっては、必要書類が異なる場合があります。

事前に管轄の家庭裁判所に、必要書類を確認しておくのがよいかと思います。

(3)必要書類が入手できない場合どうすればいいか

両親や妻、子供が亡くなった場合であれば、被相続人の戸籍謄本や住民票等を入手するのは、比較的、簡単かもしれません。

問題は、兄弟や姉妹、さらに代襲相続が生じた場合です。この場合、相続放棄をしたい人(申述人)と被相続人との関係が遠い上、関係が疎遠であることも多く、被相続人の近親者の協力が得られないということも多々あります。そうなると、被相続人の戸籍謄本や住民票等をどのように揃えるのかが問題となります(戸籍法が、戸籍謄本の請求権者を限定しているため。)。

このような場合、弁護士等の専門家を利用して相続放棄の手続をした方が、スムーズかと思います。

(4)書類には何を書けばいいのか

相続放棄の書類(申述書)には、放棄する人(申述人)の本籍や住所、被相続人の本籍や最後の住所、相続財産の概要等を記載することになります。

詳しくは、こちらのページで解説をしていますのでご覧ください。

また、記載例については、裁判所のウェブサイトも参考になるでしょう。

家庭裁判所に行って、裁判所の職員に尋ねれば、教えてくれることもあります。

7、いつまでに相続放棄をしなければならないのか?

(1)相続放棄の期間

では、いつまでに相続放棄をしなければいけないのでしょうか。

民法915条1項は、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」と規定しています。ここでのポイントは、「相続の開始があったことを知った時から」3カ月以内にという点です。

例えば、両親や配偶者等が亡くなった場合、亡くなったことを知ったときからということになります。

逆に父の弟が亡くなった場合、父の弟の親族(妻や子供、祖父母)が、相続を放棄したことを知ってから3カ月ということになります。

なお、相続財産に手をつけてしまっていると、相続したことを承認(単純承認)したとみなされてしまいます。

この場合、相続放棄をすることはできません。例えば、相続登記(不動産の名義変更)をしていると相続放棄はできなくなってしまいます。

(2)3カ月以内に相続放棄の手続をしない場合どうなるのか。

では、3カ月以内に相続放棄の手続をしない場合、どうなるのでしょうか。

この場合、相続人は、単純承認をしたものとみなす(民法921条2号)。

単純承認すると、「無限に被相続人の権利義務を承継する。」ことになります(民法920条)。

つまり、資産も負債も全て承継することになり、借金の支払義務も引き継ぐことになります。

よって、相続財産を調査した結果、負債の方が上回る場合には、速やかに相続放棄の手続をとった方がよいでしょう。

(3)3カ月の起算点はいつからか

この3カ月の起算点について、よくある相談の一例として、父母の兄弟(叔父・叔父)が亡くなり、自身の父母も亡くなっている場合に、自身に代襲相続が生じた場合です。

ここで、父母の兄弟の債権者から、借金を払ってほしいと言われた場合に、相続放棄するつもりだと伝えたとします。

すると、債権者から、「あなたは、伯父(叔父)さんの葬儀に参加していましたよね。伯父(叔父)さんが亡くなったことを知ってから3カ月経っているから相続放棄はできないはずだ。だから支払ってくれ。」と言われることがあります。

しかし、この債権者の理解は間違っています。

民法では、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月」です。

よって、自分の上位の相続人(伯父(叔父)の妻子、祖父母が相続放棄をしたことを知った時から3カ月ということになります。

(4)期間の延長

では、3カ月を過ぎてしまった場合、一切、相続放棄することはできないのでしょうか。

相続人はこの3ヶ月の期間内に相続財産の状況を調査しても、なお相続財産はプラスなのかマイナスなのか分からない場合は、家庭裁判所へ申立てをすることで3ヶ月の期間を延長することができます。

この延長期間中に、例えば不動産がいくらで売却できるのか、借金や保証人になっていなかったかなどを詳しく調べて、相続するのか相続放棄をするのかを決めることができます。

記載例等詳しくは、裁判所のウェブサイトをご覧ください。

8、相続放棄と限定承認の違い

最後に相続放棄と限定承認の違いについて述べたいと思います。

相続放棄と似たような制度として限定承認という制度があります。

限定承認は、簡単に言うと、プラスの財産の範囲内で債務を引き継ぐという方法です。

相続放棄が一切の資産負債を引き継がないのに対し、限定承認は、資産から負債を差し引いて余りがあったら引き継ぐという方法です。

限定承認は、一見すると合理的な方法に思えます。

しかし、前述のとおり、相続人が複数いる場合、相続人全員の共同でなければ限定承認の申述はできないことになっているなど手続として煩雑なため、あまり利用されていないというのが実情です。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

以上を読めば、親が借金を残したまま亡くなってしまった、事業を営んでいた親類が借金を残したまま亡くなったため、銀行やサラ金から借金を支払うよう言われた場合、どう回答すればよいか、どう対応すればいいかが分かったかと思います。

そうは言っても、父母や親戚等被相続人となりうる人物にいくらの財産負債があるのかが分からないことには、相続放棄するかどうかを決めることはできません。

財産負債の状況を把握するには、常日頃から、親戚等と親しくしておく方がいいかと思います。

そうすることにより、亡くなる前も亡くなってからも、親族間の関係が円滑に進むことでしょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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