国際結婚に憧れ、文化や言語の違いを乗り越えて結婚したものの、実生活の困難さに直面し、離婚を考えるケースが少なくありません。
この記事では、国際結婚における離婚の際の注意点や必要な手続きについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
国際結婚で離婚を検討している方への有益な情報を提供することを目指しています。
目次
1、国際結婚で離婚する場合の注意点
日本人同士の結婚とは異なり,国際結婚の場合,宗教や生活習慣の違い,あるいは言葉の壁などがあり,それがきっかけとなり,これ以上パートナーを支え続けることができないということもあるでしょう。
一般的に,国際結婚の方が日本人同士の結婚よりも離婚率が高い傾向があります。
(1)適用される法律
もし,あなたが国際離婚を考えているのであれば,まず,どこの国の法律が適用されるのか(準拠法はどこか)に注意を払うべきです。
我が国においては,以下の「1.」〜「3.」の順番で準拠法はどこかが検討されることになります(法の適用に関する通則法第25条及び第27条に基づきます。)。
- 離婚時の夫婦の国籍国が同一であれば、その国籍国の法律が適用されます。外国人のパートナーが日本に帰化している場合,日本の法律が適用
- 夫婦の国籍国が同一でなくとも,離婚時の夫婦の常居所が同一であれば、その常居所地の法律が適用されます。夫婦が長期間にわたって日本に居住し、日本国が生活の基盤となっているような場合,日本の法律が適用
- 上記「1.」「2.」のいずれでもない場合は,夫婦に最も密接な関係のある地の法律が適用されます。たとえば,夫婦の一方が日本に常居所のある日本人の場合は、日本の法律が適用
日本の法律が適用される場合,日本人同士の離婚の場合と同様に日本の法律に従った手続きを利用することができます。
ただし,外国人のパートナーの国籍国が協議離婚を認めていない,あるいは,当該国籍国の宗教観などに基づき離婚自体が認められていないなどの場合がございますので,注意が必要です。
詳しくは後述します。
(2)自国に住んでいない方の気持ち
国際結婚では、配偶者の一方の生まれた国に住むことが多く、つまり、もう一方の配偶者にとっては自国ではないところで結婚生活を送ることになります。
新婚時代、また仲の良い時代は全く問題ありませんが、夫婦の気持ちにズレが生じた場合、自国でない国に住んでいる方の気持ちを考えることは、とても大切です。
どんなに長い間暮らしている国であっても、自分はその国では外国人であり、親はもちろん、幼少から親しいという人がすぐ近くにいることはないのです。
たとえペラペラに配偶者の国の言葉を使いこなしていたとしても、配偶者と縁が切れそうになったときの孤独感、これは、容易に計り知ることができないものだと思います。
離婚をするにしても、自国に住んでいる側の配偶者は、この気持ちへの配慮はなされるべきかと思います。
(3)戸籍はどうなる?
日本において日本人が国際結婚すると、日本人の配偶者一方を筆頭とする新しい戸籍が作られます。
その戸籍の「婚姻」の欄に、外国人の配偶者の氏名や生年月日、国籍が記載されるという形式です。
国際離婚をする場合、戸籍の「婚姻」の欄の下に、「離婚」の欄が設けられ、離婚した事実が記載されることになります。
2、どのくらいの割合の人が離婚している?
前述のとおり,一般的に国際結婚の方が日本人同士の結婚よりも離婚率が高い傾向がありますが,厚生労働省による「人口動態調査」によると,国際結婚した夫婦の離婚率は約60%にもおよびます。
これは日本人同士の夫婦と比べて倍近い数値となります。
特に,日本人男性と外国人女性の離婚件数は,日本人女性と外国人男性の組み合わせに比べて,約4倍近い調査結果となっております。
もっとも,これは国際結婚件数が日本人男性と外国人女性の組み合わせの方が多く,離婚率でみた場合,日本人女性と外国人男性の場合と比べても大差はありません。
国別に国際離婚件数と離婚率のトップ3をみてみましょう(上記人口動態調査の平成22年時点データに基づきます。)。
(1)日本人男性と外国人女性の組み合わせの場合
離婚件数は上から,
- 中国5762件
- フィリピン4630件
- 韓国3664件
の順です。一方,離婚率でみると上から,
- フィリピン88.8%
- 韓国69.8%
- タイ67.7%
の順になります。
(2)日本人女性と外国人男性の組み合わせの場合
離婚件数は上から,
- 韓国977件
- 中国632件
- アメリカ397件
の順です。
一方,離婚率でみると上から,
- フィリピン86.2%
- 中国69.4%
- ブラジル56.6%
の順になります。
3、国際結婚の離婚理由・原因
国際結婚の離婚理由・原因には,不倫,浪費,性格の不一致,DVなど日本人同士の場合と変わらないものもありますが,一方で,国際結婚ならではの理由・原因もあります。
どのようなものでしょうか。
日本人男性と外国人女性の組み合わせの場合,日本と外国人女性の国籍国の間には経済的格差があることが多く,結婚した途端に外国人女性が本国の家族・親族を日本に呼び寄せて夫に援助を求め,あるいは,本国の家族に仕送りするため夫に援助を求める例があります。
この場合,日本人男性としては,自分のパートナーがお金目当て,比較的裕福な日本での国籍取得目当てだったのかと幻滅し(あるいは思い込み),離婚に踏み切る場合があるようです。
このように国家間の経済的格差もさることながら,文化・宗教の大きな違いなども理由・原因となりうるのが日本人同士の場合と異なるところです。
4、国際結婚で離婚することになったら!手続きの進め方
(1)離婚手続の進め方
日本の法律に基づく離婚手続きと,外国人パートナーの国籍国の法律に基づく離婚手続きとで2つの手続きを進めていく必要があります。
日本では裁判所を介さず,役所に届け出れば済む協議離婚,すなわち話し合いによる離婚が認められているところですが,この協議離婚が認められている国は世界中をみても中国,韓国,タイなど極めて限られています。
そこで,相手方の国法に基づいた裁判上の手続きをよく理解する必要があります。
概要を国別にみていきましょう。
(2)国別にみる手続き
①アメリカ人との離婚の場合
- アメリカ人との国際結婚の離婚の特徴
アメリカ人パートナーとの離婚手続きは州によって異なります。
協議離婚は基本的には認められていません。
- 手続
裁判所を介した手続きが必要となります。
日本における離婚するとの判決ないし確定判決と同一の効力をもつ調書(家事審判法第25条3項)などを用意しましょう。
州ごとに手続きの詳細は異なるので,大使館領事部に問い合わせる,当該州の実務に精通した弁護士に依頼するなど具体的な手続きについては事前に調査をするのがよいでしょう。
- 日本の裁判所における離婚がアメリカでも有効とみとめられるための要件
当事者双方が法廷に出頭していること,裁判所の管轄地域に少なくとも当事者の一方の住所があること,当該離婚がアメリカの公序良俗に著しく反していないことが基本的な要件となります。
②中国人・台湾人との離婚の場合
中国・台湾では協議離婚が認められています(中国婚姻法31条、中華民国民法1049条)が,台湾では日本の調停調書が認められない場合があるので注意が必要です。
もっとも,中国については,離婚に関する統一的な法律はありません。
適用法が中華人民共和国婚姻法である地方がある一方で、香港特別行政区ではイギリスの婚姻法、マカオ特別行政区では1966年ポルトガル民法が適用法となります。
また,少数民族に関する自治区条例や慣習法,公務員や軍人に関する特例法なども存在します。
したがって,相手方の居住地域と民族によって,適用法が異なり得るということです。
当該地域・民族に関する適用法の実務に携わっている専門家に相談するのがよいでしょう。
③韓国人との離婚の場合
韓国においては日本と同様協議離婚が認められています。
ただし,韓国の役所に届出をする前に,家庭法院での確認手続きが必要となります。
また,韓国においては協議離婚の場合,裁判上の離婚の場合と異なり,慰謝料等の離婚に伴う損害賠償請求を認める規定が存在しないことから,損害賠償請求はできないと考えられています。
我が国と韓国は密接な関係にありますので,韓国法に詳しい専門家は日本にも多数おります。
一度,専門家にご相談されるのがよいでしょう。
④フィリピン人との離婚の場合
そもそもフィリピンにおいては離婚制度自体存在しておりません。
ただし,フィリピン人と外国人の婚姻が有効に成立し、その後外国人配偶者により離婚の成立が有効に取得された場合で、その外国人配偶者が再婚することが可能となったときには、フィリピン法の下そのフィリピン人も再婚をすることが可能となっています(フィリピン家族法第26条)。
日本で離婚が成立した場合,日本のフィリピン領事館へ「離婚報告」をする必要があります。
同報告をせずに,フィリピン人と離婚した後再度フィリピン人と再婚する場合、フィリピンでは重婚扱いとなってしまいかねません。
⑤タイ人との離婚の場合
タイにおける離婚制度は,婚姻手続きを日本・タイどちらで行ったのか,常居所が日本・タイどちらにあるのかによって取るべき手続きが異なる建付けになっています。
具体的には,以下の4つのパターンに場合分けされます。
- 日本で婚姻手続きを行い,かつ,常居所が日本の場合,日本での離婚手続きからスタートする必要があります。
- 日本で婚姻手続きを行い,かつ,常居所がタイの場合,住民票を日本に移して日本の住所を取得してから,日本での離婚手続きをスタートする必要があります。日本の住所を取得せず,いきなりタイで離婚手続きをしようとしてもタイの役所は受け付けてくれません。
- タイで婚姻手続きを行い,かつ,常居所が日本の場合,日本での離婚手続きからスタートする必要があります。
- タイで婚姻手続きを行い,かつ,常居所がタイの場合,タイでの離婚手続きからスタートする必要があります。
5、国際結婚の離婚を有利に進めるポイント
(1)まず,管轄が認められる限り日本の裁判所を介した調停手続きを利用するのが有効
前述のとおり,協議離婚を認めている国は少なく,確定判決と同一の効力を持つ調停調書を取得しておく必要がありますし,やはり何といっても言葉の壁は大きいからです。
相手方の国の言語で日常会話などはできても,法律的な専門用語や独特な言い回しまで理解し使いこなせる人は少ないでしょう。
また,相手方との話合いをスムーズに進めるため,通訳をつけるのが望ましいですが,通訳費用に関する公的援助制度はなく,基本的に当事者の自己負担となります。
相手方が通訳費用を賄えないような場合であっても,こちらの方から同費用を支弁することも,結果として早期解決につながることがあるので,検討の価値はあります。
我が国においては,原則的には被告の住所地を管轄する裁判所に申し立てる必要がありますが,それでは相手方が外国にいる場合や逃亡して行方不明となっている場合,酷な結果となりかねません。
そこで,申し立てる側が日本に住んでいれば,申立人の住所地を管轄する裁判所に申し立てることが広く認められています。
(2)相手方に対し,財産分与や慰謝料請求を求める場合,可能な限り一括で請求
長期分割にすると,相手方が日本国から逃亡・帰国してしまうおそれがあり,日本法に基づく強制執行ができなくなってしまうからです。
6、国際結婚の離婚の際に確認しておくべきその他のこと
(1)離婚協議書の作成
離婚協議書作成の際は,合意をきちんと書面化するという点はもちろんのこと,財産分与,慰謝料,養育費など金銭の支払いの約束については,相手方が不払いの際は直ちに強制執行に服する旨の陳述を記載の上,公証役場で公正証書化しておくべきです。
こうすることによって,仮に相手が金銭の支払いを怠った場合には,面倒な裁判手続きを経ることなく,直ちに相手方の給料を差し押さえるなどの強制執行手続きに移れるからです。
ただし,前述のとおり,相手方が日本国外に出てしまった場合,我が国の執行管轄権は外国には及びませんので,日本法に基づく強制執行はできません。
現地法の手続きを踏んで強制執行手続きを申し立てる必要があるでしょう。
(2)ビザ変更の手続
日本国内において離婚が成立した場合,外国人配偶者は「日本人の配偶者等」ビザの更新ができなくなり,我が国での在留資格を失うこととなります。
この場合,外国人配偶者は「定住者」などのビザに変更する必要があるでしょう。
その要件は明確化されてはいませんが,経済的な生活能力や日本に在留したい理由などが考慮されると考えられます。
まとめ
ネット,輸送技術の発達をはじめとする国際化の波はこれからも高まりつつある状況です。
SNSなどを通じて,国際結婚が実を結ぶということも多くなるのではないでしょうか。
とはいえ,人の心は移ろいやすいもの。
文化,宗教,言語,生活習慣の違いなどがあればなおさらです。
これからも国際結婚・離婚の数は増えていくでしょう。
本ページが、そのような局面で少しでも困っている人の今後の対応の手助けになることを願っています。