「拘置所」という言葉はメディアなどでよく耳にします。以前、日産のカルロス・ゴーン社長が東京拘置所に留置されていた出来事は、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
しかし、拘置所が具体的にどのような場所であり、そこでの生活がどのようなものかを知っている人は少ないかもしれません。普段、拘置所とは無縁の生活を送っている方が大多数だと思いますが、中にはご家族が勾留され、拘置所に収容されているという方もいらっしゃるでしょう。
そこで、今回は、拘置所やその中での生活、面会や、差し入れ時の留意点などをご紹介します。この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
刑事事件と民事事件の違いについては、以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、拘置所とは?
拘置所は、逮捕・勾留された方、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」(以下、法といいます)では「刑事施設」と呼ばれています。なお、拘置所とは別の施設である刑務所も、法律上は「刑事施設」です。
(1)誰を収容するところ?
法3条では次の者を「刑事施設」に収容するとしています。
1号 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者
2号 刑事訴訟法の規定により、逮捕された者であって、留置されるもの
3号 刑事訴訟法の規定により勾留される者
4号 死刑の言い渡しを受けて拘置される者
5号 前各号に掲げる者のほか、法令の規定により刑事施設に収容されるべきとされる者及び収容することができることとされる者
少し説明を付け加えると、1号の者はいわゆる受刑者のことを指します。また、通常、警察に逮捕された人、また、その後勾留された人は、警察署内にある「留置施設」(法14条2項。いわゆる留置場)に留置されることが多いですが、2号、3号によれば、逮捕・勾留されている人が、留置施設ではなく、拘置所に収容されることもあるということです。
(2)全国に113箇所ある
拘置所は本所、支所合わせて全国111か所に設けられています。住所・電話番号などの詳細は、以下の法務省のホームページにてご確認ください。
(3)留置場との違い
拘置所と留置場の違いの1つは、拘置所は法務省の管理(管轄)下にあり、留置場は警察の管理(管轄)下にあるということです。また、拘束できる人も違います。留置場では、前記1号該当者(懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者)、前記4号該当者(死刑の言い渡しを受けて拘置される者)などを留置することができません。
* 留置場での留置は世界的にみれば特殊 *
ところで、世界的にみると、私たちが当たり前の存在として考えている日本の留置場は極めて特殊に思われているようです。諸外国では、被疑者・被告人は拘置所に逮捕、勾留されるのが通常のようです。これは、留置場に拘束してしまうと、自白の強要など、捜査機関側に都合のいいことが行われかねないからでしょう。
(4)刑務所との違い
拘置所も刑務所も同じ「刑事施設」であって、法務省の管理(管轄)下にあり、また、すでにご紹介したとおり、収容できる人も法律上は同じです。
しかし、実際には、拘置所には多くは未決勾留者、つまり、勾留されているものの刑事判決が確定する前の者(裁判前、裁判中の者も含む)を収容し、刑務所には刑事裁判が確定し刑の執行を受けている者(つまり受刑者)を収容する取り扱いとしているようです。
また、このような違いから、拘置所は留置場と同様、罪証隠滅、逃亡を防止するための施設、刑務所は受刑者の矯正及び出所後の社会復帰のための支援をするための施設ということができるかと思います。
2、拘置所での生活
では、このような拘置所の中では、どのような生活を送っているのでしょうか?あくまで一例ですが、ご紹介します。
(1)一日のスケジュールは?
未決拘禁者(刑事裁判が確定していない被疑者、被告人)は基本的に単独室(居室)に収容されます。
3畳ほどの部屋に机、洗面台、トイレ、布団、格子状が付いた窓が設けられています。
運動、医師の診察等、居室以外での処遇が適当と認められる場合のほかは居室で処遇を受けることになります。
起床時間は午前7時(以下、時間については各拘置所により異なります)。起床したら布団をたたみ、洗面、掃除をして刑務官の点呼を受けます。その後、朝食を摂り、裁判の予定が入っている人は裁判所へ向かいます。
予定のない人は、余暇時間中に読書をしたり、「自己契約作業」といって刑事施設の外部の者との請負契約により物品の製作その他の作業をするなどして過ごすことができます。
そして、午後0時頃の昼食後、運動の機会が与えられます。
午後も午前中同様、裁判の予定が入っている人は裁判所へ行き、入っていない人は読書などをして過ごします。
そして午後4時30分頃夕食をとり、点呼を受けた後、午後9時に就寝です。
(2)食事は?
食事は外部から調達する留置場と異なり、拘置所内で作られます。
したがって、留置場での食事と決定的に異なるのは、食事が人の手で作られ(機械ではなく)、かつ、温かいということです。
また、拘置所内での食事では物足りないという場合は、自ら食料品や飲料を購入することができます。
購入できる物(品目)については、受刑者と異なり制限が設けられていません。
(3)お風呂は?
入浴は、1週間に2、3回行うことができます。夕食から就寝の間に時間を設けられるでしょう。
未決拘禁者の場合、罪証隠滅のおそれがある場合は居室外でもほかの未決拘禁者との接触が禁じられるため、単独用のお風呂を利用します。
お風呂は拘置所によって新しく設備の整っているものから古い物まで様々です。どんなお風呂に入れるのかは入所した拘置所しだいということになります。
3、拘置所へ面会に行く際の5つの注意点
以下の項目については、拘置所により異なりますから、面会に行かれる際は事前に確認されておくことをお勧めいたします。
(1)面会時期
警察に逮捕された場合は、通常、起訴され留置場から移送された後となります。
移送された場合は選任されている弁護士に通知がいきますから弁護士にいつ移送されたのか確認しましょう。
当初から拘置所で拘束されている場合は、基本的にいつでも面会できます。
(2)時間制限
他の面会者との兼ね合いもあり、15分~30分程度です。
(3)人数制限
面会できる人数は1回につき3人以内です。
(4)回数制限
1日につき1回以上で各拘置所が決める回数です。
(5)接見禁止決定が出ている場合
通常、弁護人以外の人について、接見を禁止されることがあります。
接見禁止は公訴が提起されるまで(つまり、起訴されるまで)という条件が付けられますが、起訴後でも新たに接見禁止を付けられることがあります。その場合は、面会できません。
4、拘置所へ差し入れできる物、制限
未決拘禁者に対しては、接見等禁止処分がついていない限り、誰でも差し入れることができます。
また、郵送で差し入れすることも可能です。
差し入れできる物は、衣類、食料(差入れできない場合もある)、室内装飾品、嗜好品、日用品、文房具などです。
しかし、これらに当たる物であっても、刑事施設の規律・秩序を害するおそれがあるもの、差出人の氏名が明らかでないもの、保管に不便、腐敗、滅失するおそれがあるもの、危険を生ずるおそれがあるものなどは差し入れできない場合があります。
また、差し入れできず数、量が予め決められていますから、それを超える場合は差し入れできない場合もあります。
いずれにしても、差し入れ方法に関しては、事前に拘置所に問い合わせておくことをお勧めいたします。
5、拘置所の面会手順
まず、実際に拘置所に収容されているかどうか確認しましょう。
電話で教えてもらえない場合は、選任されている弁護人に問い合わせるか、弁護人を通じて確認してもあらいましょう。
面会するには面会の申込みをしなければなりません。
なお、電話での申込み(予約)はできません。実際に、拘置所窓口に出向く必要があります。
面会の受付日、時間は下記の法務省ホームページでご確認ください。ホームページによると、休祝日の面会を受け付けている拘置所はないようです。
拘置所窓口では、申込書に記入し、身分証明書の提示を求められたり、必要な事項につき質問を受けたりします。身分証明書の持参はお忘れなく。
6、拘置所から釈放される場合
拘置所生活は決して楽なものではありません。
そこで、ご家族にとっては、いったいいつになったら拘置所から出られるの?と思われている方もいらっしゃると思います。
(1)勾留の理由、勾留の必要性がない
拘置所で収容される方の多くは勾留中の方です。
そして、勾留の要件は「勾留の理由」と「勾留の必要性」から成りますから、そのどちらかの要件がなくなれば釈放されることになります。
釈放を望む場合は、弁護人を通じて「勾留の理由」あるいは「勾留の必要性」がないことを裁判所や検察官に積極的に主張してもらう必要があります。
(2)保釈決定が出た
起訴された後は保釈請求をすることができます。
保釈請求が許可され、保釈保証金を納付した段階ではじめて釈放されます。
許可の条件には「権利保釈」と「裁量保釈」の2つがあります。
「権利保釈」とは、刑事訴訟法89条各号の事由に該当しない場合は保釈を許可するものです。
「裁量保釈」とは、仮に、同条各号の事由に該当した場合であっても、裁判所(裁判官)の裁量により保釈を許可するとするものです。
7、拘置所では弁護人しか面会(接見)できない場合も
ご家族の方がいくら拘置所に面会に行きたいと思っていても、制度上、面会できない場合があります。
たとえば、先ほどもご紹介した、収容されている方に接見禁止決定が出ている場合です。
ただし、接見禁止決定といっても一部の方とのみ接見を禁じているかもしれません。
その一部にご家族が含まれていない場合は面会することができます。
いずれにせよ、どういう条件となっているのかは、拘置所、あるいは選任されている弁護人に問い合わせましょう。
なお、仮に、ご家族が接見禁止となっている場合でも、弁護人に接見禁止の全部または一部解除の申立てをしてもらうことができます。
次に、曜日、時間による制約です。
ご家族等弁護人以外の方の面会は、基本的に平日の拘置所の執務時間内とされています。
これに対し、弁護人であれば、曜日、時間帯に関係なく接見することが可能です。
接見禁止がされていて面会できない、休日を挟んでいて面会できないなどというご家族がおられましたら、弁護人に接見を依頼するのも一つの方法です。
まとめ
以上、拘置所についてお分かりいただけましたでしょうか?
拘置所では収容された方にとって過酷な生活となることが予想されます。
そんなとき、支えになるのがご家族等身近な方の存在です。面会、差入れなどをしてあげられれば、収容されている方もきっと喜ぶでしょう。
ご家族やご友人の方々には、可能な限り、面会、差入れなどをし、収容されている方の精神的な支えとなっていただければと思います。