調停調書とは、調停で合意された事項が記載された書面です。判決と同様の効力を有し、離婚届を提出する際にも必要とされる重要な書面になります。
調停調書の記載を後から変更するのは難しく、内容が正確かについてあらかじめポイントをおさえて確認しなければなりません。
そこで今回は
- 調停調書とは?
- 調停調書のチェックポイント
- 調停調書が作成された後の流れ
などについてご案内します。
この記事が、離婚調停中の方や、調停により離婚することになった方のための手助けとなれば幸いです。
離婚調停全般については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、調停調書とは?
まずは、調停調書はどのようなものかについて見ていきましょう。
(1)離婚調停で決まったことが書かれる
調停調書とは、離婚調停が成立した際に、双方が合意した内容が記載される書面です。
- 裁判官
- 調停委員
- 書記官
- 当事者
がそろった場において、裁判官が内容を読み上げて確認をとったうえで作成されます。調停調書を実際に作成するのは書記官です。
(2)判決と同じ強力な効力を持つ
調停調書は確定した判決と同じ効果を持ち、判決に従わない場合と同様に、調停調書の内容に違反している相手には強制執行が可能です。
強制執行とは強制的に相手の財産を取り上げるなどの方法で約束を実現させる方法です。
たとえば、養育費の支払いが滞っているときに、
- 相手の給料
- 預貯金
などの財産を差し押さえて回収することができます。
もっとも、記載内容が正確でないとスムーズに強制執行ができません。合意内容が守られなかった場合を考えると、調停調書の細かな記載内容が重要といえます。
(3)作成後は不服申立てができない!
作成されると、調停調書の内容についての不服申立ては原則としてできません。「よく確認しておらず勘違いがあった」となっても後の祭りです。この記事を読んでポイントを把握し、間違いのないようにしましょう。
2、確認必須!調停調書の7つのチェックポイント
調停調書の内容が読み上げられた際のチェックポイントをご紹介します。注意深く確認するようにしてください。
- 離婚成立のタイミング
- 離婚届の提出者
- 財産分与
- 慰謝料
- 親権
- 面会交流
- 養育費
(1)離婚成立のタイミング
離婚成立のタイミングは、「調停成立時点」または「離婚届が受理された時点」です。
①調停成立時点
通常は調停で離婚に合意した場合、調停成立時点で離婚も成立します。後に役所に届出を提出するものの、これは調停離婚した事実を戸籍に反映させるために過ぎません。
調書では「本日、調停離婚する」といった記載になります。
②離婚届が受理された時点
調停において「協議離婚する」という合意を結ぶことも可能です。このときは離婚成立のタイミングは届出が受理された時点になります。
協議離婚にするメリットは、調停をした事実が戸籍に残らないことです。調停離婚をすると戸籍にその事実が記載され、「調停をして離婚した」と子どもに後から知られてしまう可能性もあります。
しかし「自分たちだけで話し合って離婚した」と子供に思ってもらいたい方もいるでしょう。そうした場合には「協議離婚をする」という調停を成立させるのが有効です。
ただし、確実に当事者が届出をするとは限らない以上、離婚が不成立となるリスクがあります。
届出されない事態を防ぐため調停の場で離婚届を作成したうえで、いずれかに手続を託すケースも少なくありません。
協議離婚とするパターンでは「協議離婚をすることを合意」といった文言が調書に入ります。
離婚の形態が希望と異なると後悔するかもしれません。
- 「調停成立時点で離婚(調停離婚)」
- 「離婚届が受理された時点で離婚(協議離婚)」
のいずれになっているか注意を払うようにしてください。
(2)離婚届の提出者
離婚届をどちらが提出することになっているかという点も確認しましょう。
調停離婚の場合は、戸籍への届出は法律上原則として調停の申立人が行います。
ただし、新旧いずれの姓を選ぶかを申告する必要があるため、婚姻によって姓が変わった側(多くの場合女性)が届出を担当する方が便宜的です。
女性が相手方(調停を申立てられた側)の場合には、「相手方が届出をする」と定めるとよいでしょう。
協議離婚とする場合には、離婚届が提出されないと離婚が成立しないため特に注意が必要です。離婚を拒んでいた相手に離婚届の提出を任せないようにしてください。
(3)財産分与
財産分与の金額や支払方法に間違いがないかをよく確認してください。
支払方法は
- その場で現金一括
- 期日を定めて一括で振込
- 分割払い
など様々なケースがあります。
また
- 不動産
- 自動車
などが対象になっている場合には、名義変更手続についての定めも要チェックです。
生命保険など名義変更に相手の協力がいる場合には特に注意してください。
(4)慰謝料
慰謝料があるときには、金額や支払方法を確認しましょう。その場で支払わない場合には、未払いを想定した条項が入っているのが望ましいです。
(5)親権
未成年の子どもがいるのであれば、親権がどちらのものかも定められます。親権の記載にミスがある可能性は低いでしょうが、間違いないか念のため確認してください。
(6)面会交流
親権を持たない側と子どもの間の面会交流の定めは、抽象的な文言になるケースと具体的なルールが決まるケースがあります。
抽象的な定めの場合には、細かいルールについては「当事者の協議による」などとされます。
双方のコミュニケーションがスムーズにできるケースではこうした定めでも構いません。
しかし、面会交流について後に問題が起こりそうであれば、
- 日時
- 場所
など具体的なルールを定めておくべきです。具体的な定めがないと相手が従わないときに強制執行ができません。
ちなみに、面会交流についての強制執行は「間接強制」になります。間接強制とは、決めたルールに従わない相手に制裁金を課して義務の履行を促す方法です。
いずれのケースであっても、決まった内容が正確に反映されているかをチェックしましょう。
(7)養育費
子どもの養育費も金額や支払方法が正確かを確認してください。
養育費の未払いは発生しやすいトラブルです。支払われないときに確実に強制執行ができるように、内容をチェックしておきましょう。
3、調停調書と似ている公正証書や和解調書とは何が違う?
調停調書と勘違いしやすいものに「公正証書」と「和解調書」があります。違いは次のとおりです。
| 公正証書 | 和解調書 | 調停調書 |
作成される場面 | 協議離婚 (作成は任意) | 離婚裁判で判決前に和解が成立 | 離婚調停で離婚が成立 |
作成場所(作成者) | 公証役場(公証人) | 裁判所(書記官) | 裁判所(書記官) |
強制執行できる範囲 | 金銭のみ | 金銭以外も可能 | 金銭以外も可能 |
強制執行認諾文言 | 必要 | 不要 | 不要 |
以下でそれぞれについて詳しく解説します。
(1)公正証書は協議離婚の条件がまとまった後に作られる
公正証書は、裁判所の手続を利用せずに協議離婚をする場合に任意で作成される書面です。
離婚に関する取り決めをした後に夫婦で公証役場に出向き、申請して公証人に作成してもらいます。
公正証書にするメリットは、改めて訴訟を起こさなくても強制執行が可能になることです。
もし公正証書にせず、協議離婚で合意した内容を自分たちで書面にした場合、後に違反があってもすぐには強制執行ができません。わざわざ裁判所で訴訟などをして権利の存在を確定させなければ、強制執行の手続きに移れないのです。
これに対して「強制執行認諾文言」を入れた公正証書があれば、すぐに強制執行が可能になります。「強制執行認諾文言」がなければ強制執行はできないので注意してください。
また、公正証書を用いて強制執行できるのは金銭支払いの義務だけです。
- 財産分与
- 慰謝料
- 養育費
についての強制執行はできますが、面会交流についてはできません。
公正証書は調停を申立てなくてもよいため取得しやすいですが、調停調書より効力が弱い面もあるといえます。
(2)和解調書は離婚裁判になって和解すると作られる
和解調書は、調停が成立せず離婚裁判になり、そこで判決前に和解した場合に作成される書面です。どの段階で作成されるかが異なるだけで、和解調書と調停調書は同様の効力を持ちます。
(3)調停調書の原本・謄本・抄本・正本って何?
調停調書の中でも、
- 「原本」
- 「謄本」
- 「抄本」
- 「正本」
があり、微妙な違いがあります。
| 意義 | 必要な場面 |
原本 | 最初に作成されたオリジナル | 裁判所での保管 |
謄本 | 原本の全部の写し | 役所への届出 |
抄本 | 原本の一部の写し | |
正本 | 原本と同じ効力を持つ特別な謄本 | 強制執行 |
①原本
「原本」とは、最初に作成されたオリジナルの文書です。裁判所において保管されます。
②謄本
「謄本」とは、作成する権限を持つ公務員が、原本の内容の「全部」を写したものです。調停離婚を役所に届け出る際には、調停調書の謄本が必要になります。
調停調書の謄本を作成できるのは書記官です。当事者が原本の内容と同一内容の文書を作ったとしても、作成権限がないため謄本とはならず、単なる「写し」に過ぎません。
③抄本
「抄本」とは、作成する権限を持つ公務員が、原本の内容の「一部」を写したものです。謄本と同様の役割を持ち、違いは原本の「全部」の写しか「一部」の写しかという点だけになります。
④正本
「正本」は謄本の一種ですが、「原本と同一の効力を有する」とされる特別なものです。強制執行をする場合には調停調書の正本が必要になります。
4、調停調書ができても終わりではない~離婚届提出までの流れ
調停が成立したからといってすべての手続が終わったわけではありません。その後の手続を解説します。
- 裁判所に謄本を請求する
- 役所に離婚届を提出する
- 離婚調停成立後必ず「調停調書正本の送達」と「送達証明書の取得」を行う
- 調停調書が届かなかったらどうすればよいのか
(1)裁判所に謄本を請求する
調停が成立したら、その足で裁判所に調停調書の謄本を請求してください。離婚を役所に届け出る際には、調停調書の謄本の添付が必要なためです。後日郵送で申請することも可能ですが、その場で申請してしまった方が楽でしょう。
(2)役所に離婚届を提出する
調停調書の謄本を入手できたら、役所に出向いて離婚届を提出してください。調停離婚の場合には調停成立から10日以内に届出をしなければなりません。
離婚届の提出についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
(3)離婚調停成立後必ず「調停調書正本の送達」と「送達証明書の取得」を行う
調停が成立した際には、調停調書正本の送達の申請も忘れないでください。
送達とは、裁判所が調書を当事者双方に送付することをいいます。謄本だけでは強制執行ができず、正本が手元に存在しなければならないため、送達申請が必要です。
後から送達申請することも可能です。しかし相手が住所を変更していてスムーズにいかないケースも考えられます。調停成立直後に申請することをお勧め致します。
また、同時に送達証明書の取得も申請してください。送達証明書は正本の送達があったことを証明するもので、強制執行に必要となります。
相手が取り決めを守らなかった際にスムーズに強制執行ができるよう
- 正本の送達
- 証明書の取得
を忘れないようにしましょう。
(4)調停調書が届かなかったら?
調停調書を申請しても、その場ですぐに受け取れるわけではありません。郵送されるまで数日かかるのが通常です。1週間経っても手元に届かなければ裁判所に問い合わせをした方がよいでしょう。
5、調停調書の内容を相手が守らない!4つの対処法
残念ながら「養育費を支払ってくれない」といった調停終了後のトラブルは珍しくありません。
調停で合意した内容を相手が守らない場合にはどうすればよいのでしょうか?4つの対処法をご紹介します。
- 催促する
- 内容証明郵便を送る
- 裁判所に履行勧告・履行命令をしてもらう
- 強制執行に踏み切る
(1)催促する
まずは、相手に連絡して催促してみましょう。単に支払いを忘れているだけの可能性もあります。いきなり強い手段に出るのはトラブルの元なので避けてください。
(2)内容証明郵便を送る
なかなか連絡がとれなかったり、支払いを拒んだりするときには、内容証明郵便を送付するのがひとつの手です。
内容証明郵便とは
- 「いつ」
- 「誰が誰に」
- 「どのような内容の」
文書を送ったかを郵便局が証明する郵便をいいます。
内容証明郵便が届くことは日常生活でまずないため、相手が驚いて支払いをしてくれる可能性があります。
内容証明郵便の書き方、出し方などを詳しく知りたい方は以下の記事をお読みください。
(3)裁判所に履行勧告・履行命令をしてもらう
裁判所に申出をして、
- 履行勧告
- 履行命令
をしてもらう方法もあります。
履行勧告では、調停で決定した事項を守らない者に対して、裁判所から義務を果たすよう促します。申出に費用はかかりません。強制力はないものの、裁判所からの連絡となると相手が受けるプレッシャーは大きいでしょう。
より強い措置として履行命令もあります。
履行命令は、期限を定めて義務を果たすように命じるものです。申立てには手数料がかかります。命令があったにもかかわらず正当な理由なく従わなければ、10万円以下の過料というペナルティがあります。
なお、履行命令ができるのは金銭的な義務だけで、面会交流については命令が出せません。
(4)強制執行に踏み切る
最終的な手段は強制執行です。支払いをしない相手に対しては、
- 給与
- 預貯金
- 不動産
などを差し押さえて強制的に金銭を回収することができます。
履行勧告・履行命令をしても拒み続ける相手には有効な手段です。
面会交流の場合は金銭的な義務ではないため、強制執行の方法は「間接強制」となります。これは一定の期限を定めて実行しない場合に金銭の支払いを命じるものです。
ここで紹介した4つの方法についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
6、調停調書の内容を変更したいときは?
「調停調書の内容がおかしい」というときはどうすればよいのでしょうか?
以下で確認していきましょう。
- 原則変更不可
- 話し合いや調停で合意できれば変更が可能
(1)基本的に変更はできない
調停調書の内容に思い違いがあっても、変更は基本的にできません。
計算違い、誤記などの明確な誤りがあったときに変更できるという規定はありますが、実際に変更されるのは稀です。
「勘違いしていた」という程度では変更は不可能です。作成する段階で間違いがないか確認することが重要といえます。
(2)話し合いや調停で合意できれば変更が可能
調書の記載そのものは変更できませんが、双方の合意さえあれば決めた内容を変えることはできます。
自分たちで話し合って取り決めをしても構いませんし、再度調停を利用することも可能です。
例えば
- 経済状況が変わって養育費の金額を再検討する
- 子どもの成長に応じて面会交流を見直す
といったケースはよくあります。
お互いの合意さえできれば問題なく、調停調書の内容がいつまでも絶対というわけではありません。
7、その他調停調書に関する疑問点について
(1)再発行はできる?
調停調書の
- 正本
- 謄本
- 抄本
などは再発行が可能です。必要があるのに手元になければ裁判所に請求しましょう。
(2)保存期間はいつまで?
調停調書は調停終了から30年間保存されることになっています。調停調書以外の事件記録については保存期間が5年です。
(3)DVやモラハラを行う夫から自分の現住所を隠したいときはどうする?
DVを受けたなどの理由で、相手に自分の現住所を知られたくないときには、秘匿したい旨を裁判所に申し出てください。裁判所は情報が相手にバレないように注意して対応してくれます。
8、離婚調停でお悩みの方は弁護士にご相談を
調停調書の内容チェックだけでなく、離婚調停全体をうまく進めるには弁護士への依頼が有効です。
(1)自分の主張を法的に伝えてくれる
主張を法律的な観点から整理して裁判所に伝えてくれるのは、大きなメリットです。
離婚調停では
- 財産分与
- 養育費
- 面会交流
など様々なことを決めます。
法律上のルールをすべて把握するのは簡単ではありません。また法律がある程度わかっても、自分の言い分を調停委員にわかってもらうように伝えるハードルは高いです。
弁護士に依頼すれば、主張を効果的にまとめてくれるので、調停を有利に進めやすくなります。
(2)手続、話し合いを任せてストレス軽減に
普段とは違う調停の場では、緊張してうまく話せないこともあります。また、求められた書類の提出をするのも一苦労です。弁護士に依頼すれば、
- 細かい手続
- 調停での発言
を任せられ、ストレスが軽減されます。
(3)調停調書の内容も間違いなし
調停調書を作成する際にも、弁護士がいれば勘違いや誤記のない書面になります。
自分だけで確認すると、専門的な表現だらけで内容がよくわからないケースもあるでしょう。
弁護士に依頼していれば思わぬところで足をすくわれずにすみ、相手が義務を実行しないときにスムーズに対応できます。
まとめ
ここまで、調停調書について、
- チェックポイント
- 公正証書・和解調書との違い
などを解説してきました。疑問点をそのままにしていると後々トラブルになりかねません。何か気になることがあればぜひお早めに弁護士にご相談ください。