長年婚姻生活を続けてきたものの、子どもが独立したことや夫の定年退職をきっかけに離婚を考える方も少なくありません。
長期間の婚姻生活を経て離婚することを一般的に「熟年離婚」といいますが、熟年離婚をしようとする方が不安に感じる原因は、離婚後のお金の問題でしょう。婚姻期間の長さに比例して夫婦の財産も増える傾向にあり、退職金なども財産分与に当てはまる場合があるので、熟年離婚の場合には財産分与の金額が大きくなります。熟年離婚で後悔しないためには、財産分与をしっかりと請求することが重要です。
今回は、
- 熟年離婚での財産分与のポイント
- 熟年離婚での財産分与における資産隠しの対処法とそのリスク
- 熟年離婚で夫が財産分与に応じない場合の対応
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事が、熟年離婚を検討している方々のご参考になれば幸いです。
目次
1、熟年離婚の成功の鍵は「財産分与」
長年の婚姻生活を経た後に離婚をする「熟年離婚」では、離婚後の生活が大きく変わります。特に、長年専業主婦をしていた妻としては、安定した収入がありませんので、離婚後の経済面の心配が大きく、なかなか離婚に踏み切れないという方もいるでしょう。
しかし、夫婦が離婚をする際には、「財産分与」として夫婦の共有財産の清算を求めることができます。
熟年離婚では、夫婦の共有財産として多くの財産が形成されていますので、財産分与を請求することによって、まとまった金額を得ることができ、離婚後の生活設計を立てることができるケースが多いものです。
このように、熟年離婚の夫婦、特に専業主婦だった方が離婚を「成功」させるためには、この財産分与が鍵を握っていると言っても過言ではありません。
2、熟年離婚での財産分与のポイント
熟年離婚で財産分与を請求する際には、以下のようなポイントを押さえておきましょう。
(1)財産分与の割合は1/2
財産分与は、資産形成・維持に対する夫婦の貢献度や寄与度に応じて財産を分ける制度です。そして、資産形成・維持に対する夫婦の貢献度や寄与度は等しいものと考えられていますので、財産分与の割合は、2分の1とするのが一般的です。
これは、妻が専業主婦であるケースや熟年離婚のケースであっても変わりません。
財産分与では、現金や預貯金が夫婦の一方に移転することになるため、贈与税などの税金がかかるのではないかと心配される方がいます。財産分与は、資産の移転ではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障を目的とした給付であるため、贈与税などの税金は、原則として課税されませんのでご安心ください。
(2)財産分与の割合が1/2にならないケース
財産分与の割合は、原則として2分の1とされていますが、以下のようなケースでは2分の1の財産分与割合が修正されることがあります。
①特有財産がある
財産分与の対象となる財産は、婚姻生活中に夫婦が協力して築いた財産である「共有財産」に限られます。婚姻前に築いた財産や、婚姻生活中に築いた財産であっても夫婦の協力とは無関係に形成された財産については「特有財産」として、財産分与の対象にはなりません。具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 独身時代の現金・預貯金
- 親から相続した財産
- 住宅購入時に親から受けた援助金
- 別居後に取得した財産
財産分与においては、特有財産を主張することによって、当該財産を配偶者に分与せずに確保することが可能です。
②貢献度・寄与度が明らかに違う
財産分与は、あくまでも夫婦の財産形成・維持に対する貢献度や寄与度に応じて財産を分ける制度ですので、財産形成・維持に対する貢献度が明らかに違うという場合には、財産分与の割合を修正することがあります。
もっとも、貢献度や寄与度が明らかに違う例としては、スポーツ選手や画家など特殊な能力や資格によって高額な収入を得ているという場合です。サラリーマンの夫と専業主婦の妻という家庭では、財産形成・維持に対する貢献度は等しいと考えられますので、特殊な事情がない限りは財産分与の割合を修正することは難しいでしょう。
③その他離婚の事情を加味できるケース
熟年離婚においては、「これまで相手に対し相当の我慢をしてきた」というケースも多いでしょう。または、「専業主婦としてキャリアを捨ててきたのに、不貞行為やDV、モラハラなどで離婚せざるを得ない」などのケースも併せ、どうしても1/2では納得できない、自分の方が多くもらうべきだ、と思われるケースも少なくありません。
- 相手が浪費家だった
- 相手はほとんど生活費を稼いだことがない
- ずっと浮気され苦しんできた
- 年齢的に仕事ができない時期に離婚を申し込まれた
このようなケースでは、1/2のルールが修正される可能性があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)財産分与の対象
財産分与の対象となる財産は、夫婦のどちらの名義であるかは関係なく、婚姻生活中に夫婦が協力して築いた財産が対象となります。財産分与の対象となる代表的な資産としては以下のものが挙げられます。
①預貯金
婚姻生活中に築いた預貯金については、名義の如何を問わず財産分与の対象に含まれます。子ども名義の預貯金についても、夫婦の資産を原資として形成されたものであれば、財産分与の対象になります。
②所有不動産
不動産を所有している場合には、それが婚姻生活中に購入したものであれば財産分与の対象に含まれます。不動産が財産分与に含まれる場合には、預貯金のように物理的に分割することができないため、どちらが取得するかなどの財産分与の方法で揉めることがあります。
特に、配偶者の両親と同居をしている二世帯住宅などの場合には、共有名義となっていることが多いため、共有持分の評価方法や清算方法をめぐって争いになることが多いといえます。
③所有自動車
婚姻生活中に購入した自動車についても財産分与の対象となります。自動車ローンがある場合には、現在の自動車の時価と比較して時価がローンの金額を上回る場合に限り財産分与の対象となります。
④株式や投資信託などの有価証券
株式や投資信託などの有価証券についても婚姻後に購入したものであれば財産分与の対象となります。
ただし、婚姻前に購入した株式が、婚姻後に高騰したとしても夫婦の協力で価値が増加したとはいえないため、それについては原則として財産分与の対象外です。
⑤確定拠出年金
企業の確定拠出年金は、「年金」という名称が付けられていますが、その性質は、退職金と同様に考えられています。そのため、確定拠出年金は、年金分割ではなく財産分与の対象となります。
⑥退職金
退職金は、既に会社を退職するなどして退職金が支払われている場合には、特に問題なく財産分与の対象になります。
しかし、まだ在職しており退職金が支払われていない場合には、将来、退職金が支払われるかどうかが確実とはいえません。定年までに相当期間がある場合には、途中で退職する可能性や会社が倒産する可能性も否定できませんので、不確実な退職金を財産分与の対象に含めると一方の配偶者が著しい不利益を被るおそれがあります。そのため、退職金については、定年が近いなど、将来、退職金が支払われる可能性が高い場合に限り、財産分与の対象に含めるという扱いをすることが多いです。もっとも、定年まで一定の期間がある場合でも、その時点で退職したときの退職金が計算できる場合は、その金額を財産分与の対象とするという扱いが増えてきています。
(4)不動産や自動車などの現金以外の財産分与の方法
不動産や自動車は、離婚後に自分のものにできれば生活は大きく楽になります。そのため、基本的には安易に譲ることは避けるべきです。
物理的に分けることが困難だから仕方ない・・・と諦めてはいけません。以下のように、公平に分ける方法がありますので、どうぞご参考ください。
①現物分割
現物分割とは、不動産や自動車をどちらか一方の配偶者が譲り受け、他方の配偶者は、それ以外の財産を譲り受けるという方法です。
現物分割は、現在ある共有財産をそれぞれに分配する方法ですので手続きが簡単であるというメリットがあります。しかし、不動産や自動車の評価額に相当する他の資産が存在しない場合には、公平に配分することができなくなる方法と言えます。
②代償分割
代償分割とは、現物分割では不動産や自動車の評価額と釣り合いのとれる資産がないような場合に、不動産や自動車を取得する配偶者が他方の配偶者に金銭を支払う形で分割する方法です。
たとえば、2000万円の不動産以外に資産がない夫婦の場合、夫が不動産を取得する代わりに、夫が自己の特有財産から1000万円を妻に支払うというケースが代償分割です。
③換価分割
換価分割とは、不動産や自動車を売却して、売却代金を分割する方法です。
不動産や自動車を手放さなければならないというデメリットがありますが、不動産や自動車の評価で揉めることもなく、単純に売却代金を分ければよいため、公平感のある財産分与を実現しやすいというメリットがあります。
(5)厚生年金は「年金分割」
年金分割の制度が施行される前は、年金についても財産分与の対象として扱われていました。しかし、現在では、年金については、財産分与ではなく、年金分割の手続きによって分割することになっています。
なお、年金分割の対象となるのは、厚生年金と共済年金に限られます。国民年金についても年金分割の対象になると誤解している方も多いですが、国民年金については年金分割の対象外です。
3、熟年離婚の財産分与はまずは夫婦の財産のピックアップから
熟年離婚の財産分与については、財産の金額や種類が多くなる傾向にありますので、まずは、夫婦の保有する財産を正確にピックアップしていくことが重要となります。
(1)夫が資産を隠している場合の対処法
婚姻期間が長い夫婦であっても、お互いが保有している財産をすべて把握しているという方は少ないでしょう。財産分与の対象財産のピックアップは、通常はお互いが任意に自身の財産を開示する方法で行いますが、相手に知られていないからといって、資産を隠してしまい開示に応じないケースもあります。
そのような場合には、以下のような対処法が考えられます。
①離婚を申し出る前に調査する
離婚の申し出をした後だと相手も警戒してしまい、財産に関する情報を隠してしまう可能性があります。そのため、具体的な離婚の話をする前に、自宅に届いた手紙や預貯金の取引履歴などから目ぼしい資産については調べておくとよいでしょう。
②弁護士会照会
弁護士会照会とは、弁護士が証拠などを収集するために、企業や官公庁などの団体に照会をする制度のことをいいます。
弁護士に事件を依頼することが前提となりますが、弁護士会照会を利用することによって相手が隠している財産を明らかにすることができる場合があります。
③調査嘱託・文書提出命令
調査嘱託・文書提出命令とは、裁判所が企業や官公庁などの団体に対して一定の調査や情報の開示を求める制度のことをいいます。
弁護士会照会では、個人のプライバシーを理由に回答を拒否された場合でも、裁判所からの調査嘱託や文書提出命令については応じることが多いため、有効な手段になります。
(2)資産隠しはリスクがある?
財産を開示してしまうと財産分与の対象に含まれてしまい自分の手元に残る財産が減ってしまうため、資産を隠したいと考える方もいるでしょう。
しかし、資産を隠したとしても上記のような手段をとることによって、容易に明らかになってしまいます。資産隠しをすることによって、相手に対して不信感を抱かせることになり、離婚の話し合いが長期化するリスクにもつながります。
仮に、離婚時には資産が明らかにならなかったとしても、後日隠していた資産の存在が明らかになった場合には、財産分与の請求期限である2年が経過していたとしても損害賠償請求によって財産分与相当額を請求させるリスクがあります。
4、熟年離婚で夫が財産分与に応じない場合は?
離婚をする場合には、まずは、夫婦が話し合って離婚や離婚条件を決めていきます。
しかし、熟年夫婦の場合には、財産分与の内容も複雑になってきますので、話し合いでは解決できない場合もあるでしょう。
その場合には、以下のような調停や裁判によって解決を図ります。
(1)離婚調停
熟年離婚の財産分与は、一般的には離婚と一緒に話し合いが行われますので、協議離婚が成立しない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
離婚のようなデリケートな家庭問題については、できる限り話し合いで解決することが好ましいという配慮から、調停手続きを経なければ裁判を起こすことができないとされています。これを「調停前置主義」といいます。
そのため、まずは、離婚調停で財産分与に関する話し合いが行われますが、調停での話し合いで解決できない場合には、調停が不成立となります。
(2)離婚裁判
調停が不成立となった場合には、離婚裁判を起こします。裁判は、調停とは異なり話し合いの手続きではなく、証拠に基づいて裁判所が判断をする手続きになります。
裁判では必ず結論が出るというメリットがありますが、協議離婚や調停離婚のように柔軟な解決ができないというデメリットもあります。
(3)調停も裁判も証拠が大切!
調停でも裁判でも財産分与を有利に進めるためには、自己の主張を裏付ける証拠の有無が重要となります。
他にも財産が存在すると主張するのであれば、それを裏付ける証拠を提出する必要がありますし、財産の評価額が低いと主張するのであれば、査定書や鑑定書などを提出し妥当な評価額を立証する必要があります。
証拠の有無が裁判の勝敗を左右するほど重要になりますので、証拠の収集については専門家である弁護士のサポートを受けながら進めていくと良いでしょう。
5、熟年離婚の財産分与で困ったときは弁護士へ相談!
熟年離婚の財産分与の問題は弁護士に相談をすることをおすすめします。
(1)冷静な話し合いができる
当事者同士の話し合いでは、どうしても感情的になってしまいスムーズな話し合いができないことがあります。弁護士がご本人の代理人として相手方と交渉をすることによって、感情論を抜きにした冷静な話し合いを行うことが可能になります。
複雑な財産分与の手続きも弁護士に一任することができますので、ご本人の負担は相当軽減されることでしょう。
(2)有利な条件で財産分与を求めることができる
熟年離婚の場合には、夫婦が保有する資産の額や種類が多くなりますので、財産分与の手続きも一般的な離婚に比べて複雑なものとなります。
自宅や退職金といった高額な資産が含まれる可能性がありますので、それらを適切に評価し、財産分与の対象に含めることによって最終的に受け取ることができる金額は大きく異なってきます。
財産分与は、誰がやっても同じ内容になるというわけではありません。離婚後に安定した生活を送るためにも離婚問題に詳しい弁護士に依頼をすることが重要となります。
まとめ
長年連れ添った夫婦が離婚をするというのは、精神的にも大変な苦労を伴いますが、離婚手続きという法律面からも非常に大変な作業になります。
離婚をしたいと考えているが離婚後の生活が不安でなかなか踏み出せないという状況の方は、弁護士に相談をすることによって離婚時にどのような財産的給付を得られるかがわかり、離婚に向けての不安が解消される可能性があります。
熟年離婚をお考えの方は、まずは事前に弁護士に相談するとよいでしょう。