夫婦や家族にとっての大きなライフイベントである出産・子育て。子どもを育てていく上で、お金は必要になるため仕事を両立されているご家庭は多いと思います。ですが、生まれたての子どもの面倒を見るために長期間の休暇は必要になります。そのための制度として「育児休業(または育児休暇)」があります。
しかし、育休制度がとれない、利用できないという声をよく耳にすることが多くなりました。
- どうせ非正規雇用(契約社員、短時間勤務、派遣社員など)だから育児休業が取れない
- 制度はあるけど仕事が忙しすぎて1年も休んでいられない
このようにあなたは思っていませんか。
この記事では、そんな風に育児制度を取れないかもしれないとお悩みのあなたに向けて、育児休業の取得について解説していきます。
合わせて、マタハラ・パタハラ、ブラック企業など、育休の取得を妨げている問題とその対応策も知っておきましょう。
この記事が、皆様の仕事と育児の両立のために少しでも参考になれば幸いです。
また、こちらの関連記事では出産して仕事を続けていく上での秘訣について記載しています。ご自身と家族・子どもの幸せのためにも、あわせてご参考いただければと思います。
目次
1、育休が取れないと悩む人たちとは?
まず、どのような方たちが育児休業を取れないと悩んでいるのかを見ていきましょう。
(1)管理監督者や専門職など高度な仕事を任されている人
管理監督者や、編集長その他高度な専門職については、代わりを務める人がおらず、事実上、育児休業が取りにくいことがあるでしょう。
しかし、育児休業は法令で定められています。
あなたはどのようにして仕事と出産のバランスをとっていけばよいのか、本記事の「3」で一緒に考えていきましょう。
(2)特殊勤務形態の人など
育休を取れないと悩む方の中には、ご自身の契約形態では、法律上育児休業取得が認められないのではと悩む方もいます。
本項では、そのような方の育休取得の権利について、見ていきましょう。
①契約社員・嘱託社員など有期雇用契約の方(パートタイマー、派遣社員も含む)
契約社員・嘱託社員など、契約期間の定まった有期雇用契約の方の中には、育児休業を取れないと思っている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、育児休業を申し出た時点で、次の2つの要件を満たせば育児休業を取ることができます(育児介護休業法第5条1項ただし書)。
いわゆる契約社員(フルタイム有期従業員)の方のみでなく、パートタイマー(短時間勤務)の方や派遣社員の方でも同様に扱われます。
【要件その1】「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」(同項第1号)
同じ会社に1年以上継続雇用されていることが必要です。
派遣社員の方の場合には、派遣先ではなく派遣元(派遣会社)での雇用期間を指します。
3か月ごとに派遣先A社、B社・・と転々としても、同じ派遣元の会社に雇用されている期間が1年以上であれば、この要件に該当します。
【要件その2】「子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了しないことが明らかでないこと」(同項第2号)
お子様の1歳6か月到達日までに労働契約が満了しないなら、育児休業は取れます。
また、お子様の1歳6か月到達日までに労働契約が満了するとしても、更新の可能性があるなら育児休業は取れます。
【要件その2】に該当せず育休が取れないのは、次のような場合です。
(例1)労働契約の更新回数の上限が明示されており、上限まで契約が更新された場合の労働契約期間終了日が、お子様が1歳6か月に達する日までの間であるとき。
(例2)労働契約を更新しない旨が明示されており、現在の労働契約期間終了日が、お子様が1歳6か月に達する日までの間であるとき。
これもケースにより判断が難しいことがあります。
必要に応じて公的相談窓口や労働問題に詳しい弁護士のアドバイスを受けてください。
(注)これはあくまで有期雇用契約の方の場合のお話ですので、パートタイマー(短時間勤務従業員)の方でも、有期雇用契約でなく無期雇用契約であれば、上記のような制約はなく、育児休業を取れます。
②入社1年未満の方
このような方は、労使協定によって育児休業から除外可能です(育児介護休業法第6条第1項第1号)。
ただし、どこの時点で入社1年未満だとダメなのか、は重要なポイント。これについては、後述します(「4」参照)。
③休業申出から1年以内(1歳から1歳6か月までの育児休業をする場合には、6か月以内)に雇用関係が終了することが明らかな方
この方も労使協定によって育児休業から除外可能です(育児介護休業法第6条第1項第2号、同法施行規則第8条1号)。
④1週間の所定労働日数が2日以下の方
このような方も、労使協定によって育児休業の対象者から除外でき、会社はそのような労働者からの育児休業の申出を拒否できます(育児介護休業法第6条第1項第2号、同法施行規則第8条第2号、平成23年厚生労働省告示第58号)。
②~④について、育児休業から除外するには労使協定が必要です。
逆に労使協定がなければ育児休業申出を会社は拒否できません(育児介護休業法第6条)。
(3)ブラック企業の社員
育児休業の申し出をすると、
「権利ばかり主張するな」
「この忙しいときに」
「男のくせに育児休業とはなんだ、出世は諦めるんだな」
などと言って、育児休業を取らせない会社もあるかもしれません。
このような会社は、ブラック企業と呼ばれることもあるでしょう。
このような会社では、経営者や管理者が育児休業制度をよく知らないということもあるかもしれませんし、制度を無視しているという可能性もあります。
このような場合に、会社にどのように対応していけばよいのか、本記事の「5」「6」で一緒に考えていきましょう。
2、育休が取れないと悩む方へ~まずは育児休業制度をおさらい
それでは、育児休業制度とはどのような制度でしょうか。法令の内容を整理しておきましょう。
(1)対象者
育児休業を取れるのは、原則として1歳に満たない子を養育する従業員で、性別は無関係です。
また、共働きのご家庭に限りません。
例えば、夫が働き、妻が専業主婦であっても、夫が利用できます。
逆に、妻が働いていて、夫が専業主夫であっても妻が利用できます。
前記「1」(3)で見た育休制度の対象外の方でない限り、育児休業は従業員が会社に申し出れば取得できます。
会社は、対象外とされた従業員以外の従業員からの育児休業の申し出を拒めません。
就業規則等の記載の有無も関係ありません。
仕事が忙しいとか代わりの人がいないというのは理由になりません(育児介護休業法第6条)。
(2)期間
原則として、お子様が1歳になるまでの間で、従業員が希望する期間です。
保育所等に申し込みを行っているもののまだ保育所等に入れないなどの場合には、1歳6か月又は2歳まで育児休業の延長も可能です。
会社によっては、これより長い育児休業を認めているかもしれません。就業規則を確認してみましょう。
①女性と男性では違いがあります
女性(お母さん)の場合は、産後8週間の産後休業がありますので、育児休業は産休明けから可能です。
男性(お父さん)の場合は、産休がないので、出産後すぐに育児休業を取ることが可能です。
②「パパママ育休+」
両親ともに育児休業をする場合は、一定要件を満たせば、お子様が1歳2か月になるまで育児休業を取得できます。
これにより、お子様が1歳になるまでの一定期間は母親が育児休業し、その後1歳2か月になるまでは父親が育児休業をするなどの利用の仕方ができるようになりました。
ただし、育休期間は親1人につき1年間が限度です。
(3)給付金制度
育児休業中は会社からの給料は支給されないことが通常ですが、経済的な支援の制度が用意されています。
①育児休業給付
従業員が1歳未満のお子様のために育児休業を行う場合にもらえます(雇用保険法第61条の4第1項)。
(お子様が1歳を超えても休業が必要と認められる場合は、最長で2歳に達するまで)
育児休業開始から6か月までは休業開始前賃金の67%相当額、それ以降は50%相当額です(雇用保険法附則12条)。これは非課税です(雇用保険法第12条、第10条6項2号)。
②社会保険料の免除
健康保険料、厚生年金保険料は、産前産後休業中および育児休業中は申出により支払いが免除されます(健康保険法第159条)。
雇用保険料も、産前産後休業中、育児休業中に会社から給与が支給されない場合は、保険料負担はありません。
(4)育休を拒む企業への罰則
会社が従業員の育児休業の申し出を拒んだ場合には、厚生労働大臣は、会社に対して報告を求めたり、又は助言・指導や勧告を行うことができます(育児介護休業法第56条)。
厚生労働大臣の勧告に従わなかった場合には、厚生労働大臣は会社名を公表する事ができます(育児介護休業法第56条の2)。
3、育休が取れない原因は「代わりがいない!」から。そんなあなたの進むべき道は
管理監督者や専門職などで「自分の代わりになってもらえそうな人がいない。」そのような思いで、育児休業取得をためらっている方も多いと思います。
このような方に知っておいていただきたい4つのことをまとめてみました。
(1)「代わりがいない」というのは理由にならない
会社は、組織として業務を運営している以上、万が一の病気や事故などで従業員が欠けたとしても、何らかの手を打つしかありません。そもそもあなた以外にその仕事ができないというのが、組織運営上は大きなリスクであり、適切とは言えません。
実際、代わりがいない仕事はたくさんあります。
あなたの色で、仕事が順調に回っている場合です。
そんなとき、「代わりがいない」という言葉を使ってしまいがちですが、実は、その仕事がとても好きだからやめたくない、という場合がほとんどかもしれません。
妊娠は、発覚から出産まで、大抵半年以上の時間があります。「代わり」となる人を育てるまでの最小限の時間はあると言えるのではないでしょうか。
(2)父として母として乳幼児に接する時間は、そのときしかない
お子様は日々成長していきます。
当たり前ではないかと読み飛ばすところかもしれませんが、ちょっと待ってください。
0歳と5歳は全く違い、5歳と10歳は・・・全く違うのです。
大人にとっての「たった10年」は、お子様の成長に大きな変化をもたらします。
こんな話がありました。
とある有名遊園地で、お姫様に変身できるサービスがあります。
ある男性の娘さんは、ずっとこの遊園地でお姫様に変身したいと父にお願いをしていました。
しかし、男性は仕事が多忙。
なかなか実現できないでいたあるとき、やっと時間ができて「行こう!」としたとき、もう娘さんは10歳でした。
女の子の成長は早いもの。
10歳になった娘さんは、お姫様への変身を恥ずかしがる年齢になってしまい、結局一度も変身させてあげることはできませんでした。
お子様の変化を見られるのは、そのときしかありません。後悔のないよう、育児休業の取得を考えてみてはいかがでしょうか。
(3)子育てはあなた自身の成長にも
父として母として育児に励むというのは、お子様の成長だけでなく、ご自身の成長や視野の広がりを生むことも多いもの。
とあるテレビ番組に、子沢山の社長さんが登場し、こんな話をされていました。
仕事が忙しく、お子様がたくさんいるというのに、全く子育てに参加していなかった社長さん。
しかしある日、お子様とお風呂に入っていたとき、お子様からたくさんの質問が飛び出してきたとのこと。
答えても答えても、その答えに対して質問してくる。
そのことに、若い社員に何を言っても伝わらないことが重なり、伝え方を原点から考えるようになったとのことでした。
この気づきがきっかけで、その社長さんは「子育てって面白い(自分のためになる)かも?」と思い始めたそうです。
このように、お子様との時間は、多くの刺激を受け、ご自身の成長にもつながる貴重な時間なのです。
(4)様々な代替手段を検討できる
どうしても休んでいられない方へ、今の時代、育児を支援するための様々なサポートがあります。
0歳児からの保育園、シッターサービスや自治体のファミリーサポート事業など、サポートを生かしながら、育休を取らずに仕事に邁進する方もいらっしゃるでしょう。
公的なサポートのみならず、例えば、テレワークや短時間勤務など、育児と仕事を両立させる方法は様々です。
4、育休が取れない…「入社1年未満」の場合に取れる対策とは?
上述のとおり、労使協定があれば入社1年未満の人は育児休業を取ることができません。
しかし、次の点に注意が必要です。
(1)「1年未満」はどこからカウントするのか
行政通達では、「1年未満」の判断時点は「育児休業申出の時点であること」とされています(平成29年雇児発0331第15号)。出産のときでもなく、育児休業開始日でもありません。
もちろん、入社1年未満で妊娠しても、産後休業後いったん復職し、入社1年たってから育児休業の申し出をして育児休業に入ることは可能です(時期次第では産後休業と育児休業を連続して取れる場合もあり得るかと思われます。)。
(2)本当に労使協定があるのか
会社によっては、入社1年未満の育児休業除外には労使協定が必要と知らず、労使協定を結んでいない場合もあります。
育児休業の申出を拒否された場合には、会社に対して、根拠となる労使協定を開示するよう求めましょう。
5、育休を取るにあたり、不利益取扱いやマタニティ・ハラスメントは禁止されている
育児休業の取得を申し出たり、あるいは取得したことを理由として、解雇等の不利益な取扱いをすることは禁止されています(育児介護休業法第10条)。
また、会社は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業に関する制度の利用に関する言動により労働者の就業環境が害されることのないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとされています(育児介護休業法25条)。
(1)不利益取扱いの禁止
育児介護休業法では、育児休業等の申出や取得などを理由として、従業員に対し不利益な取扱いをすることを禁じています。
①不利益取扱いの具体例
不利益取扱いとはたとえば次のようなことを指します。
- 解雇すること
- 有期雇用契約の契約更新をしないこと
- 正社員を非正規社員とするような労働契約内容の変更を強要すること
- 降格させること
- 業務に従事させないとか自宅待機を命ずること
- 減給や賞与等の不利益な査定を行うこと
- 昇進・昇格の人事考課で不利益な評価を行うこと
- 不利益な配置変更を行うこと
- 従業員の意に反して、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は短時間勤務等を適用すること
②派遣社員についての不利益取扱い
派遣社員についても、育児休業等の申出や取得などを理由とした不利益取扱いは禁止されています。
上述①の不利益取扱いのほか、派遣社員特有の問題として、次のような取扱いも該当します。
- 派遣労働者が育児休暇に入るまで契約どおりの仕事ができるのに、派遣先の事業主が派遣元に対し別の派遣労働者との交代を求める
- 派遣契約の更新をしない など
(2)ハラスメント行為の防止
上述のとおり、会社には、職場での労働者に対する育児休業制度の利用に関する言動について必要な措置を講ずることが求められています。
妊娠・出産・育児などを理由としたハラスメント行為をマタニティ・ハラスメント(マタハラ)などといい、育児に取り組む父親へのハラスメントはパタニティ・ハラスメント(パタハラ)などといいますが、具体的なハラスメント行為は次のようなもので、広範なものです。
①「制度の利用への嫌がらせ型」
(その1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
上司が部下に「育児休業するなら辞めてもらう。」「次の査定のときには昇進しないと思え。」などと言う。
(その2)制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
上司が部下に「育児休業の請求を取り下げてくれ。」と繰り返し言う。
同僚から「この忙しいときに育児休業を取るの。身勝手だね。」と繰り返し言う。
(その3)制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
育児休業から復帰した人に雑務だけを押し付ける。
「育児休業を取るような無責任な人とは一緒に仕事はできない。」などと繰り返し言う。
②「状態への嫌がらせ型」
「こんな忙しい時期に妊娠出産して身勝手なもんだ。」などと上司や同僚が繰り返し言う、などです。
6、ハラスメントなどで育休が取れない!そんなあなたの対処法は
育児休業に関連する不利益取扱いやハラスメントに悩む場合には、次の相談先へのご相談をぜひご検討ください。
(1)雇用環境・均等部(室)へ相談
男女雇用機会均等の確保や、多様な働き方のニーズに対応した就業環境づくりのための取組みを行っている部局であり、労働者と事業主との間で、男女均等取扱い、育児・介護休業、パートタイム労働者の雇用管理等について民事上のトラブルが生じた場合の解決に向けた援助も行っています。
育児休業については、まずはこちらにご相談いただくのが適切でしょう。
【参考】
職場でのトラブル解決の援助を求める方へ(雇用環境・均等部の役割についての解説)
都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の連絡先
雇用環境・均等部(室)所在地一覧
(2)総合労働相談コーナーへ相談
都道府県労働局の総合労働相談コーナーは、職場のトラブルに関するご相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っています。
育児休業のみでなく、関連して様々な労働問題もありうるのなら、総合労働相談コーナーも一つの選択肢です。
どこに相談したらいいかわからない、といったときも、頼りになります。
(3)労基署へ相談
明白な法令違反、たとえば、賃金(割増賃金を含む。)の不払い、不当解雇等の問題については、労働基準監督署に相談すべきでしょう。
【参考】全国労働基準監督署の所在案内
(4)弁護士へ相談
育児休業に関連して、退職、未払賃金、ハラスメントなどといった問題が出てくることもありえます。
そのような場合には弁護士に相談をして、法的措置も含めて、会社への対応を検討しましょう。
まとめ
育児休業については、国としても様々なサポート体制を整えています。
お子様のことを第一に考え、制度の中身や利用の仕方などについてご確認の上で、ぜひ、育児休業の利用を検討してみてください。
この記事が、皆様の大事な選択のお役に立つことを願っております。