皆様は「ブラック企業」と呼ばれている企業にどのような特徴があるか、ご存知でしょうか。
過労自殺してしまう社員が出るような企業はブラック企業であるといえそうですが、それ以上にどこからどこまでがブラック企業なのかははっきりしません。
そこで今回は、
- 世間でブラック企業と呼ばれる企業の特徴
- ブラック企業の見分け方
- 誤ってブラック企業に入社してしまった場合の対処法
などについて、ベリーベスト法律事務所の労働専門チームの弁護士が解説していきます。
ご参考になれば幸いです。
1、ブラック企業とは?ブラック企業の特徴10選
最初にご説明したとおり、ブラック企業には明確な定義はありません。しかし、一般にブラック企業といわれている企業にはある程度共通の特徴があります。10個ほど挙げてみましょう。
(1)残業時間が非常に多い
残業時間が非常に多い場合にはブラック企業といっていいでしょう。労働時間の原則は1日8時間、1週40時間です(労働基準法32条)。いわゆるサブロク協定(労働基準法36条1項参照)を締結した場合に初めて上記の原則を超えて残業させることが可能になります。サブロク協定を締結した場合でも、厚生労働大臣によりその限度となる基準が定められており、1か月45時間を超えて残業をさせることは基本的に許されません。
また、過重労働により脳・心臓・精神等に疾患を来たしてしまった場合の労災認定の基準として、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる」かどうかというものがあります。残業時間が80時間を超えるような場合にはブラック企業といってよいでしょう。
(2)サービス残業をさせられる
前記のとおり、サブロク協定があれば残業をさせること自体は適法といえますが、残業代を払わなくてよいというわけではありません。固定残業代制を採っている会社も多いでしょうが、そのような会社でも、固定残業代分を超えて残業をした場合には当然追加で残業代を支払う義務を負います。
ところが、会社によっては、定時でタイムカードを押させ退社したことにさせる会社、会社で残業させず持ち帰り残業をさせる会社や、そもそも労働時間の管理をしていない会社もあるようです。残業をした証拠も残らず非常に悪質といえます。
(3)離職率が高い
ブラック企業といわれる会社は、離職率が高いことが多いです。過酷な労働条件で働かされればやめる人が多くなるのは必然でしょう。
(4)毎年大量の新入社員を採用している・常時採用活動を行っている
離職率が高いことの裏返しです。ブラック企業といわれるような会社は、ある程度やめてしまうことを想定しており、従業員をいわば「使い捨て」にします。会社の規模に見合わない人数を毎年採用していたり、常に求人が出ていたりするような場合には注意してください。
(5)精神論がまかり通っている
必ずしも悪いこととはいいませんが、ブラック企業といわれるような企業では異常な精神論がまかり通っていることが多いようです。話題になった大手広告代理店にも「鬼十則」という教えがあるようです。
(6)辞めさせてくれない
会社を辞めたいといっても辞めさせてくれず損害賠償請求をするなどと脅されるということがあるようです。ここまで見てきたとおり、ブラック企業はやめる人が多く、人がいなくなれば新たに採用する必要が生じます。採用する必要がないように、辞めるのを執拗に食い止められることがあります。このような会社だと、一度入社してしまうとなかなか辞められませんので、入社前に見極めることが必要でしょう。
(7)パワハラ、モラハラが横行している
上司から怒鳴られる、いじめに遭うなど、パワハラ・モラハラが横行しているのもブラック企業の特徴といえるでしょう。会社全体で法令を遵守する意識が低いため、是正されることなくパワハラなどが行われているのではないでしょうか。
(8)達成困難なノルマを課される
達成困難なノルマを課され、達成できないと怒鳴られる、というような場合もブラック企業の特徴といっていいかもしれません。なんとかノルマを達成しようとサービス残業をされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。その上、達成できなかった場合には減給になるという場合は、完全にブラック企業といってよいでしょう。
(9)就業規則、賃金規程等のルールが整備されていない
労働基準法により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則を作成しなければなりません(労働基準法89条)。10人以上を使用しているにも関わらず就業規則等が作成されていなければ、遵法意識が低いといえるので、ブラック企業であると疑ってよいでしょう。就業規則を作成していないのは、ルールを定めてしまうと経営者が「好き放題できなくなる」というのが理由のこともあるようです。
(10)深夜でも窓が明るい
ひとりひとりの社員が過度な業務を負っていると必然的に残業せざるを得なくなり、その結果深夜にも関わらずずっと電気が点いているということになります。入社前であれば一度見に行ってみてもいいかもしれません。
2、入社前におさえておきたい!ブラック企業を見抜くテクニック
ブラック企業には入社せずに済むのが一番です。ブラック企業を見抜く方法をいくつか紹介しましょう。
(1)企業ホームページをみる
企業のホームページからは様々な事実を読み取ることができます。以下では、ブラック企業のホームページに現れがちな特徴を見ていきましょう。もっとも、以下の項目はブラック企業のホームページに多く見られる特徴に過ぎません。どれかに当てはまれば絶対にブラック企業だというわけではありませんので、注意してください。
① そもそもホームページがない・あっても非常に陳腐である
従業員の数が一桁の小規模企業であればともかく、それなりの規模の企業であるにも関わらず、いまどきホームページもない場合には注意が必要です。企業情報をあまり公にしたくない事情があるか、異様に経費を削減しているなどの可能性があるでしょう。
② 社員の数に対して求人の数が多い・常に求人している
先ほども挙げましたが、ブラック企業は人の入れ替わりが激しいことが多いです。ホームページ上でも求人を出している企業は多いでしょうが、常に求人が出ていたら注意が必要かもしれません。
③ 事業内容がよくわからない
企業にとってホームページはいわば「看板」です。その看板を見ても事業内容がわからないとなると、怪しいと思ってしまいますよね。ホームページをきちんと作ることができる体制が整っていなかったり、ホームページ作成に割く経費を削減している可能性もあります。
④ 若さを売りにしている
「若い世代が活躍しています!」というような記載をよく見かけますが、これも要注意です。一見働きやすそうな印象を受けますが、見方を変えれば長期的にキャリアを積んだ人が少ない可能性があるからです。創業数年の企業であれば当然かもしれませんが、創業から10年以上も経過しているにも関わらず若い社員の割合が非常に高い場合には気をつけてください。
(2)転職サイトや口コミサイトを利用する
その企業を知る1番の方法は、その企業で働いている人の意見を直接聞いてみることです。現代はインターネット上で様々な情報を得ることができ、転職サイトや口コミサイトも充実しています。中には、その企業で実際に働いている人の書き込みを見ることができるサイトもあるようです。登録して参考にしてみるのもいいでしょう。ただし、インターネット上の情報ですので、真偽は不明確であることに注意してください。
(3)実際に電話をかけてみる
企業について知りたかったら、直接電話をかけてしまうのもひとつの手です。電話に出た人の対応などで少しは企業の雰囲気がつかめるかもしれません。また、夜遅くや土日に電話をかけてみれば、残業や休日出勤をしているかどうかもわかる場合もあるでしょう。留守番電話になってしまう場合も多いでしょうが、そうでない企業もありますので、かけてみるといいでしょう。
(4)会社訪問時のチェックポイント
会社を訪問したときが、その企業を知る1番のチャンスです。チェックポイントをいくつか挙げますので、注意してみてください。
① オフィスの様子
オフィスが雑然としている、受付やトイレが汚い等、外部のお客様にも見られるかもしれないスペースが汚い会社は、外部からどう見られるかということに気を配れておらず、良い会社とは言い難いでしょう。人手不足の可能性もあります。
② 社員の対応
社員が無愛想だったり横柄だったりなど、態度があまりよくない印象を受けることもあります。このような会社では入社後も同じような扱い(あるいはもっとひどい扱い)を受ける可能性がありますので、注意しましょう。このほかにも、怒鳴り声が聞こえてくる、雰囲気がぴりぴりしているなど、その会社の普段の様子も可能であればチェックするようにしてください。
③ 面接官の対応
中には圧迫的な面接をする企業や、業務内容・待遇等の質問に答えたがらない企業があるようです。逆に自分の企業の良いところを過度にアピールするという企業もあるようです。このような企業では、入社後も圧迫的な指導をされる可能性がありますし、悪いところを隠している可能性もありますので、内定が出たとしても入社の判断は慎重にしたほうがよいでしょう。
(5)これもおさえておきたい!ブラック企業の社長の特徴
ブラック企業がなぜブラックかというと、やはり社長の影響によるところが大きいでしょう。
自己中心的、悪いことは人のせいにする、公私混同する、社長室が豪華、高級外車に乗っているなど、ある程度共通の特徴が見られるようです。ご自身の会社の社長はいかがでしょうか。
3、誤ってブラック企業に入社してしまった場合の対処法
(1)できるだけ早く辞める
ブラック企業に入社してしまった場合には、早めにやめるのが得策です。つらい思いをしたうえに体を壊してしまっては元も子もありません。しかし、辞めるといってもなかなか辞めさせてくれない場合もあるでしょう。そこで辞める方法をいくつかご紹介します。
次の就職先が決まっているという場合には割と辞めやすいようです。自分の経歴等を登録しておいて企業側からオファーがくるという仕組みの転職サイトもあるようですので、仕事がいそがしくて転職活動の時間が取れないという方は利用してみてはいかがでしょうか。
実家に帰ることになったなど、もっともらしいうそをついてやめる方も多いようです。会社も引き止めづらい理由を考えましょう。
最終手段は、弁護士に依頼して退職の意思表示をすることです。法律上、労働者は(すぐにというわけにはいきませんが)一方的に会社をやめることが可能です。ご自身で強硬手段に出ることも考えられますが、「損害賠償を請求する」などと脅される場合もあるかもしれませんので、そのような場合には弁護士に依頼することを考えてみるのもいいでしょう。
(2)残業代を請求する
事後的に、ブラック企業に一矢報いる手段です。経営者と一体と考えられるくらいの地位の人を除いて、残業代を払わなくていいという決まりを作ることはできません。サービス残業に苦しんでいた方々はぜひ請求を考えてみてはいかがでしょうか。
所定の就業時間を超えて労働した場合、1日8時間を超えて労働した場合、1週間に40時間以上労働した場合であるにも関わらず、通常の賃金に加えて別途残業代が支払われていない場合には、残業代を請求することができる可能性があります。
残業代を請求する場合には、タイムカードやパソコンのログイン・ログオフの時間など、何らかの証拠に基づいてご自身の労働時間を立証する必要があります。証拠がなさそうな場合には、働いているうちに何らかの手立てをとることが必要かもしれません。
残業代の計算方法は、ざっくり説明しますと、ご自身の賃金を月の所定労働時間で割って、時給を算出し、それに割増率と残業時間をかけることになります。残業代のご相談にいらっしゃる方の多くは、意外と多くの残業代が発生していることに驚かれます。
残業代の請求方法、計算方法について、詳しくは「残業代の未払いは許せない!未払い残業代を請求するためのポイント」をご覧ください。
ブラック企業の特徴まとめ
今回はブラック企業の特徴や見分け方、誤って入社してしまった場合の対処法について書いてきましたが、いかがでしたか?
参考にしていただき、皆様が無事ブラック企業から逃れ、ホワイト企業に就職することができれば幸いです。