特別縁故者に該当するのは、どんな人のことなのでしょうか。
近所の高齢者のお世話をしていて、「財産はあなたに」と言ってくれている-。
このような場合、「特別縁故者」として遺産を受け取ることが考えられます。
しかし、「特別縁故者」として遺産を受け継ぐには、さまざまなハードルがあります。
そこでこの記事では、
- 特別縁故者として財産分与を受ける際の手続きや重要なポイント
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説しています。
身寄りのない親しい方の世話をしていて、今後財産の分与を受けたいと考えている人は是非参考にしてください。
相続の基本的な知識に関しては以下の記事に掲載されておりますので、是非ご覧ください。
目次
1、特別縁故者とは?
特別縁故者とは、簡単にいえば、「亡くなった方と特別な関係にあった人」のことをいいます。
典型例としては内縁の妻(夫)や、同性のパートナーなどを挙げることができますが、必ずしも婚姻に準じた関係がある場合に限定されるわけではありません。
特別縁故者として認められれば、亡くなった人の遺産の分与を受けられる場合があります。
(1)特別縁故者として認められるのはどんな人?
特別縁故者については、民法958条の3という条文が次のように規定しています。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
民法958条の3
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
つまり、民法上、特別縁故者として認められるのは、次の3つの要件のいずれかを満たす人に限られるということです。
- 被相続人と生計を同じくしていた者(生計同一者)
- 被相続人の療養看護につとめた者(療養看護者)
- その他被相続人と特別の縁故があった者
① 被相続人と生計を同じくしていた者(生計同一者)
生計を同じくしていた者とは、「同一家計で生活をしていた者」のことです。
たとえば、内縁関係にあったパートナーや、事実上の養子にあたる人などのように、なくなった人と同居をして、「事実上の家族」といえる関係にあった人が該当します。
② 亡くなった人の療養看護に務めた人物
療養看護に努めたとは、簡単にいえば、亡くなった方の老後の世話を献身的に行ってきた人のことをいいます。
実際にも、亡くなった人の子の妻、兄弟の子(甥姪)といった法定相続人ではない親類などが、献身的に介護に努めているというケースは、これまで特別縁故者の典型例のひとつとされてきました。
③ その他被相続人と特別の縁故があった人物
① ②のケース以外にも、亡くなった人が生前から「遺産は〇〇さんに譲る」と公言していた相手や、家族同然の生活を続けていた内弟子などが典型例とされています。
また、亡くなった人が、経営者として関わってきた法人なども特別縁故者として認定されることがあります。
亡くなった人が自分の人生をその法人の発展に尽くしてきたのであれば、遺産を法人に分け与えたいと考えることは不自然とはいえないからです。
(2)特別縁故者として認められるのが難しいケース
特別縁故者への財産の分与は、「亡くなった人の意思を推測した場合に財産分与をすることが不適当とはいえない」と認めてもらえるかどうかがひとつのポイントになるといえます。
したがって、財産分与を希望する人と亡くなった人との間に、生前から一定以上の関係があることが基本的な前提になるといえます。
たとえば、亡くなった人の葬儀を執り行い、「葬儀・埋葬の費用を負担した」というケースであっても、生前の関係が全くないのであれば、特別縁故者として財産分与を認めてもらうのは難しいといえます。
※この場合には、相続財産管理人の許可を得て相続財産から葬儀・埋葬費用を支払ってもらいます。
また、相応の対価を得て亡くなった人の世話をしていたという事情は、特別縁故者の認定に不利になることが多いです。
たとえば、ヘルパーさんなどは、その都度報酬を得て亡くなった人の身の回りの世話をしているわけですから、特別縁故者としては認められないのが原則です。
ただし、最近の裁判例では、報酬の程度を超えて献身的に看護療養をした人を特別縁故者として認めるものも見受けられるので、対価をもらっているだけで特別縁故者になれないというわけでもありません。
2、特別縁故者に遺産が分与されるのはどのような場合か
特別縁故者に遺産が分与されるのは、かなり例外的なケースだけに限られます。
本項は特別縁故者について知る上でもっとも重要な内容となりますので、しっかりご確認ください。
(1)特別縁故者が遺産を受け取れるのは相続人がいない場合だけ
特別縁故者が亡くなった人の財産の分与を受けられるのは、「亡くなった人に相続人がいない場合」に限定されます。
「相続人がいない場合」というのは、次のいずれかの場合を指します。
- 亡くなった人に配偶者も子(孫)もおらず、父母兄弟もすでに死亡している場合
- 亡くなった人に相続人がいるときでも、相続人全員が相続放棄をしている場合
相続人が1人でもいる場合には、特別縁故者への財産分与を行うことはできないので注意しておく必要があります。
(2)特別縁故者が遺産の分与を受けるときの手続きの流れ
亡くなった人に相続人がいない場合でも、特別縁故者に自動的に遺産が分与されるわけではありません。
特別縁故者への財産分与は、家庭裁判所の手続き(許可)を経なければ行うことができないからです。
① 特別縁故者に財産分与されるまでの手続きの流れ
特別縁故者に財産分与がなされるまでの手続きの大まかな流れは下のとおりになります。
1 被相続人の死亡(相続の開始)
↓
2 相続財産管理人の選任
↓
3 相続人の探索
↓
4 相続人不在の確定
↓
5 特別縁故者に対する相続財産分与請求(4から3ヶ月以内に申し立てる必要がある)
↓
6 特別縁故者の認定
↓
7 相続財産管理人による財産分与
② 特別縁故者がしなければならない手続き
上記の手続きのうち、「特別縁故者に対する相続財産分与請求」は、特別縁故者が自ら家庭裁判所に申し立てなければなりません。
相続財産管理人が特別縁故者を探し出して財産を分け与えてくれるというわけではないので、注意しましょう。
特別縁故者に対する相続財産分与請求は、「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」に申立てをします。
特別縁故者からの申立ては、相続人探索の公告終了から3ヶ月以内になされる必要があります。
この時期に遅れると財産分与を受けられないので注意しましょう。
管轄する家庭裁判所は、下記のサイトで確認することができます。
裁判所の管轄区域(裁判所ウェブサイト)
なお、特別縁故者は、相続財産管理人選任の申立ても行うことができます。
身寄りのない人の介護などをしたという場合には、特別縁故者自らが相続財産管理人の選任を申し立てることで、財産分与の手続きを迅速に進められる場合も多いでしょう。
③ 特別縁故者に対する財産分与請求に必要な費用や書類
家庭裁判所の手続きにかかる費用は、「申立手数料(収入印紙800円)」と「手続きで用いる郵便切手」のみです。
裁判所に納める切手の種類・枚数は、家庭裁判所によって異なりますので、それぞれの裁判所に問合せして確認してください。
裁判所の売店で、「特別縁故者の財産分与手続きのための切手」が欲しいと伝えれば、必要な枚数・種類を用意してくれます。
必要書類は、原則としては下記の書類です。
- 申立書
- 申立人の住民票または戸籍附票
ただし、裁判所に特別縁故者として認めてもらうために、追加の証拠を用意する場合がほとんどです(詳しくは、「3」で解説します)。
なお、申立書の記載例については、下記サイトを参考にしてください。
特別縁故者に対する相続財産分与請求申立書の記載例(裁判所ウェブサイト:PDFファイル)
(3)特別縁故者であることを認めてもらうためには「証拠」が重要
家庭裁判所の審判手続きで「自分が特別縁故者である」ことを認めてもらうためには、「亡くなった方を献身的に世話してきた」という言い分を具体的に裏付けられる証拠を揃えておくことがとても大切です。
揃えるべき証拠は、自らが民法の規定する特別縁故者の3類型の要件に合致することを明らかにできるもので、例としては以下のものを挙げることができます。
- 亡くなった人の住民票除票と申立人の住民票(同居していたことの証拠)
- 亡くなった人を含む世帯全員の住民票(他に同居していた人がいなかったことの証拠)
- 医療費、介護費用の領収証(療養看護に努めたことの証拠)
- 交通費の領収証(療養看護に努めたことの証拠)
- 献身的に療養看護していたことがわかる手紙やメールのやり取り
- 亡くなった人との写真(療養看護に努めたこと/親密な関係にあることの証拠)
- 亡くなった人との手紙やメールなどのやりとり(療養看護に努めたこと/親密な関係にあることの証拠)
- 被相続人が請求者に財産を譲ろうと思っていたことがわかる日記、メモの類い
これらの証拠は、数を集めることがとても重要です。
たとえば、「写真があるだけ」では、亡くなった人との関係や献身的に介護したことを示す「証拠としては弱い」ことは想像がつきやすいと思います。
また、法律知識のない人の場合には、それぞれの証拠の評価を正しくできないかもしれません。
実際に審判を申し立てるときには、事前に相続問題に詳しい弁護士にしておいた方が確実といえます。
なお、もし特別縁故者として認定されなければ、遺産のすべてが国庫帰属となります。
3、特別縁故者として認められない、認められることが難しい場合
以上の通り、特別縁故者として遺産を分与してもらうことのハードルはとても高いと言えるでしょう。
しかし、特別縁故者以外でも、特別な関係があるようなケースでは遺産を分与される方法は存在します。
次項以降、その制度を見ていきましょう。
4、介護に貢献した親族に認められる特別寄与料
特別縁故者への財産分与が問題となる場面は、これまで、「法定相続人ではない親族」が亡くなった人の療養看護(老後の世話)に努めてきたというケースが少なくありませんでした。
たとえば、夫の父(母)と同居をしていたが、夫が先になくなったため、血のつながりのない義父(母)の世話をしていたというケースや、甥姪や従兄弟が療養看護をしてきたというようなケースです。
これまで、これらのケースでは、特別縁故者を始めとする複雑な方法によらなければ、金銭的に報われることはなかったのですが、相続法が改正されたことで、相続人ではない親族が被相続人の介護に貢献した場合に、金銭的な対価を得られる制度が創設されました(2019年7月1日に施行された特別寄与料の制度)。
特別寄与料が認められるのは、「6親等内の血族と3親等以内の姻族」に該当する人が、下記の条件を満たして亡くなった人の世話をした場合です。
- 被相続人に対して「無償」で療養看護その他の労務の提供をしたこと
- 親族の無償の労務提供が、被相続人の財産を維持又は増加させたこと
なお、特別寄与料によって受け取ることができるのは、「労務に対する金銭的な対価」のみです。
特別寄与料の請求で不動産などの分与を受けることはできないので注意しましょう。
5、遺言
6親等内の血族と3親等以内の姻族でなければ、特別寄与料を請求できません。
このような場合は、従来からの方法である「遺言」が有効な方法でしょう。
ただ、特別縁故者や特別寄与料は、故人の意思とは無関係に手続きを進められるものですが、遺言はここが異なります。
遺言は、本記事冒頭で例に挙げたような、故人が生前にあなたに遺産を分与する意思がある場合にだけ利用できる方法です。
6、養子縁組
養子縁組は、親子を法的に擬制する制度です。
親子というからには親子ほど年が離れていなければ認められないのでは?と思う方も多いのではと思いますが、養子縁組に年齢の規制はありません(「特別養子縁組」を除く)。
養子縁組をすれば親子関係が認められ、法定相続人となります。
そのため、故人に配偶者がいなければ、子供の人数で分配されることになります(子供がいなければ、故人に兄弟などがいたとしても1人で相続することになります)。
ただ、養子縁組は故人に配偶者や子供がいれば、その者たちと分配することになるので、疎ましがられるなどして嫌な思いをする可能性もあるでしょう。
まとめ
特別縁故者の制度は、亡くなった人のために尽くした人を報いる制度としては、万全の制度ではありません。
相続人が1人でもいるときには利用できないだけでなく、どの財産をどの程度まで分与してもらえるかは、裁判所が判断することになるからです。
亡くなった方の遺産すべての分与を認めてもらえることは、あまりないと考えておいた方がよいでしょう。
また、特別縁故者が遺産の分与を受けた場合には、配偶者や子が相続した場合よりも高額(2割増し)な税金を納める必要があります。
ケースによっては、遺産を相続したものの、税金の支払いに苦労するということもあるかもしれません。
特別縁故者の制度を利用して遺産の分与を受けたいという場合には、他の選択肢を利用することも視野にいれた上で、早い段階で弁護士などの専門家に相談しておくことをお勧めします。