遺言は「何のため」に、「どのようなこと」を残せばよいのでしょうか。
「終活」(=人生の最期を納得して迎えるための活動)という言葉が聞かれるようになって久しい昨今ですが、ある程度の年齢を重ねてきたみなさんの中には「遺言」の言葉が気になり出してきた方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、
- そもそも遺言とは?
- 押さえておきたい「法定遺言事項」
- 複数ある!遺言の種類
- 遺言が無効になってしまうケース
- 遺言を作成するときの注意点
について詳しくご紹介するとともに、
- 遺言がない場合はどうなるの?
という疑問にもあわせてお答えしていきます。
「自分がいなくなったあとで親族に争い事が起こるのは避けたい」「きちんと自分が納得できる形で遺産を処分したい」というみなさんにとって、この記事がスムーズに遺言を作成するためのお役に立てば幸いです。
目次
1、遺言とは主に「財産の処分方法を指定するため」のもの
それではまず、遺言の基本から改めておさらいしていきましょう。
(1)遺言とは
そもそも遺言とは、あなたがこの世を去るときに周りの人に伝えることができる「最後の言葉」であり、基本的には何を書いても自由なものです。
ただ、一般的には自分の「財産」を死後どのように処分してほしいのか、という「財産の処分方法」を指定するために活用されます。
もちろん、それ以外の内容を記すこともできますが、残された者が遺言を守らなかったときに法的な強制力を発揮できるような内容でなければ、あえて遺言に書くメリットは薄いのです。
たとえば、息子に対して「3年以内に結婚しなさい」と書いたところで、いくら息子が必死に婚活を行ったとしても、良いお相手と巡り会えなければそれを実現することはできません。
実現できなかったときに与えられる罰も何が適切なのか判断するのが難しいため、せっかく残した遺言もその内容が確かに達成されるかどうかは分からないということになります。
一方、財産の行方には相続に関して定められたいくつかの法律があり、遺族が遺言に反する行動を取ったときに、それを阻止する手段もあります。
そのため、遺言は「財産の処分方法」を残すことに関して有益、というわけです。
(2)エンディングノートとの違い
遺言とあわせて終活で取り上げられることの多い「エンディングノート」。
こちらも自分がどのような人生の終わりを迎えたいかという希望を書くところは遺言と似ていますが、遺言よりも自由度が高く、以下の点が主に異なります。
遺言 | エンディングノート | |
法的効力 | あり | なし |
書き方 | 決まった形式で書く 基本的には自筆 | 自由に書いて良い PCやスマホでもOK |
開封のタイミング | 家庭裁判所の検認を受け、相続人全員が揃ってから開封 | 死後すぐ・生前でもOK |
最も大きな違いは法的効力の有無で、エンディングノートには原則として法的効力がないため、たとえ財産の分け方などについて「こうしてほしい」と希望を書いたとしても、それを強制することはできません。
一方、遺言には民法で定められた「法定遺言事項」というものがあり、それに該当する項目であれば遺言の内容に強制力を持たせることができます。
2、法定遺言事項―法的効力をもつ遺言記載事項
ここからは、遺言で法的効力を持たせることができる項目=「法定遺言事項」について、主な内容をチェックしていきましょう。
(1)相続分の指定
遺産相続では、民法で定められた「法定相続分」という割合がありますが、この割合は遺言で変更することが可能です。
たとえば民法では子どもは等分配分ですが、遺言で「長男に3分の2、次男に3分の1」というように法定相続分を変更することができます。
このように遺言で取り決めた相続分を、法定相続分に対して「指定相続分」と呼びます。
(2)遺産分割方法の指定
遺産を分割する割合に加えて、その方法についても遺言で指定することができます。
「長男には家を、次男には預貯金を遺したい」というように、特定の相続人に対して譲りたい財産があるときに活用しましょう。
(3)相続人の廃除
そもそも相続人の中に「この人には自分の財産を渡したくない」という相手がいる場合、本来であれば家庭裁判所に請求を行うことでその権利を奪うことができるのですが、遺言に記しておくことでも手続きが可能です。
この場合、遺言執行者と呼ばれる代理人が家庭裁判所へ申立てを行います。
ただし、廃除を行うには一定の条件が必要です。簡単にできるものではありません。
(4)遺言執行者の指定
前述の遺言執行者は、遺言の中で特定の人物を指定することができます。
「この人なら信頼して任せることができる」という適任者が身近にいれば、ぜひ指定しておきましょう。
遺言執行者は、できればあなたの相続に関して利害関係のない第三者であることが望ましいため、弁護士などの専門家に依頼し、遺言執行者となってもらうケースも珍しくありません。
(5)認知
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子ども(非嫡出子)を、父親が「自分の子どもである」と認める手続きのことです。
認知すると、父親と子どもの間には法的な親子関係が成立するため、その子どもにも相続権が発生します。
3、遺言には記載「方式」がある
先ほど、遺言とエンディングノートの違いのところで「遺言には決まった書き方がある」という点をお伝えしましたが、その書き方には大きく分けて「普通方式」「特別方式」という2つの形式があり、その下にさらに細かい種類がいくつかあります。
ここでは、それらの方式について掘り下げて見ていきましょう。
(1)普通方式
まず、一般的に遺言を作成する際に採用されるのがこちらの普通方式で、
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
という3つの種類があります。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言は、その名の通り遺言を残す本人が自筆・押印して作成する遺言です。
メリットとしては以下の点を挙げることができますが、個人で作成する文書のため、続いてご紹介するデメリットのようなリスクもあります。
<メリット>
- 1人でいつでもどこでも作成することができる
- 遺言の内容や存在自体を秘密にしておくことができる
- 費用がかからない
<デメリット>
- 法的不備で遺言が無効になってしまうことがある
- 紛失や偽造の恐れがある
- 遺族が遺言の存在に気付かない可能性がある
- 開封前に家庭裁判所で検認手続きが必要
また、自筆証書遺言は原則として全文を自書することが決まりのひとつでしたが、2019年1月から施行された改正民法で「別紙として添付する財産目録に限り、自筆でなくてもOK」という形に少しルールが緩和されました。
さらに、同じ改正で「自筆証書遺言の原本を法務局で保管することができる」という新たな制度も創設されましたので、今後は従来よりも紛失や盗難・偽造のリスクに備えやすくなります。(こちらの新制度は2020年7月10日に施行されます)
②公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者の口述内容を公証人が書き起こし、公正証書として作成する遺言のことです。
公証人は法律事務の経験が豊富な専門家の中から法務大臣が任命する国の公務員で、作成時にはこのほか2人以上の証人の立ち会いが必要になります。
証人は誰でも良いというわけではなく、以下に該当する人には依頼することができないので気を付けましょう。
- 未成年者
- 遺言で財産を譲り受ける人、その配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者、4親等内の親族
- 公証役場の職員など
- 遺言書の内容を読めない・確認できない人
また、作成された公正証書遺言は公証役場で保管されるため、紛失や偽造・変造のリスクがないところがメリットのひとつです。
そのほかのメリット・デメリットも以下にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
<メリット>
- 内容や形式の不備で遺言が無効になることはない
- 自筆証書遺言で必要な検認のステップを省略し、すぐに遺言を執行することができる
<デメリット>
- 遺言の内容が証人から漏れる恐れがある
- 手数料などの費用が発生する
③秘密証書遺言
本人が作成・押印の上封印し、公証役場に持ち込んで証明してもらった遺言を秘密証書遺言と呼びます。
公証役場では、公正証書遺言と同じく2人の証人の立ち会いが必要で、証人になれる人の条件も先ほどと同じです。
自筆証書遺言・公正証書遺言に比べると利用されるシーンはあまり多くありませんが、次のようなメリット・デメリットがあります。
<メリット>
- 署名以外は代筆が可能
- 公証役場へ持ち込む前に自分で封をするので、内容を秘密にできる
<デメリット>
- 内容や形式に不備があると遺言が無効になる
- 証明後は自分で保管するため、紛失などのリスクがある
- 手数料などの費用が発生する
- 開封時には家庭裁判所で検認手続きが必要
(2)特別方式
ここまでご紹介してきたことからも分かるように、普通方式の遺言は、基本的に本人が亡くなる前に余裕を持って準備しておくものです。
しかし、場合によってはもう自分の命が長くないと悟ってから、直前に遺言を残したいというケースもあるでしょう。
そんなときのために用意されているのが、これから解説する「特別方式」で、全部で次の4つの種類があります。
条件 | 一般危急時遺言 | 難船危急時遺言 | 一般隔絶地遺言 | 船舶隔絶地遺言 |
危機の状況 | ケガや病気 | 船や飛行機を利用中 | 交通手段が絶たれている(服役中も含む) | 航海中 |
作成者 | 代筆可 | 代筆可 | 本人 | 本人 |
立ち会い | 証人3名 | 証人2名 | 警察官1名 証人1名 | 船長または事務員1名 証人2名 |
家庭裁判所による確認(検認とは異なる) | 20日以内に必要 | 必要 | 不要 | 不要 |
いずれも普通方式と最も大きく異なる点は、特別方式の場合、遺言の有効期限が6ヶ月と定められているところです。
普通方式の遺言にはそういった期限は特にありませんが、特別方式で残した遺言は、本人が普通方式による遺言を残せる状態になってから6ヶ月を過ぎても存命の場合、一旦内容が無効になります。
また、緊急度の高い状況であるにも関わらず複数名の立ち会い・署名捺印が必要なことなど、亡くなる直前に行うにはなかなか負担の大きい作業になりがちなことから、こちらの特別方式の遺言が実際に活用されるケースはあまりありません。
とはいえ、最後まで諦めずに遺言を残せる手段があるということは、覚えておきたいポイントのひとつです。
4、遺言が無効になるケース
せっかく作成した遺言も、次のようなケースに該当すると無効となり、法的効力を発揮することができなくなります。
特に不備が発生しやすい自筆証書遺言と、一見無効になるケースがないように思える公正証書遺言の落とし穴についてご紹介していきますので、よく確認しておいてください。
(1)自筆証書遺言が無効になるケース
- 日付の記載がない
- 実際に遺言書が作成されたのと異なる日付が記載されている
- パソコンで作成されている
- 本人が自書していない
- 署名がない、または他人によって署名されている
- 押印がない
- 相続する財産の内容が不明確
- 加筆・修正の形式が間違っている
- 他人にそそのかされて書いたことが疑われる場合
中でも遺言を途中で書き損じてしまった場合、訂正したい部分を二重線で消すだけでは修正が有効になりません。
二重線で消した横に正しい文字を書いて押印し、空いたスペースに「○行目を○文字削除し、○文字追加した」という旨を記載後、自筆で署名する必要があります。
また、遺言の作成時期に本人が認知症を患っていた場合など、本人に遺言能力があったかどうか定かではないケースでは、他人の意思が介在しているということで遺言が無効になるケースもあります。
(2)公正証書遺言が無効になるケース
- 証人として不適格な人が立ち会った
- 実は本人に遺言能力がなかった
公正証書遺言の場合、実際に遺言を作成するのは国の公務員である公証人なので、その書式に不備があることはないと考えて良いでしょう。
ただし、証人として立ち会った人が実は証人になれない項目に該当していた場合や、「後から思えばあの時期にはすでに認知症を発症していたはずだ」など、本人の遺言能力自体が疑われるケースでは、公正証書遺言でも無効になることがあるため注意が必要です。
5、遺言を残す際の1つの注意点は
上記以外に、特に注意しておきたいポイントのひとつに相続の「遺留分」があります。
(1)遺留分とは
遺留分とは、相続する財産のうち「相続人が望む場合、その相続人に対して最低限これだけは残さなければならない」と法律で定められた割合のことです。
たとえば、あなたの相続人が配偶者のみの場合、遺言が何もなければ法定相続分として配偶者が全財産を相続します。
しかし、ここであなたが「全財産を愛人に譲る」と遺言を遺した場合、配偶者が怒るのはもちろん、場合によっては今後の生活が立ち行かなくなることもあるでしょう。
そのため、この例で言えば法定相続分の2分の1の財産は、遺留分として配偶者に相続権があると定められているのです。
(2)遺留分を無視した遺言を残すと相続トラブルに!
相続人の遺留分を侵害する遺言は、残したとしても後々相続人が「遺留分侵害額請求」を行うことで、本来あるべき姿へ是正されます。
ただ、この請求権を行使しても多めに遺産を受け取った相続人が素直に要求を聞き入れないなど、相続トラブルに発展するケースも実際のところは多いものです。
余計な火種を蒔かないためにも、特別な事情がない限りは遺留分を無視した遺言を残すことは控えましょう。
6、遺言がない場合、どうやって相続されるのか
もし、あなたが遺言を何も残さなかった場合、財産はどのようにして誰に相続されるのでしょうか。
基本的な流れをご紹介していきます。
(1)民法の規定に従う
遺言がない場合の相続は、民法の規定に従って行われます。
これを法定相続と呼び、相続人の範囲と順位は以下の通りです。
順位 | 対象者 |
必ず相続人となる | 配偶者 |
第1順位 | 子ども(子どもが亡くなっている場合は孫) |
第2順位 | 父母(父母が亡くなっている場合は祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子ども) |
どのようなケースでも本人の配偶者は必ず相続人となり、それに加えて第1~第3までのいずれかの順位の対象者が相続人に加わります。
たとえば第1順位である子どもがいる場合、第2・第3順位の対象者は相続人から外れますが、子どもも孫もいない場合は第2順位の父母が、父母も祖父母もいない場合は第3順位の兄弟姉妹が相続人となる流れです。
分割される財産の割合は、配偶者+どの順位が対象となるかで以下のように異なり、組み合わされる順位が下がるにつれて配偶者の相続分は増えていきます。
組み合わせ | 配偶者の相続分 | それ以外の相続分 |
配偶者+子ども | 2分の1 | 2分の1 |
配偶者+父母 | 3分の2 | 3分の1 |
配偶者+兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1 |
また、配偶者以外の対象者が複数名いる場合、配偶者以外に割り当てられた相続分を人数の頭数で割った割合が1人あたりの相続分になります。
たとえば配偶者+子どもが2名いるケースでは、子どもに割り当てられた2分の1の相続分を2名で分け合うため、子ども1人あたりは全体の4分の1ずつ相続することになるでしょう。
(2)遺言があると断然スムース!
上記のように誰が・どの割合で財産を受け取るのか細かく定められている法定相続ですが、不動産など分割の難しい財産が含まれているような場合には、それをどのように分けるかが相続人の間で問題になることもあります。
すでにご紹介したように、遺言では誰にどの財産を残すのか、その分け方を指定することもできますので、自分の死後大切な家族が相続トラブルで争いになるのを避けるためにも、遺言は作成しておきましょう。
あなたの残した遺言があれば、その内容は法定相続よりも優先されます。
7、遺言書の作成は弁護士等へご相談ください
遺言は自分1人で作成することもできますが、法的に有効で後々トラブルになりにくい遺言を作成するためには、弁護士などの専門家へ依頼するのが確実です。
(1)無効にさせません
遺言には決められた形式があり、その形式を守らなければせっかく考えた内容もすべて無駄になってしまいます。
弁護士に依頼しておけば、形式の不備などで法的に遺言が無効になることはありません。
(2)遺留分に配慮した内容に仕上げます
先ほどもお伝えした通り、相続には最低限考慮しなければならない遺留分というものが存在します。
遺留分は相続人の順位や人数でも割合が変わってくるため少々ややこしい部分がありますが、弁護士はこの点もしっかりサポートしてくれるので安心です。
(3)相続時の手続きも断然スムースです
遺言は、作成したあとの保管や実際の相続時の検認など、その後のステップにも気の抜けない手続きが続々と控えています。
こういった流れを丸ごと任せられるところも、弁護士に依頼するメリットのひとつです。
(4)公正証書遺言もラクに行えます
公正証書遺言は、公証役場での手続きや証人の準備など、自筆証書遺言に比べて処理が複雑になるため作成を躊躇してしまう…という方も多いかもしれません。
この点も弁護士に依頼することで、みなさん自身はほとんど負担なくスムーズに作成を進めることができます。
まとめ
遺言は、あなたが遺族に残す最後のメッセージであり、残された家族が余計な争いに巻き込まれないためにも、様々な点に配慮して内容を吟味する必要があります。
形式にも法律で定められたルールがあるため、どの方式で遺言を残すにしても、作成する際には弁護士などの専門家に相談しておくのがおすすめです。
遺言を残しておかなかった場合、相続人はまずみなさんがどんな財産を保有していたのかの洗い出しから着手しなければならず、それにかかる時間と労力は非常に大きなものになってしまいます。
遺言の作成にじっくり取り組める余裕があるうちに、ぜひあなたも専門家に依頼して納得のいく遺言を作成してみてください。