組織内での裏切り行為として知られる『背任罪』。この背任罪とはどのような罪なのかご存じでしょうか?
カルロス・ゴーン氏の事件でも話題となったこの罪状は、一般的には『会社を裏切る』といったニュアンスで理解されがちです。しかし、具体的にどのような行為が背任罪に該当するのでしょうか?
今回は、
- どのような場合に背任罪が成立するのか
- 日産事件で注目を集めた『特別背任罪』とは
- 有罪判決時の刑罰
- 『横領罪』との違い
などについて詳しく解説していきます。ご参考になれば幸いです。
警察に逮捕について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、どのような場合に背任罪が成立するか
背任罪の成立要件や罰則は刑法247条に規定されています。
どのような行為に犯罪が成立するのか、成立した場合にどのような罰則があるのかを知るためには、法律の条文を確認することが大切です。
まずは条文をチェックしてみましょう。
第二百四十七条
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
では、具体的にどういう条件(要件)がそろえば背任罪が成立するのか確認していきましょう。
(1)他人のためにその事務を処理する者
ここにいう「事務」とは、財産上の利益を含む事項に関する生活上の仕事を意味します。
つまり、財産関係と関係のない事務処理を任されているだけの人は背任罪の主体にはなりません。
(2)任務に背く行為(任務違背行為)
「任務に背く行為」とは、他人の事務の処理者として当然になすべきと法的に期待される行為をしないことをいい、期待される行為をしない場合と、なすべきでない行為をする場合の両方があります。
何がその事情下において法的に期待される行為といえるかは、法令、契約、信義則等を考慮の上、当該事務の性質、内容、行為時の諸般の事情等を総合考慮して判断されることとなります。
「任務に背く行為」の代表的な行為例としては,
- 銀行の役職員が資産も無い者に無担保で貸し付けを行う行為
- 社外秘の情報を外部に漏らしてしまう行為
などが挙げられます。
もっとも、どのような行為が「任務に背く行為」といえるかは、具体的事情によって異なるため、上記の代表的な行為例でさえも、当該行為を行った際の諸般の事情によっては「任務に背く行為」にあたらないとされる可能性もあります。
「任務に背く行為」に該当するかどうかを一概に決めることは困難です。
お悩みになられた際は、弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。
(3)自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(図利加害目的)
本罪は、ある一定の目的(意図)がなければ成立しない目的犯と言われています。
「自己若しくは第三者の利益を図」る目的、又は「本人に損害を加える目的」をもって任務違背行為をしたことが必要です。
では、本人の「利益」を図る意思と、自己又は第三者の利益を図る意思が併存している場合はどうでしょう。
そのような場合、たとえ本人の利益を図る意思があったとしても、主として自己や第三者の利益を図る意思があれば図利加害目的は認められるとされています。
なお、ここにいう「利益」とは、経済的利益のみならず、社会的地位や信用等の身分上の利益も含まれます。
(4)財産上の損害
「損害」は既存の財産が減少した場合(積極的損害)のみならず、得べかりし利益が得られなかった場合(消極的損害)も含まれます。
判例によれば、財産の減少は、経済的見地から判断されることになります(昭和58年5月24日)。
たとえば、金融機関の役職員が、返済の可能性が著しく低い人に無担保で貸付を行ったとします。
法的にみれば、貸主は、返済の可能性が低いとしても貸金債権(お金を返してくれといえる権利)を有しているため、損害は生じていないとも思えます。
しかし、経済的見地から見ると、返済の可能性が著しく低い人に無担保で貸付を行えば、事実上、貸金の回収をできる見込みがないので、財産上の損害が生じていると考えていくことになります。
2、特別背任罪とは?
特別背任罪とは、その名の通り背任罪の特別バージョン。
その大きな違いは「行為者」です。
行為者が組織のトップに近い者等である場合には特別背任罪として重い刑罰が科せられることになります。
ここでは、特別背任罪の概要ついてみていきます。
(1)特別背任罪は会社法や保険業法に規定される罪
特別背任罪といえば、最近では日産の前会長カルロス・ゴーン氏が、私的な投資で生じた損失を日産に付け替えた容疑で逮捕された事件がみなさんの記憶にも新しいのではないでしょうか?
この特別背任罪は、実は、刑法とは別の、会社法や保険業法の中で規定されている罪です。
(2)特別背任罪が処罰の対象としている人
会社法上の特別背任罪は、会社であれば株式会社の発起人や取締役、銀行なら頭取など組織のトップやそれに近い地位にいる人を処罰の対象としています。
特別背任罪は、このような身分を有する人たちの背任行為は一般社会に与える影響が大きいため、刑法所定の背任罪より重く処罰しようとするものであり、これらの人には刑法の背任罪より特別法の特別背任罪が優先して適用されることになります。
(3)特別背任罪の罰則
以上のように、特別背任罪は、会社の経営に重大な影響力を及ぼす人を処罰の対象としています。
したがって、会社法における特別背任罪の罰則は刑法の背任罪よりも重く、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、又は懲役刑と罰金刑の両方が科せられることもあるとされています。
3、背任罪の罰則は?
一方、背任罪の罰則は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。
すでにご紹介した特別背任罪の罰則に比べると、特に罰金刑の金額に関してだいぶ軽くなった印象をお持ちになられた方もいらっしゃるかと思いますが、懲役刑は5年以下と決して軽くはありません。
4、似て非なる犯罪〜横領罪との違い
背任罪と似た犯罪として「横領罪」があります。
みなさんの中には「一体何が違うんだろう?」と疑問を持たれている方も多いでしょう。
そこで、横領罪が規定されてある刑法252条を確認することとします。
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
実は、横領罪と背任罪は法上競合という関係にあり、一つの行為が横領と背任、両方の条文に該当することがあります。
このような場合、罰則が重い方の刑罰法規が適用されることになり、行為者は、罰金刑が規定されておらず懲役刑しか存在していない、横領罪で処罰されることとなります。
もっとも、横領罪は「他人の物(有体物=動産,不動産)」を横領したことを処罰の対象としており、成立範囲が背任罪に比べて限定されています。
これに対し、背任罪は上記でみてきたように、成立範囲が横領罪に比べ広く考えられています。
そのため、横領罪は成立しないが背任罪は成立するというケースも当然考えられます。
そのような場合は、背任罪で処罰されることとなるでしょう。
両罪の区別は、学説等でも激しく争われている部分であり、端的に説明することは困難なのですが、単純にいえば、目に見える物(=有体物)を処分した場合は横領罪、そうでない場合は背任罪とイメージされてもいいかもしれません。
5、背任罪で逮捕! -逮捕から裁判までの流れ
もし背任罪で逮捕されてしまったら―そんな万が一の事態に備えて、逮捕後の流れとポイントをまとめてお伝えしていきます。
(1)身柄が拘束されずに在宅捜査を受けるケースもある
まず押さえておきたいのが、背任罪では、警察・検察により逮捕されることは少なく在宅のまま捜査を受けるケースが圧倒的に多いという点です。
具体的には、平成25年度中、検察で処理した件数151件のうち逮捕されたのは13件(全体の8.6%)、逮捕されず在宅のまま捜査が進められた件数が138件(全体の91.4%)でした。
(2)警察による逮捕後はほぼ検察へ送致される
残念ながら逮捕に至ってしまった場合、その後の流れとしては、検察へ送致されるか否かの判断がなされます。
しかし警察段階で事件終了となるケースは多くはなく、逮捕後は検察へ送致されることを覚悟しておいたほうが良いでしょう。
具体的には、上の逮捕された13件のうち、警察で逮捕されたのは11件だったそうですが、その全てが検察へ送致されています。
もちろん、逮捕されなくても刑事手続は進みますから、逮捕されていたかったとしても検察へ送致されることはあります。
(3)勾留決定を受けると長期的に拘束される
検察へ送致されると、引き続き身柄を拘束するかの判断がなされます。
引き続き身柄を拘束する場合は、検察官による勾留請求がなされ、今度は、請求を受けた裁判官によって引き続き身柄を拘束するか(勾留)、釈放するかの判断がなされます。
勾留の要件(罪証隠滅のおそれや、逃亡のおそれ等)があると裁判官が判断した場合には、勾留決定を受けます。
勾留期間は検察官が「勾留請求をした日」から10日間です。
上の逮捕・送検された13件のうち、12件は勾留され、1件は検察段階で釈放されているようです。
つまり、検察に送致されるとほぼ勾留されることが分かります。
なお、10日間を過ぎた後、やむを得ない事由がある場合は期間を延長されることがあります(最大10日間)。
(4)起訴により刑事裁判に移る
検察官により起訴されると、裁判を受けなければなりません。
裁判の種類は2通りあり、一つは、皆さんがイメージされる法廷に出廷する裁判で正式裁判といいます。
もう一つは、法廷に出廷する必要がない略式裁判です。
略式裁判は100万以下の罰金や科料に相当する事件を対象とする裁判手続きですが、背任罪には罰金刑が規定されていますから、もし、検察官が罰金刑を求刑する場合は略式裁判となることもあります。
検察官が懲役刑を求刑する場合は正式裁判となります。
ちなみに、上の151件中,起訴された件数は13件(正式起訴11件、略式起訴2件、全体の8.6%)で、残りの138件は不起訴処分となっています(全体の91.4%)。
6、背任罪を疑われたら早めに弁護士に依頼して
背任罪の場合、警察・検察によって逮捕・勾留されることは稀で、むしろ在宅事件として捜査が進められることが多いほか、刑事処分も不起訴処分で終わることが多いことを述べました。
だからこそ、背任罪の容疑をかけられてしまった際にはなるべく速やかに弁護士に相談を行い、適切な対応をすべきと思われます。
(1)警察へ被害届を出される前に示談が成立することも
背任罪を疑われても、警察に被害届を出される前に、示談を成立させることができます。
示談を成立させることができれば、その内容によっては被害届の提出を取り止めてもらえる場合もあります。
被害届が提出されなければ、背任罪という犯罪の性質上、刑事事件化の可能性は極めて低くなり、逮捕されることはまずないと考えていいでしょう。
示談交渉を円滑に進め、有効な形で示談を成立させようと思うのであれば弁護士に示談交渉を依頼すべきでしょう。
なお、被害届の提出前(逮捕前)に、示談交渉できるのは私選の弁護士だけです。
(2)逮捕後も釈放や不起訴処分を目指すことができる
弁護人を付けていれば、逮捕直後から身柄の解放や不起訴処分に向けて弁護活動を始めることができます。
勾留されそうな場合は意見書を提出し、勾留された場合は準抗告を行っていくなどして、早期の身柄解放を目指すことができます。
また、相手方との示談交渉や、捜査機関に対する意見書の提出などの働きかけも行い、不起訴処分の獲得も目指すことができます。
まとめ
以上、背任罪についてお分かりいただけたでしょうか。
背任罪は、窃盗罪や傷害罪等に比べると犯罪件数が少なく、多くの人にとって遠い犯罪というイメージがあるかもしれません。
しかし、どのような行為が背任罪にあたるかの判断は難しいところですし、万が一、自らの行為が背任罪に該当するものであった場合、その後の対応によって最終的な結果に大きな違いが出る可能性があります。
最近は、初回無料で相談を受けている法律事務所も多いので、お悩みになられた際は、まずは、お近くの弁護士等の専門家へご相談されることをお勧めします。
この記事が、背任罪でお悩みの方のための一助となれば幸いです。