相続税の計算方法は、どのように定められているのでしょうか。
- 財産を残して親が亡くなった。1億円の遺産があったとしたら、相続税はどのぐらいの負担になる?
- 相続問題が絡んでくるため税金のことも含めて弁護士に依頼したいと考えている
今回は、こうした疑問にお答えいたします。
不動産の相続がからむ場合や、相続人が多くいる場合には、最終的には弁護士や税理士といった専門家に手続きを依頼した方が良い場合が多いと思います。
一方で、あなた自身が「何から始めたらよいかわからない…」という状況だと専門家もアドバイスする内容に困ってしまうこともありますので、おおまかな遺産相続手続きの流れは理解しておきましょう。
この記事では、以下のようなことがらについて、簡単にわかりやすく説明いたします。
- 相続税の大まかな計算方法
- 相続税の負担を減らしてもらえる税額軽減制度の内容
- 土地や建物が遺産に含まれる場合の相続税計算
この記事が、これから遺産相続手続きにかかわる可能性がある方の参考になればうれしく思います。
相続税について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
不動産の相続税について、べリーベスト税理士事務所の公式YouTubeチャンネルにて動画にまとめております。ぜひあわせてご確認ください!
Youtube 【不動産の相続税】相続税を決定する3つのポイントを徹底解説!
目次
1、相続税の計算方法|計算の大まかな流れ
日本の法律では、遺産がある程度の金額を超える場合には相続税が発生します。
相続税の申告・納税には期限がありますから、既に相続が発生している状態の方や、近い将来に相続にかかわる予定がある方は、大まかな相続税計算の流れを知っておいた方が良いでしょう。
相続税の計算の流れを大まかに説明すると、以下のようになります。
- 「相続財産の一覧」を作る
- 「正味の遺産額」を求める(プラスの遺産からマイナスの遺産を差し引きします)
- 「課税遺産総額」を求める(正味の遺産額から相続税の基礎控除を差し引きします)
- 「相続税の総額」を求める(相続人全員の相続税合計額を求める)
- 「各種の控除」を適用して、それぞれの相続人が負担する相続税額を計算します
相続税の計算は一見複雑ですが、計算を順番に行なっていけばそれほど難しいものではありません。
以下、それぞれの項目について見ていきましょう。
2、まずはここから!相続財産の一覧を作ろう
相続税は遺産の金額に応じて計算を行います。
まずは「どれだけの遺産があるのか」を明確にしなければいけません。
なお、相続税の計算は上のような「プラスの財産」だけでなく、以下のような「マイナスの財産」についても加味する必要がありますので、こちらも一覧にして把握しておきましょう。
具体的には、次のような相続財産の一覧を作っていきます。
実際に作成するときの参考にしてください。
例)相続人となる人が配偶者と子供の2名とした場合
【プラスの財産一覧】
- 現預金:5000万円
- 上場株式:3700万円
- 土地:1600万円(200㎡:自宅を建てるために使用)
- 建物:1000万円
- 生命保険金:4500万円
- 仏壇や墓石:200万円
- プラスの遺産合計:1億6000万円
【マイナスの財産一覧】
- 借入金:700万円
- 葬儀費用:300万円
- 合計:1000万円
(1)相続財産から非課税財産を引く
上で、相続税の計算を始めるにあたって「相続財産の一覧」を作成しましたが、遺産の中には相続税の計算に含めるべきではない種類のものもあります。
具体的には、仏壇仏具などの祭祀用具、常識的な金額の弔慰金などです。
また、生命保険金も一部は非課税財産となり、税金が課されません。
実際に受け取れる保険金のうち、以下の計算式で計算した金額が非課税財産となります。
500万円×法定相続人数(今回は2人)=1000万円
以上より、上で作成した一覧の「プラスの財産の一覧」の中にある「仏壇や墓石200万円」と「生命保険金の1000万円の部分」が非課税財産に該当します。
(2)土地については「小規模宅地」かまず確認!
相続財産の中に土地がある場合には、その土地が「小規模宅地」に該当しないかどうかを確認しておきましょう。
遺産である土地が小規模宅地に該当する場合には、その土地に対してかかる相続税は大幅に安くしてもらえる税軽減制度(小規模宅地等の特例)があります。
小規模宅地とは、住宅を建てるために使っている土地のことで、一定の広さ以下のものをいいます。
亡くなった人が自分で済むために建物を建てていた場合や、他人に貸す賃貸アパートを立てている場合に、土地や宅地とみなされます。
税経験制度が適用となった場合、どのくらい税金負担が軽くなるのかを紹介するので、参考にしてください。
- 亡くなった人が自宅を建てるために使っていた宅地:330㎡まで80%減額
- 不動産賃貸業以外の事業用建物を建てるために使っていた宅地:400㎡まで80%減額
- 賃貸住宅を建てるために使っていた宅地:200㎡まで50%減額
このように、遺産である土地が小規模宅地である場合には、その土地の相続税の評価額を大幅に減額できます。
相続税は財産の評価額(相続税評価額)をもとに計算するため、財産の評価額が下がれば、それだけ相続税も安くしてもらえる仕組みです。
(3)計算シミュレーション
小規模宅地等の特例を適用させ相続税評価額の軽減幅を計算するにはどうしたらいいのか、実際に計算してみましょう。
ここまで紹介してきた例を反映して、遺産の総額をシミュレーションしてみます。
もとのプラスの遺産合計1億6000万円-小規模宅地等の特例による評価減1280万円-非課税財産1200万円=1億3520万円
詳しく解説します。
上の項目で紹介した「プラスの遺産合計」は1億6000万円でしたが、非課税財産に該当する「仏壇や墓石:200万円」と、「生命保険金のうち1000万円」は差し引きます。
そして、土地1600万円は小規模宅地等に該当しますから、相続税評価額は8割引の320万円(1280万円を減額)です。
これらの条件をすべて反映すると、相続税の課税対象となるプラスの遺産総額は1億3520万円ということになります。
実際に、ご家庭の資産状況を確認し、計算シミュレーションしてみてください。
3、「正味の遺産額」を求める:被相続人に債務があったら差し引き
次に、「正味の遺産額」を求めます。
正味の遺産額とは、分かりやすく言うとプラスの遺産からマイナスの遺産(債務)を差し引きした金額のことです。
相続税は実質的にプラスとして遺されている財産に対して課税される税金のため、このようにして計算した正味の遺産額(遺産の純額)に対して課税される仕組みとなっています。
(1)債務とは
債務とは、銀行や消費者金融などから借りている借金の他に、取引先に対して未払いになっている商品代金(買掛金)なども含みます。
先述しましたが、債務も財産のひとつとしてカウントされます。
そのため、遺産相続に当たっては「いくらの借金が残されているのか」を知っておかなければいけません。
しかし、亡くなった人がどれだけの借金を負っていたのかを事前に把握しておくことは、家族であっても難しい問題ではないでしょうか。
このような場合は、個人信用機関への開示請求を行ったり、自宅に届いている請求書などを細かくチェックしたりするという方法もあります。
(2)計算シミュレーション
ここでも、正味の遺産額に関する計算シミュレーションをしてみましょう。
この計算は分かりやすく、プラスの遺産からマイナスの遺産を差し引くだけです。
上のケースではプラスの遺産1億3520万円-マイナスの遺産1000万円=1億2520万円が正味の遺産額となります。
4、「課税遺産総額」を求める:相続財産は基礎控除額超か?
日本の法律では、相続税は「一定額以上の遺産がある場合」にのみ課税される仕組みです。
少額の遺産にまで課税したのでは、受け取る財産がなくなってしまいます。
そのため、一定の基準を超える部分のみを課税対象としており、相続する財産すべてに課税されるわけではありません。
この課税される対象の遺産の総額を「課税遺産総額」と呼びます。
簡単にいえば、相続税はお金持ちの遺産相続の場合にだけ問題になるものということが言えるでしょう。
それでは、いくら以上の遺産がある場合に相続税が発生するのかについて解説していきます。
(1)基礎控除額とは
相続税の課税対象となる「一定額以上の遺産」を求めるためには、基礎控除というものを知っておきましょう。
基礎控除額とは、「遺産のうち、一定額までは非課税とする」という考え方です。
相続税の基礎控除は、相続人が何人いるかによって変動し、相続人の数が多ければ多いほど基礎控除の額が増えていく仕組みです。
そのため、相続予定の遺産の基礎控除が高ければ、納税対象となる課税遺産総額が減ります。
つまり、基礎控除が遺産額を上回れば相続税がかかりません。
(2)基礎控除額以下であれば相続税はかからない
正味の遺産額が相続税の基礎控除額以下である場合には、相続税の負担額は発生しませんし、税務署への申告手続きも必要ありません。
このような事情から、実際に発生した遺産相続のうち、相続税が課税されるケースは全体の8.3%程度となっています。
国税庁が発表した「平成29年分の相続税の申告状況について」によると、平成29年中に亡くなった人約134万人のうち、相続税の課税対象となった人は約11万2000人です。
(3)計算シミュレーション
具体的には、以下の計算式に従って計算した金額が相続税の基礎控除額となります。
計算例をみていきましょう。
相続税の基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人数
上記の式に法定相続人の人数をあてはめていきます。
法定相続人とは、相続権が認められる人です。
実際に、相続人の人数をあてはめて計算してみましょう。
【計算例】
法定相続人が1人の場合 3,000万円+600万円×1人=3,600万円
法定相続人が2人の場合 3,000万円+600万円×2人=4,200万円
法定相続人が3人の場合 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
法定相続人が4人の場合 3,000万円+600万円×4人=5,400万円
このように、法定相続人がいると基礎控除額が多くなることがわかります。
法定相続人が1人増える度に、相続税の基礎控除が増えていくことを知っておいてください。
さらに、正味の遺産額から相続税の基礎控除額を差し引きすると、相続税の課税対象額(課税遺産総額)を計算することができます。
課税遺産総額=正味の遺産額1億2520万円-相続税の基礎控除額4200万円=8320万円
課税遺産総額はこのようにして求めます。
ご家庭でも実際に試算してみてください。
5、「相続税の総額」を求める:仮の相続税の総額を求め、各相続人に配分
課税遺産総額が計算できたら、この金額を以下のような「相続税の速算表」という表に当てはめて「相続税の総額」を計算します。
決定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | - |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
(1)相続税の総額とは?
「相続税の総額」とは、上の速算表を使って、遺産を法定相続分で分割したと仮定した場合の各相続人の税額合計をいいます。
今回は配偶者と子供の2名が相続人ですから、法定相続分は2分の1ずつとなります。
課税遺産総額は8320万円だったので、配偶者と子供の法定相続分は以下の通りです。
- 配偶者:8320万円×2分の1=4160万円
- 子供 :8320万円×2分の1=4160万円
この金額を、上の速算表の「法定相続分に応ずる取得金額」に当てはめると、税額は以下のようになります。
- 配偶者の税額:4160万円×税率20%-控除額200万円=632万円
- 子供の税額 :4160万円×税率20%-控除額200万円=632万円
したがって、相続税の総額は以下のように1264万円ということになります。
632万円+632万円=1264万円
(2)各相続人が実際に相続した遺産をもとに相続税の負担額を計算
遺産相続では、「誰がどの財産をどのぐらいの割合相続するのか」を相続人全員の話し合いで決める必要があります。
遺産が現預金ばかりであるようなケースでは、上の法定相続分での分割のように「配偶者に2分の1・子供にも2分の1」というように分けることが可能です。
しかし、遺産に居住用不動産が含まれていたり、宝石や骨とう品などのようなものが含まれていたりする場合には、上のように分けることが難しいことも考えられます。
例えば、今回のケースでは結果として配偶者が遺産全体の3分の2、子供が3分の1を実際に相続したとしましょう。
そうすると、相続税は実際に遺産相続した割合に応じて負担するのが原則ですから、相続税の総額1264万円のうち、配偶者は3分の2である842万6600円(百円未満は切り捨て)、子供は3分の1である421万3300円を負担することになります。
- 配偶者が実際の遺産相続割合に応じて負担する相続税額:842万6600円
- 子供が実際の遺産相続割合に応じて負担する相続税額 :421万3300円
6、適用できる各種控除を確認しよう
すでにいくつか具体的な例を紹介していますが、相続税の計算に当たっては、税額を減らす効果がある控除を適用してもらうことができます。
具体的には、以下のような控除制度があります。
- 小規模宅地等の特例:遺産に宅地が含まれる場合に適用可能
- 生命保険金の基礎控除:相続人が受け取った生命保険金のうち一定額までは非課税と
- 配偶者控除:亡くなった人の配偶者に適用可能(これにより多くのケースで配偶者は無税となります)
- 未成年者控除:相続人に未成年者が含まれる場合に適用可能
- 障害者控除:相続人の中に障害者いる場合に適用可能
- 相次相続控除:10年以内に相次いで相続が発生した場合に適用可能
以下では、特に重要性の高い配偶者控除(配偶者の税額の軽減)についてみておきましょう。
(1)妻が相続人のときはまずこれを確認|相続財産は1億6000万円以上ありそうか?
亡くなった人の配偶者(妻または夫)が相続人となる場合には、「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」という制度を利用することができます。
この制度を使えば、亡くなった人の配偶者の人は、遺産を相続してもほとんどのケースで相続税がかからないといえます。
具体的には、以下のいずれかの条件に従い、配偶者が実際に相続した遺産の額に応じて控除額を計算します。
- 配偶者が法定相続分に従って遺産を相続する場合には、その全額が控除対象
- 配偶者が法定相続分と異なる割合で遺産を相続する場合には、課税遺産額1億6000万円までが控除対象
相続人が配偶者と子供の2名である場合、①によれば、例えば遺産が10億円あったとすると、配偶者の相続する遺産は5億円となりますが、これだけの遺産を相続したとしても配偶者の相続税は0円となります(子供には相続税がかかります)。
なお、配偶者控除を適用してもらうためには以下のような条件があるので注意しておきましょう。
- 配偶者控除を適用できる配偶者は、法律上の配偶者のみ(内縁の妻、内縁の夫は不可)
- 相続税の申告期限までに遺産分割が完了していること
- 税務署に対して相続税の申告を行うこと
(2)計算シミュレーション
今回の事例では相続人となるのは配偶者と子供の2名で、実際の遺産相続では3分2を配偶者、3分の1を子どもが相続したものとしました。
配偶者の相続した課税遺産額は、課税遺産総額8320万円×3分の2=5546万6000円(千円未満切り捨て)ですので、上で見た配偶者控除の条件②により全額が控除対象となります。
そのため、各自の負担する相続税は以下のようになります。
- 配偶者が実際の遺産相続割合に応じて負担する相続税額:配偶者控除により0円
- 子供が実際の遺産相続割合に応じて負担する相続税額 :421万3300円
7、相続についてお困りの際は弁護士へ相談を
ここまで相続税の計算方法について大まかに見てきましたが、計算の順番を丁寧に追いかけていけばそれほど複雑ではないことが分かるかと思います。
しかし、実際の遺産相続では財産の調査や相続人との話し合いなども同時進行で進めていかなければならないため、経験のない方が自力で相続税の申告を完了することは簡単ではないでしょう。
相続税の計算以外にも、遺言がある場合の遺留分の問題や、相続人が生前から贈与されていた特別受益の問題など、相続では多くの法律問題が絡みます。
思わぬトラブルや計算間違いが生じてしまわないよう、相続で困った際には弁護士へ相談し、スムースな解決を図って方が良いでしょう。
なお、ベリーベスト法律事務所には弁護士だけでなく、遺産相続についての経験が豊富な税理士も所属していますから、相続税の計算や申告代行についても依頼することが可能です。
まとめ
今回は、これから遺産相続の手続きにかかわる予定の方向けに、相続税の計算方法について大まかに解説いたしました。
本文でも見たように、相続税の申告・納付には期限がありますから、できるだけすみやかに相続税計算の手続きを進めていくのが適切です。
遺産が多くある場合や、相続人の数が多い場合には遺産相続の手続きがかなり複雑になることもあります。
弁護士や税理士といった専門家に相談すると、どのタイミングでどのような対処を行うべきかアドバイスを受けることができますから、利用を検討してみてください。