「婚前契約書」が気になっていませんか?
今回は
- 婚前契約書の作り方
- 婚前契約書の雛形
- 結婚相手に婚前契約書の作成にスムーズに同意してもらう方法
について詳しく解説していきます。
婚前契約書は、これからの結婚生活への意識を共有する意味と、そして離婚時の特に「財産分与」について定めることが大切です。とはいえ、婚前契約書は、決して離婚を前提にした結婚だから作るものではありません。結婚を一大事に捉えるからこそ作る、大人の契約書と言えるでしょう。
本記事が、これから人生の一大事である結婚を迎えるあなたが有意義な結婚生活を送るためのお役に立てれば幸いです。
1、婚前契約書を作るとこうなる!2つの具体的事例
まずは婚前契約書の機能について、事例を挙げながら説明します。
(1)財産分与で揉めずに離婚できた事例
ここでご紹介するのは、会社を経営する30代男性の身に起きた出来事です。
男性の会社では金融機関から融資を受けるにあたり、経営者を連帯保証人としていました。
もし会社に万一のことがあれば、当然ながら男性は個人の財産から返済を行います。
その際に結婚していれば配偶者に迷惑をかける恐れがありました。
また仮に配偶者と離婚することになった場合、男性が持っている株式が財産分与の対象となれば、会社の経営権に大きな影響が出てしまいます。
これを回避するには、あらかじめ自社の株式を財産分与の対象から外しておく必要がありました。
このような「万一の問題」に備えるため、男性は婚前契約書の作成を検討します。
もちろんいざというときに役に立たない婚前契約書では意味がないので、婚前契約書の本を出している弁護士に作成を依頼することにしました。
ところが結婚を予定していた相手から思わぬ反対を受けます。
「どうして結婚前に離婚の話をするの?」と責められた男性は「世の中に絶対はない。まさかの事態が起きたときに、会社の連帯保証で迷惑をかけたくない」と説得して、なんとか納得してもらったそうです。
こうして無事に婚前契約書は作成されました。
ところが結婚から2年半が過ぎたころ、性格の不一致が原因で二人の間に離婚の話が持ち上がります。
一般に離婚協議では財産分与をめぐるトラブルが起こりがちですが、男性の場合はあらかじめ婚前契約書の中で「共有財産」をはっきりさせていたため、話し合いはスムーズに進みました。
結果予想より早く話がまとまり協議離婚が成立。
財産分与で揉めることもなく、会社に悪影響を与えることもなかったそうです。
(2)価値観の擦り合わせをした上で結婚できた事例
婚前契約書には、夫婦の価値観を擦り合わせて離婚を防ぐ機能もあります。
この目的で婚前契約書を作っている方の一人が歌手のSILVAさんです。
- 家事は平等に行う
- 自身の帰宅時間を毎日相手に連絡する
- (両親の)介護等の負担は各自自発的に行い、強制はしない
といった内容を5〜6ページに渡り記載しているそうです。
このような細かい内容を書くことに抵抗を感じる人もいるでしょう。
しかし、細かい内容にもそれぞれの価値観の違いが反映されます。
そこに目をつむったまま結婚しても、いずれは「性格の不一致」を意識することになりかねません。
それを調整してくれるのが婚前契約書です。
SILVAさんも、婚前契約書のおかげで「ムダな喧嘩がなく、円満に過ごしている」と話しています。
ぜひあなたも、婚前契約書を作ってみてください。
二人で内容を話し合いながら作ることで、互いの価値観を理解し擦り合わせることが出来るはずです。
こうして作成した婚前契約書は、これからもお二人の幸せな結婚生活を支えてくれるでしょう。
2、婚前契約書の具体的作成手順
ここからは婚前契約書の具体的な作成手順についてお話します。
しかし婚前契約書を作成する際には、弁護士などによる契約書作成サービスの利用をお勧め致します。
なぜならプロが作成することにより、いざ裁判になった際「実はこの婚前契約書は不備のために法的な効力を持っていなかった」という不測の事態を防ぐことが出来るからです。
(1)雛形ダウンロード
まずこちらから婚前契約書の雛形をダウンロードすることが出来ます。
ダウンロードはこちら
(2)話し合い(必要に応じて弁護士に相談・依頼)
ここではどのような内容を書くか互いにしっかり話し合ってください。
婚前契約書の効果を最大限にするためにも、この部分は手を抜かないようにしましょう。
もちろん記載する条文に上限はありません。
次に話し合った内容を雛形に合わせて条文の形にします。
たとえば「結婚前にお互いが持っていた財産は、結婚後も共有しないことにしようね」と話し合ったなら、「第X条 婚姻前の財産は共有財産とはしない」という形で記載します。
なお、この段階で必要に応じて弁護士に相談・依頼するのも良いでしょう。
(3)直筆かワープロかの選択
婚前契約書を書く際は、直筆(手書き)にしてもワープロを使っても構いません。
もし直筆にするなら、下書き用と清書用の2枚を用意してください。
なお直筆ではボールペンや万年筆など「消えない筆記具」を利用します。
もちろん「書き損じ」が発生することもあると思いますが、その際は修正テープなどを使わず、「取り消し線」と「2つ(パートナーの印鑑)の訂正印」を使って修正してください(公的な文書に修正液や修正テープを使うのはNGです)。
本文中の一部を取り消す場合とある項目の全体を消す場合とでは修正方法が違うので後述の「4」にて詳しく解説します。
ワープロを使う場合、基本的に書き損じは発生しません。
ただし印刷後にミスを見つけた場合は改めて作り直すか、直筆のときのように訂正印を使うようにしましょう。
印刷用紙にも配慮が必要です。
婚前契約書は結婚期間中ずっと保管する必要があるので、長期保存に適した用紙を使ってください。
そして直筆、ワープロ印刷ともに最後に「直筆の署名」を記入します。
署名の横には捺印をしてください。これで婚前契約書の形が整います。
(4)リーガルチェック
次の手順は「リーガルチェック」です。
リーガルチェックとは、契約書の内容を弁護士などの専門家に見せて、書かれている内容に問題がないか、法的に妥当かを確認してもらうことです。
リーガルチェックは、ビジネス上の契約書(売買契約書や業務委託契約書、雇用契約書など)では比較的ポピュラーな手法です。
しかしビジネスとは関係ない「私文書」にもリーガルチェックは役立ちます。
特に婚前契約書は、いざというときに裁判上の証拠にもなる重要書類です。
ぜひリーガルチェックを受けるようにしてください。
私文書での作成に留めておく場合は、この段階で婚前契約書の作成は終了になります。
ここからは私文書を公文書にしてより法的効力を強める手順についての解説になります。
(5)婚前契約書を公正証書にする
公正証書というのは、公証人という法律の専門家が作成する「公文書」のことです。
雛形から作成した段階では、婚前契約書は「私文書」に過ぎません。
もちろん適切に作られていれば私文書でも法的な効力はありますが、公正証書という「公文書」にすることで裁判上の証明力は一段と強くなります。
また公正証書の原本は公証役場という公的機関で保管されるため、夫婦のどちらか、あるいは第三者による改ざんのおそれもありません。
婚前契約書を公正証書にすることは必須ではありませんが、婚前契約書の機能を確実にするためにも、ぜひ利用したい方法です。
公正証書を作るには、原則として作成した私文書(婚前契約書)を公正役場へ持ち込む必要があります。
公証役場は全国約300カ所にあるので、あらかじめ最寄りの公証役場を調べておくと良いでしょう。
なお公証役場によっては事前予約が必要なこともあるので、その点もチェックしておいてください。
公証役場では本人確認が必要です。このため身分を証明する公的資料を用意しましょう。
具体的には
- 運転免許証
- パスポート
- マイナンバーカード
- 印鑑証明書
などです。加えて認印(印鑑証明書を用意した場合は実印)も必要になります。
公正証書を作成する際は「手数料」が必要です。
原則として婚前契約書の手数料は13,000円ですが、条文の中に財産についての取り決めを含む場合は金額に応じた手数料が加算されます。
(6)その他の方法で婚前契約書を残す
公正証書以外にも、婚前契約書で活用出来るいくつかの形式があります。
①私署証書
私署証書というのは、「私文書の署名や押印が本人のものに間違いない」ことを証明してもらう文書形式です。
私署証書にすることで、その婚前契約書は「本人たちの意思に基づいて作成された」ことが証明されます。
私署証書の作成も公証役場で行われるため、公正証書を作るときと同様の身分証明書を用意してください。
②宣誓認証
宣誓認証というのは、私文書の内容が真実であることを本人が宣誓した場合に、そのことを公証人が認証する仕組みです。
宣誓認証を受ける際は「本人が公証人の前で宣誓」します。
このため代理人による手続きは出来ません(公正証書や私署証書の場合は代理人を指定出来ます)。
以下は契約書作成サービスを利用して婚前契約書を作った場合の料金表になります。ただし料金はあくまで相場になります。
公正証書(公文書) | 宣誓認証(私文書) | 私署証書(私文書) | |
契約者の保証 | ○ | ○ | ○ |
契約内容の保証 | ○ | ○ | × |
公証役場で保管(20年間) | ○ | ○ | × |
保管の延長 | ○ | × | × |
費用相場(契約書作成・公証役場手数料等も含む) | 約10万円〜約20万円 | 約10万円〜約15万円 | 約3万円〜約5万円 |
3、作成までにかかる期間
次は、作成までにかかる期間をお伝えしていきます。
(1)私文書・・・3ヶ月程度
私文書として婚前契約書を作る場合、厳密には作成期間の決まりはありません。
雛形などへの記入自体はそれほど時間がかからないので、スケジュールの大半は「話し合い」ということになります。
婚前契約書は結婚生活が続く限り、数年〜数十年に渡って効力を持ちます。
安易に済ますのではなく、時間をかけてじっくり話し合いましょう。
(2)公正証書・・・4ヶ月程度
公正証書のベースとなるのは私文書としての婚前契約書です。
私文書が一通り完成したところで公証役場に申し込みをするのですが、この際、公証役場の方でも準備期間が必要です。
準備期間は公証役場の混み具合などによって数日〜3週間以上と幅があります。
あらかじめ1ヶ月程度の余裕を見ておいたほうが良いでしょう。
4、婚前契約書の注意点
次は、婚前契約書の注意点について解説していきます。
(1)パートナーの同意が得られない可能性
冒頭でご紹介した30代会社経営者の事例のように、婚前契約書を作ることにパートナーが反対する場合があります。
結婚前から離婚後のことを考えるわけですから、こうした反応も無理ないでしょう。
ただし、婚前契約書を作ることは場合によってはパートナーの財産を守ることにもなります。
「会社が倒産したときに家族の財産を守る」というのも、婚前契約書の立派な機能です。
パートナーを説得する際は、こうした点を強調すると良いかもしれません。
また婚前契約書の作成をサポートする弁護士の中には、サービスとしてパートナーの説得を行ってくれるところもあります。
豊富な事例を扱っているだけに、安心して任せることが出来るでしょう。
(2)一方からの申し出では契約を取り消せない
婚前契約書を作成したら、「一方からの申し出では契約を取り消せない」ことも覚えておいてください。
婚前契約書は、契約という法律行為の一種です。
民法によると、契約を取り消すには原則として当事者双方の同意が必要になります。
また民法の中には「夫婦間でした契約は婚姻中これを取り消すことが出来る」という規定もありますが、婚前契約書は結婚前にする契約なので、この規定は当てはまりません。
婚前契約書を作る際は、先のことも考えながらお互いが納得するまで話し合ってください。
(3)書いても法的な効力を持たないことがある
以下のような内容は、婚前契約書の中に記載しても法的な効力を持ちません。
- 同居や扶助の義務を否定する内容
- 男女差別的な内容
- 一方的な申し出で離婚を認める内容
- 第三者の権利を侵害するもの
これらはすべて、日本の法律上「公序良俗違反」とされています。
具体的にどのような内容が公序良俗違反になるのかは、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
また子供の親権を離婚後どちらが持つかに関する取り決めをしても意味はありません。
取り決めをしても離婚に当たって親権が争いになった場合、離婚後「どちらが親として適任か」という基準をもとに客観的に判断されるためです。
(4)条文の追加・変更・修正をしたいとき
いったん成立した婚前契約書は一方的に取り消したり、変更することは出来ません。
しかしお互いの同意があれば話は別です。
もし結婚後に婚前契約書の内容を変更したいと感じたら、まずは夫婦で話し合い、双方が同意・納得したうえで変更を加えてください。
ただし内容の変更には注意が必要です。
①私文書の一部を消したい
これは私文書の段階での修正になります。
文書の一部だけを訂正したい場合は2本線でその部分を消して、その上に入れたい文書を書きます。最後に訂正線の下に2人分の訂正印を押します。
②私文書中のある項目全体を消したい
これも私文書の段階での修正になります。
項目全体を消したい場合は「第X条全文削除」と近くの空いているスペースに書き加え、その下に2人分の訂正印を押します。
③公正証書の変更
公正証書を変更する際は作成時と同じ手順を踏まなくてはなりません。
具体的には公証役場での打ち合わせ等がそれにあたります。
手間はかかってしまいますが、それだけ法的な効力も強いということです。
5、婚前契約書作成時に弁護士への相談を
婚前契約書は法的な効力を持った文書です。
安易に作ると公序良俗違反で無効になり、離婚の際に自分にとって不利な結果になるかもしれません。
こうしたリスクを確実に避けたいなら、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。
婚前契約書のサポート実績が豊富な弁護士なら、適切なアドバイスだけでなく、必要に応じてパートナーの説得も依頼出来ます。
なお、婚前契約書作成の弁護士費用は、公証役場での手続きも含めて20万円〜30万円が相場です。
まとめ
今回は「婚前契約書」を作ることのメリットと作成手順についてお話しました。
法的な効力を持つ婚前契約書は「結婚生活を続ける助け」になるだけでなく、万一の離婚の際に「自分とパートナーの財産を守る」ものです。
これから結婚を考えている方は、ぜひこの記事を参考に婚前契約書を作成してみてください。