逮捕されたら、会社からも解雇されてしまうのか?
逮捕をされると、当然ながら、自由な行動ができません。
例えば、サラリーマンとして働いている方なら、会社へ出勤することができなくなります。
そうすると、「逮捕された」ということだけでなく、欠勤数も増えますので、「解雇されるのではないか?」と不安になるかもしれません。
今回は、
- 逮捕されたら会社から解雇されるのか
について詳しく解説していきます。
この記事が、皆さまのお役に立てば幸いです。
逮捕後の人生について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、逮捕されたら解雇されるの?
逮捕されたこと自体を理由に解雇されることはあるのでしょうか?
(1)解雇に関する規制
解雇は、社長の気分やその他の取締役や従業員の意見によって個別に決められるものではなく、解雇をするためには、相当の正当な理由がなければなりません(労働契約法16条)。
どんなに小さな会社であっても、これを守らなければなりません。
また、解雇をするためには、就業規則において解雇をする理由が具体的に規定されていなければなりません。
例えば、「会社の名誉を傷つけたとき」とか「罪を犯したとき」といった規定です。
「逮捕されたとき」と直接的に規定されていることもあるかもしれません。
ただし、解雇の理由として定められた事由に該当する場合でも、必ずしも有効に解雇されるとは限りません。
会社の一方的な判断により会社を辞めさせる方法である「解雇」は、日本ではかなり慎重に行われるべきものと考えられています。そのため、もし、就業規則に書かれている事由に該当したとしても、それに基づく解雇が有効とは限らないのです。
ですから、「逮捕された場合」が解雇事由として挙げられていたとしても、これに該当したからといって直ちに有効に解雇できるわけではありません。
労働者の過去の勤務態度、処分歴、反省の程度等に照らして、解雇という処分があまりにも労働者にとって不利益の大きいものであれば、そのような処分は相当ではないため、解雇は無効となります。
そのような不相当な解雇を行ってしまうと、労働者との間で法的紛争が生じてしまいかねないので、会社は、解雇について慎重に判断するでしょう。
また、日本では、被疑者・被告人は無罪の推定が働いています。
したがって、逮捕、勾留段階にあり、いまだ有罪とされていない被疑者・被告人を解雇することについては、会社は慎重に判断すべきであるということになります。
(2)長期無断欠勤となることを防ぐ
解雇が簡単にできないとはいえ、会社に無連絡でいるべきではありません。
身体拘束が続き会社に出勤できず、連絡もしないでいると、長期間の無断欠勤として解雇事由に該当するおそれもあります。
特に、逮捕後、勾留された場合には、身体拘束が10日間続き、延長されれば最大で20日間になるため、連絡をしないでいると、会社も何らかの処分を検討せざるを得ません。
また、会社に迷惑をかけないようにするためにも、欠勤の連絡は入れたほうが良いでしょう。
ただし、欠勤の連絡をする際に、会社に逮捕の事実を告げるかは、別途考慮する必要があります。
多くの方は、逮捕された事実を会社には知らせたくないと考えるでしょう。
会社の就業規則に逮捕された場合の報告義務が規定されていないのであれば、逮捕の事実を告げなくても、問題はないと考えます。
2、逮捕で解雇されないために|会社内での無用な混乱を防ぐ
逮捕されたことがむやみに会社内に知れ渡ってしまえば、必要以上に憶測が広がって、会社に居づらくなり、解雇されなくとも、自ら退職しなければならない状況になってしまうかもしれません。
これをできる限り防ぐためには、次のことを知っておくと良いでしょう。
(1)弁護人に会社への連絡を依頼する
会社に欠勤の連絡をしてほしいけれども家族等に依頼できる人がいない場合には、弁護人に依頼すると良いでしょう。
弁護人から会社に事件の内容や今後の見通しを伝えてもらうことで、会社に無用な混乱を招くことを防ぐことができます。
ただし、国選弁護人は勾留決定後に選任されるため、逮捕直後は私選弁護人しか選任できません。
一刻も早い対応を希望されるのであれば、私選弁護人を選任しましょう。
会社に連絡をしたうえで、引き続き会社に在籍するためには、弁護人に依頼し、
- 欠勤が続かないよう早期に釈放してもらう
- 「罪を犯した」として解雇されないよう不起訴処分に向けて働きかけていく
あるいは
- 執行猶予判決を獲得して裁判後に会社に復帰できるようにする
といったことが重要です。
(2)警察・検察から会社への連絡を回避する
警察・検察がすぐに会社に連絡をするのではないかと思われるかもしれませんが、会社での横領など、会社に関係ある犯罪ではなく、業務に無関係な犯罪であれば、警察・検察から会社に連絡が行くことは、通常は考えにくいです。
ただし、業務との関係性が微妙であるケース、たとえば、会社外での従業員間における暴力事件などにおいては、警察・検察が会社に連絡をする可能性もあり得ます。
こういった場合には、管轄の警察・検察が会社に連絡をするべきだと考えているのかを確認したうえ、会社への連絡について要望を出しておくことが大切です。
警察・検察が要望に応じてくれるとは限りませんが、一定の配慮をしてくれる場合があります。
(3)実名報道されないようにする
重大事件等、事件によっては報道がされることもあり得ます。
テレビのニュースだけでなく、今はネットのニュースもありますからどの程度防げるのかはケースバイケースですが、可能な限り大きな報道にされないよう、たとえば弁護人を通じて報道機関と掛け合うことも考えられます。
ただし、報道機関にも報道の自由がありますので、弁護人が掛け合っても、報道を差し止めたり、報道を小さくすることができるとは限りません。
3、逮捕で解雇されないために|逮捕前なら逮捕自体の回避
逮捕前の段階なのであれば、事件によっては逮捕自体を回避することも考えられます。
以下
- 被害者との示談交渉
- 自首
の2点をあげ説明いたしますが、いずれも必ず逮捕を回避できる手段ではありませんので注意してください。
(1)被害者との示談交渉
罪を犯したことを真摯に反省し、心から謝罪をして、被害弁償をすることにより、被害者が被害届を出したり、告訴することを控えてくれる可能性があります。
また、示談交渉によって、被害者の方が被疑者の誠意ある謝罪を認めて、厳罰を望まないという内容の示談に応じてくれることもあります。
このような示談が成立すれば、検察官が不起訴とするなど、検察官の判断に少なからぬ影響を及ぼします。
(2)自首・出頭
自首は、捜査機関に対し、犯罪および犯人が特定される前に、自らが罪を犯したと告白することです。出頭は、自ら警察署等に赴くことです。
逃げ隠れしないという意思の表れと判断され、逃亡または罪証隠滅のおそれという逮捕要件を満たさないとして在宅事件になる可能性があります。
自首・出頭をする際には弁護士の同行を考えてもいいでしょう。
心細さを解消し、必要なアドバイスを受けながら対応することができます。
4、逮捕で解雇されないために|弁護人をつけよう
家族が逮捕された(されそう)―。
そんなとき、考えるべきことはたくさんあります。
少しでも望ましい状態を実現するためには、なんといっても「弁護人」の存在は大きなものです。
以下では、刑事事件における弁護士(弁護人)の役割を説明していきます。
(1)代理人として動く
すでにご説明したとおり、刑事事件では、会社や報道機関、被害者などと交渉することが重要です。
しかし、ご家族でこれに対応することには限界があります。
だからこそ、刑事事件に詳しい弁護士に依頼をすれば、とても頼もしい存在となるでしょう。
被害者の方との示談交渉では、一般的に、被害者の方は加害者側の方と直接やり取りをしたくないと思うことがほとんどです。
いくら謝罪の気持ちがあっても会ってもらえない、連絡先を教えてもらえないということが起こり得ます。
自首や出頭をするにしても、自身の判断だけで行うことにはリスクが伴います。
犯罪の内容や状況を判断し、有利に働くのかどうかの判断は、やはり専門家に相談すべきでしょう。
自首・出頭をした際に、何を話すべきなのか、何は黙秘すべきなのかも、専門家に判断してもらうべき重要事項となります。
そして、解雇されることがないよう、会社とのやりとりにおいても最善を尽くしてくれるはずです。
(2)早期釈放、不起訴、執行猶予、無罪獲得を目指す
早期に釈放してもらうためには、やはり弁護人の存在が欠かせません。
また、不起訴に向けて働きかけていく、あるいは執行猶予判決、無罪判決の獲得を目指すに当たっても同様です。
刑事弁護は法律や事実認定の専門的な知識が必要です。
弁護人は、被告人の利益の最大化を目指し、全力で弁護を展開します。
5、逮捕での解雇を回避!弁護士をつける場合|国選弁護人と私選弁護人の違い
すでに「国選弁護人」と「私選弁護人」という言葉に触れましたが、刑事事件では、「国選弁護人制度」があります。
国選弁護人制度は、原則として弁護士費用を負担しなくてよいのが最大のメリットです。
そのため、利用したいとお考えの方は多いかと思います。
しかし、国選弁護人制度を利用するには、一定のデメリットもあることを知っておくべきです。
国選弁護人を利用するには、資力がないなどの経済的な条件が必要である上、勾留決定後にしか選任できません。
また、ご自身で費用を負担していない以上、国選弁護人に会社対応など事件外のことまで頼みづらいということもあるかもしれません。
これに対して、私選弁護人、つまり個人で法律事務所を探して依頼する弁護人であれば、逮捕前、逮捕直後などいつからでも活動可能です。
事件を最初から担当している弁護人は、事件の全体像を把握しています。
早い段階から私選弁護人として活動した弁護士は、被疑者、被告人にとって大変心強い味方であるといえるでしょう。
また、会社対応など事件外のことも気兼ねなくお願いすることができますし、適切に対処してくれるでしょう。
事件そのものについてよい結果を得ることももちろんですが、事件外のことにきちんと対応しておくことも、後々のことを考えると非常に重要です。
私選弁護人は弁護士費用を負担しなればなりませんが、逮捕は人生の一大事。
心から信頼でき、納得のいく弁護人を選任されることをお勧めいたします。
まとめ
刑事事件で逮捕されたとしても、多くの方はいずれ社会に復帰し、ご自身や、あるいはご家族の生活を維持していかなければなりません。
ですので、逮捕された場合は、身体拘束に伴うキャリアや信用についてのダメージをできる限り抑えるという、社会復帰後の生活も視野に入れた適切な対応が必要となってきます。
そのためには弁護士の力が必要です。
刑事事件で不当に拘束時間を長引かせないためには「時間」が勝負。
お困りの際は、お早めに相談しましょう。