相続財産の評価は、どのように進めればよいのでしょうか。
遺産相続した人は、その遺産の金額に応じて相続税を納めなくてはなりません。
ここで「遺産の金額」と書きましたが、相続した遺産がいくらなのかは、そのときどきの状況によって変わります。
というのも、土地や建物といった不動産など、そのときどきで金額が変わるものがあるからです。
このように、相続した遺産がいくらなのかを算出することを「相続財産の評価」と呼びます。
相続財産の評価方法は、相続税法という法律によって決まっています。
相続財産の評価をどのように行うかによって、負担する相続税の金額が変化しますから、とても重要な問題といえるでしょう。
この記事では、土地や建物、株式など様々な種類の相続財産について、その評価を簡単にわかりやすく解説いたします。
近い将来に遺産相続が控えているという方は、ぜひ参考にしてみてください。
相続税の計算について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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1、相続財産の評価額とは
相続財産の評価額とは、相続税の計算を行う際に、相続した遺産がいくらぐらいの価値があるものなのかを計算した金額のことをいいます。
例えば、土地や建物の値段には「時価」とか「公示価格」とかいったように、さまざまな値段の付け方があります。
これらと同じように、相続税の計算を行う際には、相続税法に定められたルールに従って値段をつける必要があるというわけです。
日本の相続税法では、相続財産の評価額が大きければ大きいほど、相続税の金額は大きくなる仕組みになっています。
そのため、相続税の負担を小さくするためには、この相続税の評価額をいかに法律のルールの中で小さく見積もることができるかを考える視点が重要になります。
相続税の評価方法は、相続した財産の種類に応じて計算方法が異なります。
相続財産の評価が問題となる財産としては、以下のようなものがあります。
- 株式
- 土地
- 建物
- その他(預貯金や社債、投資信託やゴルフ会員権など)
以下では、それぞれの財産の相続税評価額の計算方法について、基本的な考え方を解説いたします。
2、株式の評価方法
株式は、会社の経営に関わったり、会社が出した利益のうちから配当を受け取ったりすることができる資産です。
株式を遺産として相続した場合には、一定のルールに従って計算した相続税評価額に基づいて、相続税の負担が発生する可能性があります。
なお、株式の評価方法は、その株式を発行している会社が証券取引所に上場している「上場株式」であるか、それ以外の「非上場株式」であるかによって異なります。
以下、それぞれの種類の株式について、相続税評価の方法を見ていきましょう。
(1)上場株式の場合
上場株式の評価額は、証券取引所での取引価格となります。
ただし、どの時点での取引価格とするかは以下の4つのうち「最も安い値段」となります。
- 株式の前所有者が亡くなった日の終値
- 株式の前所有者が亡くなった日が属する月の終値平均額
- 株式の前所有者が亡くなった日が属する月の、前月の終値平均額
- 株式の前所有者が亡くなった日が属する月の、前々月の終値平均額
簡単に言えば、相続が発生した日の終値か、終値の月平均額を選択できます。
そして、月平均額を計算するときの「月」は、当月、前月、前々月の3ヶ月の中から選べるということになります。
これら4つを計算し、もっとも価格が低いものを選択することになります。
当然ながら、低い取引価格を選択するほど課税される相続税の金額も小さくなるからです。
(2)非上場株式(オーナー株式)の場合
非上場株式の場合は、株式の取引価格というものがありません。
そのため、株式を発行している会社の純資産の状況から株価を計算するか、同業種の上場企業の株価を参考に相続税評価額を決めるという形をとります。
前者の方式を「純資産価額方式」、後者の方式を「類似業種比準価額方式」と呼びます。
一般的なイメージでいう中小零細企業の場合は「純資産価額方式」で、ある程度経営規模の大きい会社の場合は「類似業種比準価額方式」によって計算します。
これらの方式の具体的な計算方法は、財務会計に関する専門知識が必要となりますから、遺産相続手続きを専門としている税理士にアドバイスを受けるようにしてください。
3、土地の評価方法
土地は「前所有者が生前にどのような形で土地を使っていたか」によって相続税評価の方法が変わります。
以下、具体的なケースをいくつか紹介します。
(1)自分で使っていた土地の評価方法
もっとも原則的なケースが、亡くなった人が自分で住む家を建てるために土地を使っていた場合です。
この場合、「路線化方式」または「倍率方式」によって土地の相続税評価額を計算します。
市街地にある土地は路線価方式で、郊外にある土地は倍率方式で計算するケースが多いでしょう。
それぞれの方式の計算方法は以下のとおりです。
- 路線価方式による土地の相続税評価額=路線価×土地の面積
- 倍率方式による土地の相続税評価額=固定資産税評価額×倍率(通常1.1倍)
路線価というのは、国が決めた土地の値段のことです。
その名の通り道路に面した土地については路線価がついていることが多いです。
土地の面積については、登記簿等を使って確認することになります。
路線価がついている土地については、路線価方式を用いて相続税評価額を計算するのが原則ですが、地方では路線価が設定されていない土地も少なくありません。
そうしたケースでは、市区町村が決めている固定資産税評価額を使って相続税の評価額を計算します。
固定資産税評価額は、毎年市役所から送られてくる固定資産税の納付書などをみると確認することができます。
ただし、固定資産税評価額は通常は路線価よりも金額が小さくなりますので、公平を期すために「倍率」を掛け算します。
多くのケースでこの倍率は1.1倍です。
結果的に、路線価方式による相続税評価額と、倍率方式による相続税評価額とはほぼ同じ金額水準になります。
(2)賃貸建物を建てるために使っていた土地の評価方法
他人の所有物である建物を建てるために、故人が自分の土地を貸していたという場合には、その土地の相続税評価額は少し安く見積もることができます(つまり、相続税の負担は小さくなります)
具体的な計算式は以下のとおりです。
賃貸建物を建てるために使っていた土地の評価方法=自用地としての土地評価額×(1−借地権割合)
「自用地としての土地評価額」というのは、自分が住むために使っていた土地という意味です。
これはすでに見たように路線価方式または倍率方式によって計算します。
借地権割合とは、自用地に設定していた借地権の土地割合のことです。
具体的な割合は国税庁のホームページを見ると確認することができます。
路線価の横にアルファベットでA〜Gまでの記号が記されているのが借地権割合です。
Aなら借地権割合90%、Bなら80%…というように、10%区切りで表示されています。
例えば、路線数の表示が「360C」となっているなら、これは「1平米あたりの路線価は36万円。借地権割合は70%」ということを意味します。
仮に、土地の広さが100平米だったとしたら、36万円×100平米×(1−70%)=1080万円というように、相続税評価額を計算することができます。
(3)借地権の評価方法
相続財産に借地権が含まれる場合には、その借地権に対しても相続税が課税されます。
借地権とは、土地を所有する権利ではなく、他人から土地を借りる権利です。
他人から借りている土地に建物を建てているという場合に、その使用している土地には借地権が設定されているケースが多いです。
借地権の相続税評価額は、以下の計算式で計算します。
借地権の相続税評価額=自用地としての土地評価額×借地権割合
自用地としての土地評価額(路線価)や、借地権割合は上でも見たように国税庁のホームページで確認できます。
(4)小規模宅地等の特例とは?
相続財産に宅地が含まれる場合、「小規模宅地等の特例」という相続税軽減措置を受けられる可能性があります。
ここでいう宅地とは、「住宅を建てるために使っている土地」のことです。
故人が自分で住むための建物を建てていた場合だけでなく、賃貸アパートなどを建てるために土地を使っていた場合も含みます。
個人事業主として事業用の建物を建てるために土地を使っていたケースでも適用できます。
小規模宅地等の特例は、その名の通り「小規模な宅地」についてのみ適用される税軽減措置ですので、適用される土地の広さに制限があります。
例えば、自分で住むために使っていた土地の場合は330平米までです。
小規模宅地等の特例を適用すると、宅地の相続税評価額を最大80%減額してもらうことができます。
1億円の価値がある土地であれば、2000万円の土地として相続税を計算することができるということです。
必然的に、小規模宅地等の特例を適用できる土地に対する相続税課税額は非常に小さくなります。
小規模宅地等の特例は非常に税軽減効果の大きい特例といえますが、適用要件がかなり複雑になっています。
利用するための詳しい条件等については、専門の税理士に相談するようにしてください。
4、建物の評価方法
建物の相続税評価額は、原則として「固定資産税評価額」そのままの金額となります。
ただし、建物についても、土地と同様に前所有者が生前にどのような用途で建物を使っていたかによって評価方法が変わることがあります。
(1)自分で住んでいた建物の評価方法
前所有者が自分で住んでいた建物の評価方法は、原則通り「固定資産税評価額」となります。
自分で住んでいた建物の相続税評価額=固定資産税評価額
固定資産税評価額は、固定資産税の金額を計算するときに市区町村が用いている建物の価格のことで、固定資産税の納付書に記載されています。
(2)他人に貸していた建物の評価方法
賃貸物件として他人に貸して家賃を受け取っていた建物については、以下の計算式によって相続税評価額を計算します。
他人に貸していた建物の相続税評価額=固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)
相続税を計算する際には借家権割合は30%と決まっています。
また、賃貸割合とは「相続税評価額を計算する時点で、実際に入居者がいる部屋の割合」のことです(厳密には「実際に入居者がいる部屋の床面積の割合」です)
すべての部屋が満室であれば、賃貸割合は100%、10室中8室が埋まっているなら賃貸割合は80%です。
空き部屋が多くなると、その分だけ相続税評価額は高くなる仕組みとなっています。
5、その他の遺産の評価方法
株式や土地、建物といった主要な財産の他にも、次のような財産の相続税評価額が問題となるケースがあります。
- 預貯金
- 社債
- 貸付信託
- 投資信託
- ゴルフ会員権
- 宝石や貴金属、自動車などの家庭用財産
- 生命保険の解約返戻金
経済的な価値があるもの(つまりお金に変えられるもの)を相続した場合には、一定の計算ルールにしたがって相続税評価額を算出し、その評価額に応じた相続税を納付しなくてはならないのは共通のルールです。
以下、順番に相続税評価の方法を見ていきましょう。
(1)預貯金
銀行預金や郵便貯金が相続財産に含まれる場合、「預貯金元本と解約した場合の利息の受取額」の合計額が相続税評価額となります。
計算式にすると以下のとおりです。
預貯金の相続税評価額=預貯金元本+解約した場合の利息の受取額
なお、定期預金の場合は上の計算式で相続税評価額を計算しますが、普通預金の場合は元本のみとする場合もあります。
(2)社債
社債とは、企業が一般投資家に向けて小口にわけて発行する借入証書のことです。
社債の相続税評価額は以下のように計算します。
社債の相続税評価額=社債の発行価額+既経過利息の手取額(税引き後)
既経過利息の手取額というのは、社債の所有者が本来受け取れるはずである利息の日割り額のことです。
証券会社に依頼すると計算書を出してもらえます。
なお、金融証券取引所に上場している社債である場合には、取引価格に既経過利息の手取額を加算した金額と、上記の計算式で計算した金額のうち、どちらか小さい方を選択することも可能です。
(3)貸付信託
貸付信託の相続税評価額は、以下のようにして計算します。
貸付信託の相続税評価額=元本+既経過収益の手取額-買取割引料
解約した際の手取り金額と考えておけば問題ありません。
取り扱いを行なっている金融機関で計算書類を出してもらえます。
(4)投資信託
投資信託の相続税評価額は、上場株式と同様に取引所での相場となります。
ただし、日経新聞などの日刊紙に記載されている「基準価格」をもちいて 相続税評価額を計算します。
(5)ゴルフ会員権
ゴルフ会員権の相続税評価額は、前所有者が亡くなった日の取引価格に70%を掛け算した金額となります。
計算式にすると以下のとおりです。
ゴルフ会員権の相続税評価額=相続発生日の取引価格×70%
取引価格とは別に、解約時に預託金が返還されるようなケースでは、上記の計算式で計算した金額に預託金の金額をプラスして相続税評価額を計算します。
(6)宝石や貴金属、自動車の家庭用財産
宝石や貴金属、自動車などの財産は、それらの財産の時価によって相続税評価額を計算します。
時価というのは買取査定に出したときにつく値段のことです。
自動車などはネット買取査定などで手軽に見積もりを出してもらうことができます。
宝石や貴金属については「税務署に見つからなければ良いのでは」という意見もあるかもしれません。
しかし、非常に効果な宝石や骨董品の場合には、これらを取り扱う業者の販売履歴なども税務調査の対象となるケースもあるといいますから、注意が必要です。
(7)生命保険の解約返戻金
故人が保険料を積み立ていた生命保険がある場合、その解約返戻金は相続税の課税対象となります。
この場合の相続税評価額は、相続発生時に保険を解約したと仮定した場合の解約返戻金の金額となります。
前納保険料や余剰金などがある場合には、これらも解約返戻金の金額に含めて相続税評価額を計算します。
6、相続税申告に関する相談は税理士へ
ここまで見てきたような形で相続財産の評価を行ったら、その金額に基づいて相続税の計算を行なっていくことになります。
相続財産の種類によっては、税額を大幅に削減できるさまざまな特例を利用できるケースがあります。
例えば、土地の相続税評価に関連してご説明した「小規模宅地等の特例」などもその1つです。
こうした特例の適用にあたっては、相続税に関する実務知識が必須となります。
実際に相続税の申告手続きを行う際には、専門の税理士に相談するのが賢明と言えるでしょう。
なお、ひと口に税理士といっても、様々な専門分野があることに注意が必要です。
お医者さんに外科医や内科医、精神科医…というように専門分野があるように、税理士にも専門分野があるというわけです。
相続税の問題については、遺産相続手続きを専門とする税理士に相談するのが適切です。
多くの税理士事務所では初回の相談料を無料としていますから、相談してみてください。
また、相続税の問題のみならず、遺言や遺産分割協議でのトラブル、遺留分の請求トラブルなども抱えているようであれば、税理士と連携している法律事務所への相談がおすすめです。
まとめ
今回は、相続税の計算を行う際に問題となる「相続財産の評価額」について、基本的な考え方を解説いたしました。
本文でも見たように、相続税の負担額は相続財産をどのように評価するかによって大きく変化します。
相続税の計算は自力で行うことも決して不可能ではありませんが、通常は税理士に相談するのが適切です。
遺産相続を専門とする税理士からアドバイスを受ければ、後から税務調査に入られて追徴課税を課せられてしまうなどのリスクを最低限にすることができます。
相続税の申告手続きを行う必要がある方は、少しでも早いタイミングで専門家に相談されることをおすすめいたします。