遺産分割審判とは、どのような制度なのでしょうか。
遺産分割協議は法定相続人全員で話し合って決めることが原則ですが、話し合いがうまく進まないケースもないわけではありません。
特に、相続人同士の関係が希薄だった場合や、相続人の人数が多すぎる場合などには利害対立が先鋭化しやすく、相続がもめることもよくあるようです。
そのような場合には、家庭裁判所の遺産分割審判で遺産分割の内容を決めてもらうことができます。
今回は、遺産分割審判手続の流れや遺産分割審判を行うときの注意点などについて解説していきます。
1、遺産分割審判とは?
遺産分割審判とは、相続人の間では遺産の分割方法が決められない場合に、家庭裁判所が本案について行う終局的な裁判をいいます。
家庭裁判所の審判が確定すれば、その内容にしたがって相続(不動産の登記名義変更や預金の払戻しなど)を進められるようになります。
しかし、これから解説をしていくように、いきなり遺産分割の審判を申し立てることは難しい場合が多く、また、遺産分割審判は、通常訴訟の裁判手続とは異なるため、対応できない問題があることなどに注意する必要があります。
2、遺産分割審判の申立てについて注意すべきこと
(1)遺産分割審判申立・調停からの移行
遺産分割審判の申立ては、家庭裁判所に申立書を提出して行います。
通常のケースであれば、遺産分割調停の不成立によって遺産分割調停事件が終了した場合には、家事調停の申立時に家事審判の申立てがあったこととみなされ、遺産分割審判に移行することになるので、既に遺産分割調停が係属している場合には、特別の申立てをする必要はありません。
(2)管轄
遺産分割審判は、相続開始地(被相続人の最後の住所地)の家庭裁判所で行われるのが原則です(家事法191条1項)。
遺産分割調停を行っていた家庭裁判所が相続開始地を管轄する家庭裁判所で手続が行われていなかった場合(たとえば、相手方のうちの1人の住所を管轄とする家庭裁判所もしくは相続人が合意した家庭裁判所)には、改めて管轄裁判所へ移送するか、自庁処理の裁判をする必要があります。
なお、裁判所ごとの管轄区域については下記ウェブサイトで確認することができます。
【参考】裁判所の管轄区域(裁判所ウェブサイト)
(3)遺産分割調停を経ないで遺産分割審判を申し立てることができるか?
家庭裁判所で行われる手続には、「調停前置主義」が適用されるものが少なくありません。
調停前置主義というのは、裁判所に決めてもらう手続を利用する前には必ず調停(当事者間で話し合う手続)を利用しなければならないという仕組みで、裁判離婚する場合が調停前置主義の適用される典型例となります。
遺産分割審判は、調停前置主義の適用となる手続ではありませんので、建前としては遺産分割調停を経ていなくても(いきなり)遺産分割審判を申し立てることも不可能ではありません。
とはいえ、実際の家庭裁判所の取り扱いとしては、調停を経ずに審判を申し立てても、裁判所の判断で調停手続に付されてしまう場合が多いといえます。
争点がないことが明らかで当事者全員が一定の和解案に合意しているなど、家庭裁判所が調停手続きを経ないで判断できるだけの客観的な事情がある場合を除けば、まずは遺産分割調停からはじめるというのが一般的な対応になると考えておくべきでしょう。
(4)遺産分割審判ができない場合~個別に訴訟で決めなければならない事項
遺産分割審判は、相続財産の分け方を決めることしかできません。
したがって、以下にあげるような遺産分割の前提となる事項や遺産分割に付随する問題については、取り扱うことができません。
- 遺言書の成否(正しく作成されたかどうか、偽造・改変の有無など)
- すでに行われた遺産分割協議の成否
- 遺産が不当に使い込まれてしまった場合の処理(不当利得返還請求、不法行為に基づく損害賠償請求)
- 相続人の範囲(ある人が相続人であるかどうかの争い)
- 相続財産の範囲(ある財産が相続財産に該当するかどうか)
これらの問題に争いがあることが原因で遺産分割ができないという場合には、別途地方裁判所等における別の訴訟を提起して(遺言無効確認の訴えなど)解決してから、改めて遺産分割協議(遺産分割審判)をする必要があります。
また、遺産分割審判では、原則として「法定相続分どおりに遺産を分ける」という結論になります。
したがって、「自分の相続割合を100%にしてほしい」といった希望は、基本的に認められないことにも注意しておく必要があるでしょう。
3、遺産分割審判の進め方
遺産分割が始まった後の流れや注意点についても確認していきましょう。
遺産分割審判は、「裁判所に決めてもらう」という手続ですので、できるだけ納得のいく(予測できる範囲内)の結論を下してもらえるように、十分な対応を心がけることが大切といえます。
(1)手続の大まかな流れ
遺産分割審判の大まかな流れは下記のとおりになります。
①遺産分割調停の不成立
↓
②遺産分割審判の開始
↓
③第1回審判期日 ・・・ 主に争点整理
↓
④裁判所による調査 ・・・ 当事者の陳述聴取(審問期日への出席)
↓
⑤審理終結日、審判日 ・・・ なお、審判前に調停に付されることもある
↓
⑥審判告知
↓
⑦不服申立て(→即時抗告(高等裁判所での手続)→特別抗告・許可抗告)
↓
⑦審判の確定
↓
⑧相続手続(相続財産の名義変更)
(2)手続を進める上での注意点2つ
遺産分割審判の手続を進める上で特に注意すべきは次の2点です。
- 職権探知主義が採用される
- 具体的な分割方法(現物分割、代償分割、換価分割、共有分割)のうちいずれをどのように選択するかは、家庭裁判所の広い裁量がある
①職権探知主義とは
遺産分割審判では、通常の民事訴訟とは異なり、「職権探知主義」とよばれる原則が採用されることになっています。
職権探知主義とは、裁判所の判断の前提となる事実調査を当事者のみの責任とせずに、「裁判所も自ら事実を調査する」という訴訟手続上のルールのことをいいます。
遺産分割審判では、申立て要件が備わっていれば、当事者の主張・立証が不十分であっても具体的な分割方法を示さなければならない(通常の訴訟のように請求棄却という判断を下せない)ことから、職権探知主義が採用されることになっています。
とはいえ、遺産分割のあり方は、相続人の合意に基づいて行われることが大原則でもありますので、当事者間に争いのない部分については、裁判所もそれを尊重して審判を下すのが一般的といえます。
むしろ、「他の相続人と折り合いがつかない」といってもすべてを裁判所に丸投げする(きちんとした証拠を出さないまま放置する)ことになれば「予測外の結論」になってしまう可能性が高くなるといえます。
したがって、全部について合意がとれない場合であっても、「お互いに妥協できる点」を上手に見いだしておくことはとても重要なことといえるでしょう。
②遺産分割の方法
遺産分割の具体的な分割方法には、
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 共有分割
があり、これのうちいずれをどのように選択するかは、家庭裁判所の広い裁量があります。
家庭裁判所は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して(民法906条)、当事者の意思に拘束されずに、分割方法を決めることができます。
もちろん、各当事者の意見を聴き、可能な限りこれを尊重する運用をしていますが、「遺産分割方法を必ずこうしたい」といった意見がある場合もそれが必ずかなうものではないという点には注意が必要です。
そのため、遺産の中にどうしても取得したい財産がある場合には、その遺産を取得したい必要性や相当性などについて、十分な主張と証拠の提出が必要になるとともに、その財産の評価額に関する資料の信用性が重要になります。
(3)審判確定後の相続手続き
裁判所による遺産分割の審判は、申立人だけでなく相続人全員(利害関係人がいる場合には利害関係人に対しても)に対して告知されます。
告知の方法は、審判が記の謄本又は正本を送達する方法によって行われます。
審判の告知から2週間以内に不服申立てがなされなかった場合には、裁判所が言い渡した審判内容が確定します(家事法74条4項)。
審判が確定した場合には、その内容にしたがって、例えば登記義務の履行その他給付を命じる審判は、執行力のある債務名義を同一の効力を有しており、権利者が単独申請で不動産の登記手続(所有権移転登記手続)などの相続手続を行うことができます。
なお、遺産分割審判が確定した後にも、他の相続人が不動産を明け渡してくれないというような場合には、家屋の明渡請求訴訟を別途提起しなければ、強制的に立ち退かせることはできませんので注意が必要です(遺産分割審判は明渡に関する債務名義にはなりません)。
(4)審判に不服がある場合の手続き
家庭裁判所がした遺産分割審判に対して、不服の申立ての方法として、即時抗告をすることができます(家事法85条1項、198条)
審判の内容に不服があるとき、審判の告知を受けた日から2週間以内に、審判を下した家庭裁判所に抗告状を提出します(即時抗告の提起)。
即時抗告の提起は、高等裁判所宛の抗告状を原裁判所に対して提出します(家事法87条1項)。
この場合の抗告裁判所は、審判した家庭裁判所を管轄する高等裁判所です(裁判所法16条2号)。
4、審判を有利に進めるポイント
実際の遺産分割審判においては、財産(不動産)の評価方法(額)、特別受益の存否やその額、寄与分の認定が争点となることが多いといえます。
また、遺産分割の前提問題(例えば、遺言書の効力や解釈、相続人の範囲、遺産の範囲についての争い)や遺産分割に関連する付随問題(使途不明金に関する問題、葬儀費用に関する問題、遺産収益(相続開始後の賃料や配当など)に関する問題など)について、早期に争点を明らかにし、遺産分割審判までの道のりを明確化させることが必要です。
これらの問題については、すでに他の事件において判断基準が一定程度ルール化されている場合も多く、自己の主張を認めてもらうためには、過去の審判例なども参考に十分な資料(証拠)を揃え、裁判所(だけでなく他の相続人)も納得できるような主張をしていくことが重要といえます。
したがって、遺産分割審判を有利に進めるためには弁護士のサポートが必須といえるでしょう。
まとめ
遺産分割は、有効な遺言のある場合を除けば相続人の合意で決めるというのが、相続における大原則です。
法定相続人同士の関係性に問題がある場合などには、「話し合いが面倒」と感じる場合もあるかもしれませんが、法定相続分と異なる遺産分割を希望する場合には、粘り強く話し合いを続けるほかありません。遺産分割審判では、「法定相続分どおり」に遺産分割をする旨の審判がなされることが多いからです。
したがって、実際の遺産分割審判では、特別受益の持ち戻し、寄与分といった「相続財産の調整」にかかる事項の評価が大半ということになります。
これらの問題は、「必ずしも法律では割り切れない」部分が多く、遺産分割審判を利用したとしても不満の残る結果になる可能性があることも注意しておくべきといえますので、遺産分割に詳しい弁護士のサポートを受けながら、さまざまな選択肢を見据えた上で柔軟に対応していくことも重要となります。